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検索対象: 国家と神とマルクス : 「自由主義的保守主義者」かく語りき
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1. 国家と神とマルクス : 「自由主義的保守主義者」かく語りき

から書かれた啓蒙書が大川周明の『復興アジアの諸問題』 ( 中公文庫、一九九三年 ) です。その本の マルクス主 中で、ソビエト革命というものをポリシェビキ ( 共産党 ) だけの中に見てはいけない、 義やレーニン、トロッキーの延長で見たらいけない、と大川は指摘しています。ソビエトの生命力 の源泉は植民地解放で、ポリシェビキがイスラム教徒の味方だという立場を鮮明したことが重要で あるとも指摘しています。「我々がやっているのは、西方の異教徒に対する聖戦だ」という形で、 イスラム教徒を味方につけたからソビエト革命というものは成功したのだ、という分析をきちんと したのです。 もうひとつは『回教概論』 ( 中公文庫、一九九二年 ) という本で、イスラム教のお祈りはどうやっ てやるのかというもので漫画まで入っている。それを教えているようなちゃんとした入門書を大川 周明が書いているのです。これは現在でも通用する立派な基本書です。 東京地方裁判所の被告人席で ただ、思想家という意味での大川周明に対して私はほとんど関心を持っていなかったのです。私 が大川周明についてどうしても勉強をしたいなと思ったのは、二〇〇二年九月一七日のことです。 この日は日本の外交史にとって、平壌に小泉純一郎総理 ( 当時 ) が行った歴史に残る日なのですが、 私個人としては、東京拘置所から縄と手綻をつけられて東京地裁の一〇四号法廷に連れて行かれた 重要な初公判の日です。 116

2. 国家と神とマルクス : 「自由主義的保守主義者」かく語りき

がる。この危険に気づいたプレジネフは、ソ連を閉じて自己循環するシステムを完成させることに した。これはプレジネフの英知です。しかし、本来は世界革命を指向する共産主義者が、ソ連国家 という過渡的国家を作ったのは、世界革命のための手段であって、ソ連の底には社会主義革命に向 けた欲望がある。ソ連共産党中央委員会の官僚たちは、その欲望に突き動かされて、ときどき革命 をやりたくなるんです。そこで出てきたのがゴルバチョフだった。この辺の経緯について、私は 『国家の崩壊』 ( にんげん出版 ) と『自壊する帝国』 ( 新潮社 ) で、私なりの見方を率直に記しました。 この中で、突き当たった問題は、欲望を抑えることはイデオロギーにしかできないということで す ( 笑 ) 。エコロジーの観点から、人類が生き残るためにも、大量消費社会で生活する人々の ( 望 を抑えることを真剣に考えなくてはなりません。この点で、北朝鮮のチュチェ ( 主体 ) 思想は、問 題の本質を見事に捉えています。金日成や金正日は、北朝鮮国家の生き残りのために思想革命、技 術革命、文化革命の三大革命を提唱し、とくに思想革命を先行させて、思想改造をしなくては革命、。 . はできないと言うのですが、その通りです。欧米、日本、ロシアのような資本主義国では、思想を 逼して欲望をそこそこに抑えないと、地球生態系が壊れます。西欧は、前に述べた「コルプス・ クリスチアヌム」といデ文化総口を回復するという擬制で、一種の地政学的な循環システムを作り 上げ、それに触発されたロシアもユーラシア主義で国家を再編しようとしています。いすれの場合 2 2 2

3. 国家と神とマルクス : 「自由主義的保守主義者」かく語りき

佐藤ヘーゲルの『精神現象学』に歴史の「戯れ」という概念、「シュピ ール (das SpieI) 」とい う言葉が多発しますが、アメリカとソ連はお互いに遊び合っていて、その結果がソ連の崩壊につな がったのだと思います。ソ連は西欧で社会主義革命をやりたいという遊びをした。ソ連自体は自己 完結した社会で、石油も十分あるし、自給していけるのを、ソ連共産党中央委員会の官僚たちは退 屈だったから ( 笑 ) 、世界革命を起こそうと考えた。プレジネフは頭がよかったから、革命よりも 平 自己完結した世界の保全を考えた。しかし、その前のフルシチョフは本気で革命を考えていた。 和共存政策を推進すれば、欧米でも社会主義革命が起こり、ソ連型システムが勝利すると信じてい 革命の勝利を担保するのは、圧倒的に優位なソ連の科学技術であると考えた。私はフルシチョ フの息子 ( セルゲイ・フルシチョフ ) と親しくしていました。 , 彼と話をしていて、父親 ( フルシチョ フ ) はミサイルを数千基持っことで社会主義陣営は帝国主義国が仕掛けてくる戦争に対して勝利す ることが可能なので、そのような状況で自殺行為である戦争に帝国主義陣営が踏み切る蓋然性は低 怪 妖 くなり、平和共存政策による軍事費の削減でソ連・東欧諸国の国民の生活水準も確実に上がるし、 の 名それを見た西欧のプロレタリアートは社会主義革命に引き寄せられると計算していたというのが本 、いだったとわかりました。 家フルシチョフの革命構想がうまくいかなかった理由について、ソ連共産党中央委員会の守旧派官 僚が言っていたことが説得力をもちました。フルシチョフが西側との窓を開けたことによって、ソ 連や東欧に大量消費社会の欲望の波が入ってきた。人間には表象能力があるから、欲望は無限に広 2 2 1

4. 国家と神とマルクス : 「自由主義的保守主義者」かく語りき

ですね。ュートピア思想に必すしも断絶性がないわけではないんです。レーニンの言説をユートピ ア思想として整理することも可能と思います しかし、それではこばれてしまう部分がある。例えば、『何をなすべきか』で展開されている外 部注入論です。ここは神秘主義的で、思考の飛躍を要求しています。神秘思想はある段階で、必す 飛躍を必要とします。逆説的ですが、その飛躍がきわめて早い段階になされると、その後の論理展 開は形式論理学に従って実に整合的に展開していきます。 白井『国家と革命』も確かにそういう構成になってますよね 佐藤『国家と革命』も千年王国思想、ユートピア思想のどちらで読むこともできる。一般論とし て、首尾一貫した複数の解釈が可能になるテキストは、優れたテキストなのだと思います。とくに 『国家と革命』の末尾で、「革命の理論の研究をしているよりも、革命の実践をしているほうが面白 いんだ、という締めをしているところなどは、千年王国思想の感じが強くします。時代がここに来 ているから理論どころじゃないんだと。他方、官僚の業務をみんなが持ち回りでやるというモデル はすごくュートピア的に思えます。 白井プロ独という断絶をやらなくては絶対にユートピアに到達できないんだという論理構成です よね。 佐藤それは、私の理解では、むしろ千年王国に対する人間の側の準備という構成をとっているの だと思います。もっともこの点については、神の介入に人間の側でどれだけ準備が可能かどうかに 228

5. 国家と神とマルクス : 「自由主義的保守主義者」かく語りき

レーニン像は社会民主主義的なのです。第二インターナショナル正統派のカウッキーに近い。社会 民主主義のなかにレーニンを解消することで、どういう効果を狙っていたかというと、「バ ーデンスペルク綱領以前のドイツ社会民主党が掲げていたマルクス主義と我々 ( ソ連共産党 ) のマ ルクス・レーニン主義とは一緒なんです , と、議会を通じての権力奪取が可能であるとユーロ・コ それによって、民主化された東欧と西欧をつなぐ ミュニズムみたいな形態で革命を実現していく。 ような共通の社会主義革命を考えてたんでしようね。 白井確かにヨーロッパだけを見ていると、当時としてはそれなりのリアリティはありますね 佐藤ゴルバチョフには、ヨーロッハ世界の外側は見えていなかったとの印象を私は強くもってい ます。 白井北米をどうするかという大問題がありますよね 佐藤ただそれは第一一段階として、欧州から還流する革命として、北米革命が実現できると思って いたんでしよう。それを第三世界に拡げていくみたいな発想で、思想的構えとしては、世界資本主 義論、あるいは世界社会主義論をとっていたんだと思います。そうなると市民社会というのを社会 主義社会に変えていくというモデルになっちゃう。うんと乱暴に言うと、京都大学の経済学部長な どをつとめた三十年前くらいの平田清明さんみたいな考えです。 白井あるいはグラムシみたいな考え方でしよう・ね 佐藤そう。市民という概念を導入することで、西側消費社会の欲望の体系というのが東側に入っ 170

6. 国家と神とマルクス : 「自由主義的保守主義者」かく語りき

れを批判する中で理論化した東大出版会から出た『国家独占資本主義』で基本的枠組みが構築され ています。大内さんは字野学派の重鎮ですから、国独資論は宇野学派と相性がよいということにな ったここで私が興味をもっているのは、理論的にはまったく没交渉なんですが宇野学派の国独資 ーマスに 本の組み立てが、フランクフルト学派の後期資本主義論に近いんですよね。とくにハー ) いと田ハ、つ。 一般に宇野学派の一番優れている部分は原理論と言われています。私の理解では、原理論は理論 的に緻密であることは確かですが、経済哲学としては段階論にオリジナリティーが端的に表れてい ると考えます。いすれにせよ宇野弘蔵自身の著作で体系的な現状分析を行ったものはあまりない。 もっとも字野弘蔵自身は農業に関して興味深い現状分析を行っています。農業は資本主義に基本的 に馴染まない。馴染まないものをどうやって資本主義システムの中に組み込んでいくかということ で資本主義の類型が見えてくるという構えをとっています。 妖字野が農業問題について実証的な現状分析に従事したのは戦中と戦後のちょっとした間だけで、 名そこと国独資論との間には裂け目があります。しかし、宇野は国家独占資本主義は段階論ではなく 現状分析の課題であるということは明示的に述べています。国独資を現状分析の土俵で考察するこ 家とになると、革命と反革命の政治力学の相互関係から見なくてはいけなくなる。要するに福祉国家 という装いをする国家独占資本主義は社会主義革命を防ぐための資本主義の側からの対抗革命 ( カ ウンター・レポリューション ) システムにしかすぎないということになる。だから国独資論という形 20 ろ

7. 国家と神とマルクス : 「自由主義的保守主義者」かく語りき

的堕落が始まり、視野狭窄に陥るーという信念をもっている。テロリストでもない。なぜなら安田 氏は法律という道具を武器に闘う弁護士という職業を選択したからだ。法律は所与の社会的関係の イデオロギー的表明に他ならない。法律的思考を積み重ねていると、根源的なところでシステム自 体を脱構築することが難しくなる。道具が思想を制約するのだ。 私のような「国家主義者」から見た場合、安田氏は現下日本の法体系を愚直なまでに守るよき市 民で、思想的には自由主義者だ。法律家である限り、安田氏が「テロはまさに政治闘争である。貧 困、差別、迫害が存在し、不正と暴力が支配するところにテロは発生する」 ( 三二〇頁 ) という認 識をもっていたとしても「ならすもの」にはなれないのである。このような人物を国家体制を強化 するためにどう活用していくかが、日本の国益のために必要なのだ。 3 ・国策捜査と国体の弱体化 何 「法律の罠」 思 意 突き放して見てみると、安田弁護士は、日本の国家体制を転覆しようとする革命家の弁護活動を の 家数多く引き受けているが、安田氏自身は革命家ではない。あくまでも現行法体系の枠内で異議申し 立てをする「異論派 ( ディシデント )_ なのである たとえ安田氏が内心で革命を考えていたとしても、法律という道具を用いる稼業に慣れ親しんで

8. 国家と神とマルクス : 「自由主義的保守主義者」かく語りき

〈私にとって、中国の文化大革命は、あこがれの的だった。若者が徹底して権威を破壊し、子供た ちが紅衛兵となって、何千キロもの大地を行進する。学生は、大学を捨てて辺境に住み着く。医者 は裸足で農村を回る。労働者は街に出て、革命を説く。鋼鉄も銃も弾薬も、みんな手作りで武装し て立ち上がる〉 ( 一〇七頁 ) しかし、それが時代を経るとともに、よりアナーキズムに傾斜してい 要するに人間の解放の ためというロ実で、過渡的に暴力を用いて他者を抑圧してもよいという思想の中に一種の悪魔性が 潜んでいることを安田氏は弁護活動を続ける中で心底認識したからだ。安田氏は悪魔性という用語 を用いていない。犯罪の加害者や被害者になるのが「弱い人ーであり、「弱い人」に対する共感、 「同情」ではなく「思い入れ。が弁護活動の動機であると安田氏は本書の冒頭で述べているが三 頁 ) 、この「弱さ . が私のことばでは「人間の悪魔性」なのだ。この「弱さ」が革命型の政治運動 に反映されると、人類の解放のためにあえて暴力をふるうというドストエフスキーが『カラマーゾ 何フの兄弟』で描いた大審問官伝説になるのであろう。 せ〈道庁爆破事件は、テロ事件の典型である。事前の予告もなく道庁の職員を殺傷することを目的と 意し、出勤時間帯を狙った犯行である。 家テロには必ず思想が伴う。貧困と差別と迫害が不条理であればあるほど、テロはより激しくなる 道庁爆破事件は、アイヌに対する侵略と収奪に対する告発だっただけでなく、日本がかって行った アジアに対する侵略と収奪への告発でもあったと考えられるそれは自国民に対してあえてテロを

9. 国家と神とマルクス : 「自由主義的保守主義者」かく語りき

構造の「ゲームのルーレ、 / カらすると当然の帰結です。 ソ連が崩壊して自由民主主義、市場経済のロシアが誕生し、日本と新生ロシアは共通の価値観を もっということになりました。事実、ロシアはソ連が試みた「革命の輸出 , のようなことは考えて いない。それから日本としては、人口、政治、経済、軍事のいすれの面でも急成長し、しかも自己 主張を強めている中国に対する牽制が必要だ。ロシアも対中牽制に利益を見出している。ここで日 露の戦略的提携を両国の政治エリートが望んでいるのだけれど、日本側では、冷戦時代の後期に政 治エリート が国民に種をまいた「四島一括返還神話」が定着し過ぎてしまい、政治エリートとして は旧い神話を崩したくても国民の反発が怖くて崩せないようなジレンマに陥ってしまった。政治家 や官僚の「右バネ ( 右翼勢力 ) ーに対する怖れは、左派、市民派の人々が想像するよりもすっと強 いのです。 それだから、とりあえす密室外交でロシアと折り合いつけて、その結果を国民に呑み込ませると 怪 妖 いう手法をとった。その途中で小泉政権が誕生して、田中眞紀子さんという天才的な「トリックス の 名ター」が外務大臣に任命され、そこから従来外務省内で押さえ込まれていた確執が表面に出てきて、 外務官僚の「内ゲバ」が始まった。その中で、私たちと対立したグループがナショナリズム・カー 家ドを弄んだが、それが途中で統制不能になったというのが、第三者的に見た場合の事態の進捗でし た。その過程で、私や鈴木宗男さんは「国賊ーという時代錯誤のレッテルを貼られるのですが、私ろ に言わせれば「そういうレッテルを貼りたいならば御髄意に。しかし、威勢のいい君と国賊の僕と

10. 国家と神とマルクス : 「自由主義的保守主義者」かく語りき

が自ら放棄することは絶対にありません。しかし、政府内で合理化が進んだとしても収奪するシス テムは変わっていくのかといえば、基本的な構造は変わらないと思います。 ソ連は消費社会の欲望によって崩壊した 佐藤ソ連の崩壊の大きな理由は官僚システムの機能不全にあったと思うんです。 白井収奪のシステムが肥大化しすぎたと。 佐藤その通りです。ソ連国民の欲望が大量消費社会型に肥大化したということと、政治エリート のモラルの転換があります。ソ連共産党中央委員会の官僚は、共産主義的人間としてのモラルをも っことが一応建前とされていた。いわゆる「ノメンクラトウーラ ( 赤い貴族 ) 」と言われた人々の ヘレストロイカが始ま 特権も、欧米のエ リートと比較すればたいしたものではありませんでした。。 るまでは、ソ連共産党中央委員会官僚の欲望はそこそこの水準に抑えられたんですね。それにソ連 怪 妖というシステム自体欲望が膨らまない社会でした。それはエコロジーの観点から非常に結構だと思 名うんですよ。ところがある段階でゴルバチョフが国境を開いた。とくに情報の流入を止めないよう にしたんですね。 家逆説的結果を生み出したのですが、ゴルバチョフは世界革命を考えていたと思う。どういうこと かというと、マルクス・レーニン主義ではなく、 マルクス主義による革命ならば可能と考えたのだ と思、フ。ゴルバチョフは「レーニンに帰れ」とい、フスローガンを出したんだけど、彼が考えている 169