高屋敷 - みる会図書館


検索対象: 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス
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1. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

ら転落した。中央から遠ざけられ、不遇を囲っているはすだ。だからこそ、迫由和は羽月を手 ほうき に入れて蜂起するつもりでいるという。 その迫と、高屋敷遠王・比良盛経四郎がつながっているとは あもう 「それが天望の一族よ」 がくぜん 愕然とする塔埜に紫子が言った。 「この千年、ほとんど外部の血が入ってないから、一族の誰もがほとんどが身内と言ってもい いわ。だから、肉親同士が血で血を洗うのなんて珍しくもない」 妹が兄を追い落とすのも、母が娘を殺そうとすることも。 「高屋敷と比良盛も、この屋敷で兄弟のように育ったけれど、仲はよくないわ。比良盛は、高 屋敷を殺したいはずよ。隙があれば、すぐに刃を向けるわ。迫と高屋敷もそうね。憎みあって る」 3 夢塔埜は、離空に足を踏み入れた時のような、底冷えするものを感じた。血も力も、ぐちゃぐ ちゃに入り乱れている。暗殺者の一族は、人知れぬ里で、そうやって生きてきたのだ。 影 「それで、同じ迫でも総領様にとり立てられる者と、そうでない者と」 人 「それはちょっと違うわ。鶸子の周りにいる迫筋の者は、現環島の出身者だけだもの」 つぶ 「でも、あなたはさっき、島は総領様が取り潰したって : 三・」 ふぐう

2. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

112 「まさか。わたしは、もちろん羽月や迫由和なんかも離空育ちょ。ここで育つのは、ほんの一 握りの、それもある家系の生まれの者だけ」 「高屋敷家、ですか ? 」 塔埜が訊ねると、紫子は秘密でも打ち明けるように低い声で言った。 「ーーー迫よ」 「はつ」 塔埜は冷静なポーズを忘れた。高屋敷遠王が、迫の人間・ 「『高屋敷』は通称なの。現環島をまかされていた、迫の分家筋にあたる比良盛がそう呼び始 みようじ めたのが、いつのまにか苗字のようになってしまったのよ」 「ーー比良盛 ? 」 聞きとがめた塔埜は訊ね返した。 しろう 「それは比良盛 : : : 四郎の比良盛ですか ? 」 鶸子の御前で会った者たちの一人に、そう名乗る者がいたはすだ。遠王と遣り合っていた、 二十代半ばの男が、たしかそれだったと思う。 きようしろう 「比良盛経四郎ね ? その比良盛よ。鶸子のところにいた男でしよう ? 」 ( やつばり ) 塔埜はロを結んだ。わけがわからない。迫家は鶸子のクーデター後、総領家に仕える身分か ひらもり や

3. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

きょ 走り出した羽月に、紫子は小さな悲鳴を上げた。虚をつかれたため立ちつくしたのは一瞬 で、すぐに追いかけ始める。 だが、羽月は思いのほか足が速かった。その薄い体型で、紫子をどんどん引き離してゆく。 距離はあっという間に、叫んでも届かないほどに広がった。紫子の靴はヒールがある。この差 はもっと大きくなるだろう。 あかまっ 紫子は来た道を戻り、赤松の屋敷に飛び込んだ。離れの扉を叩く。 たかやしき 「高屋敷、高屋敷 ! 」 3 返事はない。 み 「高屋敷」 の 影 「あんだよュカリコサマ」 人 ふいに扉が開いた。不機嫌な顔つきの遠王が、ぬっと姿を現す。 彼の背中越しに部屋の中が見えた。古い子供服や本が、そこいら中に積み上げられている。 ☆

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ククリの力が全開になるのだと羽月は思 0 た「カは弱まることなく、ま 0 すぐ相手に向か たかやしき 「それよりおまえ。今のはおまえなの ? あの瞬間、高屋敷がうめいたわ。引きずられて」 遠王が引きずられた。いつもは彼女を従えようとするのに。 「ーーーわたしもよ。何をしたのおまえ、わたしは桜間よ」 紫子の視線の奥に、おびえがあるのを羽月は見た。彼女は桜間だ。ククリの力は通用しない はず。 「あ、あたしにもわかんないの。ただ、ナナェで応戦してたんだけど、敵わなくて、それで呼 んだの」 「なんて ? 」 その名を、羽月は初めて口にした。 「空也」 紫子が息をのんだ。 「知ってるの」 羽月の声は、爆音にかき消された。遠王がシシンを解放し、カ任せに経四郎にぶつけたの

5. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

ぎけい まったくその通りだったのだが、塔埜は〈桜御前〉儀恵の推測よりも「変わったこと」の方 に気を取られていた。 よしかず 「迫由和と、馨が捕まった : ・ 「あなたさまと高屋敷を追った比良盛経四郎が、つれて参りました」 答えた女性に塔埜は尋ねた。 「二日ほど前、でしようか ? あなたさま方の討伐の命令が出てから、そうは経っていなかっ たはすでございます」 だとすると、羽月が吹き飛ばした後すぐ、ということになるだろうか いなか 塔埜は窓の外に視線を流した。よく陽のあたる田舎道に、乗用車の影がひしやげた形に映っ ている。 この二日の間に、思いがけないことになっていたようだ。迫たちを比良盛が捕らえたとなる と、紫子の頼みの綱は切れたも同然だった。 『羽月を手にしているのはわたしよ』 ・けつかい 紫子はそう言ったが、こうなってはどうだろうか。結界を張り、現環島に身を隠していると はいえ、果たして本当に『手にしている』などと言えるのだろうか。 ( ざまあみろ。局面が変わったぞ ) き とら′ばっ うつわじま

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きし その衝撃は、隔離されている羽月たちにも伝わってきた。ぎしぎしと、透明なドームが軋る ような音が、頭のすぐ上でする。 「心配ないわ。さすが高屋敷ね。消しきれなかったカが反応してるだけよ」 「遠王は、そんなにすごいの ? 」 「そうよ。あれと同格は、一族にもそういないわ」 「由和さんや、 : お母さんくらい ? 」 「おまえもよ。あとは前の総領さまと。あの方は、お優しすぎたけれど」 では経四郎はそれよりは下なのだと思い、羽月は背筋に冷たい汗を感じた。彼女は、力量で 言えば格下の彼にさえああだったのだ。それが、鶸子相手ではどうなるだろうか : 二度目の爆音がシールドを揺さぶった。えぐり取られた土が、シールドに当たった瞬間に、〈 3 醪煙となって消えてゆく。 の 影 先ほどまで無傷だった経四郎の上衣が、吹き飛ばされたようにばろばろにちぎれていた。よ 人 けきれなかった傷が、脇腹を走っている。傷は浅くはないようだ。血が、すでにズボンを濡ら している。 カくり

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142 」ら・りよう 「少し前に、高屋敷がおまえを連れ帰ったとき、幾度か総領屋敷へ出向いたのだけれど。知ら ないだろうねおまえは」 そう訊ねられ、塔埜は紫子の言葉を思い出して横を向いた。彼女の言っていたことは、本当 だったのだ 紫子にははじめから、彼を騙すつもりなどなかったのかも知れない。ありのままを告げ、桜 まっと 間の仕事を全うしようとしていただけなのかも知れない。 のうり 少しは協力しても良かったのではないかという気持ちが、ふっと脳裏をかすめた。だが悔や んでも遅い。彼は紫子と決別して、現環島を後にした。離空に戻ってきてしまった。 「紫子に会ったのだろう ? それでひどいことを言われた。だから、おまえは戻ってきたのだ ろう ? 」 儀恵にずばり言い当てられ、塔埜は返答にま 0 た。つねに紫子を監視していたわけではな いというのに、なぜそこまでわかるのだろうか 「会ったのだね ? 」 答えない塔埜に、儀恵は重ねていった。彼がどうしてと問うより先に、説明する。 かんしやく 「紫子はあの気性だからね、思い通りにことが運ばないとすぐ癇癪を起こす。おまえの立場や 気持ちを理解しないわけではないのだけれど、あの子は桜間のためになるよう、やかましいほ ど聞かされて育ったから、つい人にもそれを求めてしまう。悪気はないのだけれど、おまえが だま

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聞いたらさそ不快だったろうね」 「・ーーで、紫子がかたくなな態度をとれば、おまえだって飛び出してくるしかないだろう ? そうしたらここに戻ってくるさ。それしかないからね。高屋敷は信じるに値しないだろうか ら、そうしたらおまえは鶸子を頼る。簡単なことさ」 儀恵はまるで見ていたかのようにそう言った。瞬いた塔埜に、彼女はあきらめを含んだよう さび な寂しげな笑みを浮かべて続ける。 「わたしだって、だてに八十年も生きてきたわけじゃないよ。何もかもを見て来たんだ。 何もかもをね」 何もかもを。 その言葉は、塔埜の胸にすしりと響いた儀恵は知っているのだ。富貴子の駆け落ちも鶸子 のクーデターも、羽月の暗殺未遂も。 3 「父は、どんな人でしたか」 ひさき み 気がつくと、塔埜はそう言っていた。実父・久巳のことを、これまで誰かに訊こうと思った の はことは一度もない。 人 すっとタブーだと思っていた。富貴子は話したがらなかったし、生まれを知ってからは、余 は・はか Ⅷ計にロに出すのが憚られた。それを今になって問うのは、相手が儀恵だからだ。

9. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

132 「ごめんなさいね」 ふいに緋沙子に謝られ、塔埜は瞬いた。ふりむくと、はじめて彼女の表情が変わった。ほん のわずかだが、笑うように目を細める。 「こんな車しか用意できなくて。本当は、黒塗りの大きなので来てあげたかったのだけれど」 「こんな車で申し訳ありませんね、緋沙子さま」 にら 運転席の女性が、ルームミラー越しに緋沙子を軽く睨んでいる。やりとりの様子から言っ おもしろ て、この女性は緋沙子の世話係か何かのようだ。緋沙子は小さく声を上げて笑い、面白がって 付け加える。 「とてもいい車よ。こんな時にはびったり」 女性も笑いながら応じる。 「この車が外へ出ても、誰も気にしませんものね」 「わたしたち、あなたに離空の誰より先に会いたかったの」 緋沙子が塔埜に向き直る。 「そうでなければ〈桜御前〉にお引き合わせする事が出来ないから。知っている ? 離空では たかやしき ひらもりきようしろう あなたを探してるわ。比良盛経四郎を覚えているかしら ? 彼が先頭を切って、高屋敷とあな たを」

10. 人は影のみた夢 3 : マリオネット・アポカリプス

114 「島を取り潰して、住んでいた者全員を手に入れたのよ。高屋敷も比良盛も、死んだ赤たち いのちづな も。かっての命綱を、みんな自分の犬にしたわ 「命綱 ? 」 「一族がなぜ、離空からはるかに遠い小島をわざわざ選び、そこに特別な子供を送り込んだの だと思う ? ここが一族と関係があると、世間に知られたくなかったからよ。わたしたちは時 の支配者たちに雇われてきたけれど、決して平穏ではなかった。雇い主にさえ命を狙われた。 だからこそ、現環島の存在は固く守られていなければならなかったのよ」 「彼らの力というのはなんなんです一体」 「もういいでしよう、塔埜」 さえぎ 紫子に遮られ、彼はかすかに目を瞠った。 「わたしはおまえの質問に、ずいぶん答えてあげたわ。そろそろ、返事を聞かせてちょうだ 彼女を手伝い、羽月のシシンを探すのか否か。 塔埜は即答できずにロ籠もった。まだ情報が足りない。紫子の言うとおりに羽月に真のシシ ンを定着させることが、本当に自分の利益になるのかどうか。 考えを整理しなければならない。この争いの裏で、それぞれの感情がどう動いているのか を、見定めなければ。