ビストル精密射撃 指導的射手が採用しているリポルバーの把持法。 (a) ア・ザポリスキー く図 155 > ハイドウロフ , ( c ) エム・ウマロフ , ( d ) べ・クリへリ , ( e ) ウェ ( b ) イエ デミン , ( f ) ア・ヤシンスキー 背の筋群の一部 , 肩関節の固定に関係する させておくことが , 射撃姿勢の基本原則で すべての筋群 , 手首関節の固定に関与する ある。 腕の筋群 , 右手の各指の屈筋などがその例 ヒ。ストル ( またはリポルバー ) 精密射撃 である。また , 関節における身体可動部位 のとき , 左腕は自然にたらしてその手掌部 の固定に関係のある強靱な靱帯をできるだ をジャケツのポケットに入れるか , その母 け使用するようにして , 筋群の緊張を少な 指をポケットの縁あるいはンドにかける くし , エネルギーの節約をはかることは , ようにすると , 左腕 , 左胸部 , 上肢帯左部 射手として当然のっとめである。 の各筋が最大にリラックスした状態におか く左腕 > れる。左腕を背にまわしておく方法もある 次に , 身体を立位姿勢に保ち , 据銃した が , これは左腕の筋と左胸部の筋をいくぶ 右腕を保持する仕事に直接には関与しない ん緊張させることになるので , あまりすす 筋群 ( たとえば , 左腕 , 胸部 , 頚部 , 上肢 められない。また , 背をそらし左の手の 帯左部の各筋群 ) をできるだけリラックス ひらまたはこぶしを腰にあてがうような方 171
4 射撃姿勢の基礎知識 展させる仕事に参加する諸筋との関係にお いて拮抗筋となるのである。もっとも , 拮 抗筋といっても , それは反対の性質の仕事 を遂行する筋群にあたえられた条件的名称 であって , 実際に筋群が仕事を遂行する場 合には , そこに何の対抗性 , 矛盾性も存在 しないのである。つまり , 協同筋も拮抗筋 も , 完全な協調性を維持してともに 1 つの 運動の遂行にあたるのが , 協同筋と拮抗筋 の実際の姿なのである。 しかも , 現実におけるスムーズな動作の 遂行は , 協同筋だけでは不可能であって , 拮抗筋の協同があってはじめて可能とな る。つまり , 一方の筋群が克服的に作用 し他方の筋群が譲歩的に作用するという ぐあいに , この両者の協同作用によっては じめてスムーズな動作が行なわれることに なる。いいかえれば , 拮抗筋の関与なしに 協同筋だけで行なわれる仕事は , 強弱の一 定しない衝動的性格の運動のみに限られる ことになる。 これに関連してここで指摘しておかなけ ればならないのは , 練度の高い竸技者と練 度の低い竸技者との間に見られる筋活動の 差についてである。つまり , 両者を比較し た場合 , 練度の低い竸技者では , 拮抗筋が 過早に仕事に参加してその運動にゴッゴッ した性格をあたえるために , 運動そのもの が円滑性を失って衝動的な性格のものにな っていることが明らかに看取される。そし てこのことは , とりもなおさず , 体育種目 やトレーニングの内容に , 筋を太くするこ とに役立つようなものばかりでなく , 筋を 柔軟にすることに役立つようなものを含ま せる必要があることを意味するものである といわなければならない。 筋を柔軟にすることに役立つトレーニン グ種目の必要性をとくに痛感するのは , ラ 68 ンニング・ボア射撃とラピッドファイア・ ヒ。ストル射撃を専門とする射手たちであろ う。彼らにとって , ライフル銃の指向方向 をなめらかに左右に移動させ , あるいはビ ストルの照準を 1 目標から次の目標に移す ために必要な上体のなめらかな回転運動を 可能ならしめるようなダイナミックな可動 的要素をそなえた射撃姿勢をとることが , 不可欠の要件となるからである。 1 つの運動が行なわれるとき , 原則とし て , 数個の筋群が , あるものは協同的に , あるものは拮抗的に作用しつつ , 全体とし ては協同的に活動する。これが生理学的原 則であるから , 1 個の筋群 , または 1 筋群 の中のある筋を他と無関係に独立して作用 させる能力は , 多くの場合 , トレーニング の結果として獲得されるものであるといわ なければならない。つまり , トレーニング によっては , その運動に必要な筋だけを収 縮させ , その運動と直接関係のない筋を伸 展位に保つような能力の養成も可能となる のである。そして , 他の指や前腕にその運 動を波及させることなく人さし指だけで引 金を引く動作に見られるように , 一部の筋 に独立的な収縮を行なわせる能力を身につ けなければならない射手にとって , 他のス ポーツ種目の選手にもまして , 筋の部分的 な独立収縮にかんするトレーニングが重大 な意義をもっことになる。 筋がその収縮によっていとなむ仕事に は , 静力学的なものと動力学的なものの 2 種がある。 静力学的な仕事は , 身体の可動部位を関 節においてある状態に固定するときに行な われるものであって , この仕事をいとなむ 筋に対しては長時間にわたる緊張が要求さ れる。 動力学的な仕事は , 身体の特定部位を運
5 ライフル射撃の射撃姿勢 足的に上体の固定を強化する手段を案出す 持面をつくり , 両脚の働ぎにとって好適な ることが必要である。たとえば , 経験にも 条件をつくり出すからである。 とづいて多くの優秀射手が採用している 両足の間隔を過度に小さくすると , 支持 “上体をひねる”方法などはその 1 つであ 面が小さくなって姿勢の安定性が低下し , 銃の動揺 ( とくに上下動 ) を大きくする。 る。 この上体をひねる方法は , 靱帯と腹筋を また , 両足の間隔を過度に広くすれば , 足 より大きく仕事に参加させて , 股関節と脚 部の足底アーチ ( 図 85 参照 ) の働きにと の諸関節における上体の固定を堅固にする って好ましくない条件が生まれ , 股関節の 固定に関与する脚の諸筋に余分の緊張が生 から , たしかに有効な上体固定の強化手段 じて , 必然的に , 銃の動揺 ( 上下 , 左右 ) である。もっとも , この“上体のひねり” の増大をひきおこす。 をきかすためには , 射面が各足部の中央を 立射姿勢の安定度は , 据銃したときの射 横切るような関係位置に両脚を配置し ( 図 137 参照 ) , 標的に対して横向きに立つよう 手の身体の重心が支持面の上方で占める位 置によっても左右される。立射姿勢を安定 にすることが不可欠の条件となる。 く両足 > 度の高いものにするためには , ・銃をともなった身体の重みを平等に両 立射姿勢の安定度が , 両足の関係配置に よって大きく左右されることは , いうまで 足の上に配分し , ・各足部の中央 , または中央から少しつ もない。両脚の間隔を肩幅よりせまくし , 両足先をやや外方に開いて , 台形の支持面 ま先寄りの部位にその荷重をかける を形づくるようにした場合に ( 図 133 ) , そ ことが必要である。射手の身体と銃からな の立射姿勢は最も安定度の高い有利なもの る総合体の重みを , このように両足の上に となる。この両足の配置は , 比較的広い支 配分するときは , その重力線が支持面の中 央を通過し , 前後安定角 , 左右安定角の値 がほぼ等しくなって ( 図 75 参照 ) , その姿 勢は安定性の最も高いものになる。そのう え , このような体重の配分は , 両脚の筋に だいたい同じ程度の負荷をかけることにな り , その協調的な働きに最も良好な条件を 保証することにもなる。 膝関節を固定する諸靱帯の緊張度も , 立 射姿勢の安定性にきわめて大きな関係をも つ。したがって , 次の点に注意しなければ ならない。 ・故意に膝関節をゆるめたり ; 膝を半ば まげた状態で立ったりしないこと ・両脚の筋の緊張度を異にするような立 ち方 , つまり , 一方の脚をのばし , 他 方の脚をまげたような立ち方をしない 射面 両足の中心を結ぶ線 < 図 133 > 立射姿勢の支持面を形成する両 足の関係配置 144
6 ピストル射撃の射撃姿勢 にこれを配置する ( 図 1 56 参照 ) 。上体に対 する右腕のこのような関係位置は , 三角筋 がその静力学的な仕事を行なうのに最適の 条件をつくり出すのである ( 図 91 参鰕 ) く銃把の握り方 > 拳銃の銃把の握り方 ( 図 1 54 , 155 参照 ) はきわめて重要であって , 握りの強さと深 さ , 指と手のひらと銃把との関係位置にち ょっとでも変化があると , ただちに命中精 度の上に大きく反映することになる。「銃 把の握り方に成功すれば , すでにピストル 射撃に半ば成功したも同然である」といわ れるのも , この意味で , まことに的を射た ものというべきであろう。 正しい銃把の握り方は , 左側から母指 , 右側と前側から中指 , そして薬指と小指で 銃把をかこみ , その背部に手のひらの軟部 をあてがうのを基本とするが , その他の細 部については次のとおりである。 母指はまっすぐにのばして銃身と平行に おく。銃把を左側から支えるという母指の 仕事は , これで最も効果的に行なわれるこ とになる。母指をまげて下げるようにする と ( これは初心者にしばしば見受けられる 欠点である ) , 右手による銃把の把持その ものを悪くするばかりでなく , 母指の筋の 緊張により銃の動揺を増大させる。 拳銃保持の主役を演ずる中指 , 薬指 , 小 指の 3 指は , おたがいに密着した状態にあ って , びったりと銃把を握っていなければ ならない。そして , その最も上方に位置す る中指は , 用心鉄またはその下方に設けら れた銃把の隆起部に接するようにおく。 れで , 上記 3 指による拳銃の把持がより安 定し , 用心鉄または銃把の隆起部がフィン ガー・ストッフ。の働きをして , 銃把と指を より容易に同じ関係状態に保つことができ る。 168 拳銃の握り方は , 堅確で , 手によく密着 したものでなければならない。それには , 各指の屈筋を適当に緊張させておく必要が ある。これは手掌部の諸関節を固定するの に必要であるばかりでなく , 関係筋のトー ヌス ( 不随意的な緊張 ) の高まりによっ て銃の方向を変移させる不測的なけいれん の発生を防止するのに役立つ。しかし , 極端に指に力を入れて拳銃を握ってはなら ない。そのように過度に強い握り方をする と , 射撃開始早々に , 早くも銃がはげしく 安定してよい成績をあげるためにはつ るので , これもまた禁物である。 ても手の中で拳銃の位置がずれることにな ゆるく握ると , 引金を引くときに , 動揺をおこす結果をまねく。また , 極端に どうし 条件にかなった握り方ができるのであろう では , 具体的にどうすれば , そのような ような握り方であること ・人さし指の自由な運動をさまたげない おかれていること ことのないような関係位置に , 各指が て , その周辺の筋群が不随意的に動く ・引金を引く人さし指の運動にともなっ を満足させるものでなければならない。 銃把の正しい握り方は , 次の 2 つの条件 直前に変移させることになる。 して , せつかく定まった銃の方向を発射の と , 引金を引くときに , 拳銃を側方に圧迫 る。人さし指が側方から拳銃にふれている 指と拳銃との間にはかならず間隙を設け 骨を拳銃にふれさせないようにし , 人さし せてはならない。人さし指の末節骨と中節 拳銃を把持する仕事に人さし指を関与さ ければならない。 持するには , いつも同じ力で銃把を握らな いに必要である。そして , 同じ握り方を維 ねに同じ銃把の握り方をすることがぜった
6 ヒ・ストル射撃の射撃姿勢 ウェ・ナソノフべ・クリへリゲ・ウオリンスキー ア・クロポティン べ・シエプタルスキー 0 ア・ザベリンウェ・ソロキンイエ・ハイドウロフ エヌ・カリニチェンコ イエ・チェルカソフ く図 172 > ラビッドファイア・ヒ・ストル射撃姿勢における両足の関係配置 , 右腕と 両肩との関係配置 , 両足と右腕および両肩との関係配置を示す痕跡図 ( いずれも 拳銃が中央の標的に指向された場合 ) 190
最 00 指導的射手が採用している引金機構と撃発要領 く図 245 > セット・トリガーっきのフリー・ビストルによる射撃で , 引金にふ れるときの人さし指の状態 せることによって撃発用引金をおすという 分に足りる点に着目した方法である。そし 方式をとる指導的射手の出現を見るように てこの方法の支持者は , これが発射時にお なった ( 人さし指屈筋の緊張によって撃発 ける右手掌部に最大の不動性をあたえるこ とを可能にすると主張しているのである。 用引金をおすのがいままでの通例となって いた ) 。これは , 指の屈筋が伸筋よりも強 1 発 1 発の射撃は , 射撃姿勢 , 照準 , 呼 力であるという特性を利用するものであっ て , 15 ~ 20 グラム程度の引金張力を克服す 吸 , 撃発などの密接不離の関係にある各動 作の総合的 , 連係的な遂行によって実現さ るには , 人さし指の筋の弛緩による指の移 れる。そして , 本篇で研究してきたのは , 動とその移動にともなう圧力とでもって十 267
照 準 照準の目的は , 照門 , 照星および照準点を同一線上に導 き , 標的との関係において , 銃に正しい方向をあたえること にある。 射撃姿勢が銃を完全に不動の状態におくことができない以 上 , 現実の照準は , 程度の差こそあれ , たえず銃が動揺しつ づけているという条件のもとで行なわれなければならない。 こうして , 照準動作は , 高度の視覚・運動の協調作用を必 要とするきわめて複雑なプロセスとなる。照準する射手は , 視覚によってサイトと標的との関係状態の乱れを知覚すると 同時に , 適切な運動動作によってそれを矯正することが必要 である。 ピストル射撃とライフル射撃では , 視覚作用と運動作用の 協調のしかたが , こまかい点で異なっている。拳銃を保持し た右腕の動揺が大きいビストル射撃の照準では , 視覚受容器 が銃の方向偏移を信号する独特の校正者として働き , この信 号にもとづいて中枢神経系の関係領がインパルスを発し , 関 係筋群がそのインパルスに応じて , 右腕の関係状態を矯正 し , 拳銃を標的に指向させるように作用する。つまり , ヒ。ス トル射撃で照準動作の主役を演じるものは , どちらかといえ ば , 運動器であるといえる。これに対し , 銃の安定度の大ぎ いライフル射撃の照準では , むしろ視覚器 ( 目 ) が主役を演 じることになり , 視覚器がサイトの輪郭と関係位置を知覚す る正確度 , 視覚受容器の分析能力にポイントがおかれること になる。 202
両足部の投影 い範囲内で両足を広く開くようにしてい 関節での上体の固定が過度にゆるくならな ハイドゥフの姿勢である。彼らは股 シェフ。タルスキー , ア・クロポティン , イ 置という点で最も成功しているのは , ペ・ こにあげた射撃姿勢の中で , 両足の配 をとっていることに気づかれるであろう。 小等の点で , 各射手がそれそれ特有の姿勢 線と両肩の線によってつくられる角度の大 置 , 腰部での上体のひねりぐあい , 右腕の 者は , 両足の間隔 , 標的に対する両足の配 を示す痕跡図である。この図によって , 読 置 , 両足と右腕および両肩との関係配置 れる両足の関係位置 , 右腕と両肩の関係配 図 172 は , 指導的射手の射撃姿勢に見ら ア・ビストル射撃姿勢 く図 171 > 上から見たラビッドファイ 肩の線 ラビッドファイア・ビストル射撃 る。ェス・カリニチェンコ , イエ・チェル カソフの両足の配置も , 良好な部類に入れ てよいであろう。しかしこの 2 人の両足 の配置は , あまりにも間隔を大きくとって いるので , 股関節がゆるみすぎて , 補足的 に腰部で上体を固定する手段を必要とする という欠点をもっている。最もまずいの は , べ・クリへリ , ウェ・ナソノフの両足 の配置である。両足の間隔がせますぎて , 据銃したとき , 射面方向に対する姿勢の安 定性に難がある。 両足の痕跡図に , 両肩を結ぶ線と右腕の 線の投影線を組み合わせてみると ( 図 172 ) , 大部分の射手が , 標的に対したとき , 腰部 で上体が必要以上にねじれることのないよ うな両足の関係位置をとるように努力して いること , そして , 標的に対して真横にな るように立たないで , 両足の中央を結ぶ線 が射面に対して右に向くようにして立って いることがわかるであろう。このように 腰部で上体がねじれないように , 標的に対 する両足の関係位置を選定することは , 照 準の移動のときの上体のスムーズな回転運 動に不可欠な条件であるといえる。この点 で最もよい姿勢をとっているのは , イエ チェルカソフ , ェス・カリニチェンコ , べ・ シェフ。タルスキー , イエ ハイドウロフ , ゲ・ウオリンスキーである。ア・クロポテ インとべ・クリへリは , 標的に対して真横 を向くような立ち方をしているが , 腰部に おける上体のねじれは見られない。標的に 対する両足の関係配置という点から見て , 最もまずいのは , ウェ・ナソノフ , ウェ ソロキン , ア・ザベリンの射撃姿勢であ る。このような両足の配置では , どうして も腰部で上体がねじれることになり , 照準 の移動のとき , 上体の回転運動の円滑さが そこなわれてしまうのである。 189
9 撃発 ( 引金の引き方 ) も肝要な時機にせつかく完成した銃の指向 てしては , その極端な抑制状態から即時脱 を乱すことになる ( 図 239 の B ) 。 却させるに足るだけのインパルスを送るわ 興奮過程と抑制過程との相互関係にかん けにはいかないからである ( 図 240 の A ) 。 しては , それから生まれるもう 1 つの特殊 こうして , 練度の低い射手は , いつばんに 作用の存在を指摘しておかなければならな 撃発動作が遅れがちになる。かといって , い。一定の条件下においては , 中枢神経系 この訓練段階にある射手が , 人さし指の運 内に強力で支配的な興奮源が発生する。 動完成の時機を遅らせないように , 極端に 気を使いすぎると , こんどは銃の安定性を の興奮源には , 他の神経中枢に向かうイン 破壊するという結果をまねくことになる。 パルスをとり入れて己れの興奮を強化する 指の運動をつかさどる運動中枢の神経細胞 と同時に , そのインパルスが送られるはず であった神経中枢の活動に対して抑制作用 を強い抑制状態から興奮状態に導こうとす を加えるという能力があたえられる。この ると , 姿勢の不動性を保証すべき筋群の仕 ような興奮源のうち , 一時的な優性をもっ 事をつかさどる他の運動中枢神経細胞の抑 たものは“ドミナント”と呼ばれる。ドミ 制化がそれに随伴することになるからであ ナントは , もちろん , 射撃の撃発遂行時に る。 も発生する。拳銃を把持してまっすぐに伸 しかし , 組織的な訓練をつづけるときに ばした右腕を安定よく保持する仕事をつか は , しだいに興奮過程と抑制過程間におけ さどる神経中枢の活動に関与し , かっ引金 る相互作用の完成化が進み , ついには発射 を引く人さし指の運動を実現するドミナン 遂行に必要な運動スキルの形成定着を見る トがその 1 例である。 ようになる。つまり , ある運動の遂行を反 練度の低い射手の神経中枢にドミナント 復練習すれば , それによって , その仕事に が発生すると , 発令者である神経と受令者 対する不必要な筋の参加がしだいに排除さ である筋群との関係に乱れが生じる ( 命令 れ ( 図 240 の B ) , それと同時に運動の自動 系統の切りかえがうまくいかなくなる ) 。 化が進められていくことになるのである。 たとえば , 射手が射撃姿勢に最大の不動性 運動の自動化は次のようにして生まれ をあたえようと意図したとする。これによ る。大脳皮質に刺激が一定の秩序をもって って , 大脳皮質の関係運動中枢は活動的な 反復到来すると , 大脳皮質における神経中 興奮状態に達し , そこから姿勢の不動性を 枢部位相互の間に , 堅牢な連絡組織と興奮 保証すべき筋群に向かって運動性インパル 抑制両過程間における一定の相互作用との スが流れることになるが , 同時にまた他の 形成を見ることになる。これを。ダイナ 中枢 ( 人さし指の運動をつかさどる神経中 ック・ステレオタイプ”という。グイナ ック・ステレオタイフ。は順序を踏んで整然 枢もこの中に含まれる ) は極端に抑制され となされる , 多少とも定型化された脳髄神 た状態におちいることになる。しかも , 射 経中枢の活動である。したがって , たとえ 手が姿勢に対して安定性をあたえることに ば人の行なう熟練した運動や練習によって 精神を集中しているかぎりでは , 後者をそ 十分に会得し終わった運動は , すべてダイ の極端な抑制状態から適時脱出させるわけ ナミック・ステレオタイフ。である。 にはいかないことになる。姿勢の安定性保 ダイナミック・ステレオタイプの根底に 特の上に集中した精神的努力の残りをもっ 252
6 ヒ・ストル射撃の射撃姿勢 銃の静止状態を乱すようになる。こうして , 拳銃に最大の安定性をあたえるべきヒ。スト ル精密射撃姿勢の選定は , きわめてむずか しいものとなるのである。 射撃姿勢の条件 166 のうえ , 右腕をこのような状態に保っため を行なわなければならないことになる。そ な条件のもとで , この大きな静力学的仕事 ければならず , しかも , 収縮位という不利 うに働く大きな回転モーメントに対抗しな で , これらの筋は , 右腕を下方に下げるよ の位置が肩関節から遠くはなれているの って達成される。拳銃を把持した腕の重心 筋上東が静力学的な仕事を行なうことによ 定は , 三角筋 , 棘上筋 , 棘下筋および大胸 いうまでもなく , 肩関節における右腕の固 に固定する場合を考えてみよう ( 図 15 の。 て目の高さまでもち上げ , 右腕をその状態 がら , 拳銃を把持した右腕を自然に動かし まず , 身体をまっすぐに保つようにしな ことが非常に重要な間題となる。 めには , 肩関節における右腕の固定という 拳銃を把持した右腕を空間に保持するた < 右腕の固定 > の状態に変化をあたえることになる。 群までがその仕事に関与すると , 拳銃 し指の屈筋の活動にともなって他の筋 腕の各可動部位にあたえること。人さ 生み出すような関係位置と固定度を右 筋が独立して働くのに最もよい条件を ・引金を引くとき , 右手の人さし指の屈 うにして , 右腕の固定をはかる。 の筋活動に最良の条件をつくり出すよ ための ) を用いるようにしかっ , そ ・最も強力な筋群 ( 関節で腕を固定する を考慮に入れることが必要である。 射撃姿勢の選定にあたっては , 次の原則 には , 肩甲骨を固定する働ぎをする諸筋 ( 菱形筋 , 僧帽筋 , 前鋸筋等 ) もまた , 大 きな仕事を受けもたなければならない。 ところで , 右腕を肩関節で固定すれば , 拳銃を把持した腕に作用する重力によって 生まれる回転モーメントが , こんどは上体 を右方に投げ出すような作用をいとなむこ とになる。このような条件のもとで上体を まっすぐな状態を保とうとすれば , 背の筋 群にも大きな緊張がかかる。 次に , 目の高さに上げた右腕の反対側に 上体を倒すようにして構えた場合について 考えてみよう ( 図 15D 。この場合は , 三角 筋 , 棘上筋 , および棘下筋が伸展位にあっ て最も有利な条件の静力学的な仕事を行な うことになるので , 肩関節における右腕の 固定がより良好となり , 肩甲骨を固定する 筋群の緊張もはるかに少なくてすむし , 上 体を右方に投げ出すように作用する回転モ ーメントに対抗するのに必要な背の筋群の 緊張もまた , より少ないものですむことに なる。これは , 上体を右腕の反対側に上体 を倒すことによって , 据銃した射手の右腕 に働く重力との間に相殺が行なわれること になるからである。 こうして , われわれは , ピストル精密射 撃姿勢に要求される第 1 の条件は大のとお りであることを知るのである。 「ビストル精密射撃姿勢は , 上体を左方 に倒した弯曲姿勢を特徴とする非対称的 なフォームでなければならない」 ピストル精密射撃姿勢の安定性も , ライ フル射撃の立射姿勢の場合と同様に , 両足 の関係配置によって大きく左右される。そ して , 最も安定性が高く , しかも射撃に有 利な姿勢の条件となる両足の関係位置は , 肩幅かそれよりいくらかせまめに両足をひ らき , 射面が両足のほぼ中央を通るような