気 - みる会図書館


検索対象: 星は踊る : アル・ナグクルーンの刻印
191件見つかりました。

1. 星は踊る : アル・ナグクルーンの刻印

「その名前、他では出すなよ。彼を知ってるのは、じっちゃんと図書館のねえちゃんくらいの はずだ」 受付にいた女性のことだろうか。ヴュティーラは眼鏡をかけた職員を思い浮かべ、それから 横を向いた。 「わかってるわよ」 それくらい、言われなくたって承知だ。知られたくないと望むのに、無理にあかしたりはし 「あなたと二人だけだから、言ったの」 「ならいいんだ。 ごめん。俺すこし気が立ってる。一時は最悪のことも考えていたから」 ため息をつき、ナイザは髪をかきあげた。そうすることで興奮がおさまったのか、顔の色が 戻ってくる。 どな 「怒鳴りつけて、いやな思いをさせたよね。そうだ、クインティーザのこと、わかったんだっ 「うん : : : 」 ことさら穏やかにと思うような顔つきのナイザに、ヴュティーラは味気なく答える。気が急 いてひどいことを言ったと思うからこそなのだろうが、こちらはかえって気が削がれてしまっ 楽しく話す気にはなれない。 こ 0

2. 星は踊る : アル・ナグクルーンの刻印

175 星は踊る 「ナイザ。はっきりいって、わたし。いまはここが好きじゃない。〈機械〉を立て続けに壊し て、自信もなくなってきちゃった。疑われて、気持ちも良くない。 フイゼルワルドとは生きて く速さが違うのにも、うまくついてゆけない」 ゆが 昨日から感じていた歪みを、ヴュティーラは吐き出してゆく。楽になろう。心がそう命じて きんこう このままじゃ、押しつぶされる。その前に、自分の心の均衡を取り戻さなくては。 「〈機械〉のことは、俺が悪かったんだ。部屋の物を壊したの、気に病まなくていい。君は俺 と同じ体質で、フツウのものは使えないんだ。〈気〉が強すぎるんだよ」 うなが 思い出したようにナイザが言う。彼は軽く腕を叩いて、彼女の注意を促した。 「ほら。トランセルバで俺の作った〈機械〉、ちゃんと使えただろう ? 俺のものならば、他 のよりも〈気〉の許容度が高いんだ。だから、それは安心して。ヴューの使うものはみんな、 俺が作りなおす。そうすれば、安心して使えるよ。 俺も、そういう体質だから、〈機械屋〉になったんだ」 「 : : : そうなの ? 」 ナイザも〈破壊魔〉だった。そう聞いてヴュティーラは顔を上げる。振り向こうとしたが、 それをとめられ、彼の鼻が髪に押しつけられた。 「うん。ーーー話、続けていいよ」 いまは彼女の抱えているものを聞こうと、彼は言うのだ。そう、ヴュティーラは話さなけれ

3. 星は踊る : アル・ナグクルーンの刻印

目の前をナハルーンが通りすぎた。彼が興味を示すことは : どこかはっとしながらも、アキエは奥歯をかみしめる。 これが。つらい、最後の旅になるのではないかと、そんな気がした。 カジャ : 彼らを乗せた飛行艇は、夏空へと上がってゆく したじ 何かに挟まれ、固いものの下敷きになっていると気づいて、ヴュティーラは目を醒ました。 浮遊板ごと、図書室の奈落の床に激突したことは覚えている。その衝撃で、いくらか気を失 っていたのだろう。 ナが とりあえす生きてはいるが、我の状態はどの程度なのだろうか。 身じろぎすると、打ち身のような痛みが走った。顔をしかめ、様子をたしかめようと、でき る範囲で目をくばる。 ヴュティーラは胸を下にし、腰をひねるような姿勢になっているようだった。左手と両足は ワ 3 、な、かつに。

4. 星は踊る : アル・ナグクルーンの刻印

通信の途絶えた王城で、アシリアックは画面に向かったままだった。通信機の後ろにシザマ る はイルが回っている。 星 彼は、さしいれていた手を通信機から抜いた。その手には、細い刃が握られている。 それでコードを切ったのだ。 〈破壊魔さま〉 子供のころから言われつづけた言葉だ。けど、いまはやけに重い この〈機械〉の都市には不適合だと言われている気がした。ヴュティーラは、確かに歓迎さ れていない。長老の態度からも、それは明らかだ。 呼ばれて、来たはずなのに。 ばつんと思い 、うなだれる。彼女を熱望したはずのナイザさえ、どこか冷たい気がした。 「いいですよ、これが仕事ですから。でもお嬢さま、今日はこれで最後にしてくださいよ」 係員の言葉に、ヴュティーラはカなくうなずいた。まもなく運ばれてきた食事は温かかった が、彼女には味を感じられなかった。

5. 星は踊る : アル・ナグクルーンの刻印

「そなたたち、名は ? 」 つぶや 聞かれ、カジャがまず名乗る。アキエはそのあとに小さく呟いた。 「アキエ・ラヒメイ : : : 」 ナハルーンはこの名を知らないのだと、気が遠くなるほど自分自身に言いきかせた。ナハル ーンは、アキエを知らない。あの暗闇で〈暗殺者〉の素顔を見ることはかなわない。 だから、わたしに気づかない 気づかないで欲しい。どうかどうかどうか。 彼が知ることがなければ、カジャが真実を知ることもないだろう。アキエはメセネットの 〈暗殺者〉。エストウーサの兄を殺し、彼の即位を手伝った : わたしは、この手をよごした。 事実だ。けれど彼だけには知られたくはないー けれど、いっか気づくだろうか。 エストウーサたちと行動を共にすることで、ナハルーンはアキエについての何かを思い出す かもしれない。 それが、カジャに伝わるかもしれない。 もつれた運命の絲を、アキエは見た気がした。

6. 星は踊る : アル・ナグクルーンの刻印

す 真夜中の地下室に月が昇る こうしてここから夜空をめるのは、ほば一年ぶりだった。ナイザは両手で酒の入ったグラ スを温め、毛布にくるまっていた。 「やっと帰ってきた気がするーー」 ほんとうは、もっと早い時刻にここを訪れるつもりだった。だが、いくつもの用事がそれを させなかった。 ナイザは目を閉じる。図書室の修理の手伝い、〈気吼銃〉の調整、この一年の旅の報告書の ふところ シザマイルは、刃を懐に戻した。ゆっくりとアシリアックに近づき、その肩に触れる。 「ながく通信されると、悪い虫が出ますからー 彼に触れられた瞬間、アシリアックは目を閉じた。長い指で掴まれ、そろそろと息を吐きだ うなすいた。床に目を落とすように。 「そうだね。シザマイル」 つか

7. 星は踊る : アル・ナグクルーンの刻印

なしか、リカレドは不機嫌だった。 ( わたしを、見ようともしなかった ) ヴュティーラは目をあけた。 彼女がナイザとともにテ・クラッドへ入ると、あの老人は聞いていたはずだ。トランセルバ で、通信したのだから。 それなのに、彼はまるでヴュティーラを無視した。そこにいない者のように。 取るに足らない者のように。 ( ナイザは、探し物って、わたしのことを話したのに ) ナイザにとっては、ヴュティーラは偶然見つけた宝も同然だった。誰も扱えない〈気吼銃〉 を撃った。「君はテックに来るべきだ」と、彼は言ったのに。 リカレドの態度が悔しかった。評議会の人間だというが、それほど偉いものなのか。 テ・クラッドは、そこに住む意志のあるものならば、受け入れてくれるのではなかったの 「納得いかない。あのくそじじい」 悪態をつき、ヴ = ティーラはルを噛む。あいさつくらいしてくれた 0 て、罸はあたらない。 る 「そっちがその気なら、こっちだってそうなんだから」 星 頬を膨らませる。だが、じっさいにリカレドに会って、冷ややかでいられるかは、わからな カた

8. 星は踊る : アル・ナグクルーンの刻印

189 星は踊る 「それは俺もそう思う」 「ナイザ」 反論しかけたヴュティーラを押さえて、ナイザがばそりとつぶやいた。かッと見上げると、 彼は肩をすくめる。 「あんなあられもない姿で、恥ずかしかったよ、俺。エストウーサには見られるわ、じっちゃ んはわなわなしてるわ。夜、説教くらうかと思うと、情けないよ」 しキミだザマーミロ」 さわ 笑い声をあげるカジャに、ヴュティーラは拳を固めた。気に障るったらないー だいたい彼は、アキエを心配した二人の訪問からして、快く思っていない。何だ、来たのか よと、扉をあけた途端に嫌な顔をしたのだ。 「わたしが心配だったのは、アキエなんだからね ! 」 「ああそうでしょーとも」 語気を強めても、カジャは動じない。ヴュティーラは固めた拳を震わせたが、効果的な厭味 が見つからない。 「まあまあ、ヴュー 。まともに相手しちゃいけないって」 ナイザになだめられても、気は収まらない。肩で息をする彼女を、さらにカジャがせせら笑 「あんたもだよ。まともに相手しないのは、あんたじゃなくて俺だ」

9. 星は踊る : アル・ナグクルーンの刻印

げればいいのよ」 テ・クラッドに対する夢は、かけらも残っていない。 ヴュティーラはナイザに言った。 きこうじゅう 銃が運ばれてくる。たしかに〈気吼銃〉だと確認し、ヴュティーラは手に取った。 「長老様、どこに向かって撃てばいいのか、教えてくださる ? 」 「まあ、待て。いま標的をつくる」 リカレドが言い、兵士のような男たちががらくたを運んでくる。 彼らは金属で出来たそれを、立っている黒い棒にくくり付けはじめた。 三体並べる。三度撃て、ということか。 「よろしいかしら、みなみなさま」 ヴュティーラは足をひらいて呼ばった。以前に教えられたとおりに、照準を合わせる。 「ヴュティーラ」 たしなめるようなナイザに、一度だけ視線を向ける。 「だまってて。これは、わたしとテックとの戦いなんだから」 「そんな、戦いなんて」 「戦いよ。それでなくちゃ、なんだっていうの ? 」 ひとつでも、認めさせてやる ! こうせきばん ヴュティーラは、〈光石板〉を見つめた。ここを通って、わたしの〈気〉が出る。

10. 星は踊る : アル・ナグクルーンの刻印

それが都市の裏の顔だった。 リカレドは、ヴュティーラに対して裏の顔を選んだのだ : 「あんたは俺の客に、そんな不便を強いるつもりかよ ! 外に出るたびに、特別枠に名前が載 るんだよ回数がかさなれば、見張りがつくってんだ ! そんな扱い、俺はゆるさない ! 」 ナイザは立ち上がった。横暴すぎる ! ヴュティーラがフイゼルワルド人なのに〈連獣〉がいないのも、ナイザの〈気吼銃〉を使え たのも、ただの偶然だ。それを悪く取り、何かすると決めてかかるなんて ! 「黙れナイザ ! 」 いっかっ リカレドが一喝した。 「疑いが晴れれば数字は減ると、おまえも知っておるだろう。それまでは、たとえ何人たりと も気を許すわけにはいかぬ。ここはテックの心臓じゃ ! 」 そんなことはわかっているー ナイザは、ほかでもないここで生まれた。ここで育った。 この八区はテ・クラッドでも飛び抜けて技術の進んだ場所だ。都市全体を支配し、見つめて る 星 他の地区にはないものがある。世界のどこにも公表していないモノがある。 かいむ 中枢部に忍び寄り、破壊を企てる者も皆無ではない。 盗み出そうとする者は多い わく