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検索対象: 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス
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1. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

「おまえの目的は何 ? 」 静かな一・言だったが、遠王は歩を止めた。 「この子を手に入れてここへ来たなら、 . おとなしく鶸子に渡すつもりではないわね。おまえ、 羽月で何をするつもり ? 」 「さあね」 「メリットはないわ。おまえのおもちゃにするには、少しばかり大きすぎるカよ」 「へえ」 おもしろ 遠王が面白そうにうなずく。 「だったら桜間は ? 」 そう切り替えした遠王が、わざとらしくしのび笑う。 「家の復活をかけた迫とは違って、あんたらに、何の得があるの ? 」 「さあ ? 」 紫子は、遠王とまったく同じに返した。凄みのある笑みを浮かべる。 せんさく おのれ そうりよう 「人の詮索よりも、己の身を心配したら ? 飼い犬に手を噛まれて、黙っている総領じゃない わよ ? こんなところに逃げてきてーーー」 紫子が、ふと羽月を振り向く。今まで無視されていたため、羽月は息を呑むほど驚い すご

2. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

どうしても耳に入れたいことがあるのだと取り次ぎの男に頑張らなければ、会ってはもらえ なかったのかも知れない。 それでも即座に殺されなかっただけ、彼は運がいいようだった。取り次ぎの男がそう漏らし たのだ。理由はどうあれ、塔埜は一度鶸子を裏切ったことになっているのだから、本当にそう なのかも知れなかった。 「そうーーー」 鶸子はもう一度言い、彼の前へ戻ってくる。 しいことを教えてくれたわ。あの娘は空也なの」 「そう申しておりました」 しんみよう 塔埜は神妙に答える。蒼司のことを言わなかったのは、保身のためだった。儀恵の最後の言 葉が気になり、すべてを正直に打ち明ける気にならなかったのだ。 それは最後の切り札に取っておくつもりだった。鶸子が完全に信じられるようになるか、自 3 きわ 分のいまわの際まで。 み 「それで、塔埜。おまえはそれと羽月の居場所をひっさげて、わたしの元に戻ったのね。戻り の はたいと願うのね」 人ーおお 「仰せのとおりです」 余計な言葉を付け加えることを、塔埜はいっさいしなかった。鶸子がそれを望むとは思わな

3. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

「おまえを京都のマンションから連れ出したのは、塔埜ね ? 」 「あれは。あたしが、自分で出たの」 「ナナ工を運ぶのに、手を貸したのは彼でしよう ? 」 「それはそうだけど、でも」 「羽月」 あわ 遮った紫子の目は、どこか哀れむような色を帯びていた。 「そんなに塔埜が好きなの ? 」 かば 敵なのについて行くほど。庇い立てするほど。 その問いは、静かに羽月の胸にしみわたった。それほどまでに、塔埜が好きなのか ? ちらりと遠王がよぎったが、それとこれとは別次元のものだった。触れたいのは遠王。 振り向いてほしいのは、塔埜。 つね 常にかなわない想い。 あわ 夢涙がにじみそうになって、羽月は慌ててうつむいた。それが、イエスの返事となる。 み紫子が、かすかに笑う。妹に対するように。 そして言った。 人「馬鹿な子ね」 さえぎ

4. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

思ってないでしよう ? 」 「まさか」 遠王は強調して答えた。 「俺はそんなにおめでたくないね。あれは、お屋形さまへのデモンス下レーションさ」 「弱い犬ほどよく吠えるって、たしかに言うわね」 紫子がせせら笑うと、遠王の顔つきが変わった。 「いい気になるなよ」 「凄んでも無駄。おまえにわたしは殺せないわ。傷つけられもしない」 「誰かをけしかけることは出来るって、忘れんなよ」 遠王はそう言って、ちらりと塔埜を見た。紫子は余裕の態度を崩さず、薄く笑った。 やっかい 「あなたはしないわ。当面はね。これ以上の厄介は嫌でしよう ? 」 彼女は羽月に意味ありげにうなずいてみせた。 ちまなこ しま血眼になった犬に探されてるわよ」 夢「この人はね、、 「ちつ」 したう 膨遠王が激しく舌打ちする。 人「犬って、総領のって意味 ? 」 そう訊ねはしたが、羽月には理由がよくわからなかった。遠王だって、総領の手の者だ。 すご

5. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

紫子の視線が床をさまよう。彼女はロをきつく結び、わきおこる感清を流し去ろうとしてい るようだった。 「つらかったのは、おまえだけじゃない。わたしだけでも。姉さまだって、きっと苦しんだ わ」 「あの女が」 塔埜は吐き捨てた。そうは思えないー 「そうよ。あの方は久巳さまと、死ぬ覚悟で逃げたの。すでに〈桜御前〉となっていたのに、 禁を犯して恋をされて。姉さまにはわかっていたはずなのに。長く続く幸せではないと」 「こうなるとわかっていたと ? 」 、え。久巳さまは当時二十歳を過ぎてらした。もう、残りの命は—ー」 紫子がそこではっと口を閉ざした。塔埜から目をそらす。 「やめましよう」 みや 塔埜は納得行かず、紫子を見遣る。父が彼の誕生を待たずして亡くなったことは富貴子から 聞いていた。まだ、だいぶ若かったことも。でもそれが ? そうなのだろうか。 まるで父が早く死ぬと、わかっていたような言い方だ。 りくう・ 「おまえ、遠王と一緒に離空に行ったのよね。向こうにどのくらいいたの ? 」 ふと紫子が話題を変えたため、塔埜は訊ねるきっかけをなくした。押し流されるように、彼

6. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

反射的に、羽月はすがりついた。馨の手のぬくもりに涙があふれる。 「馨、馨 ! 〈若桜木〉が、 馨が木から顔を背け、羽月を抱きしめる。羽月は、泣きじゃくりながら馨の胸を叩いた。 「どうしていなかったの、どうして ! 」 ちょうやく 「俺は一人じゃ跳躍できない。途中で由和に置いて行かれて、それでも、一番早い方法で」 「バカ ! どうして、どうして ! 」 意味をなさない言葉を続け、羽月は馨を叩き続ける。そうできる相手がいるだけで、幸せだ と心の奥で羽月は思う。こんな時、崩れそうになるのを、何とか支えることが出来る。 「姫ィさん聞いて。離空へ行くんだ」 羽月を抱きしめたまま、馨が言った。その頬に、ひとすじ涙が流れる。 「由和は、もうだめだ」 3 体を引き離し見上げると、馨が横を向いた。涙を、ふるえを悟られたくないのだ。 み 「いっか来ることだったんだ。雪也を殺した日から、そう決まってた」 の は「よしか : : かれ、 : べたって」 人おえっ 嗚咽の中の言葉を馨は聞き取った。うなずく。 「だからあいつにはシシンはないんだ。自分でどっちもっとめるから、やがてこういう日が来

7. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

ぎけい まったくその通りだったのだが、塔埜は〈桜御前〉儀恵の推測よりも「変わったこと」の方 に気を取られていた。 よしかず 「迫由和と、馨が捕まった : ・ 「あなたさまと高屋敷を追った比良盛経四郎が、つれて参りました」 答えた女性に塔埜は尋ねた。 「二日ほど前、でしようか ? あなたさま方の討伐の命令が出てから、そうは経っていなかっ たはすでございます」 だとすると、羽月が吹き飛ばした後すぐ、ということになるだろうか いなか 塔埜は窓の外に視線を流した。よく陽のあたる田舎道に、乗用車の影がひしやげた形に映っ ている。 この二日の間に、思いがけないことになっていたようだ。迫たちを比良盛が捕らえたとなる と、紫子の頼みの綱は切れたも同然だった。 『羽月を手にしているのはわたしよ』 ・けつかい 紫子はそう言ったが、こうなってはどうだろうか。結界を張り、現環島に身を隠していると はいえ、果たして本当に『手にしている』などと言えるのだろうか。 ( ざまあみろ。局面が変わったぞ ) き とら′ばっ うつわじま

8. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

が異変に気づき、とっさに抑えたに違いな、。 男は、それを見越していたかのように落ち着いていた。遠王の首筋にナイフを当て直す。 「手を離せ遠王。これはおまえの触れていいものじゃない」 けいどうみやく 由和が、ナイフの刃を遠王に首に食い込ませた。ぐいと手を引けば、頸動脈が断たれる。 遠王が低い声で血を震わせるように笑った。 「切りたいなら切れよ。そうしたら、あんたのお姫さまが自動的に死ぬだけだ」 その一一 = ロ葉の意味が、羽月にだけはわかった。彼はその体から、ここへ移るつもりなのだ。そ して羽月を殺す。こなごなに、踏みしだくように。 由和の鋭い視線が、羽月に当てられる。説明を求めるようなそれに、羽月はただ首を振っ もちろん意志が伝わるはずもなく、彼はいらだたしげに鼻にしわを寄せる。彼は眼鏡をして 、よ ) っこ。 、し十 / 、カナ′ 「どうした ? 斬れよ、オニイサマ」 、「おまえの兄などではない」 由和が一一 = 口下に否定した。遠王が、首筋にナイフなどないかのように、頭を後ろに倒して彼を 見上げた。 「兄だろう ? 生物学的には」 っ ) 9

9. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

経四郎の眉がびくりと動いたが、彼は何も言わなかった。その代わりのように、経四郎は撃 鉄を起こす。由和の額にねらいを合わせる。 由和は動じなかった。彼は撃ちはしない。い や、撃てない。 この距離から心臓をねらわれれば、由和とてまず命はない。だが、その瞬間にシシンを発動 させれば、逃げることが出来る。 経四郎は、それを知っている。その場合、呼応による反発が起きるのは間違いなかった。自 分を含め、八人のククリがここにいる。それがいっせいに呼応すれば、先ほどの比でない反作 用が生まれる。 もし逃げ遅れれば、巻き込まれる。その場合、無事だという保証はどこにもない。 やかた 「姫君と高屋敷はどちらへ ? お屋形さま」 「遠王といいおまえといし 鶸子の犬が、俺をそう呼ぶとはな」 由和は質問には答えず、そう言って笑ってみせた。 「すでに迫の者でもないおまえらがな」 がちんと銃口が由和の額に当たった。経四郎が押し殺した声を出す。 われ 「はじめから、我らは迫ではない」 「ふつ」

10. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

塔埜は目を瞠った。シシンになった者がいない 「それなら、十五年前にすでに誰かが気付いたわ。でも、そうじゃなかったから、まさか羽月 がククリだなんて思わなかったのよ。わたしたちも、おそらく総領も」 「でもそれでは : : : 」 「セオリーには外れているわ。でも、あの子は間違いなく〈香気〉を持っ能力者だし、銀の爪 おびや があるのよ。あの子はたしかにククリだわ。それも一族を脅かすほどの」 塔埜は羽月を思い浮かべた。思わず鼻先で笑ってしまう。 「信じられないな」 頼りない横顔。はっきり自己主張をすることもほとんどなく、にらみつければたやすく押さ え込めるというのに。 「性格からはね。でも、それもある意味仕方がないわ。〈香気〉を出さないようにするには、 感情を殺さねばならないもの。そう教えられてくれば、ああなるでしようよ」 3 あんどん 紫子のため息に同調するように、行灯の火が揺れた。塔埜は部屋を横切り、床の間の掛け軸 なが こいすいばくが み を見るともなしに眺めた。鯉の水墨画。水の色が朱に見えるのは、灯りのせいなのだろうか。 の おおほこり 影 彼は掛け軸をうっすらと覆う埃を指ですくい取る。鯉の片目が現れ、いまにも跳ねそうな光 人 をたたえてねめつける。 丸めた埃で、塔埜は鯉の目を塞いだ。指を息で吹いて、紫子に訊いた。 みは ふさ