彩女 - みる会図書館


検索対象: 華烙の群れ : カウス=ルー大陸史・空の牙
18件見つかりました。

1. 華烙の群れ : カウス=ルー大陸史・空の牙

きさき 彩女の暴君、『彩の暴君』獅伊菜。 それが彼の名だった。彼の称号だった。 忌まわしい名前。罪もない人々を殺し、罪のない人々を苦しめた。すべてを捨てて逃げた。 高く : 妃 . とともに、とおく それで恨まない者はいるまい。憎まない者はいるまい。生きてなお、死してなお。 〈大公さま : ・ : ・〉 か細い声がし、すうっと白い影が現れた。 かんぎし 胸を真っ赤に染めた少女が、簪を握りしめて立っている。幽霊、否、亡霊だ。カョウ : コレガ、オマエノ〈罪〉ダ、ト : ・ 貴族の紋章のはいった指環をした男の手が、どす黒くふくらんだ。荒れた少女の手が、血に 染まった。縄跡のある、少年の手がこわばる。 〈これが、おまえの〈罪〉だ 突きつけられる恨み。 彼は思い出した。何をしてきたかを。 ヒト、ゴロシ。 シイナ

2. 華烙の群れ : カウス=ルー大陸史・空の牙

「僕が蒼主の前に現れたのは、十年ほど前のことです。そのとき僕は彼を殺す気でいた。殺そ うと、王宮に忍び込んだんです」 思わす透緒呼は顔を上げた。 おじうえ 矢禅が、叔父上を にわかには信じられなかった。 きずな だって、あのふたりは何よりもふかい絆と、つよい信頼によって結ばれていたはずだ。すべ てのひとを嫌うなか、叔父上はたったひとり、矢禅だけを選んだはず。 そうじゃ、なかったの ? 「透緒呼、僕のことをはじめから話しましよう。あなたには聞く権利がある。僕のことを」 ふと矢禅はそう言い、出生にまでさかのばって話しはじめた。 ひと サヤメ 「僕の母は矢歌という、彩女領にすむ身寄りのない女性でした。父に出会ったいきさつはさす がにわかりませんが」 父、という言葉に、透緒呼はびくりと反応した。それは、ザカードのこと : 「矢歌は僕を身ごもりました。そのころすでに、彩女領では、彼女が〈陽使〉と通じている と、だれもが知ってたんです。僕ができたことで、矢歌は家を焼かれ、暮らしていた村を追わ れました」

3. 華烙の群れ : カウス=ルー大陸史・空の牙

冷静に九鷹の経歴を追ってみると、亜羅写は隹 . りのような落ちつかない気持ちを感じる。ま るで、だれかに常に物陰から見つめられ、九鷹に比較されているような。 クヨー トオコのコイビト。 回り道をして、ようやくお互いの気持ちを知ったふたりを、亜羅写は祝福しているつもりだ った。それでも、透緒呼の隣にいるのは「ダレ」かを、あらためて考えると胃が焦げつくよう に→古しい たとえ一時だったとしても、亜羅写は透緒呼を好いていた。彼が何者であっても、気に入ら なければ怒鳴り飛ばす、その強気な姿勢が好きだった。 デモ、カノジョはカレのモノ : その事実に、まだきちんとこころが納得できていない。どうしてオレじゃないのだろう。ど うしてオレじやダメなのだろう。 ・ ( どうして、オレは、ダメなのだろう ) れ はんらん シイナ 群 - サヤメ の彩女大公獅伊菜が妃・紫万と逃亡したために、彩女領の叛乱は中途半端に終わった。現在 はけん 華は、清和月から派遣された執務官が領の統治代行者として、民衆の沈静化にあたっている。 ほんの十日前までは、亜羅写はその叛乱軍の先頭にいた。 肪 あ

4. 華烙の群れ : カウス=ルー大陸史・空の牙

一 333 ミ ( 破斬大公家 ) の・図 ( 清和月王家 ) 響■系 年年 享の記「第 紫万 ( ) 鶯。空 ( 彩女大公家 ) 合 * 男 * 栄専 ( 囲 ) 〒義伊菜 の訊 3 * 女 ( セラ " ニア人 ) そ「 人は 筮音 故外 は以第 〒ーー晶雲 ( 6 ) 〒ーー真梛 ( ) 花涼 ( ) tjlf ( 八騎大公家 ) ( 界座大公家 ) 色王 男 ( 間 ) 蒼主 ( ) 筮音 ( ) * 覇邪王 〒ー透緒呼匝

5. 華烙の群れ : カウス=ルー大陸史・空の牙

「いないわけないじゃない ! 」 すくみそうになる気持ちを吹き飛ばすように、透緒呼は怒鳴る。そうじゃよ、。、 、刀 / . し そうじゃなくて。そうじゃなくて : こころが、震える。自分でも、考えていることがわからなくなりはじめる。 私、何にこんなにおびえているの ? 私、何を怒っているの ? そもそも、なぜ自分は、矢禅の部屋を飛びだしたのだろう。 とっさに、それが透緒呼にはわからなくなる。どうして ? わずかに間があき、思い出す。 そうよ。九鷹のこと、叔父上は隠していたんだわ。 れ矢禅の言った「あのひとたち」は、蒼主と、おそらくは真梛のことだった。 のふたりは、知っていたのだ。九鷹の不在の理由を。 華 〈大扉〉の爆発に、まきこまれた : め シイナ あの朝、暴君と化した獅伊菜を止めるために、九鷹は蒼主のムを帯びて彩女入りするはずだ ロ卩い オししないわけ

6. 華烙の群れ : カウス=ルー大陸史・空の牙

182 まわ こんな手をした者が、彼の周りにいただろうか。 彼の知っている女性の手は、あかぎれているか着飾っているかのどちらかだった。そうでな ければ、節くれだった手。人々を踏みにじり、我が物顔に生き抜いてきた、みにくい老婆の 手。 サヤメ キリガ 彩女、貴里我の くんりん ひふ くちもと ながく君臨した女大公の、かさかさした皮膚や、しわの多い口許を思い出し、彼は不愉央に なった。あんな女。い つも、はやくはやく死んでしまえと思っていた。 『、も , っ 、、よいよ』 貴里我の声が、そう聞こえた気がした。彼は思い出す。 ああ、あのひとは殺された : ・ 暗殺だったという。遺体に対面することはなかったが、それが死に様のむごたらしさを語っ ているようだった。 あ 逢わなくて、良かった。 まね 彼はそう思っている。あのひとの亡骸をみても、取りすがって泣くような真似は、彼にはで なが きなかったのだから。つめたい顔で、ただ彼女を、投げ出されたばろ布のようにしか、眺めら れなかっただろうから。 モウ、スンダコトダ。 なきがら

7. 華烙の群れ : カウス=ルー大陸史・空の牙

「おまえが案じると思ったから、あえて伏せていた。たしかに、九鷹はあの爆発にまきこまれ た可能性がつよい」 「そんな ! 」 蒼主が片手を上げた。聞くように、と身振りで示している。 声を上げた透緒呼は、こらえるように唇を噛んだ。こわばる指先をほぐすように、蒼主がそ の手にちからを込める。 セイワゲッ 「あの朝、九鷹は彩女領に入り、獅伊菜が清和月に向かったかを確かめてから、城にもぐり込 んで、人質を助け出すはすだった。 せつこう ぶじにあちらに着いたのなら、街道沿いに散らばっていた清和月軍の斥候と、顔をあわせる てはず 手筈だったのだよ。だが、、 しくら待っても、あれは現れなかったという」 「それを、結論付けると、そうなるんだ」 「九鷹は、巻き込まれた・ : 群透緒呼は上目遣いになった。ここまで来ても、まだ、否定してほしい。 烙蒼主は、うなずいた。うなすいてしまった。 華 「ああ、そのとおりだ」 づか

8. 華烙の群れ : カウス=ルー大陸史・空の牙

まなぎ 同じ所に二月とはいられなかったと、矢禅は静かにつづけた。透緒呼を見つめる眼差しは、 夜のように澄んでいる。 彼女はひとことも発さずに、彼を見ていた。いまから何が飛び出すのか、測ることもできな ひんやりとした、つめたさのような恐れがこころのなかを満たしてゆく。聞いてはいけない のではないか、と、どこかで声がしている気がした。 矢禅の言葉はつづいている。 「矢歌への風当たりは、次第に強くなっていきました。あの女、彩女貴里我が領土中を狩り、 焼き払う許可を与えましたから。 ・ : 僕の目の前で」 母は僕が五歳のとき捕らえられ、縛り上げられて、首を斬られました。 はツと透緒呼は息を詰める。視線が、矢禅とぶつかった。矢禅が苦笑する。 「そんな顔しないでください、透緒呼。もう、済んだことですから : : : 」 れ「そんな、済んだ、なんて ! 」 の「いいんです」 華 抗議するように声を荒らげる彼女に、彼はなだめるように手をかざした。ゆっくりと首を振

9. 華烙の群れ : カウス=ルー大陸史・空の牙

私、矢禅の歳なんて、たずねたこと、ない。 今まで、外見から何となく判断していただけだった。その表情から、物腰から。 「矢歌の殺された時の発熱は、成長に必要なものでした。僕は、〈陽使〉の血を引いてますか ら、普通には育たないんですよ。その日から、僕はこうです」 彼は両手を広げてみせる。つまり、もう十年も今のままの姿でいるのだと。 矢禅はつづける。こころは子供のまま大人の姿になり、ひとりきりで、母を殺されたことの 憎しみをつのらせたと。だから、元凶となった彩女貴里我の大切なものを、奪おうと王宮に行 えん 「 : : : できませんでしたけれどね。それが縁で、あのひとの配下に僕はおさまったんですよ。 こんな話、はじめて聞くでしはう ? 」 「叔父上はそんなこと、ひとつも言わないわ」 透緒呼はうなずく。矢禅がザカードの息子だと告げられたあの時も、蒼主はここまでは言わ よ、かっこ。 れ ・ : 否、矢歌のことは知らないのかもしれない。 群 の「矢禅、私に話しちゃって、 いいの ? 」 もの 華 秘めつづけてきた秘密を知ってしまうのが、何だか後ろめたかった。これは自分ではなく、 蒼主が聞くべきではないかと、そんな思いがちらりとかすめる。

10. 華烙の群れ : カウス=ルー大陸史・空の牙

登場人物紹介 十年間共に過ごした蒼主の一透緒呼の母で蒼主の姉。カ一〈陽使〉側のカウスⅡルー 腹心。実は人形王ザカード一ウスルーの支配階級「一一攻軍の総責任者。人形王と の息子であった。体の変調一王四大公家」のひとつ、界称される。透緒呼が自分の から、いったんは蒼主のも座大公の正妃。蒼主のもと一子ではないと知ったあとも、 とを離れることを決意する一を去った矢禅、彩女大公位執拗に彼女を狙い続け、媚 が、身を寄せていた破斬公 についた獅伊菜のかわりに、薬まがいの術を使って透緒 子・骸を殺害し、再び蒼主 ( 蒼主の摂政をつとめていた。 ~ 呼の心を操ることに成功し の前に現れる。 つつあるらしい ャ 矢禅筮音サカード がイ