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検索対象: 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス
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1. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

たましい 羽月の魂を、遠王の体へ。遠王が消費されたことを発覚させないため、遠王の魂は、もう あわ 一人の哀れな子供の体へ。 儀恵たちはそれぞれの魂に、新しい体を元から自分の体だと思いこませた。思うことはカに なる。疑わなければ、体は心に従う。少年だった遠王の体は少女に。離空の外で育った体は、 現環島で暮らしていた遠王に。 よみがえ うつわ かっての天望の総領たちも、この法で「蘇った」という。現環島は器の島。今も昔も、そ こで育っ子供たちは皆、入れ物にされるために集められた者ばかりだ。 羽月がそうやって生き延びた真実を知るのは、儀恵たちだけだった。彼女たちはそれをひた 隠しにしてきた。 すべては、この日のため。満ちた時が羽月を呼び戻し、閉じた環を一本の長い階にするた め。 のそ かな 羽月は空也になる。双子の兄・蒼司と空也になって天望の希みを叶える これから起こることを、儀恵はほとんどすべて知っていた。彼女と、もう一人だけが。 ( それもーーさだめ。どんなむごいことも : : : ) 「〈桜御前〉 ひさこ 「緋沙子はどうしている ? 」 めんく 突然一人の少女に話が飛んだため、女は面食らった。 キ一ギ」はし

2. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

だま 遠王は凍り付いた。必死に記憶をたどる。どうだっただろうか。いや、考えるな。騙される な。こいつは俺をはめようとしている。 「違っただろう ? 」 「おまえ : : : 」 遠王は声をかすれさせた。のどが干上がっている。 あせ 考えようとすればするほど焦り、記憶が遠くなってゆく。俺はどうだっただろう。何だった だろう。〈香気〉ははじめから「夏の嵐」か 「教えてやる」 飛滝はささやいた。 「おまえはあの時、殺される羽月の体に入ったな。あれのもとの体だ。その瞬間、腕を斬り落 きざ たましい とされ、魂に痛みを刻みつけた」 みずか そう。それは覚えている。だから遠王は、新しい体に移って、真っ先に自らの腕を傷つけた のだ。腕を斬り落とされた痛みと恐怖から、もう二度と、誰にもそんなことはさせないよう の 影 「わからないか、遠王。おまえは、おまえの魂に、羽月の体のパターンを刻んだのだ。羽月の 人 腕の痛み。羽月の〈香気〉」

3. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

( この、体のことだ : : : ) ぎけい 十五年前、彼女を逃がすために、飛滝と儀恵がしたことだ。 えんおう 答えられずに、羽月は唇をすばめた。ふいに遠王を思い出す。彼女に取られた体を取り戻す ためだけに、彼はあれからの十五年を生きてきた。 わかりません」 かなりの間のあと、羽月は小声で答えた。必要ないだろうと思いながらも、言を継ぐ。 「あたしは、遠王じゃないから : : : 」 まお 遠王、と彼女が言ったとき、飛滝のがびくりと動いた。泣くまいとするかのように、彼は 横を向く。 わ 「あいつは憎んでいるだろうな。詫びて、どうなるものでもない」 くら 自嘲するような笑みがのそき、その中に昏いものが揺らめいた。悔いているように、羽月に は思えた。遠王を犠牲にしなければならなかったことを、飛滝は正しいとは思っていないよう み 「あれしか方法はなかったんだ・ : の すきま 影 歯の隙間から押し出すように、飛滝はつぶやいた。 人 「おまえを姉から隠すには、どうしても必要なことだったんだ。姉をごまかすにはそれくらい だめ しないと駄目だった。本物のおまえの体から斬り落とした腕を見なければ納得しなかっただろ ぎせい

4. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

「あんたに、俺が殺せるって ? 」 ひたきまなぎ 腕をねじり上げられた遠王は、乾いた笑い声を立てた。だが、飛滝の眼差しに、そう長くは 続かない。 「言ってみろよ。どうやって殺す ? 」 せせら笑うように言ったはずが、じっとりと汗ばんだ声に聞こえた。遠王は自分を笑い飛ば そうとした。こんな、力を持たない男を、いっから俺は怖れるようになったんだ ? 「おまえの力はまやかしだと言っただろう ? 」 たず 静かに飛滝が訊ねる。だがその声の奥には、侮蔑するような笑いがひそんでいるようだっ た。この男のそんな声を聞いたのは、初めてだ 「遠王、おまえはククリじゃない。ましてや、いまは能力者でもない」 「てめえごときが何を ! 」 びと 「おまえの体は、羽月に渡された。おまえのいまの体は、ただ人だ。どんなにおまえがのそ み み、願っても、もとの体はどの力は持てない。どんなに思いこんでもな」 の 影 願いはカ、思いは力。だが、それにも限界はある。 人 飛滝はそう言うのだ。遠王は彼をねめつけた。 「言ってろ。俺は離空の五本の指に入る」 ぶべっ

5. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

かえ 固く結び目のようになったものを羽月は想像した。なんだろう。埋められて土に還った、幼 かった羽月の元の体 ? ちがう。 もっと そうじゃない。 ぎしっと木々の枝がしなったとき、羽月はその動きから外れていた。それに気を取られすぎ ていたのだ。 ( ! しまった ! ) 我に返ったがもう遅し 羽月は森からはじき出された。フィルムのコマ戻しのように意識が縮まり、体の中に吸い込 まれる。 かっと目を見開いた瞬間、余波のような衝撃が来た。右腕に痺れが走るー とっさに羽月は押さえようとする。だがそれも遅い 夢震えながら銀の爪が現れ、海を渡る風のような〈香気〉を吹き上げる。 ( あっ ) ゆら′ばく 人森の中に不協和音が生じ、ひとかたまりになっていた追っ手たちが飛びすさった。誘爆する ように〈呼応〉しかけ、慌ててそれを止める。

6. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

232 へたり込みそうになって、両手を膝につき体を支える。どっと息がもれ、冷や汗がこめかみ をひとすじ伝った。 ( 苦しい ) 止めようとしても、震えがわき起こる。羽月は喘いだ。その場の空気を、すべて吸い尽くし てしまったかのように。 あせ 進まなくちゃと心は焦るのに、体が動かない。言うことをきかない。 走り出せ。羽月は強く念じた。あそこに見える屋敷に走れ ! 会わなくてはならない。やらなくてはならない。なのに。 ( 行けないよお ) 羽月は血を吐くようにのどを鳴らした。こういうときには、涙は出ない。ただ息がもれるだ 足の痛みが蘇り、思わず膝をついた。ふがいないと思うのに、立ち上がることが出来ない。 ど , っしょ , つ。 ど , っしょ , つ、ど , っしょ , つ、ど , っしょ , つ。 目がちかちかする。バランスを失い、羽月は倒れかけた。世界から色と音が消え、砂嵐のよ うに遠くなってゆく。 さん ! 」 よみがえ ひぎ あえ

7. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

「穢したく、ねえしな」 よご ( 穢れ ? ) 死に立ち会わせること、だろうか。 遠王が、開け放したままの玄関から、羽月を外に追いやろうとした。 「おまえはちっと出てろ」 だめ、やめて。そんなことしないで ! 」 「ーー遠王 ! 「これは、おれのけじめだ。おまえとは関係ねえ」 「関係ある ! 関係あるでしようあたしはあんたの体を : : : 」 「奪われたのは俺だ。踏みにじられたのも俺だⅡ」 遠王は彼女を押し出そうとし、二人は玄関でもみあった。引き戸の桟に足をかけた羽月は、 儀恵に近づこうと必死だった。 「おばあちゃま ! 逃げて ! どうしてそこにいるのどうして黙って殺されようとしてる み 羽月にはわからない。理解できないー の 影 他人の体を取り上げてまで羽月を逃がそうと思った人が、なぜ自分を生かそうとしないのだ 人 ろう。遠王の怒りは当然だからその怒りを受けることが、罪の清算だと思っているから それとも岬 さん

8. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

119 人は影のみた夢団 塔埜は緋沙子の髪に顔を埋めた。甘い香り。このまま、このまま希む場所へゆけるのなら。 「緋沙子」 塔埜は腕を緩め、彼女を呼んだ。緋沙子が見上げる。 鈍い音がして、緋沙子が崩れた。手刀を形作ったままの右腕で、塔埜がその体を受ける。 まん丸な、子供のような目をして、何が起こったのかわからないまま緋沙子は気を失った。 力の抜けた体を、塔埜はソフアに横たえた。 「行ければ、世話はない」 彼はつぶやいた。 夢は夢でしかないと塔埜はわかっていた。わかりすぎるほど。 塔埜は机の上の受話器を上げた。肩で支えて耳に当て、呼び出しの無機質なコール音に目を 閉じる。 ☆ のぞ

9. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

「おまえ。わたしたちは、よく似ていると思わない」 なぐ 羽月は頭を殴られたような気がした。かちりと、最後のピースがはまった。 鶸子は、娘の体を乗っ取ることで若返るつもりでいたのだ。そうしてその分だけ、長く一族 を支配しようとしたのだ。 ( まさか、そうやって、ずっと : 体が古くなる前に子供を産み、繰り返すのならば永遠に鶸子は生きることが出来る。 それで、手始めに羽月を すい、と鶸子が動いた。気づくのが遅れた羽月が踏み出すよりも早く、鶸子が蒼司の首に手 をかける。 「ついでに、もう一つ教えてあげましようか」 はだ 蒼司の肌に指を滑らせながら、鶸子が笑った。 み 「この子はね、お兄さまにささげるつもりだったのよ。素敵でしよう。二人で新しい器に」 の 影 永遠に。 人 羽月は気づいた。前の総領は、羽月の父はそれを拒んだのだ。おそらくその争いが原因で、 命を落としたのだ。

10. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

破裂する ! 体が熱い。耳鳴りが膨れあがる。体が熱い。何か聞こえる。誰か呼んでる。誰かが呼んで る。あたしを呼んでる ! ・ : 羽月 ! 知らない声。男の人 ? 男の子 ? 誰ーー誰卩 ( え ) よべ。呼べ。呼べ凵 。もうろら′ 頭を打ち、朦朧としていた馨が跳ね起きた。大きく肩を上下させながら、屈み腰で移動し た。由和の足をつかむ。 まばた 瞬きするほどのあいだ、絞め上げる指の力が弱くなった。同時に羽月は目を開けた。 しつこく 木々の影の上に空。漆黒の空。 またた 星が瞬いた。それらが舞い降りてくるのを感じ、羽月は叫んだ。声ではなく心で。 くうや ( くうや、空也 ! ) 何が起こるのかを本能で察した馨が、とっさに横に転がった。羽月の右腕が変わる。銀色に 染まる。 ふく さっ