ゅうすけくん - みる会図書館


検索対象: 今日もどこかでスペシャルオリンピックス
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1. 今日もどこかでスペシャルオリンピックス

とはいわない。 「この道つくったの、だれ とつぶやく。その負けおしみがあるうち は大丈夫。一時間かかっても、二時間かか っても、場合によったら日がくれてもいし からゴ 1 ルへ向かおう。 ゅうすけくん 雄介君は、立ち止まって何かをじっと考 、も・も つめ えているふうだ。沿道から、また冷たい桃 の差し入れがある。小学生の女の子だ。 ゅうすけくんき 女の子は、雄介君の着ている e シャツの ゅうすけくん デザインで、雄介君がどういう選手かわか ひら よくねんせかしたし力し ったみたいだ。翌年世界大会が開かれる長 「だめだ」 だいじようぶ えんどう ティー せんしゅ なが ′ 0 ドや ゆうすけくんき 雄介君が着て走 ったのは、これ ティー と同じ T シャ ツ。遠くからで もよく目立つデ ザインだ。

2. 今日もどこかでスペシャルオリンピックス

さくひん けれどもとても力強く語りかけてくる作品だ。その中で、いよいよはじまるスペシ 力し力いー ) 」 せ、かしオし力し ャルオリンピックス世界大会の開会式のシ 1 ン。 おどろきだ。 だいかんしゅう 、刀 しす それまでの静かな調子とは打って変わって、十万人の大観衆のスタジアム。どよ めいている。ゆれている。うねっている。二〇〇二年、あのワ 1 ルドカップサッカ トこは士、」′、、い第、、つ ) 」、つきよ、つ」じよ、つ けっしよ、っせん ーの決勝戦が行なわれた横浜国際総合競技場を思い出す。 きよ、つぎしゃ おうえん スポ 1 ツは応援する人も競技者だといわれるけれど、そういうことでいえば、十 しんしゅう ゅうすけくんま だいかんしゅうきようぎしゃ 万人の大観衆も競技者だったが、雄介君に真っ赤なトマトをくれたひとりの信州 きよ、つぎしゃ のおばあちゃんも競技者なのだ。 ゅうすけくん 雄介君が目に見えておかしくなった。 「足が引っぱられる」 ちょうし 107

3. 今日もどこかでスペシャルオリンピックス

「ジャズ、ジャズ」 ゅうすけくん えんどう おうえん 雄介君がつぶやいている。沿道で、ジャズバンドが応援してくれているのだ。寺 けしき の景色とその音がふしぎにびったりくる。 まよよ ゅうすけくん ゅうすけくん 雄介君の歩幅が大きくなった。ラッパ隊にも「おおっ」とさけんだ雄介君は、音 楽がとても好きである。何かがわきあがってくるのだろう 「こりやたいへんだ」 ゅうすけくん 雄介君が、そう小さくつぶやいたのは、コ 1 スの半分ぐらいまできていたから、 ば、つー ) まぶか 十キロメ 1 トルすぎの地点だ。目深にかぶった帽子のかげから見える顔がちょっと くん 医」よ、り・ 君にとっては、これからは練習では走ったことのない距離だ。 くん マサキ君やユミちゃんの調子はどうだろう。少し見通しのよい道にさしかかって、 かえ ためしにふり返るけれど見えない。 ちょうし れんしゅう 103

4. 今日もどこかでスペシャルオリンピックス

」、も えんどう さっき、気持ちをふるい立たせて沿道のおじいさんにあいさつをしてから、それ すす ゅうすけくん がクセになったかのように、雄介君はたくさんの人びとに声をかけながら進む。 わだいこ 土手の終わりでは和太鼓の音がひびいてきたのだけれど、ゴ 1 ルあたりから聞こ えんそう えているのは、ハワイアンの演奏だ。その音のするほうに、ゆるりゆるりと走って 「だれだろう」 ゅうすけくん また雄介君がつぶやいた。 り・よ、って 「だれだろう、この道つくったのは」 こんど 今度は、うらめしい気分ではなく、なんだかありがたそうにいっている 「さあ、ゴールだぞ、手をあげて入ろう」 まぶか あいか ゅうすけくん 雄介君は、相変わらず幗子を目深にかぶって、表情は変えず、ややうつむきかげ り・よ、って んで、けれども両手だけは高く高く空へつきあげて、ゴールラインをふんだ。その にゆ、つい」、った、、も 両手の先の空には、もくもくと大きな入道雲がうかんでいる ひょ、つじよ、つ 1 1 6

5. 今日もどこかでスペシャルオリンピックス

ノ、 . り・、も、も む いえな しんしゅうやまやま とてもしっとりとした家並み。その向こうに信州の山々、たくさんとれる栗や桃、 なが ちくまがわおぶせ 近くを流れる千曲川。小布施はそんな町だ。 」よ、つ ちょ、つし 「今日の足の調子はどう ? わる ゅうすけくん 声をかけると雄介君は、うん、とうなずいただけで、だまって走る。たぶん、悪 くないのだろう . り ) 、じよ、つきよ、つ」 ゅうすけくん 雄介君はスペシャルオリンピックスの陸上競技プログラム以外にも、ふだんか れんしゅう ばんそう ら自主トレで走っていると聞いた。伴走はお母さんだ。なるほど、日ごろの練習の 成果で、たしかに足の運びがいい みんか コースは民家の路地をぬけて、田んばのあぜ道にさしかかる。緑がきれいだ。 ほ、つー ) まぶか ゅうすけくん 雄介君はもくもくと走る。帽子を目深にかぶって、少しうつむきかげん。なんだ てつがくしゃ かじっと考えこむ哲学者のように走る。 せいか じしゅ 0 し、力し みどり 100

6. 今日もどこかでスペシャルオリンピックス

めざ 畑中の道を急ぐランナーたちは、ゴールをみな目指している。立ち止まり、ふた ゅうすけくん たび歩きはじめた雄介君は、意を決したように走りはじめた。足のケイレンはまだ つづ ーっぱられる、引っぱられる、とつぶやきながらも、走る 続いているのだろう。リ 歩くようなスピ 1 ドではあるけれど、走っている じゅんび ゅうすけくん 走りながら雄介君のようすがまた少し変わる。何かをいっしようけんめい準備し かん ているような感じ。 と、思っていたら、理由がわかった。土手の道に立って手をふっているおじいさ んへ向けて、 はたなか あお 麦の色はつかに青し たびびとむ 旅人の群れはいくつか いそ はたなかみち 畑中の道を急ぎぬ むぎ いろ . り・・ゅ・、つ 1 1 3

7. 今日もどこかでスペシャルオリンピックス

のけん 野県には、そのマ 1 クかいろいろなところにあらわれているから。元気よくゴール せんしゅ テープを切る選手のすかたのような、スペシャルオリンピックスのマークだ。 、も、も 、つ 、つ ゅうすけくん 雄介君はしかし、その桃を受け取らず、というよりも受け取れず、じっと考えこ わる わる んでいる。悪いことをした人が、その悪いことがみんなにバレたときのようにうな 0 だれている と、つと、つ、やめるか ちくまがわ ゅうすけくん そう思ったとき、ふいに雄介君が顔を上げた。そして歩きはじめた。千曲川の土 手の長い道を。 しまざきと、っそん ちくまがわりよじよう、った 島崎藤村という明治生まれの文学者の「千曲川旅情の唄」だ。 こもろ 小言なる古城のほとり くもしろゅ、つしかな 雲白く遊子悲しむ こじよ、つ 1 1 2

8. 今日もどこかでスペシャルオリンピックス

小さくつぶやき、顔をゆがめている。軽いケイレンかきているのだろう ちくまがわ さいしゅうばん かせんじき コ 1 スは千曲川の土手に差しかかっている。いよいよ最終盤。広い河川敷に木が おうえんひと たくさん植わっている。ここにも応援の人びと 「立ち止まっちゃ、つと、も、つ走れなくなるかもしれないから、ゆっくり、ゆっくり でいいから走ろう」 そ、つはげまして、いく すす けれども、五、六歩進んで、とうとう立ち止まった。 「いこ、つ、も、つあとちょっとだ」 本当に、あと少しなのだ。 がんばれがんばれ、コンジョー出せ、とせかすつもりはない。けれども、ここで やめてしまうのと、どんなにおそくともゴ 1 ルテ 1 プを切るのとでは、あとから思 ゅうすけくん いくど い出す雄介君の「この日の意味がまるでちがう、そう思うから幾度もはげました。 ゅうすけくん 雄介君はのろのろ歩き出し、また数歩で立ち止まる。が、立ち止まるとき、 かる 1 1 0

9. 今日もどこかでスペシャルオリンピックス

ゆかんでいるよう きおん きろくてきあっ 気温が上がっている。記録的な暑さの夏である。朝の早い時間なのに、そして例 たいよう 年はすずしいはずの地なのに、太陽はじりじり照りつける。 ねん 「へばった ? 少しスピードを落とそうよ」 そういうと、首を強くふった。へえ、と田 5 うほど、これまで見たこともない意地 ひょ、つじよ、つ つばりの表情だ。 「だれだろう、ハアハア」 ゅうすけくん 雄介君はつぶやく。 ハアハア」 「何が ? ・ 「この道つくったの、ハアハア、だれだろう」 思わずふき出してしまった。この、上り下りの多い、でこばこ道をうらんでいる えんどう の、つ、刀 沿道には農家か多い 家から出てきたおばあちゃんが、 104

10. 今日もどこかでスペシャルオリンピックス

なか せんしゅ とおじいさんは目を丸くして、思いがけないあいさつをよこした選手を見ている ゅうすけくん その雄介君のわきをたくさんのランナ 1 が追いぬいていく。追いぬいていった背 ふしぎ ゅうすけ 中はどんどん小さくなる。でも、となりにいるばくから見て、不思議なことに雄介 まよよ くん かん 君はぬかれている感じがしない。歩幅はぐんとせまくなっているけれど、とても どうどう 堂々としているように見えるのだ。 「応援、ありがとうございますっ」 びつくりするほど大きな声でいった。 とお じゅんび 遠くから見えたおじいさんに近づくまでに、このあいさつを準備していたのだ。 「ありゃあ」 「応援、ありがとう ) 」さいますー おうえん おうえん そ、つご、つこ、つ、えん いよいよ、ゴールの総合公園が見えてきた。 1 1 4