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検索対象: 影曨の庭 : カウス=ルー大陸史・空の牙
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1. 影曨の庭 : カウス=ルー大陸史・空の牙

226 「言わせんなって、いっただろうが」 「知っているのならおしえてください」 「ーーーおまえふざけんなよ」 けわ しゃ 目つきを険しくさせて、九鷹が斜にかまえた。にらみつけるようにしながら、つづける。 まわ 「知ってんだろうが。そうやってりや、周りがどうやってカタをつけるかくらいよ。けツ、透 緒呼がここへ乗り込んでくる気持ちもわかるぜ。よオ、クソ野郎。死にてえなら、てめえひと りでとっととオちな」 セイワゲッ この状態がつづけば、いずれ大陸は彩女平定に動きだすだろう。蒼主が戻って清和月宮はい つもの機能をとりもどしかけている。ことが起こるのは、そう先のはなしではないはず。 獅伊菜は言葉を返そうとしない。 ) それが、まるでカウス日ルー語を理解できない異国人がき よとんとしているのに似ていて、九鷹はかッとした。聞こえているだろうがー さらに言い募ろうと口をひらきかけ、やめる。まっすぐにこの部屋をめざす速い靴音を、き きつけたのだ。 透緒呼。 「やっときやがったか」 移動法のちがいから、おそくに出た彼のほうが到着は先になる。待ちくたびれた、というほ つの

2. 影曨の庭 : カウス=ルー大陸史・空の牙

つばいあって : : : 」 仲間の少女ふたりに対する気持ちも、彼はもてあましていた。透緒呼と真梛。正反対にも見 える一対の光を放っ姉妹。 ひ つよく魅かれるーーどちらにも。 けれど、それはきっと恋ではなくて。憧れでもなくて。 うれ どちらかが振り向いてくれるのは嬉しいと思う。かといって、振り向かれたとしても答えら れる自信がない。 よく、わからないのだ。この気持ちが何かが。 透緒呼がおなじ年頃の遊び相手を知らなかったように、亜羅写も同世代の異性を知らない。 気が付いたときには、すでに両親などなく、ましてや姉妹など見当たらなかった。 「すこし、キョリをおきたいだけです。オレ、何かあったら、呼んでくれたらきっと戻ってキ マスから」 頭を冷やしてみたい。離れてみればわかることも、きっとあるから 「ふん」 鼻を鳴らして、蒼主は身を起こした。寝室のほうへ取って返し、なにかを握って戻った。 腰かけている亜羅写の目の前で、手をひらく。 「宝石 ? 」 あ第一が

3. 影曨の庭 : カウス=ルー大陸史・空の牙

・ : 春ですねえ ( うらうら ) 。 「もうそろそろ鯉のばりも上がるって言ってんのに、なにが春じゃあ、初夏だろうが」と思わ れた方。いえいえ、春なのです。だって、この間の本は「あけましておめでとう」で冬 ( いや 新春か ) だったんだもーん。わたしにとって、この本は「春」の本なんだもーん。 って、前回からこればかり だから、出だしは「うららか」な春、ですねえ。しみじみ。 こよみ だな。自分の意識にあわせて、世間の暦を無視しまくるという。わがままも、そこまできたか ひびきの 響野。 ( そういや、これが出るころには古い話になるだろうけど、『我慢できない ! 』とゆー ドラマに出ている鈴木京香さんに〈ちょっと〉似てると友人 ( 9 ) に言われた。美人さんなの うれ カきわみさん日鈴木京香は超ワガママ。『君の名は』の時よりか、こ で嬉しかった、。 : とっちに似てるよね。とは。ふふ : : : ふ、そうゆうコトか。つきあいが長い分エンリョがないよ あ と、まあ。それはおいておいて。カウスルー大陸史・空の牙の第三部の開幕であります。 ↓めどかき

4. 影曨の庭 : カウス=ルー大陸史・空の牙

シイナ れたよ。『女神』であえて名前を出さなかったのは、アンタが参入すると、獅伊菜んちが、ま すますやっかいな状況に置かれてゆくからだったのになあ。ごめんねしーちゃん ( くすくす と笑ってしまうあたり、やつばり性格の悪いわたし。 そうだ、題名のことですが、かげろうの「ろう」に、わたし「瓏」と言う字をあてましたけ ど、あえて言えば「朧」の誤字じゃあないです。載ってない辞書もありますが、日本で〈とり あえず〉使用される文字、ではあるらしいです。意味は「朧」といっしょですが、ただ、タイ トルの意味合いとして、月 ( 朧 ) の影というよりは太陽 ( 瓏 ) の影ⅱ「はかない ( かげろう の ) 日陰 ( の身 ) 」に通じさせたかったのでこっちをとりました。 さてさて、近況ですが。最近、わたしはじめて『三国志』がどういうお話なのかを知りまし はあく た。名前だけはだれでも知ってそうな有名なやつなのに、人の名前すら把握してなくて。 すま げんじ なんでか、といえば「本が読めなかったから」。源氏物語を読み進んで、半分くらいの須磨 で挫折するのを「須磨返り」という、とどこかで聞くか読むかした気がしますが、わたしの いいな」とおもってた男 と『三国志』に限ってはそれ以下でした。じつは、数年前に「ちょっと あ の子が三国志のファンで、ひびきのは共通の話題が作りたくてトライしたことがあったのでし ーダイジェスト版に。 た。それも、どうみても小学生向けのスー ざせつ

5. 影曨の庭 : カウス=ルー大陸史・空の牙

筮音を移す準備ができたと言いにきた侍女は、扉をあけたとたんに聞こえた怒声と、いきな り現れた長身の男にしりもちをついた。 クョウ ぶツ、と空気のちぎれる音がし、九鷹が蒼主の目の前に降り立つ。 じゅうたん ふみしめた絨毯にほこりが舞った。外から飛んできたらしい 「もう少ししたらおいでなさい」 九鷹の出現に、筮音が起き上がった。手を振って下がれと侍女に合図する。なにがなんだか わからないが、それでも侍女は立ち上がった。出てゆく。 「ずいぶん早耳のようね」 寝ている場合ではないと、気力だけで思っているのだろう。顔色は相変わらずのままだ。 けれど筮音は〈弱さ〉を叩きつぶした。摂政としての役割を果たすつもりなのだ。 「早耳は俺じゃねえ」 九鷹は顔をしかめた。よけいな問答は、ひとつでもしたくないように言葉がみじかい。 「俺はまだ何も知らねえよ。だから、ここに来たんだろうが。 いま、透緒呼がふッ飛んで 庭った。なにがあったんだよ ? 」 瓏王宮の空で風に吹かれていた透緒呼が、急に落下しかけ、すぐに何事かを風に怒鳴って消え たのは、ついさっきのことだ。 そのとき九鷹は地上にいた。もう少ししたらからかってやろうかと、そっと身をひそめて様

6. 影曨の庭 : カウス=ルー大陸史・空の牙

「わかったわ。ありがとう獅伊菜様」 何がわかったというのだろう。紫万は桂斗の代わりに理由を問うてはくれなかった。それと も、貴婦人ともなれば、この会話で充分なのだろうか。 「うけてくれるね、姫」 「ええ。よろこんで」 「たいこうさまッ ! 」 桂斗の意志は、完全に無視されていた。知らない間に、 契約が成立する。だれも承知してな どいないのに、あたしは〈売られる〉 「それじゃあ、桂斗。そのうちまた、様子を見に来るから。よく、仕えてくださいね。わたし ゅうげ の妻となる婦人ですから。ーーー姫、今日はこれで。タ餉の席で、また逢いましよう」 「お帰りですか、大公さま」 そばに控える少女が、たまらなく残念そうだった。彼女はまだ、お茶の用意も終えていなか っこ。 「ごきげんよう、獅伊菜様。またね」 みが 紫万はあっさりとしたもので、ちいさな手を振る。その磨かれた爪には、ひとつひとつ、花 の模様が描かれていた。 獅伊菜がでてゆく。足音が完全に消えてしまわないうちに、桂斗は崩れるように膝を折っ ひぎ

7. 影曨の庭 : カウス=ルー大陸史・空の牙

まばろし 声が聞こえた ! 開いた空間の先から、幻のようにばやけた音が雪のようにひらりと、お ちた。 「しゅちょうつ」 「さわぐな ! 」 いっかっ 泣き声を一喝し、彼はより注意深くそれを見つめた。この穴のような黒球が、セラニアと の通り道になっていることはわかっている。いままでは、それがうまく作用せすに被害がもた らされていた。 けれどいまは ? 「だれか、渡ってくるのか ? 」 ガケンモン かって、牙剣門がセラⅱニアへつながっていたときには、もちろんその開閉ごとになにか起 きることはなかった。これはその時とおなじ、正常な動きではない 『うわっ、オスナ ! 』 首長の巡らせた考えを破るように声がし、そのまま何かがどっと転がり出た。数人がもつれ っちばこり 合って転んだのか、大きな影がばたんと倒れ、土埃がもうもうとあがった。 「つてーな ! 俺の足蹴っていいとおもってんのか、小僧 「アンタの足がオレのほうにでてキタんだよっ。 だれダョこの手 ! 」

8. 影曨の庭 : カウス=ルー大陸史・空の牙

いてもわかる。 : 。私は、昔、陛下をお慕いしていました。遠ざけられはしましたけれ 「決められません : ・ ど、一度は、その隣にあることを夢見ました」 王妃になることを喜びとして教えられてきたのだ。王妃になることだけを、夢見させられて 過ごしてきたのだ。 筮音が一一 = ロ葉に詰まった。目の前の義娘は、まるで少女の頃の彼女とおなじだ。 まばろし 見つづけてきた夢は、破れてもその幻を消しはしない。忘れたふりをしていても、夜のは ひなた ざまに、昼のむこうに、あらわれて、すり抜けては消えて、日向のゆらめきを見せる。 トウザーシャとの恋が、最終的にどう終わったのかを筮音は知らない。あの〈陽使人形〉 が、彼女を守りつづけていったことを知らない。彼によって真梛が救われたと知らない。 『マーナ』 〈陽使〉の思いを知っていたら、筮音は動いただろうか。独断で、夫を敵にして戦っただろう 否。 「真梛」 げんっ ふたたび首を振って、筮音は静かに言を継いだ。どんな状況にあっても、彼女に言えること した

9. 影曨の庭 : カウス=ルー大陸史・空の牙

ろう。矢禅がいるころは、彼がすべてを処理していたのに , 「失礼いたします」 年齢を感じさせる落ちついた声がし、初老の侍女があらわれた。毛布のはしからひと目見 て、蒼主は苦い顔になる。彼女は位のついた者ではないが、ながく奉公している人物だ。少年 だった蒼主を知っているものは、礼儀を知ってはいても、彼に対する恐れをそれほどもたない。 こう やっかい ときには真っ向から意見することもあり、 ・ : 厄介な存在だった。 しつむ 「なんだ ? 今日の執務には、わたしは出んぞ。そう前宮に言ってあるはずだ」 前宮の大臣が聞いたら慌てるだろうことを、平然と口にした。もちろん、そんなことはひと ことも言った覚えはない。 きようしゆく ことづ アラシャ しいえ。執務からの言伝てではございません。亜羅写様が、早朝に恐縮ですが、是非にも お目にかかりたいと」 いやみ ひる 早朝、是非にと厭味に強調して、彼女は返事を待った。おそらく、時刻は午にかなり近いの だろう。言い方からして。 「ーー・通すように」 庭 瓏いやな女だと歯がみしながら、彼はそのまま答えた。笑いを噛み殺すように女が頭をさげ、 影 かしこまります、と一一 = ロい置いて下がる。 困った人だ、とかけた含みのあるセリフに、できたら物を投げつけたい気分だった。

10. 影曨の庭 : カウス=ルー大陸史・空の牙

「理由もねえのに呼ぶか、ばーか」 「じゃあ、一一 = ロえばいいでしよ。そしたら、私だって歩くわ、 ツ、なによツ」 ー ) ゅツ。 みじかい音を残して、その場からふたりが消える。歩いてきた九鷹が、透緒呼をひったくる ようにして、そのまま空間移動に入ったのだ。 「やれやれだわ」 締められた首をさすりながら、真梛が肩をすくめる。まるで、進歩していないのだから。ふ たり・と・も。 「界座公女」 いちど退いた首長が、真梛のところへ戻ってきた。背の高い彼を、彼女は見上げるようにす る。 「はい ? 」 しつねん 「失念していたが、あなたと妺君に帰還命令が出ております。界座城から」 「ーーー父からですか ? 」 庭一みけん の眉間にしわを刻んで、真梛は聞き返した。滅多にないことだから、嫌な予感 : : : がする。 影「そう。あれが戻ったら、すぐに戻られると、 しい。こんな辺境にまで、あなた方が現れたら伝 えてくれと知らせが届いているのだから」 めった