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検索対象: 祭りの灯 : カウス=ルー大陸史・空の牙
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1. 祭りの灯 : カウス=ルー大陸史・空の牙

乳母は胸のあたりをかるく押さえて、肩の力を抜いた。 筮音は、、い配そうに晶雲を見た。顔にかか 0 た髪を、指ですくって払ってやる。 「姉上、だなんて。この子は何を見ているのでしよう。なんだか嫌な気持ちがします」 「この春に会 0 た、にくい〈陽使〉めのことでございましよう。ば 0 ちゃまを、嬢ちゃまが助 けられたのですから」 透緒呼を " 嬢ちゃま。と言 0 て、乳母は腕組みをした。『にくい〈陽使〉』のことを、考えて いるらしい せいばい 「ばっちゃまにひどいことをした輩が、はやく成敗されてしまえばよいのに」 うなずいて、筮音はつぶやいた。 「そうね。でも、わたくしは、あの娘にまたなにかが降りかかっているのではないかと。それ が、どうしても気がかりなのです」 ーレようへき 春のはじめに再会した透緒呼。あの事件のあと、障壁をひとっ乗り越えたのだと、彼女は ソウシュ 弟王・蒼主に聞いている。けれど。 けれど、すべてを知らないことには。自分の源を知らないことには。 透緒呼がすっかり背筋をのばせないことを、筮音は知っていた。 だれよりも、誰よりも やから

2. 祭りの灯 : カウス=ルー大陸史・空の牙

178 「うん、みつからなかったんだね。 : : : 泣かないでマアナ、君のせいじゃない。右手は、セイ な ワゲッにおいてきたんだから。あっちで失くした」 【セイワゲッ】。清和月。 トウザーシャの失くした手首には、彼女の衣を割いて作った布がまいてあった。 「いたく、ない ? 」 たずねた真梛に、トウザーシャは泣くように顔をゆがめて笑った。 「マアナ。僕は〈陽使人形〉なんだそうだ。痛みも、心もないんだってさ。頭のなかのおかし な声が、言ってるよ。ふふ、いまも響いてる。【おかしい】とはどういうコトか。喋ってる喋 ってる」 「トウザーシャ : 「ばくは : ・ : ・、母にすてられたとおもっていた。父にきらわれているとおもっていた。だれか らもあいされる妹に、シットしていた。その妹ーー・ザクーシャを、父につれてこいといわれ て、ウチョウテンになってた」 スグニデモ ! そう言って、飛び出した自分。 「そして、かうすⅡるーで、きみにあった。マアナ。ばくはきみがすきだよ。はじめて見たと きから、ずっと : : : ずっと。なによりも大事なはずの、父上のめいれいよりも。君がダイジ 。こ。けれどーーー」

3. 祭りの灯 : カウス=ルー大陸史・空の牙

灯 の 祭 : なんだろう。 人の走る音、逃げる声 ? 誰かのかなしみ ? 「ばからしいこと、人形までもが、人に恋など : ザカード、おまえが悪いのです。ただの 人形にまで、あれだけの余計な知識を注入など、しなくともよかったのに。デクであれば、失 敗はなかったでしようよ」 「そうであろうか ? 」 〈人形王〉ザカードは、言って笑った。手の中には、つぎの人形の顔。 よきよう 「では、女王よ。もうひとっ余興を」 ねんど かしゅ、 かしゅ。スポンジで粘土の顔をみがく。肌のつやを増すように、何度も何度も。 母と息子の視線があった。おもしろがった、紫水晶の瞳。 「もうひとっ余興を くりかえし、ザカードは一一 = ロ葉をのばらせる。 「つぎは、余自身が出陣る かしゅ、 かしゅ。視線は、また手元に注がれた。 ◆

4. 祭りの灯 : カウス=ルー大陸史・空の牙

ばろりと転がった娘の言葉に、筮音はおどろいた。 「まあ。ーーー早過ぎやしないかしら 風来視は〈精霊契約〉のひとつである。契約主は風で、風の吹いてきた方角のものーー過 去、未来、現在、遠方などーー、を見ることができる、予知のような力である。 ただ、子供に契約能力が出るのは、一般に十歳前後だ。透緒呼は六歳だったが、それは例外 の部類にはいる。 「でも、そう考えると、しつくりくるものもあるわ。透緒呼、おまえ、この春、王都で晶雲に 逢ったわね。そのとき、この子は迷わなかったでしよう。迷わず、呼びかけたでしよう ? 」 「あ。 : そういえば」 六年ぶりの弟は、乳児から男児になっていた。それで透緒呼は戸惑ったのだが、晶雲は。 『姉 : : : 上 ? 』 もうろう 首を絞められたあとの朦朧とした頭で。それでも、ちゃんと間違えなかった。 ャゼン 「清和月宮でも、そうだったのよ。逢ったことのない矢禅などにも、あっさりと」 それが、無意識下で風来視が働いたのだとしたら、納得が 「母上」 「ええ。ちゃんとした検査をしてみます」 適切な処置が必要だ。視てはいけないものを見て、わずか六歳の少年が、精神をそこねてし - 一ころ

5. 祭りの灯 : カウス=ルー大陸史・空の牙

覚醒。あたりの景色がいきなり眼に飛び込む。 てんじよう 最初の風景は、白、だった。なめらかに白い天井が見えてくる。 : なんか、妙にでこばこした天井。 おうとっ なだらかな凹凸に、彼はそう思った。 それに、ところどころに黒い穴があいて、ーーー黒い穴 『それ』が『何』であるかに、彼は気付いて凍りついた。 数十という眼窩が、彼を見下ろしている ひたいの欠けた、あるいは鼻から下のない陶磁器の仮面。何百体という人形の顔、顔だけを 張り合わせたものが、乍っこ イみーー天井。 そんな気味の悪いながめを、『天井』と呼んでもいいのか彼にはわからなかった。 「いっから、僕はこんな変なところに : 灯 つぶやいて、はじめて彼は気付く。自分が寝台に仰向けに横たわっていた、ことに。 の 祭 つかみどころのない不安がっきぬけ、彼は飛び起きた。ばさり。かるい音がして、かけてあ ったうすい布団が床に、落ちる。 かくせい ふとん がんか こお

6. 祭りの灯 : カウス=ルー大陸史・空の牙

別「あんまりだわ : : : 」 つぶやいた透緒呼の頭を、宙から突き出た腕がばん、とはたいた。あきれたような、諦めた ような声が、上からそそがれる。 「まあた悩んでるよ、こいつはよ。おまえね、思い込み激しいの、直したほうがいいぜ。おま えの考えたとおりに、物事が動くって決まったわけじゃねえんだからよ。ったく、ぐだぐだぐ だぐだと。うっとうしいだろうが」 クョウ 九鷹ーーーい カッとして、彼女は振り向いた。日焼けした腕だけが何もないところから伸び、手を振って 「うっとうしいなら、そばによらなければい、でしようつ ! 出てってー 「今日は、まだ入ってねえぜ」 立てた人さし指が振られ、九鷹が異次元から顔を出した。そうやっていると、まるで首と腕 だけの化け物のようだ。 にやにやしている青年に、透緒呼の血は極限までのばった。投げ付けようと、近くにあった ガラクタをわしづかみにする。 アランヤ : これを亜羅写あたりが見ていれば、肩をすくめただろう。 くみあわせ 『なんていい相性なんだろう』、と。 あきら

7. 祭りの灯 : カウス=ルー大陸史・空の牙

% 腹心はかるく溜息をついた。くりかえす。 「気の回しすぎです。むしろ、あれは偶発的な事故でしようね。人形の容姿から見て、あれの ひょうてき 標的は透緒呼だったはずです」 わくらん トウザーシャ 透緒呼にうりふたつの〈陽使〉。それが惑乱を呼ぶならば、それはおなじ顔の人物に、だ。 ・ : 言ってみただけだ」 「わかっている。 蒼主は後半分を、かすかに付け足した。 「それより」 しゆる。仕上げの帯を結びだした矢禅に、蒼主は言った。 こま 「あれは、ほんとうに敵の駒、だな ? 」 自信がないのは、人形の容姿と、真梛の「あれは透緒呼の兄 ! 」というセリフのためであ る。 もし間違えていたのなら、彼は本当に「ひとごろし」だった。 「当然です」 矢禅がつよめて答える。 「いくら筮音様でも、陶磁器の息子など、産めませんよ。だいいち、人と、〈陽使〉と、〈陽使 いくら似せてみても、僕はごまかされません。あれは、完全に〈陽使人 人形〉はちがいます。 まど わな し・よ、つき あなたまで惑わ 形〉でした。瘴気を消しもしないで、罠だと言っているようなものです。 トオコ

8. 祭りの灯 : カウス=ルー大陸史・空の牙

こうちよく 二人は、、い臓をちぢませた。真梛は硬直し、トウザーシャは跳ねるように腰を浮かして、 入り口のほうに、からだをひねる。 かたい靴音が二人分、迷いもせずに向かってきた。部屋のなかをつむじ風が舞う。 へいか 「陛下 ! 」 しよくだい ほのかな燭台の光に浮かんだ人物に、真梛は抗議の声を上げた。鏡に映った、無表情の国 王とその腹、いに。 「失礼だとは思いませんか、こんな真夜中にいきなり ! 」 蒼主はつめたい表情を崩さなかった。小振りの剣をつかんだ指が、白くな・つている。 矢禅が、トウザーシャをひとめ見るなり、断定した。 トウザーシャが耳を疑った。イマ、ナンテ ? すらり。蒼主が剣を抜き、鞘を捨てる ! 「陛下、なにをツ」 けっそう 真梛が血相を変えた。鏡台の椅子から滑りおりて、トウザーシャをかばう位置に立つ。 「〈陽使人形〉です、蒼主」 さや すべ

9. 祭りの灯 : カウス=ルー大陸史・空の牙

ザカードは僕にチャンスをくれたケド。 君を連れて帰れば、父上はやつばり君しか見ないだろうから。同じ顔をした君に、ザカード に愛される君に、僕は。 「シット、してしま , つよ : : : 」 きっと、なによりも深く妬んでしまう そんなのは、イヤ、だった。そんな醜い感情なんて、持ちたくなかった。 うらや まるで、鏡のなかの自分を憎むようで。理想の自分を羨むようで。 「ザクーシャ、ううん、ト、オ・コ : しゆら 一緒に遊んだこともない、妹。僕がザカードのところでわりかし平和に生きている間、修羅 をくぐっていた少女。 つよくて、きれいな ときどき、父とあの異次元から見た妹は、かがやいていた。意志のまっすぐさが、くじけな いこころが、飛び込んでくるようだった。 「光の、いもうと : : : 」 二つに分けられたのだとしたら、自分が闇で、ザクーシャが光になっ 生まれてくるときに、 たのだ。トウザーシャにはそう思えた。 ねた

10. 祭りの灯 : カウス=ルー大陸史・空の牙

「そんなものあったつけか ? 」 聞いたような気もしたが、記憶には残っていない。。 へつに、彼が酔いだしたというわけでは なかった。これはたかが、三杯ばっちだ。 ただ、本当におばえていないだけである。 「あったよ。いちど名乗って、それからマーナが叫んだじゃないか」 「あいつ、『ひとごろし』って名前か ? 変わったやつだな」 茶化した彼に、亜羅写はけわしい顔になる。 「 : : : クヨー。オレは、マジメなんだよ」 「おまえが真面目 ? そうだったか ? 」 ぎやくしゅう げらげら笑って、さっきの逆襲をする。少年は『つきあっていたら、いつまでも本題には いれない』と、強引に話を曲げた。 「『トウザーシャ』。マーナは、あいつをそう呼んだんだよ。 イミわかる ? 」 酒を飲み干し、九鷹は首を振る。真剣味をおびてきた話に、彼は杯を手近な屋台に返した。 こくいん の杯には店の刻印が打ってあるから、祭りが終わった時点でもとの店にかえるだろう。 二人は通行の邪魔にならない、路地のくばみに止まった。 祭 「セラⅡニア名前の意味なんそ、俺が知るか」 九鷹は王宮の図書寮職員ではない。たとえ、名前の意味が古い文献に載っていたとしても、 ぶんけんの