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検索対象: 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス
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1. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

いや 馬鹿な子ね。そう言っているように聞こえた。塔埜は緋沙子の死に打ちのめされている。卑 おくびようもの しい臆病者だと、開き直ることが出来ずに。 「緋沙子と逃げて、連れ戻されて死んだ方が幸せだったという顔をしているわ、おまえ」 「そうかもしれません : ・・ : 」 ほほえ 塔埜は、みとめた。鶸子が微笑む。どこか聖母のように。 「いやな子」 くや くちびる 鶸子は、唇から笑みを消さずに言った。どこか悔しそうな、それでいて諦めたような声で。 「失礼します」 屋敷の女が、陶器でできたトレイをささげ持ってやって来た。トレイには茶器が載ってい る。鶸子が目で合図したのを見ると、彼がここへ来るまでに、持ってくるよう命じてあったよ にしきえ きん 女が腕を下げた。紫と黄金をふんだんに使い、錦絵のような細かな模様のかかれた、けれど きゅうす デザインはばってりと中国風の急須と茶碗が、用意されていた。トレイまで含めたセットなの だろう。模様が同じだ。 そそ 鶸子はトレイを彼女にささげ持たせたまま、茶碗をかえし、急須の茶を注いだ。後発酵の中 国茶に似た黒褐色のそれは、だがかすかに花のような甘い香りがした。 「落ち着くわ、おのみなさい」 ひさこ あきら の

2. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

( 〈若桜木〉、あたしの「封印」はシシンじゃないよ ) ゆかりこ 羽月は、駆けながら紫子に語りかけていた。 ( あたしの封印は「遠王」と「お母さん」だったんだよ ) 『あたしを過去に連れて行かないで ! お願い ! 』 きようと 京都のマンションで叫んだ一一 = ロ葉を、羽月は思い出す。当たり前だとつぶやいた。二つも封じ ていた記憶があれば、過去になんか遡りたくないに決まっている。 ともしびのような鶸子の〈香気〉が、羽月の記憶の蓋をこじ開ける。ふるい屋敷。あまり人 の出入りのない奥の院。天井のの絣。磨かれた、深い色の廊下。 ひとりでいる子供が見える。くすんだ色の服。まだ短い髪。子供は誰もいない部屋で、絶え ず誰かを探している。やがて足音がして現れる人は、彼女の求める人とは違う。 ぎけい あの子どもは羽月だ。探していたのは鶸子。儀恵ははじめからおまえを憎んでいたわけでは ないと言っていたけれど、半分しか正しくない。 憎まれてはいなかったけれど、愛されてもいなかった。それがーーー真実。 そうじ の鶸子にとって大事だったのは、兄。蒼司ただ一人。 ( お母さんは、蒼司を守ろうとする ) ひな 親鳥の巣から雛をかすめ取ろうとする狐か何かのように、羽月を扱うだろう。〈香気〉がそ う一一 = ロっている。 わかさき さかのば きつね ふた

3. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

かんしト - う も伝わった。特殊な力を諍り、ククリやシシンの力に決して干渉されないはずの〈桜間〉が、 髪をつかんでぐいと引かれるようなショックを覚えた。 たたみほこり ぐらついていた衝立がバタンと音を立てて倒れ、畳から埃が舞う。窓から差し込む血のよう うんも な赤いタ日が、それを雲母のようにきらめかせた。散って行くさまがよく見える。 儀恵は窓の外に目をやった。屋敷を囲む背の高い生け垣の上に、横長に切り取られた空があ る。雲は濃く赤く染められ、まるで炎になぶられているように見えた。 よちょうはら 予兆を孕むかのような、不思議な色だ。美しくもあった。 ( これが、最後の空だろうか ) 地震で崩れかけた部屋で、儀恵は思った。壊れたり倒れたりした調度品に囲まれ、何事もな かったように座っている儀恵は、髪一筋の乱れもない。何事もなかったような落ち着き払った くる 態度は、どこか異常だった。人が見れば「狂っている」と思うかもしれない。 儀恵は背筋を伸ばして正座していた。地上の混乱をよそにゆっくりと流れて形を変える雲 に、うずくような痛みを覚える。 ( 天よーー ) 彼女はロの中でつぶやく。時は満ちたのだ、と。 さくら′ぜ 「〈桜御前〉」 廊下に足音を響かせてやって来た世話係の女が、部屋をのぞくなりうわずった声を出す。儀

4. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

ひび 次の瞬間、凄まじい音が離空に響き渡った。蠢く森の北側から、光が吹きだし、里を囲むよ , つに走る。 窓から、輝きの輪が見えた。光は真昼のように森を照らし、地面に潜り込んだ。網の目のよ うに駆けめぐりながら、一点に集まってくる。 いただきいおり 中心にあるのは、奇岩だった。頂に庵が、離空院がある場所。 またた 岩の下に集まった光が、瞬く間に駆け上った。庵が粉々に砕け散り、それを追うように岩が 崩れ落ちる。 あとには光が残った。その光に答えるように、空から幾筋もの光がオーロラのように射し いなずま た。夜の闇を裂いて落ちた稲妻が、光のかたまりに突き刺さる。 キ一ギ」はし 夢 ぐん、と空気がゆがみ、光が解け合った。天に階がかかる み 巻き上げられた岩が、吸い込まれるように天に昇ってゆく。それを合図に、一枚、また一枚 の はと屋根がはがれはじめた。窓ガラスが抜け、壁が割れ、家具も人も浮かび上がる。 かわら 人 総領屋敷も例外ではなかった。ばらばらと瓦が取れる。本棚が倒れ、破れたページが舞い上 がる。一人、また一人とのばってゆく。 すさ 「空也 うごめ くだ もく

5. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

192 めずら 「権力は、一度握れば離したくないもんさ。わたしに言わせりや、おまえの父親の方が珍しい よ。生まれたときからかしすかれて育ったのに、可能ならばそれを放り出すつもりだったんだ からね」 儀恵はこともなげに説明してみせる。それは、鶸子は自分を押し通すためなら兄を殺すくら いやってのける、と言っているように羽月には聞こえた。きっと、その通りなのだろう。 わか 「とにかく。そんな時だったよ、おまえたちが空也かもしれないと判ったのは」 「正確には、おまえが二つになってすぐの時だ」 飛滝が初めて口を挟んだ。羽月が目を上げると、彼はうなずくような仕草をしてから話し始 めた。 「ある日、朝からおまえの姿が見えないことがあって。一人で遊んでいても、屋敷の敷地から さと いくにん 出るはすはないのに、どこにもいなくて、おれは幾人かに手伝わせて里へ下りた。あちこち探 つめ 銀色に」 して見つけたおまえは、あの森の側で倒れていた。抱き上げて、爪に気づいた。 「銀の爪はククリ。けれどおまえは二歳だよ。あんまりにも早すぎるんで、飛滝は驚いて、す 力いとう ぐにおまえをわたしのところへ連れてきた。それでシシンを探したんだが、該当者が出なくて ね。あの時飛滝には言わなかったが、びんときたよ。おまえが空也になるべき子なんだって」 めい 「その直後だった。姉上が、おまえを殺せとおれに命じたのは」 「それで、逃がしたの ? それであたしを逃がしたの ? 」

6. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

たく じったのだ。羽月の器にするために、体を奪われた高屋敷遠王。羽月を託され、捨てた一族の ために働かざるを得なくなった富貴子。その体に桜間の血が流れているため、羽月の影として とうの 暮らすことを命じられた塔埜。 そして何も知らずに育った羽月。自由を奪われた蒼司。彼らと関わったために、命を落とし た者たち。 彼らの苦しみを、儀恵は見ているだけだった。否、見て見ぬふりをしてきた。 それが〈桜御前〉のさだめなのだ。石のように感情を殺し、両目を見開き続ける。純潔と引 き換えに手に入れたカで結界を守り続け、恋をすることもなく、喜びも知らずひたすらに。 儀恵には出ていった富貴子の気持ちがわかる。次の〈桜御前〉になる者・〈若桜木〉として 育てられた富貴子は、幸せではなかった。地位を継ぐことは孤独と同じ意味を持つ。生まれて から死ぬまでの、長い長い孤独と。 誰も愛さず、誰にも触れず、自分の人生を他人事のように生き、見続けるのだ。〈時〉を。 夢「緋沙子に気を配ってあげるよう、みなに言っておくれ」 み長い沈黙のあと、儀恵は言った。たとえ一時でも、大切にしてやりたかった。おためごかし と言われても、それが彼女が緋沙子にしてやれるたったひとつのことだった。 : 、はあ」 女は消化不良の顔をして、それでもうなすいた。今の儀恵になにを訊ねても無駄だと判断し

7. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

り、一番つらかったのは 2 巻だったよなあ。はじめさ、背中が痛くなって「寝違え」だと思っ てたのさね。それとちょっと風邪気味だな、と。そしたらその痛みと熱はセットで、しかも昨 日の微熱は今日の℃ってくらい急上昇してくれて。 かんえん 余談ですが、わたくしこの時、瞬間的に肝炎系疑ってました。寄生虫とか。発病の直前に外 国の屋台で思い切りいろんなもんバクバク食ったから、なんかやばいことになったのかと。ぜ んぜん違ったけど。あ、今は普通に元気ですので、ご安心を。 さて。実はまだ脱稿直後でポーツとしてるんですが、中身のことにも少し触れましようか ね。「とある一族の、憎しみと憎しみと憎しみの物語」という設定のせいで、はじめから最後 はづき キャラ まで不幸続きだったヒロインの羽月嬢。うちの子で、ここまで徹底的にいじめられたヤツもい とうの あわ ないかも知れません。いじめ、といえばダブル主人公の塔埜もかーなーり哀れですが。たぶん がっしようぎみ 最後までヤなャツでしようと言ったとおりに、突っ走ったしな ( ちょっと合掌気味の「笑」 ) 。 最後なので明かすと、キャラ中最も書きやすかったのが塔埜くんです。逆にエラい大変だっ たのが、羽月。だって、この子モノローグ多いんだもん ! 悩まれると、話が進まないんだっ とてばさ。 あ あ、そうそうそう。シリ ーズを全部お読みの方で、章ごとのタイトルに気づいた方いらっし ゃいます ? デザインがもともと斜めでちょっと読みにくいでしようが、一文字ずつずらして きの