香気 - みる会図書館


検索対象: 人は影のみた夢 2 : マリオネット・アポカリプス
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1. 人は影のみた夢 2 : マリオネット・アポカリプス

紫子の言葉に、由和が肩をすくめる。だろうな、というように。 ・ちト - う - ) う 「羽月さま。ナナ工さんに、そんな兆候はありませんでしたか ? 」 羽月は天井を見遣った。そんな大げさなものがあれば、〈香気〉をひた隠しにしてきた羽月 は、はじめからナナ工を警戒しただろう。友人になどならなかったはずだ。 なれなかったはずだ。 と、そこまで思い、羽月は目を瞠った。 『あー羽月。今日もいいおしー ナナ工はよく、そう言って羽月に飛びついてきた。同じ香りをつけたいと説き伏せられ、使 っている香水ということになっている商品を教えた 「羽月さま ? 」 呼びかけられた羽月は、彼にそれを話した。ふと眉を寄せた由和が、慎重に答える。 「親和性です。一族以外の人間も、普通に我々の〈香気〉を感じます。香りには相性がありま すから、羽月さまの〈香気〉を好きだったり嫌いだったり、それは人によって違います。ナナ 工さんは、その度合いが少し強い部類だったんです。割にあることですが、相手が羽月さまで したから」 「それを足がかりに、 ねじ伏せたってこと ? 」 みや みは

2. 人は影のみた夢 2 : マリオネット・アポカリプス

が、どこか重なって見える。コートまで着ているのに、服の中で二の腕が粟だった。 踊る炎に、意志があるような気がする。 「これ、シシンの仕業 ? 」 にら 誰にともなく訊ねると、炎を睨み据えていた紫子がみじかく答えた。 「ええ」 「でも呼応は ? こんなに近くにいるのに」 そうぐう 以前、遊園地でシシンに遭遇した時は、一定の圏内に入ると〈香気〉がそれを告げたのに。 はなじろ その問いに、紫子が鼻白む。 「何のためにわたしがいるの ? だいいちあの部屋には結界があるでしよう」 結界は中にいる者の〈香気〉をもらさないのと同時に、外からの〈香気〉も跳ね返す。そし て紫子の存在そのものが、羽月たちの力を拡散させているのだ。 それで呼応などしていたら、何の意味もない。 夢消防車が到着した。銀色の防火服に身を包んだ男たちが、車から降りるなり作業をはじめ ふた み る。先の曲がった鉄の棒でマンホールの蓋のようなものをこじ開け、水源を確保する。 の 影 「もっと下がってください ! 」 人 野次馬たちに、彼らがさけんだ。あちこちでそんな声が聞こえるということは、通りの向こ うにも人垣ができているにちがいない。 こき あわ

3. 人は影のみた夢 2 : マリオネット・アポカリプス

き、ククリの〈香気〉はレベルダウンする。ククリ同士は〈香気〉を頼りに相手を探すことが 出来るのだが、それを難しくする。 紫子は、意図的にその力をふるい、彼らの〈香気〉を完全に覆い尽くした。そして、ひそや まぎ かにこの地へ紛れ込んだのだ。 それが完全ではなかったと思っているのかと問われ、紫子は表情を険しくした。 わかさき 「わたしは〈若桜木〉よ」 次の〈桜〉となるべき者。その力もまた、家系の中で保出している。 ぎけい めい だからこそ、彼女はここにいるのだ。〈桜御前〉儀恵の命により。何よりも強い、羽月の盾 となるよ , つに、と 「だったら、そんな言葉を口にするな」 「 ! ならば、この火事にどう説明をつけるのわたしたちがついたその日に始まっている のよ ! 三日で五件。同じ市内だけれど、方向はまるで無作為で、意味を感じさせない。その 意味は」 み 「うるさいなあ」 の かおる 影 リビングのドアが開き、スー ーの袋を抱えて帰ってきた馨が顔をしかめた。 こっち 人 「なんだよ大声出して。あんた、京都来てからずいぶんヒステリックになってない ? 」 「ええそうよ、イライラしてるわよ。あなたと違って〈気〉をダイレクトに受けてるもの」 こき おお けわ たて

4. 人は影のみた夢 2 : マリオネット・アポカリプス

「そのタイミングを覚えろ。シシンが、右手に帰ってゆく」 羽月はすぐ側に、遠王のものでない息遣いを感じた。自分にひどく近い〈香気〉がある。 数度ばらついたそれは、影にひそむように羽月の呼吸と重なる。 ナナ工だ。 ( 戻ってくる ) 羽月は手招きするように思った。 ( ナナ工、ここよ。影にお帰り ) 二人から離れた場所にいた塔埜は、羽月たちのいる裏手で急に何かが銀色に光るのをみた。 目を瞠る。そのわずか一瞬で、光は柱のように伸びたかと思うと、弧を描いて降下した。何 かの裡に潜り込んだように消える。 光の残像が、木々の葉を濃くふちどる。どおっと吹いた北風が、風と嵐の二つの〈香気〉を その場から押し流す。 みは

5. 人は影のみた夢 2 : マリオネット・アポカリプス

塔埜は絶句した。羽月の、実の兄。双子の兄。 同じ顔。 すうっと血の気が引いた。あいつの亡霊がそこにいるようだ : 鶸子が脇息から身を起こす。立ち上がり、塔埜に歩み寄る。 濃い花の香りを彼は嗅いだ。百合のようだが、ねっとりと甘い香り。首をつかまれて、引き 倒されるような めまい 〈香気〉に当たることはないはずなのに、塔埜は目眩を感じていた。いや、それともこれは びやく 〈香気〉ではなく、香水なのだろうか。媚薬を含むそれを、鶸子はあえてまとっているのだろ , っカ ( これが総領のカか ? ひれ伏ざせるーー ) それともあの顔のせいか。目の前の蒼司に動揺しているのか 鶸子が、膝をついた塔埜に屈みこむように上体を折った。見上げた彼に、白い指先が伸び た。触れる。 ナイフの切っ先のような気がした。もしくは、獣の三日月の爪。 まぶた 塔埜は瞼を閉じそうになるのを、必死でこらえていた。目を閉じればきっと、そのまま倒れ てしまうだろう。 「塔埜」 か

6. 人は影のみた夢 2 : マリオネット・アポカリプス

いただき ( 山の頂に吹きすさぶ風。夏の嵐 ! ) のうり 羽月の脳裏を風が吹きぬけた。引きずられ、ーー呼応する ! ( え ) かば 自分の顔を庇った遠王とナナ工の頭を抱いて伏せた羽月は、ハッと視線を結んだ ! ( これはなに ) らせん そら 二人の〈香気〉は反発しあわなかった。まじりあうように螺旋を描き、天へ駆け上った ! さくらま みは けげん 目を瞠ったまま相手を探りあう二人に、塔埜が怪訝そうな顔をしている。彼は桜間だから、 わからないのだ。気づかなかった ! よしかずしかく 由和や刺客たちとの呼応とは明らかに違ったそれに、羽月は動揺した。 ( まさか、これが適合 ? ) あらが だが、彼女は遠王にひれ伏したいとは思わなかった。〈香気〉に抗いがたいものも感じない。 ( ただ、〈カ〉は感じた。嵐の王ーー ) み 「あなた、あたしにひれ伏したい ? 」 の 影 羽月はこわごわ訊ねてみる。遠王は顔をこわばらせたまま、表情を動かさずに否定し、それ 人 からあらためて意を汲んだのか、言葉にした。 「いや。それじゃない」

7. 人は影のみた夢 2 : マリオネット・アポカリプス

「そう : : なの。、じゃあ、もうひとつ。どっちも、怖かったからそうしたの」 ナナ工の時は殺されると感じて。 生駒の時は、彼を殺されると感じて。何とか助けたくて。 「それはそうでしようね。感情の爆発が、〈香気〉を、銀の爪を呼び覚ましますから」 羽月は黙ってうなずいた。そこは、よくわかっている。 イレギュラー 「でも。 どうしてナナ工なの ? 〈若桜木〉はあたしのことを計算外って言ったけど「そ れでも、、ナナはただのクラスメイトなのに。生駒みたいに、たとえ半分でも桜間の血を引いて いるのとは、違うでしよう ? 」 火事の瞬間は、事情がよく呑み込めないままにも、一刻を争って動いた。けれど、冷静に考 えれば、それはおかしい気がする。 由和は、彼女の問いにしばらく答えなかった。様々な可能性を考えているのだろうか。 紫子は、腕組みをしたままじっとしている。今回は、話の行く末を見極めるまでは、ロを出 さないつもりなのかもしれない。 み 「一般的なククリとシシンですと、シシンとなるべき者は「ククリの〈香気〉の前にひれ伏し の あらが はます。わたし自身はククリですから、理解るとは言い難いのですが、シシンにとっては抗えな おば 人 いものになるようです。溺れる、というのが近いでしようか」 「馨なら、猫とマタタビというでしようよ」 がた

8. 人は影のみた夢 2 : マリオネット・アポカリプス

紫子の隣に座っそいなければならないのも、居心地が悪かった。はやく、馨か由和が戻って こないだろうか。 廊下の奥ばかり気にしていた羽月は、ふと、襟足に冷たい指を感じて飛び上がった。 紫子だ。 「なっ、なっ、なにを」 「髪を短くしているのはなぜ ? 」 またた ふいの質問に羽月は瞬いた。意味がっかめずにロ籠もる。 「えつ」 「どうしてなの ? 」 「それは」 「それは ? 」 羽月は目を伏せた。そのことは。 「長くしていると、怖い思いをしたり、〈香気〉が強まったりしたからじゃないの ? 長い髪 は霊的なものを集めやすいでしよう ? 」 、、、けれどそれが出来な 確かにその意味もあった。嘘ではないからうなずいてしまおうと思し えりあし くち′一

9. 人は影のみた夢 2 : マリオネット・アポカリプス

「あの子の義兄でしよう、塔埜とかいう」 「彼は、おまえたちの何だ ? 」 「わたしたち ? 桜間の男児、 「やっと気づいたか」 理解した紫子に由和はそう言った。 彼女は、髪をかきあげる。そう、そうだった。 桜間の男児は短命。二十歳を越えられる者は、ほとんどいない。 いくっ 「塔埜は、何歳なの ? 「羽月さまの二つ上だ。十九」 「 ! じゃあ ! 」 「残された時間は、もうない」 だから、このまま行けばやがて事は露見したと、由和は言うのだ。羽月の〈香気〉を覆うも 夢のがなくなれば み紫子は唇を噛みしめた。富貴子に問いかける。 ( 姉さまはそれを承知で ? 彼の少ない時間を、すべて羽月に ? ) 人 ( なぜ ) なぜそこまで : ろけん おお

10. 人は影のみた夢 2 : マリオネット・アポカリプス

由和とは、まったく縁もゆかりもない普通の人だ。 遠王がにやりとする。 『ヒントは、これからだ』 彼は、銀の爪をふっとかざした。口を開く。 『影となれーー』 と、ふいに羽月の足元がひずんだ。宙から落ちるのかと、つい悲鳴をあげる。 『きゃあっ』 しつつい だが失墜ではなかった。粉となって入り込んだナナ工の力が、羽月をーーー引きずっている ! 影のプログラムが動く。羽月のシシンの力が、黒い宣告となって体中を駆け巡る。 ( ーーーなぜ いまの命令はあたしじゃない ! ) 死に満たされてゆく男を見下ろしながら、羽月は混乱した。 みずか み シシンは自らのククリの言葉でしか動かないはすだ ! の 影 遠王の〈香気〉が漂っている。羽月ははっと彼を見た。 人 ( あたしを引きずっている ? ナナ工を ! ) なぜ