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検索対象: 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス
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1. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

むだ 母さんが言ったように生きなさい。 もう時間を無駄にすることはない」 「羽月がなんだって言うんです」 イライラと塔埜は訊いた。自分の残された人生のことから、目を逸らして。 くうや そうじ 「あの子は空也かも知れないんだ。あの子と蒼司とは」 「空也 ? 」 眉根を寄せた塔埜に、儀恵ははっと口をつぐんだ。言い過ぎたのだと彼は気づいた。それは トップシークレットに近い言葉のようだった。空也。 ( しかも、羽月の実の兄とでーーー ) 鶸子のシシンだった少年を思いだす。羽月と双子の、うり二つの蒼司。 今の言葉は忘れておくれ。ねえ塔埜、後生だから考え直してはくれないかい ? 」 あいがん 哀願するような儀恵を、塔埜は鼻先で笑った。いいことを聞いた。自分には何のことだかわ みやげ からなくても、鶸子へのいい土産になる。 3 「塔埜」 の「僕のしたいことが、総領さまの元へ帰ることだと言ったらどうします ? 」 「それはわかっているよ。行く場所がそこしかないというのだろう ? 承知でお願いしてるん 人 だよ塔埜。外に目を向けておくれ。そうでないなら、ここにとどまって : : : 」 「ごめんです」 ふたご

2. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

132 「ごめんなさいね」 ふいに緋沙子に謝られ、塔埜は瞬いた。ふりむくと、はじめて彼女の表情が変わった。ほん のわずかだが、笑うように目を細める。 「こんな車しか用意できなくて。本当は、黒塗りの大きなので来てあげたかったのだけれど」 「こんな車で申し訳ありませんね、緋沙子さま」 にら 運転席の女性が、ルームミラー越しに緋沙子を軽く睨んでいる。やりとりの様子から言っ おもしろ て、この女性は緋沙子の世話係か何かのようだ。緋沙子は小さく声を上げて笑い、面白がって 付け加える。 「とてもいい車よ。こんな時にはびったり」 女性も笑いながら応じる。 「この車が外へ出ても、誰も気にしませんものね」 「わたしたち、あなたに離空の誰より先に会いたかったの」 緋沙子が塔埜に向き直る。 「そうでなければ〈桜御前〉にお引き合わせする事が出来ないから。知っている ? 離空では たかやしき ひらもりきようしろう あなたを探してるわ。比良盛経四郎を覚えているかしら ? 彼が先頭を切って、高屋敷とあな たを」

3. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

紫子がかすかに笑った。塔埜を見る。 さくらごぜ 「わたしもまた、羽月のように早熟な子供だったのよ。だから初めから〈桜御前〉の元で育て られたの」 「・ーーそれで、あたしは諦めながら生きてきた、とでも一言うんですか」 はつ、と塔埜は吐き捨てた。そんなのはおためごかしだ。 「そうね。ある意味は」 こうてい 肯定され、塔埜はさらに語気を荒らげた 「じゃあ、自棄になったこともないと」 と。ふいに紫子の顔つきが変わった。 「いいえ」 いど 紫子が低い声で答え、そこでびたりと口を閉じた「挑むように塔埜を見て、ふい ? と目を逸 夢らす。 しいえ。あるわ。一度だけ。 : : : 十三の時に」 の それは彼女が〈若桜木〉の位を正式に継いだ年齢だった。 紫子が黙り込んだため、塔埜は次の言葉をためらった。やりこめてやろうとする成り行きで 出した言葉に、そんな顔をするとは思ってもいなかったのだ。

4. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

「おまえは現環だ。迫の数ではない」 遠王のにやにや笑いを受けても、由和は眉一つ動かさなかった。初めの要求を繰り返す。 「羽月さまから離れろ」 おんな 「俺の体だ」 「おまえの ? はつ」 笑い声をあげた由和は、羽月にうなずいてみせた。 「羽月さま。早くこの男の手の届かないところへ」 その笑みに、羽月は汗が滲むのを感じた。遠王のように、喉元にナイフを突きつけられてい るような気がした。 「羽月さま、お早く」 いらだ うなが 促す声もどこか違う。苛立っている、いや、嵩ぶっているのか。 「由和さん。約束して。あたしが離れても、遠王を切らないで」 羽月は頼んだ。あらかじめ言っておかないと、その通りになりそうだった。 「羽月さま、何を馬鹿な」 「お願い、約束して」 ふいに遠王がけたたましく笑い出した。 「どうするよ、オニイサマ。あんた自分のお姫さまに、敵の命乞いをされてるぜ ? 」 うつわ ばか たか

5. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

「馬鹿な ! その銀の手は : ククリの右手。 羽月は立ち上がった。男から離れようと、数歩退く はつろ 離空でよ、、 。しまだ彼女が発露のみだと信じられていたのだ。男の驚きはそういうことだっ ( 隙をつけばあるいは ) や ふと艀かんだ言葉に従い、羽月は右手をかざした。このまま背中を見せたら殺られるだっ たらこの隙に。 シシンを呼ぶ。 「ナナ工し」 ぶうんと右腕が振動し、ナナ工が青白い炎を纏って現れた。反発を食らい、男が飛びすさ る。 3 「くつ」 の彼もまた、右手を振った。よく似た顔の、若い男が現れる。 影 「弟だ」 人 彼はそう言し 、、にやりと笑った。まるで、その家系の力を誇るかのように。 ひらもり . きト ` ら・し - つう・ 「不思議なご縁だ、姫ぎみ。わたしは比良盛経四郎。かって、この島はわたしの家が治めてい えん まと

6. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

「鶸子は『羽月を殺せ』とは言っても『連れて逃げろ』とは言わないわ。こうなったことは、 すでに知れているでしようよ、離空には」 だから追われると言うのだ。二人ながらに。 塔埜が目を瞠る。その表情は「自分はどうなるのか」と訊いていた。 「同罪でしようね、もちろん」 「僕は聞いてないぞ、遠王 ! 」 塔埜が、一言低く抗議した。うるさそうに、遠王が横を向く。 いらだ 塔埜は苛立ちを隠そうともせずに、荒々しく奥へと入って行った。ちらりと見遣った紫子 は、遠王に微笑んで見せる。 「あの子がへそを曲げて出て行ったら、わたしなしでは〈香気〉が誤魔化せないわねえ」 おど けいれん 脅し文句のようなそれに、遠王は激しく頬を痙攣させた。吐き捨てる。 かって 「勝手にしやがれ ! 」 彼は外に飛び出して行く。紫子は笑い出しながら、その後姿を見送った。それから、呆然と たたずんでいる羽月に向き直る。 「羽月」 呼ばれて、彼女は顔を上げた。 みや

7. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

思わず由和は笑った。そうかもしれないという同意のそれだ。彼らがまだ鶸子のものでなか った頃、いったい迫の誰が彼らを〈同胞〉と見ていただろうか。 て ) 」ま だがそれは情を移さぬためだった。鶸子の手駒にするためではない。 「恥知らずどもめ」 「なんとでも言え」 経四郎は淡々と答えた。そして、肩をすくめて続ける。 「おまえよりはマシだ。影喰いの狂犬。雪也ー 1 」 うな 経四郎の一一 = ロ葉に馨が動く。ワイヤーが唸り、経四郎のマスクを切り裂いた。 「そのロで、兄貴の名を呼ぶな」 経四郎のロを覆う布が落ち、唇の端に一筋、朱線が走った。つうっと血が伝い落ちる。 「この ! 」 夢「クソガキ ! 」 けしき み男たちが気色ばんだ。銃をかまえ直す彼らに、顔を傷つけられた経四郎が言った。 「早まるな。・そいつを殺すと、あとが地獄だぞ」 人それを聞いた由和がにやりとした。その通りだ。取り返しのつかないことになる。 「よくわかっているようだな」 おお

8. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

た。二度と戻ることはないと思っていた故郷で、あなたにお会いするとは」 羽月は言葉を返さなかった。そんな余裕はないのだ。 なまつば 生唾を飲み込む。どう、仕掛ければいい ? ナナ工は命じれば、あの男に向かうの ? 「母ぎみにお命を狙われているのは、ご存じか ? わたしは母ぎみの配下のものだ。あなたに うら ちょうだい 恨みはないが、わが故郷にて、そのお命頂戴する ! 」 彼がそう言った瞬間、羽月はナナ工を飛ばした ! ナナ工が女子高生から青白い矢に姿を変 おそ えて経四郎に襲いかかる。 経四郎はまなじりを吊り上げたが、ただ手を振り払っただけだった。 くだ 彼のシシンが真正面からナナ工にぶつかった。ナナ工が星のように砕け散る。とたんに衝撃 波に襲われた ! ナナ工 ! 羽月はうち倒され、爆発で掘り返された軟らかい土の上に転がった。放ったカがそのまま帰 ってきただけだと、感覚でわかった。散ったナナ工が、すぐに羽月の側で元の形を取る。 「なるほど」 経四郎がつぶやく。彼はシシンの弟を肩の辺りに漂わせ、くすっと笑った。 「姫ぎみは、シシンの扱いにお慣れではないらしい。では、この経四郎がお手本を見せてさし っ

9. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

ゅう′一う 質の力を持つはすなのに、反発しあわずに融合しようとする。 『カエリタイ』 彼女の中の何かがささやく。帰りたい。 かえ 還りたい ? 遠王が深く息を吸い込む。吐き出す。 二度目で、羽月ははじめから予定していたように彼に呼吸を合わせた。体がそうした。由和 がくぜん が愕然と目を瞠る。馨が叫んだ。 ひ 「姫ィさん 「貴様、何をするつもりだ : ・ 遠王はそれにかすかな笑みで答えた。 「面白いもん見せてやる」 あらが また自分を使うのだと本能的に悟った羽月は遠王を見た。抗おうとして、動けな、。 体が言 うことを聞かないー ( やめて ! ) 眠らせたばかりのシシンが頭をもたげようとする。羽月の中で、ナナ工が命じる〈声〉を聞 は

10. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

遠王に訊くのが一番の近道だが、羽月はそれをしたくなかった。 あの夜、塔埜のモーターポートが残していった泡が消えてしばらくして、我に返った羽月 は「遠王のいる離れに飛んでいった。真夜中にしつこく扉を叩き続けて、眠っていた遠王を叩 き起こして頼んだのだ。 『お願い、塔埜を連れ戻して』 さかだ 寝起きで髪の毛を逆立て、ばんやりしていた彼は、羽月の説明を聞いて次第に真顔になっ た。それからふいに笑い出し、そして言ったのだ。 『とうとうやったか。いいさ、やつに、もう用はない』 『遠王』 驚いて棒立ちになった羽月に、彼は続けた。 『あいつに近づいた目的はもう果たした。ュカリコサマとやり合っていじけたのか、俺がお尋 ひわこ ね者になったのが気に入らないのか、とにかく鶸子んところに帰るんだろ。それでいい。俺は 3 何の不満もないね』 み 影 遠王の言葉には、まだ続きがあったのかも知れない。だが、羽月はそこで遠王を平手打ちに 人 して、帰って来てしまった。 それきり、彼とはロもきいていないし、顔を合わせてもいない。