亜羅 - みる会図書館


検索対象: 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙
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1. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

「いいわ、いらっしゃい」 透緒呼がうなすく。とたんに玲尉が両手を広げて立ちはだかった。 「亜羅写いけない無理だ。あれは普通の炎じゃない、精霊のものです」 「そんなの見りやわかるわ。あんた私たちをなめてるの ? 〈空牙衆〉なのよ。このくらいじ や死にやしないわ」 ずけずけと透緒呼は言った。彼が誰であろうと、関係のないことだ。 それよりもいまは刻が惜しい トオコ ! 」 「ほんとだよレイイ。オレたちのことは、、い配しないで。 「はやくのって。私から手を離したら落ちて死ぬからね ! 上昇 ! 」 がっとふたりが持ち上げられた。風が地上の彼らに吹きつけるー 「うわっ」 せんかい 歯を食いしばるあいだに、透緒呼たちは城の上空にとんだ。ぐるぐると旋回する。 「アッいよトオコ ! 」 存在しない炎が、さすような痛みをもたらす。かなりの高温だ。風が吹き上げてきて、とて すき もはいりこめる隙がない。 イライラと舌打ちし、透緒呼は考えをめぐらせる。 したう

2. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

桂斗がどこへ走ったのか、亜羅写たちは皆目わからなかった。 目の前で彩女城は燃えている。目的を果たすことなく、蜂起は中途半端なかたちで終わろう としていた。 「 ! あなた」 桂斗が戻ってくる。飛び込んでちからを使い果たしたのか、足を引きすっているようだっ 「どこへやったの、あの娘。あの娘、獅伊菜の婚約者でしよう ? 」 だんな 「もう婚礼は終わって奥方よ。旦那様のところへ、案内してきたのよ」 「なんですって ! 」 その言葉に透緒呼が目を剥いた。獅伊菜の所へ ? 「あの城には抜け道があるから、そこからお城へ返してあげたんです」 「ばかッ , なんてことするの ! 」 思わず手を上げそうになる。少女を、城へ どうしてみすみす死ににいかせるのよツ」 「そんなことしたら、死んじゃうじゃない , 「それを紫万様が望んでいたからです。あたしにはわかります。彼女、大公様を愛してるんで す。ご自分でも気づかずに」 「だからって」 ? ) 0 ・カし・もく

3. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

172 桂斗はふっと顔をしかめた。こんなときに、なんて痛ましい事故が起こったのだろう。 「あのトビラがなくなったってこと ? 」 清和月をでて、知らず彩女へ向かっていた亜羅写は、来るときに〈大扉〉を通っている。 部屋にこめられて、異次元を回って大陸の反対側へでる。その奇妙な感覚を思い出した。その 途中に事故にあうことを思い浮かべて背筋をふるわせる。 「なんてこった」 「つまり大陸の南と、不通になったということです。牙剣は、ひとの足で越えることはできな 、。彩女のずっと東の、山の低いところを踏み越えてゆくには、 ) 力なりの時間がかかるでしょ 「すごいことになったわね」 桂斗がうなる。玲尉はくすっと鼻を鳴らした。 「だから、そういったでしよう」 「そうね。混乱しているでしようね、外は」 つられて桂斗も笑い、すぐに真顔になった。 「ええ、もっともここいらは〈大扉〉から遠いですから、噂だけを伝え聞くばかりですが。商 人もそういないですしね」 商人の町ならま、 。いまごろ大騒ぎになっているはずだった。とくに、大陸中を駆けめぐって うわさ

4. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

まゆ 戦況の第三報に、獅伊菜はわずかに眉をひそめた。 「〈陽使人形〉が砕かれた ? 」 首の紙を取った。すなわち封印を解き、はびこる〈陽使〉と同じ状態にして放り出したもの が、そう簡単に砕けるはずはなかったのだ。 〈陽使〉をすべての〈月徒〉が一撃で倒せるならば、ひとびとはもっと苦労をしなくてすん クウガシュウ 鏡 それはできないのだ。できるとしたら、かの〈空牙衆〉のみ : の かっしよく 眩「亜羅写が、いるんですか。 いましたね、金髪の、褐色の肌の少年」 「おりました、と思います。彼が、その、強力なちからの者なのでしようか ? 」 セイワゲッ 「見かけで判断すると、痛い目をみますよ。その少年は、清和月王の私兵、〈空牙衆〉ですか 「もうスコシだ , しいから早く打て ! 早く ! 」 「門が焦げてきている、この機をのがすな ! 」 玲尉の言葉に、彼らは我に返った。射かけた矢がいくども門に当たり、くすぶりはじめてい みずか る。あと少し火が勝れば燃えはじめるだろう。自ら。 ◆

5. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

232 はじめの火矢が彩女城に放たれたのは、その日の未明のことだった。 橋の落とされた堀の向こうに、玲尉たちに率いられた領民軍がびっしりと埋め尽くすように つめかけている。すでに堀を埋めるための土袋が至る所に積み上げてあり、門を打ち壊すため っち の槌を乗せた荷車も見えていた。 しば その荷車の上に乗った玲尉が、槌に足をかけ、からだいつばいを使って矢を引き絞った。 きせき ひょう、と飛び、城門のすぐ先に落ちるかと思われた矢は、なにかに弾かれたように軌跡を 変えた。矢羽根を欠きながら城に向かって突き進み、ガラスを破って窓を突き抜けるー くだ アラシャ 亜羅写がエセラを当てたのだ。物を砕く性質のあるエセラを、うまく計ってぶつければ、飛 ばすことができる。球を打ち返すように。 「かかれ ! 」 総大将である玲尉の声を合図に、炎を揺らめかせた矢が、どっと射かけられる。半身をはだ 行くわ」 行く。 それしかないのだ。獅伊菜を止めるには。 ◆ ひき

6. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

「あれは紫万様の選んだ道です ! あたしがこの道を選んだように、紫万様はどんなことがあ ってもお姫様でいる道をえらんだんです。最後までかなえさせてあげて、何が悪いの ? 」 にぶ きつばりと桂斗は顔を上げた。透緒呼の顔色が鈍くなる。 ( だって、獅伊菜は助けたんでしよう ? ) 紫万を巻きそえにしないように、突き飛ばしたのだ。 それを : ・ クョウ 透緒呼には、そんな気持ちはわからない。 もし自分と九鷹が同じ立場に立ったとしても、そ れは変わらない。ふたりして生きなければ、何の意味もないのだから ! おいで ! 」 「ああそうわかったわ、それじや私は私の道を行くわよ ! 風を呼ぶ。突風が彼女らの上すれすれに止まった。 「トオコ ! 」 「止めたって行くわよ ! 文句があるなら、かかってらっしや、 「いや、オレも行く」 鏡 〈空牙衆〉は見つめあった。蒼主の命令。獅伊菜を止めろ。ここにはロに出せないことがおお の 眩 それを目で語る。 獅伊菜が死なずに済むのなら、亜羅写もそれを願う。これ以上、だれかを彼は失いたくなか った。セラⅡニアの思い出。それだけでたくさんだった。

7. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

「オレは獅伊菜を止めるために」 ほうき 「蜂起したってのね ! 私は王命で獅伊菜を止めにきたのよ ! ああもう、もうもうもう くや とっぜんすぎて、何が悔しいのかわからなくなってくる。 「もう、亜羅写の馬鹿 ! あんたなんて大嫌いだわ ! 」 「だれか引き上げるのを、手伝ってくれ ! 」 堀のふちで玲尉が叫ぶ。 けんめい 紫万を抱えた桂斗が、懸命に手を伸ばしていた。けれど、ふちで手を出す男にとどかない。 服を着たままようやっと泳いでいるのだ。ちかづくことさえ困難だった。 「まって、私がやるわ」 透緒呼は怒りをおさめ、ひとをかき分けるように堀へ近づき、岸から宙に浮いた。桂斗の真 上まで移動し、両手を差しのべる。 「ずしんてくるわよ ! その子離さないで歯をくいしばって ! 」 もぐ 鏡 いくども水面に潜る桂斗の手を、がっちりと掴んだ。そのまま風を操る。 の 眩「上昇 ! 」 「ううつ ! 」 自分の目方と、紫万との重みが左腕ひとつにかかり、桂斗は声をもらした。肩がはずれる !

8. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

うな青年。 アランヤ 亜羅写と獅伊菜だわ。真梛は思いながら、夢のなかでは知らないことになっている。獅伊菜 にがて の肩にのっているトカゲが、ひどく苦手だった。 くぎづ なぜか、視線が獅伊菜に釘付けになっている。肩の生き物たちをかまいながら、彼はだれか と話をしている。 『彼が来る』 唐突に真梛は思う。ひらめくと言ったほうが正しいように。 『彼が来る』 にこやかな笑顔に、黒い霧がうずをまいて重なりはじめる。やさしそうな顔。それが、いま きば にもはじけ、牙を剥いた化け物に変わる予感がした。 夢のなかの真梛は、一歩あとずさりした。気づかれないうちに、この場を去りたかった。見 つかれば、彼が来る。追いかけてくる。 と。 鏡ふいに獅伊菜が彼女を見た。真梛がいきをのむ。 眩「どうしたんですか、もおちいずうきイイのひいめえええ」 ひょうへん ゆがんだ声。 獅伊菜が豹変した ! つめ 口が耳まで裂け、血よりも赤いしたがのぞく。のびてねじれた爪。肩のトカゲが背筋の凍る

9. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

0 一第 蒼主 一現力ウスルー国王。透緒一人を眼力で呪い殺す力・邪一彩女大公・貴里我の孫。矢 呼の母の弟、つまり彼女の一殺眼を持「たセラニアの一禅の母をめぐる事件のせい 叔父にあたる。まだ % 歳で一少年。カウスⅱルーに逃れ ( で、自分の出生を否定して ~ 「若輩王」などと言われた一てきたところを透緒呼と九 ~ 生きてきたが、貴里我の暗 一りもするが、冷静な判断力鷹に助けられ〈空牙衆〉に一殺に伴い、その後を継ぐこ は誰にも負けない。破斬大 ~ 仲間入りする。ひとりで大 ~ とを決意。まるで自ら破滅 一公位の返上にともない、大 " 陸を放浪中、獅伊菜への反一を招きよせるように、次第 に暴君と化してゆくカ : ・ “乱を企む桂斗らに出会う。 陸最高会議を招集する。 亜羅写獅伊菜 シイナ キリが

10. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

かし 気づかうように首を傾げる。紫万は下を向いた。 ケイト ( 桂斗、いてくれたらよかったのに ) いな 教えてくれたかも知れない、道を。連れだしてくれたかも知れない、 ここから。一否、 ( 道は、自分で決めるもんだよ ) 桂斗は選んだのだ。あの道を。そして、紫万はこの道を選んだのだ。にどと戻れない道を。 そうだ。 「ごめんなさい、カョウ。みつともないところを見せたりして。もう平気よ、行きましよう」 うつむいたまま言った。 「そうですね、参りましよう」 カョウはいままでよりもずっと大事に、彼女の手をとった。そっと引いて歩く。 もう紫万は逆らわない。泣き声を、頭のなかに閉じ込めたまま。鉄格子を揺さぶり、出して くれというのを、聞かないふりをして。 『やめにしましよう』 鏡 あの夜の獅伊菜の言葉がよみがえる。 の 眩 ( 知っていたの、獅伊菜様 ) 今日を迎えれば、自分がこう思うことを。 ( 知っていたの ? )