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検索対象: 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙
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1. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

蒼主は片手を上げ、執務官に数枚の紙を出させた。斥候に出た者の似姿をひろげる。 「斥候の目印はこれだ」 言いながら、彼は自分の耳をひつばった。耳飾りをつけているという意味だ。 もんよう 「赤石がついている。中に星の形の白い紋様がある石だ」 「 : : : 向こうは俺のことを知っているんだろうな」 「当然だろう」 九鷹は首を鳴らし、肩を動かしながら答える。 「いいぜ。明日の朝早くだな」 「そうだ。ついたらすぐに城中の〈精霊契約〉を無力化しろ。できるな ? 」 その言葉に執務官が目を剥いた。古代から、大公の居城を守りつづけている〈ちから〉を、 あっさりとなくせるはずがない。 「ーーー多分な。面倒なようだったら、腕ずくで言うことを聞いてもらうまでだ」 さくれつ カウス日ルーでは相いれない、オンディーセンのちからを炸裂させたらどういうことになる はいきょ . 鏡のだろうか。精霊が引かなければ、彩女城は廃墟になるだけだ。 眩「おだやかに進めてほしいものだな」 夢「極力、なら約束してやるぜ」 「九鷹どの ! 」

2. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

とまど ふと浮かんだ言葉に、戸惑う。 ( 私、どうしてそんなこと ) からかうような、自分を小馬鹿にした九鷹。それははじめから変わらないものだ。いまさら ど一 , つ、とか、ツ ) , つ、とか 変わるはすがーーー変わるものが : やさしく、髪を撫でて話しかけてほしいと思っている自分に、透緒呼はおどろいた。耳たぶ までが赤く染まる。歩くことを忘れ、その場に立ち尽くした。 ( 私変だーー ) この間から、ずっとおかしい。側にいること、触れられること、ロづけをかわすこと。 どれも、嫌じゃない。 それどころか、 つよく望んでいる自分がいる。 鏡 ( 頭が変になってる。疲れているせいだわ ) 眩透緒呼は頭を振った。頬をびしやりと打って、気持ちを切り換えようとする。 ◆

3. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

めに歩きつづけてきた彼は、ほとんどだれとも係わらず、だから世情にうとかったのだ。 あのシイナが ? 信じられなかった。自分がカウスルーに現れたときから、彼に疑いを持たず接してくれた けが のは彼だったのだ。時空を飛ばされ、怪我を負っていた彼を、診てくれた。そばにいることを 厭わなかった。 シロウ アールシアと四狼をのぞけば、はじめて近くなったひと。あのころはまだなじめずに、透緒 呼に悪態をついたりしていたのに。 そのころ、自分がこころを開こうとしていた獅伊菜が ? 守り以外にはちからを使わないと言っていた、のに : そして、彼に真実を告げた桂斗は〃ちから〃を欲しがっていた。獅伊菜に対抗できるだけの ちからを。 獅伊菜に、立ち向かう。 セイレイケイヤク オレならできるだろうかと、亜羅写は思った。ちからと言うならば、エセラと〈精霊契約〉 鏡者だ。互角か、それに近いだろう。 クウガンユウ 眩だから、彼は桂斗に打ち明けた。自分が〈月徒〉だと、〈空牙衆〉だと。ちからになること を、申し出たのだ。 みずか 亜羅写はいやだった。あの獅伊菜がひとびとを傷つけ、自らえらんで破滅に向かってゆくの はめつ

4. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

その音を聞いたとき、彼はもうこの世の人ではなかった。銀の光が一閃し、啓王の首は落と さっき された。殺気を感じることも、避けることもできなかった : 眠るように意識が遠くなってゆく。そのなかで、彼は首から吹き出す自分の血を見たような 気がした。床に落ちた自分の首を、だれかがわしづかみにするのを、感じた 高い声と、低い声がなにか交わされている : : : 。高いのは、彼の娘の声だろうか ? 低いの は、娘をうばっていった男の声だろうか ? もう、わからない。 『これが、わしの見ていた夢か : 、びしゅツー いっせん

5. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

( 疲れてるっていうの ? ) よほどの疲労がたまっている証拠だろうか。 「なんてこと。今日はゆっくり昼寝するしかないわね」 いつまでも不覚を取りつづける、なんてことになりでもしたら、自信がなくなりそうだ。 透緒呼は守られて暮らす少女ではないのだから。戦って、ひとつひとっ切り開いてゆく〈空 牙衆〉なのだから。 髪をとかし、鏡にうつった自分を彼女は見た。きっと結んだ口元は不機嫌そうにもみえる。 ( かわいげが、ないかしらね ) 自分の足で行こうとすると、みんなこんな顔になるのだろうか。 透緒呼にはわからなかった。 頬を叩いて、無理に笑顔を作ってみる。ひきつった表情。いやいやだ、というのがはっきり わかってしま , つ。 ため息をついて、透緒呼は鏡の前をはなれた。もうすこし嬉しそうにできれば良かったの に、と思いなから。 そうすれば、九鷹の態度もすこしは違ってくるかもしれない。 ( あれ ? )

6. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

かし 気づかうように首を傾げる。紫万は下を向いた。 ケイト ( 桂斗、いてくれたらよかったのに ) いな 教えてくれたかも知れない、道を。連れだしてくれたかも知れない、 ここから。一否、 ( 道は、自分で決めるもんだよ ) 桂斗は選んだのだ。あの道を。そして、紫万はこの道を選んだのだ。にどと戻れない道を。 そうだ。 「ごめんなさい、カョウ。みつともないところを見せたりして。もう平気よ、行きましよう」 うつむいたまま言った。 「そうですね、参りましよう」 カョウはいままでよりもずっと大事に、彼女の手をとった。そっと引いて歩く。 もう紫万は逆らわない。泣き声を、頭のなかに閉じ込めたまま。鉄格子を揺さぶり、出して くれというのを、聞かないふりをして。 『やめにしましよう』 鏡 あの夜の獅伊菜の言葉がよみがえる。 の 眩 ( 知っていたの、獅伊菜様 ) 今日を迎えれば、自分がこう思うことを。 ( 知っていたの ? )

7. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

シイナ 「まあ、獅伊菜様」 紫万たちが決別した翌日の午後、紫万の部屋を訪れた獅伊菜を、カョウのうれしい驚きにみ ちた声が迎える。ばっと顔を輝かせ、まるで恋人が自分を訪ねてきたように喜ぶのだ。 いつものように部屋の奥でそれを耳にした紫万は、ふと目の前が暗くなるような痛みを感じ た。昨日の今日で、彼が訪れたからだけではない。カョウのことだ。 ( どうして変わんないの ? ) 出会ってから今まで、カョウだけがそのままでいた。にこやかに、おだやかで。紫万の変化 にも、獅伊菜の態度にも気づきもせずに。 カョウは、カョウ。 紫万は、自分が以前の『シマ』でも、お姫様の『シマ』でもなくなっていると思っていた。 変わってしまったあたし。獅伊菜にかわれた『二千万ルクーの女』。 サイ そして、獅伊莱もただの『彩の暴君』 序章嘘の涯てに行く道

8. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

ここまで走りどおしで来たのだ。 「扉がめちゃくちゃだよ。あんな煙がでちまって。 一緒にやってきた女が、背伸びしながら彼女にたずねる。 「出ただろうよ。ちょいと、どうなんだい ? 」 女は、自分たちを捕まえて、とおくに押し戻そうとする兵士に訊いた。彼は迷惑そうな顔で 見下ろし、ためいきまじりにうなずく。 「爆発で倒された何人かがな。さいわい警告した者がいたから、避難できて、そのくらいです んだんだ」 カラギ 唐木の女のとっさの判断が、多くのものの命を救った。そして、彼女と扉番の老人は覆いか けが ぶさってくれた商人のおかげで、たいした怪我もせずにすんでいる。 助かった人々は、すこしはなれた場所でひとかたまりになっていた。気持ちを落ちつけるた めに配られた、湯や酒をすすっている。 「へー、あれが助かった人かね」 土まみれの人々を見つけ、女は感心したようにつぶやく。相棒が、自分も見ようと、ぐい、 と身を乗り出した。 「あんまり押すんじゃない、野次馬どもめ。まだなにが起こるかわからないんだぞ。戻りなさ 、うちへ帰れ」 う 死人は出たのかい ? 」

9. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

透緒呼らしくもない言葉だった。 あの瞬間、九鷹は胸を突かれたような気がした。はツと、息をつめるように、止めるよう 聞き流してしまうには、おもい告白に思えた。普段なら、間違っても言わないだろう。だか らこそ、こころからの叫びにも聞こえてしまう。 ( 透緒呼 : : : ? ) 見つめるだけでは、何もわからない。 九鷹はため息をつき、透緒呼に襟元を掴まれたままなのに気づいた。指は固く握りしめられ ていて、ひらく気配もない。 ( いまの、寝言か ? ) 自分の耳を疑うように、彼は目を瞠っていた。じっと、彼女を見ている。 とくちょう 寝顔に、ひっかかるような特徴はあらわれていなかった。やすらかだ。悪夢にうなされて いるふうでもなく。 『そばにいて』 みは

10. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

170 たずねられたとしても、彼にはそう流れるさだめにあったとしか答えられない。自分は逆ら わず、その通りに行くだけ。 「どうしてでしようね、華 ? 」 つめけず 獅伊菜は爪を削りだした。のびるにまかせていた所を、するどく するどく。まるで武器 とが にするかのように、尖らせる。 とが 爪がこころを表すのなら、獅伊菜のこころは尖っているのだろうか ? こころも尖っている のだろうか ? 「もうどっちでもいいです」 つぶやく。 二日後に、彼は婚約者紫万と婚礼を上げる。そして、時をおなじくして彼らの命は潰えるの ( あと、二日 ) そこで彩女の歴史も閉じるのだ。彼らとともに。 びん 刃を置き、引き出しをあけた。ちいさな壜を取り出す。 獅伊菜は中身を手のひらに出した。砂糖のような白い粉を口に含む。 ◆