気持ち - みる会図書館


検索対象: 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙
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1. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

じじよ はじめの役割はそうではなかったはず。やさしい大公とその婚約者。そして、侍女の少女。 それは、今日のような晴れた日の似合う、陽だまりの絵のようだった気がする。 ( いまはもうちがうけれど ) ほが よく気の付く彼女の朗らかな声を聞いていると、紫万の気持ちは塞いでくるようだった。普 段はまだいい。けれどその声は、いま、獅伊菜にむけられている。 そのことほど滅入ることはなかった。いまだって紫万は、獅伊菜に笑顔を向けられる。楽し そうに話しかけられる。甘えることもできる。けれど。 こころは、にくんでいる : 彼の本心を知ったのは昨夜だ。まだ、彼女は許すことができなかった。獅伊菜を、すべて水 に法儿すよ , つには。 泣きはらした顔さえ、まだ腫れている。桂斗さえいれば、すこしはなぐさめられた気持ちに 鏡なれたかも知れないのに、もう彼女はいなかった。 眩桂斗は、自分の道を行ったのだ。二度と、紫万の友人にはなれないだろう方向へ。 夢「まあまあ、散らかさないでくださいね。糸くずを振りまかないで、ちゃんと運んでちょうだ ケイト ふさ

2. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

95 夢眩の鏡 〈空牙衆〉としての誇りだった。 「おう。 いままでのはツケにしといてやるから、帰ってきたら覚悟しろよ。 じゃあな」 言葉を止めて頬にふれ、九鷹は扉へ向かって駆けだした。数歩で姿が見えなくなる。異次元 へ入ったのだ。 麻が乱れるような気持ちを、彼女は感じた。胸を掻きむしられるようだ。 ( いままでに、こんな想い、したことなんてない ) ひとを好きになる。それがすべてを変えたのか それとも ? ふつつ。 意識を途切らせるように、透緒呼が倒れたすぐに寝息をたてはじめる。眠ってしまった あさ

3. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

とまど ふと浮かんだ言葉に、戸惑う。 ( 私、どうしてそんなこと ) からかうような、自分を小馬鹿にした九鷹。それははじめから変わらないものだ。いまさら ど一 , つ、とか、ツ ) , つ、とか 変わるはすがーーー変わるものが : やさしく、髪を撫でて話しかけてほしいと思っている自分に、透緒呼はおどろいた。耳たぶ までが赤く染まる。歩くことを忘れ、その場に立ち尽くした。 ( 私変だーー ) この間から、ずっとおかしい。側にいること、触れられること、ロづけをかわすこと。 どれも、嫌じゃない。 それどころか、 つよく望んでいる自分がいる。 鏡 ( 頭が変になってる。疲れているせいだわ ) 眩透緒呼は頭を振った。頬をびしやりと打って、気持ちを切り換えようとする。 ◆

4. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

問うた。答えは聞こえないけれど。 むろん、それはちがった。紫万は、あの日の告白さえなければ、こんな気持ちにならずに、 この日を迎えられたのだ。 獅伊菜はただ、紫万を遠ざけようとした。道連れにすることを、やめようとしたのだ。 かがり火が、目にしみる。 城の離れにある月神の神殿は、冬の夜にふさわしく冷えていた。暖炉があるわけではなく、 床は石のままのつめたさだった。 黒い大理石の床が、闇のようにつづいている。円形の部屋。そのなかを中心へ向かって、紫 万はカョウに連れられて進んだ。 だれもいない。 広間のような場所には、祝う者はみとめられなかった。お互いに両親はすでにない。だか ら、家族の列席者もいない。 さいだん ただ壁際に、明かりの焚かれているだけの場所だった。中央に、ばつりと祭壇があるほかに は、調度品のひとつも見られない。 ◆

5. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

二千万ルクーの女。買われた花嫁。恐ろしい悪妃。 そうなるためにはじまったのだけれど。そのために、ここまで来たのだけれど。 囚人なのだと、身に沁みてわかるとつらかった。わかっていて、過ごしてきた。そのつもり だったのに。 「カョウ、いまなら間に合う 逃げだせば、つづく未来は断ち切れるのだろうか。なにも失いたくない。そうつよく願って いたはすなのに、紫万はいま帰りたかった。 どこかに。 ) ) ふじよう・ 「御不浄でございますか ? 」 彼女の気持ちを、侍女はわかっていなかった。まさに幸せになろうとする時に、逆を望んで いるなど、考えっかないのだ。 「ううん : 。お妃になるの」 「まあ」 鏡 カョウは目を丸くして止まった。あるじの顔をのぞきこむ。 の 眩「どうなさいましたの、姫様。あれほど、お喜びになっていたじゃありませんか ? もうす 、獅伊菜様の奥方様になれるのですよ ? 」 「なりたくないよ : : : 」

6. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

おだ 透緒呼のほうは穏やかではいられなかった。九鷹に : れだけでも事実だとしたら恥ずかしいのに。 ( 冗談じゃないわよ ) 「九鷹、言いなさいよ。教えて」 「ああ、なんだっけな。たしか 「もったいぶらなくていいわよ ! 言っとくけれど ! そんなのみんな嘘だわ。私の気持ちじ ゃないもの。知らないわよ、何言ったとしたって、そんなの、ぜんぜん本当じゃないんだか 「へえ、そりゃあ感激だわ」 ( 感激 ? ) 片眉をあげた彼女の頬に、彼は手のひらで触れた。 「九鷹なんて大っ嫌い、もうぜったいに側へこないで、っていうのは、嘘なわけだもんなあ。 こうしてもいいわけだ」 したう やられた。透緒呼は舌打ちする。だまされたと気づいたのだ。そんなに九鷹の都合のいいよ うな事ばかりを、言うはすがない。 さらに何を言ったのだろうか。あ

7. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

277 夢眩の鏡 蒼主は矢禅をにらみつけた。すました顔の彼が、何を考えているのかわからない。 「それで、またどうでも良くなってしまうんでしよう。あなたは、最後まで僕を追わなかっ た」 自らの気持ちに負け、彼は矢禅を呼んでしまった。許してしまった。 だんぎい それともおまえ、追い詰められて断罪されたかったのか ? 」 「それとは違う。 「いいえ、まさか。貴里我様を殺したのは、ザカードです。僕の罪じゃありません」 「なら、どうしてそれを持ち出す ! 」 彼は拳を小卓に叩きつけた。銀の杯が酒瓶とぶつかる。 矢禅は、ゆっくりと蒼主を見た。紫の目が、しずかに揺れる。 「ふたたび僕を追いますか、蒼主」 なぜだ ? 」 紫の瞳が笑った。ふっと、瞬くように。 ガタンー・ 「骸を殺したのは僕だからですよ」

8. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

167 夢眩の鏡 貴里我を殺した可能性があると。 蒼主は、あの追捕命令など忘れてしまったかのようだった。憎む気持ちをこえ、矢禅を呼ん でしまったから。 「あれはおまえだったのか、やはり」 容疑がかかったのは、茶の髪に紫の瞳の者。だれもがそう疑った。もちろん骸も。 「父です」 : 。なにもしないはずがなかった。 矢歌を貴里我に奪われたことを知ったのだ : 「おまえの父か ? 」 骸は興味を示した。こころもち片眉があがる。 そういえばーーー、矢禅は国王にもっとも近い側近でありながら、身元が不明だった。いつ、 どこから、どうしてあらわれたのか。 : 骸は知らない。その必要もないと思っていた。 「そうーー・・父です。恋のためにね」 矢禅は笑った。どこかとおい目をして。 ◆

9. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

だと ? ふざけんなハナクソ ! 」 カョウがいたおかげで、どんなに気持ちが楽だったか。いなくなって気づいたのだ、紫万 足りない女だとばかにしていたけれど、なんでも彼女のためにと喜んでくれたカョウがいた から、この城にはやくなじめた。もり立ててくれたから、姫、として認められるようになっ かげぐち いちばん近くにいる侍女が、もし見下した態度をとっていたなら。紫万は山ほどの陰ロと暮 らさなければならなかったのだ。 そう、気づいた あんたになんかわかるもんか , こんなうちに生まれておばあさんにかわいがられ やっ したことないく て、まずしい人を救いたいから医師んなったなんて奴にはよ ! そんな思い、 こころぎ 「志して医師になったわけじゃない ! 」 鏡 胸ぐらを掴み、揺さぶっていた紫万を、彼は怒鳴りつけて引き剥がした。なにも見ていない の 眩ような目ではなかった。怒りに、燃えている。 「いちどここを出たのは、魔女に人を殺されたからだ ! おまえのように ! 」 「じゃあ何で、あんなこと一言うのさおなじだろツ、おんなじだよおッ ! 」 こ。

10. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

おもしろ 実娘の恋人に手をかけられ、命を落とした啓王。彼も面白半分に、幾つもの命を散らせた たど ( おなじ道を辿るんですか、獅伊菜 ? ) かれとかっての暴君とのつながりに気づいた矢禅は、調べたのだ。失念した、かの王の最期 を。 最期を迎えたのは城の中だった。まわりを蜂起した領民軍に取り囲まれ、王女だった実娘の 手引きで、内部に踏み込まれて。 火を射かけられ。 しの このまま行けば、おなじことが起きる。城下はいつになく騒がしくなっている。人目を忍ん だ行き来が繰り返されている。 ここから見えるわけではない。けれど矢禅には視える 兵が挙がるだろう。もうすぐ。 獅伊菜が〈大扉〉の事故を喜んだように、彼らもそれを機にするだろう。大陸の南へ、追い 詰めた大公が逃げることができないと考えて。 ( モウスグ ざんにん 残忍な気持ちがこみ上げる。 ほうき