は、「人々が心を合わせて働」く、その働きが乏しすぎて効を奏さなかった至らなさにこそ見出 されるのです。侵略者が悪いのではない。十分に「心を合わせて働ーくことに努めなかった国民 が悪いのです。だから、「防衛の組織」をつくらなかった日本国民のほうに落度があるのですか ら、共産主義国の侵略を甘んじて受け入れなければならないのだよ、と近い将来にそなえて久野 収はあらかじめ教え訓しているんですよ。 これからの侵略に対してすら屈服しなければならないのですから、ましてや、すでに占領され ている厳然たる事実に、不平を鳴らすなど以ての外です。 例えば火事泥式に領土でも返してもらおうという浅ましい根性などは、自分で自分の問題 を解決しようとしない根性の現れですからね、やはり領土の問題とか人口の問題とか生産資 身 源の問題とか、その組織、機構といった問題を真に突き詰めてゆけば、解決策ははっきり出 の てくるんじゃないか。そして、その解決策は、やはり社会主義だと思うのですが : 識 意 カ ( 『対話史』 1 巻燗頁 ) 権 意 火事場泥棒、略して火事泥とは、火事場のような混乱につけこんで利益を占める人を意味しま 喝 す。普通の常識からすれば、共産主義ソ連が北方四島を奪った手口こそ、文字どおりの火事泥な 恫 章んですが、久野収の眼光に照らすとき、ソ連の遣り口はけっして火事泥ではないのです。むしろ 第正々堂々と占拠したなあと、その人目もはばからぬ強奪ぶりに、心中では感嘆しているのかもし さと あらわ もっ
に取りくんでいるのだと見せつけなければなりません。「世界に共通ーの課題であれば翻訳され て「世界に共通」の理解を得ることができるでしよう。丸山眞男は、なかなか隅におけない作戦 家なのです。 丸山眞男にだけ見える摩訶不思議な情景 さて、こうして日本にもファシズムがあったと自ら認定するや否や、丸山眞男は、ただちに 「日本のファシズムの社会的な担い手」の究明に着手します。おそろしく単純な有無を言わせぬ 二分法によって、有罪者が摘発される一方で、無罪の判決を受けとる人たちが確定するという仕 組みです。この場合は、社会を構成するさまざまな人間の当然な個人差は、 いっさい問題にされ じつば ません。十把ひとからけに、特定の社会階層に属する人のすべてが狙い撃ちされます。 日本におけるファシズム運動も大ざっぱにいえば、中間層が社会的な担い手になっている Ⅷということがい、んます。 ( 頁 ) 特徴的なことは、日本に果たして「ファシズム運動」があったか否かの検証がまったくなされ ていない致命的な手抜きです。ファシズムではない軍国主義的な気分、山本七平の言う「空気」 ( 文春文庫『「空気」の研究』をぜひともご参照願います ) なら、それは確かにあったでしよう。しかし昭 和二十年に旧制中学校三年生であった私は、それに先だったとえば一〇年間、わが国に勢い猛な な か 6 も、つ
大前提です。この点に関しては、さすがの丸山眞男も理論的にまったく自信がなく、いちおう論 点をわざと避けて通るという作戦に出ました。 次に問題へのアプローチの仕方として前もっておことわりしておきたいのは、日本ファシ ズムをいう場合、何よりファシズムとは何かということが問題となってきます。「お前はい きなり日本ファシズムというが、日本にそもそも本来の意味でのファシズムがあったか、日 本にあったのは、ファシズムでなくして実は絶対主義ではないのか、お前のいうファシズム の本体は何であるかーという疑問がまず提出されると思います。これについても私は一応の 解答は持っておりますが、ここで最初にそれを提示することはさけます。そういうことを、 お話しすると勢いファシズム論一般になってきます。ファシズムについてはいろいろな規定 がありますけれども、こういった問題をここでむしかえす暇はとてもありません。そこでこ ( 頁 ) こでは不明確でありますが、ひとまず常識的な観念から出発することにします。 じよ、つとう これは、丸山眞男にかぎらず好え格好をしたい論客が、かならず用いる常套の論法でありまし 冷て、難問の神秘な「解答」はとっくにわが胸に在り、されど今は秘して容易には洩らさぬそ、と どんちょうしばい 大見栄を切る型どおり緞帳芝居の役者です。 章その証拠に、問題の根幹をなす日本ファシズムの本体は何か、という快刀乱麻を断つごとき明 第快な洞察は、『現代政治の思想と行動』約六〇〇頁のどこにも出てきません。要するに、架空の えかっこう
組織させ、成長させ、発展させ、奮起させ、日本における階級闘争を激化させ、日本の国力を弱料 める工夫であったと受けとらざるをえません。 日本への恐怖が生んだ「三十ニ年テーゼ」 そして、国際共産党組織が発行した文書の数量と継続性から見るとき、国際共産党組織の課題 とする行動の優先順位の第一は、実質的には、まさしく日本問題であったと考えられます。その 理由とするところを、「三十二年テーゼーが、次のごとく明白に述べているのです。 とくに注目すべきことは、二個の帝国主義的憲兵ーーヨ ーロッパの憲兵である帝国主義フ ランスと、極東の憲兵である帝国主義日本ーーの同盟であって、この両者はともにソヴェト の国にたいする出征の発頭人としての役割を引きうけたのである。日本帝国主義は、極東か ら攻撃することによって、それと同時に、またはすぐっづいて、西方からフランスとその諸 てはず 属国 ( ポーランド、その他 ) がソ連邦を攻撃できるような条件をつくりだす手筈になっている。 日本が中国におけるその強盗戦争において他の帝国主義列強や国際連盟全体から支持をうけ た理由は、なによりもまさにこうした反ソヴェト計画によって説明される。 当時の共産主義ソ連は、すなわちスターリンは、諸国がソ連に攻めかかる際に、日本こそがそ の先兵の役割を担うと信じていたのですね。その見通しが当たっていたかどうかはさておくとし lllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllll コミンテルン ほっとうにん コミンテルン
版、昭和年 6 月日刊、頁 ) と認めました。 しかし、それだからますます頑張るそ、という強硬な心意気なんでしようね。 なにしろ金魚の糞のように小粒がたくさん連なっている進歩的文化人の大軍を、小手をかざし て眺めるように見渡して、誰からも言われたわけではないのに、みずから進んで自分が「先頭」 を切っているのだと言い立てる心臓は、相当なものです。何事につけても、人間は自分を高みに おくことで幸福になれるものなんですね。 では、なにゆえに久野収は自分が進歩的文化人の「先頭」を行く顕著な存在であると公言する だけの自信が持てたのでしようか。ここに、いささか興味ぶかい証言があります。伊藤整の代表 的な名論文が生まれたのは俺様のせいだそという、伊藤整を前においての露骨な手柄話です。 ぼくは、『中公』の戦後を代表する論文にはいった伊藤さんの「近代日本人の発想の諸形 式」、『思想』の編集長がきていろいろ話をしているうちに、この問題で伊藤さんに書いても らったらといって、示唆したわけです。 ( 〈久野収対話集〉『思想史の周辺』人文書院、昭和町年Ⅱ月 1 日刊、頁 ) 普通、この種の内輪話は、編集当事者の立場のことも考えて、みだりに口外しない心得が ジャーナリズム 言論界における常識ですが、久野収は : せひともこういう話題を記録に残しておきたかったの でしよう。 ふん 174
シナに「しつかりとした謝罪と補償」を行なえ、というのが大江健三郎の主張で しようかいせき す。しかし中華民国総統蒋介石は日本に対する賠償請求権を放棄する旨、公的に 声明しました。ゆえに中華民国の正統な継承者であるという建て前の中華人民共 和国は当然のこと前政権の方針を受け継いで賠償は不要であると認めました。し たがって大江健三郎の言う補償とは実は献金を意味します。日・本人約六〇〇〇万 の勤労者に対して大江健三郎は、貴様たち、こぞって金を出せ、と叫んでいるの です。税務署より恐い人ですね。 良識の府・参議院が示した見識 平成七年が戦後五〇年にあたることから、これを機会に、わが国はアジア諸国に謝罪の意を表 ジャーナリズム すべきであるという提唱が出てきました。例によって一部の言論界がはやしたて、政界では社 会党左派が言い出し兵衛となり、それに同調する議員も現われたという次第です。 げんじ しかし、もともと謝罪なんていうわけのわからぬ情緒的な言辞は、政治の次元で課題となるべ しした き性質のものではありませんから、それは問題にならない一時の発作的な筋ちがいの言立てであ ると正当に判断し、反対する議員も少なくありませんでした。 しかるに、社会党左派の当時の首相・村山富市が、それを推進しようと熱を入れます。衆議院 では議長が土井たか子ですから、なにがなんでもと、ごり押しの議論が進められました。 一方、それを非とする常識のある議員の反対も少なくなく、結局はあれこれ妥協の産物とし 268
「解放ーされていないのを口惜しがる坂本義和の歯ぎしりが聞こえてくるようではありませんか。 世界認識の焦点は「解放ーです。共産主義国家は、世界を「解放ーするため努力しているので すから、その総本山であるソ連に楯つくことなど以ての外です。 日本がいちばんのポトルネックだとしているのは、北方領土問題でしよう。しかしあの小 さな四島のことで、冷戦の終結、日ソ関係進展という重要な課題への貢献をストップさせる とい、つのは、 いったいどういう外交的センスだろうか : ( 平成 3 年 9 月川日「地球時代に生きる』岩波書店 ) 家 弁 す共産主義ソ連がわが国の固有の領土である北方四島を占領しているからといって、怒ったり憎 断んだり怨んだりしてはなりません。その占領者であるソ連との「関係進展」のためには屈伏に甘 家んじて意に介さず、そんなことはすっかり忘れて仲よくしていただくために「外交的センス」を 侵持たなければいけないのです。 的 この人が理想として思い描いている「外交的センスーとは、相手の理不尽に抗議するような非 済 を礼を慎しみ、ひたすら先方のご機嫌をうかがう卑屈に徹する平伏なのでしようね。 本 日 章 日本は「二島返還」でひと区切りつけ、あとは残り二島との国境が無意味になるような経 第済・情報・ヒトの交流を深めていけばいいのではないでしようか。これも平和のための「国 もっ 263
安江良介が展開する議論は、北朝鮮はすべて正しく、悪いのは必ずわが国の側であるという判 あくぎよう で捺したように単純な日本悪行論です。 例えば、北朝鮮に抑留されている第十八富士山丸の二人の日本人船員の問題です。なぜ人 むずか 道的見地から解決できないのかと、北朝鮮の非寛容を思う人や朝鮮問題の難しさを思う人が 多いと思います。たしかに経過を見れば複雑そうにみえますし、いまのところは容易に解決 しえないだろうとみざるをえません。しかし、結論からいえば、日本政府が本当に解決しょ うと思い立ち、みずから努力するならば、必らず解決し、二人は家族の許に帰れる、と私は ( 前出『孤立する日本』頁 ) 確信します。 もぎどう 北朝鮮がどれほど没義道な行為に出たところで、それの事態が「解決」されないのは、北朝鮮 降の満足するように日本が平伏外交をしないからであり、わが国が北朝鮮の言いなりになってこそ 条初めて「本当に解決した」ことになるというわけです。 北朝鮮に対して屈辱外交、土下座外交を勧めるだけではありません。ソ連のすることに逆らう よろ のもまた、宜しくない心構えなのです。 北方領土問題についても、『世界』は一貫して冷戦を克服する立場から領土優先の考えを すす 〃土下座外交の勧め〃 ⅢⅢ さか 163
スになるのかもしれませんね。 それはともかく、大内兵衛はもちろん北方領土問題をめぐってはひじように慎重で、いつもざ つくばらんな文章を書く人が、突然にはなはだしく口ごもります。 領土問題はもちろん大切である。國民としては寸尺の地も失いたくないのは至情である。 そしてまた戦爭の結果は、この問題についての結末を中心とするものであるから、これにつ いて國民の議論がやかましいのは當然である。しかしこれにも一定の約束があり、歴史があ る。それを正しく考えそれを國民の前に決しておかないで、ただ、昔あれは日本の領土であ ったから、あれをよこせというのは、外交ではなく、正しい政治論でもない、それ自體完全 なショービニズム ( 注・国粋主義 ) である。帝國主義である。そう國民感情論だけでは、講和 條約などはできない。そうではなく、そういう國民的要求をいままでの自國の態度と、両國 間の約束と双方の將來の利害に照して考え合せて、その上で合理的な妥協點を見出すのが講 ( 同前 ) 和談判なのである。 要するに、わが国が北方領土にこだわるのは「ショービニズム〈国粋主義〉」であり「帝国主 義」で醜く卑しい。しかし、共産主義国家・ソ連が北方領土を確保するのは「ショービニズムー でもなく、「帝国主義」ではない正常な合理主義である。だから、今後はソ連側の真当な「外交」 と「正しい政治論」に従うべきだというのでありましよう。無条件降伏論がそうであったよう まっとう
大正凵年 1 月下旬 日本共産党についての極東部上海会議一月テーゼ 大正凵年 5 月中旬 日本の労働組合運動についての五月テーゼ 大正年 3 月中旬 日本問題についての決議 ( モスクワ・テーゼ ) 大正年 3 月凵日 日本代表団の報告にたいする決議 日本共産主義グループの活動についての指令 大正年 3 月中旬 大正年 3 月下旬 日本問題についての決議 日本についてのテーゼ ( いわゆる二十七年テーゼ ) 昭和 2 年 7 月日 昭和 3 年 5 月 4 日 日本共産党の当面の任務 昭和 3 年川月 2 日 日本共産党当面の任務 ( テーゼ ) 昭和 3 年川月日 日本に於ける労働組合運動 ( 決議 ) 昭和 5 年 1 月 日本共産党についての決議 昭和 5 年 2 月 6 日 日本におけるさしせまった選挙と共産党 し 日本における情勢と日本共産党の任務についてのテーゼ ( いわゆる三十二年テーゼ ) 誰 昭和 7 年 4 月 家 国 テーゼ ん 以上のように、何回も重ねて、しつこく似たような指令や決議や方針書を出しています。 コミンテルン 章国際共産党組織にこれほど重要視されたのは、事実の問題として日本だけなのです。まるで しそう コミンテルン 第国際共産党組織の主要な任務は、日本共産党を監視し、教育し、指導し、指嗾し、日本共産党を シャンハイ