彼女たち - みる会図書館


検索対象: 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス
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1. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

彼女が訊ねると、男はさらにうろたえた。つまり、彼は一大事を知らせるためだけに、 に寄越されたわけだ。取るものもとりあえず。 「いいわ」 鶸子はいいわけを待たすに、デスクの上のインターカムを押した。相手がいるかどうかなど めい 確かめずにすぐに命じた。いるに決まっているからだ。 しまっ 「森へ降りなさい。あの娘を始末するのよ」 : 、はっ』 しわ いつもは打てば響くようにある返事が、一拑遅れた。鶸子は鼻に皺を寄せたが何も言わず、 インターカムから指を離した。 / 彼らのためらいは承知の上だ。みな、あの生きているかのよう さん な森が怖いのだ。ひとたび中に入れば、酸が雨のように降り注いで消化されてしまうような気 がするのだろう。 昔から、あの森へ好んでゆく者はいなかった。彼ら一族にとって、里を囲む森は敵から身を 守る壁であると同時に、閉じこめる塀でもあったのだ。 て′ま だから、返事をためらったと責めることはしない。・ とのみち、鶸子の手駒たちは命令を聞か なくてはならないのだ。 逆らえば死。もちろん、楽には訪れない死。 死にたくないと思えば、彼らは従う。森へ行き、下草の中をはいずり回り、逃げ回る少女を この らく したが

2. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

8 これまでにない強さで、羽月は声を響かせた。彼らは羽月の潜在能力の大きさを聞かされて いるだろう。けれど、まだククリではない未開の状態だと安心していたはずだ。 それがククリと知れば、自分たちとの差を思い浮かべるに決まっていた。恐れて、怯んで、 逃げ出してくれればい、。 『あなたは五指に入るククリだ』といった紫子の言葉を、羽月は信じた。離空ではカの強さは あきら 絶対的だ。彼女を、鶸子と同じようだと想像すればあるいは諦めるかも知れない。 「懐中電灯をさげて」 命じると、彼らは言うとおりにした。気圧されて従ったのだ。 羽月は真っ向から視線を切り結んだ。追っ手はうろたえ、次々に視線をそらす。 「どいて」 彼女が言うと、彼らはハッとしたように顔を上げ、すぐにまたうつむく。視線に射殺される とでも一一一一口 , つかのよ , つに。 「出来かねる」 男の一人が低く答えた。ふたたび目を上げる。 めい 「我らに下された命は絶対」 ・きト - せい 敗れる覚悟を決めている男の視線に負けまいと、羽月は虚勢を張った。こちらから視線をは ずせば、彼女が評価されているよりもずっと小さな力しか使えないと見抜かれてしまうだろ ひる

3. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

「大丈夫よ。何一つ怪我はないわ」 落ち着き払った鶸子に、駆けつけてきた使用人たちはほっとしたようだった。廊下を走りな がら、最悪のことを考えていたのかも知れない。 ほほえ よかった、と微笑みを鶸子に向けた使用人たちが、ふと顔を曇らせた。気遣うような上目遣 しになる。 「大丈夫ですか。お顔の色が : : : 」 「気のせいでしよう。倒れた鉢を片づけなさい」 さえぎ 鶸子は早口に遮り、「顔色が悪い」とは言わせなかった。眉を動かすこともなかったが、内 のぞ 心は射抜かれたような気分だった。心の中を覗かれたように。 彼女のいつも通りの口調に、使用人たちは一礼すると言われたとおりに部屋を片づけ始め むだぐち た。たとえ心配する言葉だとしても、自分たちの主にとっては、それは「無駄ロ」でしかない と承知しているからだ。 ばうぜん 鶸子は彼らの不満げな気を読みとったが、いつも通りに無視した。それから、呆然と突っ 立ったままの男に、冷ややかな視線をちらりとだけ投げる。 「お戻りなさい、と言ったはずよ」 ばんやりと彼女らのやりとりを聞いていた男に腹が立った。 がまん は、我慢がならない。 まゆ 一度で命令をのみこめない者に きづか

4. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

れられないだろうと、彼女は経験からわかっていた。弟の生駒の時も紫子も、そうだった。目 を閉じるたび、ふっと気を緩ませるたび、傷だらけになって息絶えた彼らの姿が、影の中から 浮かび上がる。羽月の目裏に、繰り返し広がる。 あれが、自分のせいだと信じたくはない。 たか、いくら自分を裏切ろうとしても、真実は消えなかった。彼らをあんな風にしてしまっ たのは羽月なのだ。羽月と、その力に共鳴した物なのだ。 くうや ( 空也、なのだろうか。あれが ) あれ、が何を指すのか、実は羽月自身よくわかっていなかった。森の力というべきなのか、 めぐ 森の中に感じた金属のようなあれの力というべきなのか、もっと深いところに巡っている何 か、というべきなのか。 羽月の封印されたシシンは、離空に眠っている。その可能性が高いと紫子は言った。 つまり、あれがそうなのか 羽月自身には答えられない問いだった。どっちとも一言える。 み 森が彼女に共鳴しているのは、もう疑いようもない。だが、森は人ではない。 の . きトっと 影 そして、羽月は京都で、紫子に導かれ自分の記憶をさかのばっている。記憶の中の幼い羽月 がけ 人 は知らない場所で何かから逃げ、必死に走っていた。崖に追い詰められ、彼女は呼んだ。天を 見上げ、空也、と。 おさな

5. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

部「あなたの質問は『なぜ』ばかりね」 引き出しの中へ手を滑らせた鶸子が、うんざりと言った。なぜこうも知りたがるのだろう しいことであるはずなのに。 か。彼女にとっては、どうでも、 これで満足 ? 」 「蒼司とあの娘が、共鳴しようとしたからよ。 「共鳴ではあの、お二人は : や 「まだ答えなければならいなの ? そろそろ止めにしてちょうだい」 「総領さま ? あなたはククリとシシンになろうとしてるお子さま方を引き裂いたと仰るの ですか」 いらだ 途方もない悲劇だというように、彼女は声をあげた。鶸子は彼女に苛立ち始める。 「これ以上何が聞きたいの。二人を引き裂くために蒼司を支配し、羽月を殺すように命じた理 由 ? それともこの子を今日まで永らえさせた理由 ? 」 女はロをつぐんだ。まなざしが、これまでのものとは違っていた。敬愛から、化け物を見る よ , っこ。 「これ以上教えてあげる義理はないわ。おまえにその理由がわからないのは、若いから。それ だけよ」 鶸子より年上の者ならば、この告白だけでおおよそを知り得ただろう。だが彼女は少女時代 の鶸子を知らない。すでにタブーとなった話を、語る者もなかっただろう。 おっしゃ

6. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

ジャアンー さむえ 錆びかけたような渮った音が響き、作務衣のような上下に分かれた着物を着て、片膝をつい ていた女たちが一斉に立ち上がった。肩の上にのせた担ぎ棒をぐいっと持ち上げる。 みこし 彼女らが六人がかりで持ち上げているのは、奇妙な御輿だった。いや、御輿と言うにはそれ はみすばらしいものだった。戸板の下に担ぎ棒をつけただけの、まるで昔、罪人を護送するた めに使ったもののようだった。 ジャアン , 彼らを取り囲む者たちが、ふたたび錫杖を打ち鳴らした。戸板を担いだ女たちが、歩き始め る。 ひとえ 乗せられているのは緋沙子だった。白い単衣の着物を着て、和紙を折ったもので目隠しをさ れている。手も後ろ手に縛られているが、それは形式的なものでやはり紙で出来ていた。その 気になれば、腕のカで破ることが出来る。 だが彼女はそうはせす、おとなしく正座していた。意識を奪われているわけではなかった。 逃げる意志がないのだ。 ジャアン , 桜間の屋敷を出発した行列は、ゆっくりと山道を下ってゆく。誰もの顔が紙のように白かっ た。いや、一人だけ赤い女性がいる。緋沙子の世話係だ。

7. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

おう 「ああ、わかっているよ。これは一種の〈呼応〉だからね」 「〈呼応〉 ? 」 まゆね 女は訝しむように眉根を寄せた。彼らがその言葉を使う時、それはククリ同士の反発を指 す。 「いや。言い直そうか〈共鳴〉と」 「御前 一一 = ロ葉遊びをするような儀恵に、女が疑うようなまなざしを向けた。やはりおかしくなったの か、と一一 = ロ , つよ , つに。 「帰ってきたんだよ、姫が」 「羽月さまが ? 」 みは めぐ 女は目を瞠った。考えを巡らせるようにさっと視線を走らせる。 「ではこの揺れはその ? 」 夢「そのせいだと思うよ。恐らくはね」 女は絶句した。彼女はいまやっと原因を知ったのだ。 膨「案ずることはないと皆に言っておやり」 人 儀恵が言うと、彼女はうなずいた。彼女たち桜間の者は、〈呼応〉しないため、引きずられ たと感じてもなぜだかまではわからないのだ。何の前触れかと不安に思っているだろう。 いぶか

8. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

自分のものとは思えないほどの大声が、彼女の口から漏れた。一一 = ロ葉の終わりが、キインと耳 障りにこだまする。 部屋の中央に、蒼司は浮かんでいた。天井を見上げ、その鼻先が触れんばかりになってい る。 鶸子は音を立てて息をのんだ。駆けより、手を伸ばした。部屋の天井はかなり高いため、掴 んだのはふくらはぎの辺りだった。 「やめて ! 降りなさいー ほとんど悲鳴に近い声で、彼女は言った。もし天井がなかったら、彼は数十メートルの上空 にいたのではないかと、そんな気がした。 両足を抱えるようにして引いたが、風船のようにたやすく下ろすことは出来なかった。彼に じゃま は上に向かう力がかかっていた。それが鶸子の邪魔をする。 やっき 鶸子は、彼女らしからぬほど躍起になっていた。こんなに取り乱した彼女を見た者は、恐ら さきのそう . りト - う 夢く誰もいないだろう。いや、かってはいた。だがその男はすでに鬼籍に入っている。前総領 の兄だ。彼は彼女が泣き叫ぶその姿を知っている 彼に音をきくことが出来るならば それ以外では、今ここにいる蒼司だけが「聞いて」いた。 人 の話ではあるが。 「お願い、降りてちょうだい、人が来るわ」 きせき つか

9. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

闇の一族・天望の末裔として生まれながら、 はづき 実の母に命を狙われる少女・羽月。彼女は、 壮絶な逃亡の末、故郷である離空へと帰って きた。離空を取り囲む暗い森の中にたどり着 いた彼女だったが、それを感じ取った母・鶸 子と桜間家の当主・儀悪は、それぞれ配下の 者を森へ降ろす 一方は羽月を始末する ために、もう一方は彼女を保護するために。 そして、先に羽月を見つけ出したのは : あもう ひわ 恋気分いっぱいの夢 0 小説誌 ! 朝 t 1 月、 3 月、 5 月、 7 月、 9 月、 1 1 月の 18 日発声 隔刊 0 す 00 求 0 = 0 あ 0 まを ーあらかじめ書店にこ予約をおすめします 集英社

10. 人は影のみた夢 4 : マリオネット・アポカリプス

る者は存在しない。 鶸子は、あれを儀恵がはねつけるだろうと半ば予想しながら命じこ。どま オオカ彼女は受け入れ 緋沙子が崖から投げ落とされたのは、今日の昼だ。その時から、天望の運命は決まってい 儀恵の死は、一族の〈死〉。 結界がなければ、彼らは離空に住む理由もなくなる。い や、むしろより固まって暮らすこと の方がリスクは高い。 ( あの女が、それを考えていなかったわけがない ) 儀恵は自分が死ぬまでに、何かをするつもりだったに違いない。彼女が前総領と同じよう に、一族を解放する方法を探っていたのは、鶸子自身が一番よく知っている。 だとすると、これを考えないわけにはいかなかった。他殺ならば、ただの事故かもしれない 夢 が、自殺となると違う。 み の いや、他殺でも意味を持っと、鶸子は思い直した。一体この離空に、あの女を桜間儀恵と、 は〈桜御前〉だと知っていて手にかけようとする者がいるだろうか。ど、、 オししち、屋敷に入り込ん で殺すのは不可能に近い。あの屋敷に暮らす女たちが、体を張って守るだろうから。そして、 彼女たちの血に染まる勇気など、一族の人間が持っているとも思えない。 る。 っ ) 0