トランセルバ - みる会図書館


検索対象: 星は踊る : アル・ナグクルーンの刻印
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1. 星は踊る : アル・ナグクルーンの刻印

131 星は踊る 〈シレウス ? ヴューの通信だって ? 〉 やがてアシリアックの声がした。ヴュティーラ以上にほっとしたシレウスの顔に、むっとし ながらも兄を待つ。 〈ゃあ、ヴュー テックに着いたんだって ? 〉 ゆず シレウスから通信機を譲られたアシリアックが現れた。「わしはこれで」とシレウスが、居 残りたがるガレウスを引きずって出てゆく。 「じゃあね、じい そうよ、兄さま。早かったでしよう ? 飛行機に乗ったのよ」 はず 笑いかけてくる兄の顔に、懐かしくて声が弾んだ。アシリアックが首を傾げる。 〈飛行機 ? 〉 「そうなの。テックの特別機で、早いの。トランセルバから、半日で着いちゃうのよ」 〈半日 ? 〉 驚いて彼は瞬いた。嬉しくなってヴュティーラは頷く。 「そう ! 」 この兄には、話したいことがたくさんある。クインティーザのこと、トランセルバの祭りの こと、不思議なテ・クラッドの都市のこと。 ヴュティーラはロを開きかけ、はっとつぐんだ。 画面の隅に、黒い影がある。 つね シザマイルだ。そう思うと、気が重くなった。兄に常に影のように従っている彼を、どうし すみ かし

2. 星は踊る : アル・ナグクルーンの刻印

「なるべく早くせいよ。問題がいっこうに片づかぬからの」 「わかってる」 評議会でも、化け物の正体は掴みきれていないのだ。出現のおおもとの予想はついているの だが、それも確証はない。 「それにしても : : : 」 リカレドは、自分の飲み物を手に取った。 「それで、連れ帰ったのが〈あれ〉か」 ヴュティーラのことだ。 こ、ナイザはかッとリカレドを見上げ まるで捨てられていた獣を拾ってきたかのような口調レ た。取り紛れていた怒りがぶり返す。 「そうだよ。さっきの態度はなんなんだよ、じっちゃん。ヴュティーラは俺の客だ。無視しゃ がって、何のつもりだよ ? 愛想笑いをしろとまでは言わない。だが、それなりの礼儀は払ってほしかった。 「取るに足らぬ」 老人は一言で切り捨てる。 「どういうことだよ ! あいつが俺の〈探し物〉だって、トランセルバで言っといただろ つか

3. 星は踊る : アル・ナグクルーンの刻印

彼は背後にしたがっていた男を振り向いて訊ねた。髪を喇ね、ふちのない眼鏡を駆けた男が 「仮の票はできています。正規のものも、ほば終わりました。あとは、本人に訊ねた事項を登 録するだけです」 そちらの仕事に、問題はないようだった。 「そうか。仮票は、どのくらいの階級にしてある ? 」 「階級五です。それ以上でないと、八区にいられませんから」 だとう 「そうだな。それが妥当だろう」 「はい」 リカレドは男の胸についた認識票を見た。 , , 彼のは階級二、自分のものは階級一だ。 リカレドは振り返り、中庭に目を向ける。 男たちの足から、ゆっくりと赤黒いものが白い床に広がってゆく 機体は空を切り裂くような音を立て、南西へ進んでいた。 かわば 嵐のようなごうごうという音と振動が、ヴュティーラの座る革張りのソフアに伝わってく る。トランセルバを 0 てからず 0 と止まないその音に、彼女はうんざりしていた。

4. 星は踊る : アル・ナグクルーンの刻印

117 星は踊る 聞こうとする意志が生まれていた。 こす ぬれた頬を擦って顔を上げる。その様子を見ていたウイラ・ジーンはうなずき、慰めるよう 、頬に触れた。 「人の持っ〈連獣〉がいかに大事かは、わたしも知るところです。失った哀しみも、経験はし ていませんがわかります。だから、意地悪ではないんですよ ? わたしはただ、あなたがこれ 以上、無意味な捜索をしないようにと思って言ったんです」 ゆくえ たしかに、クインティーザの行方を知るためならば、ヴュティーラはどんな小さな情報でも 追って、世界を巡っただろう。 よ亠つよう・ 「これがどういう予兆なのか知りませんが、クインティーザらしき鷹は、たしかにあなたのな かにいます。わたしのナグクルーンがっげるものですから、間違いはないでしよう」 「なぐ、くるーん ? ふたたび耳にした言葉に、ヴュティーラはしばたたいた。あのトランセルバの時のはざま で、。ハーフィ・ラーも口にした言葉だ。 そして「アルーナグクルーン」とナイザも。 「それ、どういう意味 ? 」 「ナグクルーンですか ? 〈星〉ですよ」 訊ねると、ウイラ・ジーンはためらいもなく答えた。 「じゃあ、『アルーナグクルーン』は ? 」 なぐさ

5. 星は踊る : アル・ナグクルーンの刻印

なしか、リカレドは不機嫌だった。 ( わたしを、見ようともしなかった ) ヴュティーラは目をあけた。 彼女がナイザとともにテ・クラッドへ入ると、あの老人は聞いていたはずだ。トランセルバ で、通信したのだから。 それなのに、彼はまるでヴュティーラを無視した。そこにいない者のように。 取るに足らない者のように。 ( ナイザは、探し物って、わたしのことを話したのに ) ナイザにとっては、ヴュティーラは偶然見つけた宝も同然だった。誰も扱えない〈気吼銃〉 を撃った。「君はテックに来るべきだ」と、彼は言ったのに。 リカレドの態度が悔しかった。評議会の人間だというが、それほど偉いものなのか。 テ・クラッドは、そこに住む意志のあるものならば、受け入れてくれるのではなかったの 「納得いかない。あのくそじじい」 悪態をつき、ヴ = ティーラはルを噛む。あいさつくらいしてくれた 0 て、罸はあたらない。 る 「そっちがその気なら、こっちだってそうなんだから」 星 頬を膨らませる。だが、じっさいにリカレドに会って、冷ややかでいられるかは、わからな カた

6. 星は踊る : アル・ナグクルーンの刻印

白い甲冑の男を先頭に、彼らはアキエたちに向かってくる。必死で心を落ちつかせようと、 彼女はカジャの袖を握る。 その物々しい一団に、カジャはかッと胸をそらした。 精一杯にらみ据えるが、肩がこわばっている。 さすがに気圧されているのだと、アキエは背中から感じた。相手は、身分高い者と一目でわ かる。ただの貴公子ではない。 男たちは、二人の目の前で止まった。 「この二人か ? ナハルーン」 貴公子が背後の男に問う。顔の見えない男が、言葉をださずにうなずく。 どな 待っていたかのように、カジャが怒鳴りつける。 「なんだてめえらはー もう祭りは終わったんだろ」 彼らが足止めを食らった、トランセルバの〈ラ・ククルの祭り〉のことを言っているのだ。 てて、アキエは袖を揺す 0 た。 る 「違います力ジャ。この方たちはーー」 星 「そなたは、わたしを知っているのか ? 」 はりのある、けれど静かな声が訊ねた。白い甲冑の男だ。 かっちゅう

7. 星は踊る : アル・ナグクルーンの刻印

けんお ナイザがひくく言う。その声に、ヴュティーラは嫌悪をかぎとった。 「会ったことがあるの ? 」 あいさっ 「じっちゃんと一緒に、挨拶をするくらいはね」 ここからでもわかる豊かな金髪に、ヴュティーラは目を奪われていた。美しい人だとわか る。物腰は粗でも丈高でもない。 大国の皇太子だと思えば当たり前の振る舞いだ。取り立てて鼻につくほどではない。 「ふうん」 相性が良くないのだろうと、ヴュティーラは聞き流した。 どこが悪いわけでもないのに、合わない者同士はいる。彼女とカジャだってそんなものだ。 レザンティアの人間が次々と下りてくる。黒い甲冑の衛兵らしい男たちの後ろに、彼らとは 装いを異ならせた者たちが続いた。 「あ」 ヴュティーラとナイザは、同時に声を上げる。思わず二人は離れ、まじまじと顔を見合わせ あの二人。 あざやかな青い上下を着た少年と、黒ずくめの髪の長い少女。 間違いない。 トランセルバで別れたカジャとアキエだ。 っ ) 0

8. 星は踊る : アル・ナグクルーンの刻印

扉が、ノックされた。 「お飲み物は、何をお持ちしましよう ? 」 じゅうめん 入室を控室の〈機械〉で知った給仕がやって来たのだ。リカレドは渋面のまま、苦い飲み 物を二つ頼んだ。 リカレドがそれを頼むのは、愉快な談話の時以外だと誰もが知っている。 必要以上かまうな。 その合図に給仕係は顔色を変え、あわてて退室しようとした。 「ナイザ、腹が減っとるだろう ? なにか頼みなさい」 「え、ああ」 うなが 促されて、トランセルバを出て以来、何も口にしていないのに気づいた。ナイザは軽食を頼 「かしこまりました」 ちゅうばう 四十に手の届く年齢の給仕係はうなすき、足早に厨房へと去っていった。 恐れをなした様子を見つめながら、ナイザはリカレドに感心する。 大した男だ。この老人はその時の気分によって飲み物を変えることで、長い時間をかけて る 『自分』をおばえさせたのだ。 まわ 星 今は告げた飲み物で、周りが言わずにも彼を理解する。彼は自分を伝説にした。 「あれには、何度会った ? 」 む。

9. 星は踊る : アル・ナグクルーンの刻印

機体が壊れたのかと、ヴュティーラはぞっとした。だが、ナイザはちらりと振り返り、笑っ て手を振る。 「ちがうちがう。連絡がついたのか、ってこと」 「〉くく・なによもう ! 」 まぎ 紛らわしい言い方をしないで欲しいと、彼女はふたたびソフアに倒れこむ。ここには、こん な飛行機に乗るのさえはじめての自分がいるのだ。落ちる、や、取れる、はよしてほしい。 「八区管制からです。矢印が出ました」 きどう 「ああほんと。じゃあ、少し軌道が変わるか」 「そうですね。予定では、四半刻後、三番への着陸となります」 「三番 ~ ! 」 ナイザが 0 頓狂な声をあげる。不安になり、ヴ、ティーラは彼を見上げた。 「どうしたの、悪いこと ? 「え ? や、違うけど。 ・ ~ ~ うーん。こりゃあ、ついたそうそう説教かあ」 「なによナイザ、どういうこと ? 」 ひとり言ではなく、きちんと答えてほしい。 「うーん、だからさ。三番てじっちゃんの部屋から近いんだよね。ほら、トランセルバで通信 機つかって話したの、覚えてるよね ? 」 二人でにわかづくりの飛行機でテ・クラッドを目指し、草原に墜落したのちたどり着いた町

10. 星は踊る : アル・ナグクルーンの刻印

鷹を心に持った少女、ヴュティーラ。彼女を、彼は追っている。自分では否定しているが、 確かに追っている。 そうでなくて、こんなにも急ぐものか。まるで雲を掴もうとするように、急ぐものか。 彼が急ぐのは、ヴュティーラがテ・クラッドへ飛行機で向かったからだ。別れた場所、トラ ンセルバからは、およそ半日でゆく。 それに対して、アキエたちは徒歩だ。そのうち馬か馬車をくすねるつもりではいるが、それ でも今は歩くしかない。 テ・クラッドまで歩いて、五十日ほど。馬ならば、その半分で着くだろうか。 どちらにしろ、ヴュティーラたちの手だてよりは恐ろしく時間がかかる。飛行艇に乗れれば よいのだが、トランセルバからでは最寄りの乗り場までも、四、五十日はかかるだろう。 せ 直接に目指すほうが時間がかからない。とはいえ、五十日の旅では、気が急く。 ヴュティーラはいるだろうか。自分が着いても、まだテ・クラッドにいるだろうか。 その気持ちが、カジャを道のり稼ぎに駆り立てている。ロではどんなに「ちがう」といって も、たしかにそのために。 わたしには、見える : る くちびる カジャについて歩きながら、アキエは唇をかみしめる。辛い旅になると知っていて、彼の 星 もとを離れられない。 いずれカジャがヴュティーラに心変わりすると知っていて、身を引くことができない。 つら