「クヨー、クヨー トオコが凵 赤毛の青年は瞬く間に現れた。ただ、そうとうてていたらしく、い ではなかった。戸口から駆け込んでくる。 「よこせ ! 」 うわぜい ひとめで状況をのみこみ、九鷹は亜羅写から透緒呼をひったくった。青年の方が上背があ る。まだ、十分に余裕はあった。 ・ : なんだこりや」 宙から透緒呼を引きずりおろそうと、九鷹の筋肉が膨れた。額に青スジが浮き出る。 「クヨー、呼吸が ! 」 亜羅写が叫ぶように告げる。青年は軽くうなずき、怒鳴りつけた。 こら、起きやがれ ! 急はどうした ? おまえは何がしてえんだよ ? 空飛 「透緒呼 ! びてえなら、眼をあけて飛べ、眼を ! 」 幽 じりじりと引き戻しながら、呼びかける。 姫 じんじよう が明らかに、尋常ではない浮力が働いていた。それが、透緒呼の意志によるものかどうかは、 不明である。 「透緒呼 ! このバカ、このドプス ! 」 ふく つものような空間移動
: よくイマ笑えるよ。 亜羅写は苦く思った。いし つよっ蹴ってやりたいのをこらえながら、進む。 寝室の扉は、すでに跡形もなく、壁もほとんど崩れていると言ってよい状況だった。 高温の炎にあおられて、燃える木が真っ白に光り、ガラスだったものが、どろりと赤く溶け 出していた。 「これじゃあ駄目ですかね、狭間殿も」 のほほん。獅伊菜が言い、とうとう亜羅写は彼を蹴っ飛ばした。 「おっと、失礼。べつに、他意はないんですよ」 「それのどこがタイがなーーあ ! 」 亜羅写が駆けだしかけ、獅伊菜に掴まれる。 「エセラ殿、焼き人 ! 」 「でも、シーナ、そこにだれかころがって : 幽 姫黒っぱい影は、透緒呼よりもかなり大きい 「近づきますよ」 嵐 ふたりはその人物に近づいた。 「クヨー」
武器を握り締めたままの格好で、九鷹が倒れていた。真っ黒な炭のような塊となって。 流れ出した血は熱ですでに固まり、においさえも失われるほど焦げている。 「ク・ヨー 亜羅写の力が抜ける。 「生きているそうです」 獅伊菜が絶望を否定した。より鼻のきくトカゲが、その生存を教えたのだ。 : 見て下さいエセラ殿 ! 」 「ただし、かなりキた状態ですが 獅伊菜は目をみはった。 クヨー、炎が : : : 」 踊る炎は、九鷹をさけて燃えていた。ゆらゆらとすべてをなめつくす舌が、彼を取り巻き、 それでも近付けないでいる。 まるで、結界が張られているように。地団駄をふんで。 「どうして : : : 」 「そんなことわかりませんよ。 工セラ殿ー 医師は亜羅写に立っことをうながした。九鷹を結界内に取り込む。 黒くなったからだに、亜羅写がこわごわ触れてみる。ほんとうに、焼けていないのだろうか かたまり
「 : : : 獅伊菜」 亜羅写がホッとした声を出した。火は並のものよりも温度が高いらしく、すぐに壁や床をな めはじめた。ばちばちと、室内がはぜてゆく。 セイワゲッ 数度、白光がまたたき、うなるような音が聞こえた。清和月宮を守る〈精霊契約〉が、炎を 消そうとしたのだろう。 モチヅキ 「いけませんね。すぐに望月姫の部屋もやられますよ」 火のひろがり具合に、獅伊菜が退室しかける。 キツ。 トカゲのイリューンがしつばを振り、警告するように鳴、こ。 「なんです ? 」 耳を傾ける飼い主に、イリューンが告げる。 それを聞き、青年医師は顔をくもらせた。 「狭間殿が、倒れていると言うんですか ? 」 「クヨーが」 「ええ。彼のものらしい濃い血のにおいがするそうです。おそらく、そうとう失血していると 思いますよ」 いらだ ゅうちょう 悠長な獅伊菜の声に、亜羅写は苛立った。
いつもの調子が戻ってきたか。 九鷹はほっとしかけ、すぐに表情をかたくした。 こいつ、意識のひずみがわかってねえのか ? それと 「おい小僧。出て行け」 「ちょっ、な、クヨー ? 亜羅写が目を丸くする。 「でていけよ。ちツ。にぶい奴はだから嫌いなんだよ。ちっとは気イきかせろよな。俺は、三 日ぶりにお姫さまにあったんだ。これから先は : : : ほら、最後まで言わせねえで、さっさと行 けよ。ャポだぜ」 「九鷹 ? 」 意識が分裂しかけている透緒呼は、普段以上ににぶく、こくりと横に首をかしげた。 ふしようぶしよう 亜羅写が不承不承と言った形で、透緒呼の部屋をあとにする。嫉妬しないと言えば嘘になる 幽 姫けれど、 でも、かなわないのはわかっていた : 嵐 「さあて」 にやにや。九鷹は本心の見えない笑みを浮かべ、ひょいとかがんだ。透緒呼をすくいあげる しっと
◆ 夕刻。立食晩餐会の会場は盛況だった。 〈精霊契約〉が雨を透明な屋根でさえぎり、銀の雫を天然の照明にしている。中庭の芝生はう っすらっとしめり、あざやかに萌えていた。 招かれた楽団が陽気な音楽を奏でるなか、数日ぶりにあった透緒呼に、九鷹は歩を踏みそこ ねた。あやうく転びそうになる。 「おっー 「クヨー アラシャ たまたま一緒にいた、慣れない豪華な服に居心地悪そうな亜羅写が、はツしと腕をつかむ。 「なにやってんのさ。こんなところですッ転んだら、ミットモナイだろう ? 」 はじめ 会場には、『一王・四大公家』を筆頭とする貴族や豪商が、気飾りすましかえり溢れている。 それだけおどろいたんでしよう ? あんたって、本当にいやな男。大っ 幽 姫 いままでの公務ずくめを晴らそうとする人々の熱気が、雨を蒸発させてしまいそうななか、 髪を結い、 花を飾った透緒呼がコメカミに筋を浮き立たせた。ぎりぎりと両手を固めている。 いつものように怒鳴りちらさないのは、場所を意識しているからーーーではなく、たんに不調 力な クョウ あふ