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検索対象: 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙
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1. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

そうとだけ蒼主は言った。その先をつづけようとはしない。 「透緒呼にはだまっておけ。、、な、一一 = ロうことは許さない」 「言いませんわ、決して」 真剣に真梛はうなすく。そのとたん扉があいた。 ふたりは離れる。そして蒼主は前宮へ、真梛は自室へともどってゆく。 「透緒呼、行きましよ。お腹へったでしよう ? 」 妹の手首をつかみ、彼女は歩きだした。 「あっ、まってまって」 あとずさりする形になった透緒呼は、あわてて手を振り払い、前向きになおった。 いちどだけ、透緒呼は姉にたずねてみる。もうなにも感じないのかと、蒼主にたいして。 「痺れているのかも知れないわ、こころが」 真梛はそう答えた。ただし、憎しみにではない。 鏡「いまはそれどころじゃないでしよう」 眩そ , つ。 いがみ合っている余裕などなかった。真梛は〈命〉なのだから。蒼主は〈命〉なのだ から。 ミカヅキ モチヅキ 望月と、三日月と。

2. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

270 「獅伊菜様、あたしはいい」 「よくありません。まだ若いんだ。ここで、楽しいことを何も知らずに死なせはしない。あな たがいるなら、わたしは生きます。側にいるなら、この炎を抜けて、・ : ・ : 逃げて見せるーーー」 彩女にはいられないだろう。それならば、暮らした山奥へ行こうか。それとも、もっと遠く 「あなたを死なせはしません。決して」 華が飛んだ。彼の上空で羽ばたく。銀の光が彼らを包んだ。すうっと空気が冷える。 月梟のちからが精霊の炎を無力化したのだ。 「いきましょ , つ」 トカゲが腕に駆け上がる。 獅伊菜たちが瞬いた。きらめきを残して、その場から消えた。 ◆ 金の雷が城をめがけて落ちてゆく。 切り裂くような風圧に、亜羅写がからだをこわばらせた。透緒呼の影のようにへばりついて またた

3. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

セラⅡニアトカゲの名を呼び、獅伊菜は絶句した。 ど , っしてこれが、ここにいる ? ッキフクロウハナ ィリューンと月梟の華とは、わかれたはずだ。もう前に。それなのに。 「チィッ」 「獅伊菜様 ! 」 きせき 銀色の軌跡が飛び込んでくる。 「華、 しまッ ! 」 月梟は何事もなかったかのように彼の肩に止まる。それをまつのももどかしいように、獅伊 菜は駆けだしていた。 「獅伊菜様 ! 」 飛びついた紫万を、彼は思い切り引き剥がした。紫万が見上げる。前髪が焦げてすべてなく なっていた。服からは湯気が立っている。 「華に連れてこられて・ : ・ : ? どうして、あなたというひとは、どうして ! 」 これで二度だ。彼が救おうとするたびに、どうして逆らうのか。まるで不幸を自分から受け の 眩入れよ , っとするよ , つに。 夢 「だってやくそくでしよお、あたいお妃になったんだ、い っしょに断頭台へ行くって、決めた じゃんか、どうしていつも嘘つくのさ、どうしていつも置いてくのさあっ ! 」

4. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

とげ 横目で彼を見て、真梛が言った。棘のあるいまの言葉さえ、透緒呼が気づかないのが楽しい 「つとにおまえはヤなオンナだな」 「どうもありがとう。そのうちヤな母親になるわよ、このまま。そうしたら九鷹、こき使って あげるわね」 王妃になるぞ、と聞こえるセリフを真梛が放ったとき、前宮の執務官がはいってきた。扉の 近くから声をかける。 「こんなところまで申し訳ありません。九鷹殿、陛下がお呼びです。至急とのことでございま 「ごめんなさい 、もうこき使われてるんだったわね」 「おまえ、泣きべそかきたいか ? 」 にが 苦い顔で応じ、九鷹は席を立った。執務官に声をかける。 とこだ ? 」 「すぐに行くって伝えとけ。。 鏡「陛下の執務室のほうへ、とのことです」 眩「わかった」 用をすませた執務官は部屋を出てゆく。それを追うようにしながら、九鷹はバンをとりあげ うな てかじりながら唸った。

5. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

食堂に行くと、席についていた真梛が意味ぶかい流し目をよこしてきた。皿はほとんどから で、もう終わるころらしい おもしろ 正面に座った九鷹は、横を向いて面白くなさそうにしている。どうやら、透緒呼が来る前 に、姉になにか言われたようだった。 「朝早くから、仲のおよろしいことで」 口元だけ笑いながら、真梛は透緒呼にかるく会釈をしてみせる。本当に言いたいことを裏側 に隠した、ふくみのある表情だった。 いやみ 「会っていきなり厭味なんて、なかなかご機嫌がよろしいようね、姉さん」 つつぬ 「そりやもう。あんたがたがとなりで騒ぐから。みんな筒抜けでやってられないわよね。ね え、九鷹。失敗ばっかりって、いやね ? 」 「うるせえ」 「失敗なんかしたの、九鷹 ? 」 同時に言い放ち、透緒呼は九鷹を見、九鷹はふいとそっぱを向いた。どうやっても透緒呼を ものにできないみたいねえ、と高笑いされたのが効いているのだ。 「ねえ、九鷹 ? 」 「してないわよ、ねーえ、九鷹 ? 」 えしやく

6. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

ふく 宴の広間は、下卑た笑いに満たされていた。い冫 まこもはじけそうなほど、膨らんでいる。 こび 並べられた料理をとりかこみ、大公夫妻を待っていたのは、獅伊菜に媚を売るものばかりだ うわめづか った。上目遣い、うす笑い、判断を誤っている大公をいさめようともしない者。自分かわいさ に、彼の悪行に乗る者。命じられて自ら行使に行く者。そんな者ばかりがいた すみ 橋が落とされてやむを得ずとどまっている人質のような人々は、隅のほうに押し込められる ように座っていた。できるなら、扉を物でふさいで、部屋に閉じこもっていたかったのだろ う。にやにやとしている者たちにたいして、顔色が冴えない。 もうすでに酒を酌み交わしているものもいた。かなり飲んでいるのか、鼻のあたりがそまっ ている。 剛毛に腕をおおった武官は、酒をそそぐ侍女を、片時も離そうとはしない。、 しつものお仕着 せではなく、まるで踊り子のような薄物を身につけさせられた彼女は、その居心地のわるさに しゅうち 震えていた。羞恥が身をきざむ。 鏡 の 眩獅伊菜とともに現れた紫万は、、 しやらしい歓声を受けて立ち尽くした。いままでのどの宴と もちがい、雰囲気がどす黒い ( なんなのさ )

7. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

ため息をつき、透緒呼はうなずいた。あの獅伊菜が、おとなしくやって来るだろうか、本当に。 おこな 「おっさんもだ。だれだってそう思うんだろうよ。行いが悪すぎるヤツだからよ、あいつは」 叔父上は ? 私、獅伊菜のこと言ったわ。死なせないで、これ以上ひどいことにな らないようにして、って」 じゃま あぐら おもい空気がおとずれた。透緒呼は邪魔な布団をわきに退け、座りなおす。胡座をかいた九 みけん 鷹は、眉間にしわをよせて下を向いた。 「いまごろ、おっさんは軍と話してんだろうよ。獅伊菜が来るなら、この機会をのがすわけが ねえよな。また、俺も戻ることになるだろうよ、おそらくはな」 「叔父上の命令ね ? 」 「まあな。ひとりきりで動くことになるだろうがな」 「私も、 行けないわね」 一緒に行くつもりになって、できないと思い出した。大陸最高会議がどんなはこびになるの かはまだわからないが、真梛とともに王宮にとどまることになるだろう。彩女大公獅伊菜の処 ぐう 鏡遇に対する問題が出れば、それに対しての発言を求められる可能性があった。 カイザ 眩界座公女と〈空牙衆〉との、両方から。 夢「おとなしく待ってろよ、この前みたいに、勝手なことしてくれんな」 清和月で静観する命にそむいて、異変があったと彩女まで飛んでいったことを言っているの

8. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

ここそとばかりに退位宣一言をされたら、たまったものではない。 「できませんよ、そのようなこと」 あきれたように筮音は言った。 「姉上、先に行きますよ」 蒼主は、そんな母娘のうしろを通り抜け、部屋を出てゆく。透緒呼たちが動くよりも早く、 真梛が走った。蒼主を追ってゆく。 へいか 「陛下」 真梛は後ろ手に扉をしめ、彼に駆け寄った。声をひそめる。 「九鷹からは、なにか ? 」 びたりと蒼主の動きが止まる。彼は瞳をするどくし、彼女よりいっそう声をひそめた。扉を , つ、刀、刀 , っ まだ透緒呼の出てくる気配はなかった。 「気づいていたか」 真梛は無言でうなすく。 あの事故が起こったのは、夜明け前だった。そして、九鷹が彩女に向かったのもそのころ。 おなじ刻に、異次元にゆがみが走っている 「連絡は、まだない」

9. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

す , っ : の 夢 投げられた石を飲み込んで、すっとひいた水面のように、透緒呼は眠りのなかに落ちていっ しゃべ れたようだった。それきり、喋ることがなくなる。 九鷹は首筋に張りついた髪を取ってやり、そのまま手を引っ込めた。 身じろぎし、透緒呼が何か言う。その声は、くぐもっていて聞き取れなかった。 「なんだよ」 たずねた彼を、また、透緒呼がさがしている。行ってしまうのを不安に思う子供のように、 しきりに指先がうごく。触れようとしている。 寝ばけているのかと思いながらも、もういちど手を握り返した。そのつつみこむようにした えりもとっか 両手から、するりと彼女の手が抜け出し、彼の襟元を掴む。引き寄せる。 「いっちゃだめ。 : ここにいてね、どこにも行かないで・ : ・ : ここにいて : : : 」 「透緒呼 ? 」

10. 夢眩の鏡 : カウス=ルー大陸史・空の牙

( 疲れてるっていうの ? ) よほどの疲労がたまっている証拠だろうか。 「なんてこと。今日はゆっくり昼寝するしかないわね」 いつまでも不覚を取りつづける、なんてことになりでもしたら、自信がなくなりそうだ。 透緒呼は守られて暮らす少女ではないのだから。戦って、ひとつひとっ切り開いてゆく〈空 牙衆〉なのだから。 髪をとかし、鏡にうつった自分を彼女は見た。きっと結んだ口元は不機嫌そうにもみえる。 ( かわいげが、ないかしらね ) 自分の足で行こうとすると、みんなこんな顔になるのだろうか。 透緒呼にはわからなかった。 頬を叩いて、無理に笑顔を作ってみる。ひきつった表情。いやいやだ、というのがはっきり わかってしま , つ。 ため息をついて、透緒呼は鏡の前をはなれた。もうすこし嬉しそうにできれば良かったの に、と思いなから。 そうすれば、九鷹の態度もすこしは違ってくるかもしれない。 ( あれ ? )