のクライマックスにはいるんです。いわばクライマックスへの序章が「華烙の群れ」なのね。 んだもんで、気分的にここに終章をつけるのがおかしいような気がして、しなかったんで す、が。「そんなの、いちいち一言わなくたっていいじゃよ オいかあ」とお思いの方、ひろいここ ろの大人のキモチで、聞いてやってくださいませね。ひびきのったら、整理魔なんです。たと そろ えば筆箱のなかでエンピッ背の高い順に並べるとか、本を揃えるとかファイルにとじるとか、 そーゅーことがとっても好きで。 だから、自分の本でもそれをやってたのね。はじめの数冊はそうでもないけど、カウスリル ーの場合は題名に関係のある言葉を、章のタイトルにしたりとか。なんて瑣末な。 ( でもねえ、 女神の輪郭では、気づいてくれたひとがいて、嬉しかったなあ。あれって、人体解剖図になっ てるのね。足から頭 ( つまり輪郭 ) にのばっていってるの。「爪先の砂」とか、「杭と腿骨」と か。「はりついた傷跡」ってのは、九鷹の背中を暗に指していて、「すべての山の頂上」は、ち よっとえっちな意味なんですけど ) 。 ええと、なんだっけ。ああそう、それで、そうやって揃えるのが好きなのに、今回できなか ったでしよう。意図的に自分で決めたことなんですけど、ちょっと言っときたかったんです。 忘れたわけじゃないんだよって。だってそうしないと、忘れ物したみたいな気がしちゃって。 ひびきの小心者だから、たまに鋭い指摘をしてくださる人がいて、あとで「どうして教えてく れなかったのよお」とか言われたら、泣いちゃいますから。 ( うそをつくな ) 。
どこを探しても、真梛は見つからなかった。 トオコ ゾウシュ 蒼主の部屋を出てから、透緒呼はあちこちを探した。幾度も呼んだ。それでも、返事はな く、姿は見えない 真梛の馬鹿 ! りふじん 理不尽な怒りが、空に上がった透緒呼のなかにたまっている。姉にだって自由にどこかへ行 おさ いらだ く権利はある。わかっていても、苛立ちは納まらなかった。 真梛の、馬鹿ッ 1 頼みを聞いてほしかったのに、どうしていないのだろう。 忌ま忌ましくて、透緒呼は降りしきる粉雪を蹴った。・ : ・ : 手応えはなく、ばっと雪が舞い散 「ばかっ」 つぶやいて、彼女は膝を抱えた。そうしている首にも膝にも、小さな雪が積もってゆく。 る。 第三章戦地ーー石の花束 ひぎかか
「ご、ごめん」 「いいのよ、べつに。謝ることなんかじゃあないのよ」 浅はかだったと赤くなる彼に、真梛はおだやかだった。 ゆったりとした部屋着の白さが、亜羅写の目にまぶしい。そっと手をあてて腹部をかばうそ - 一う′ ) う の姿が、神々しく見える。 ホントに、、ハなんだ。 そう思った。真梛のなかに、いのちが息づいているのだ。 「それで、透緒呼が ? 」 あわ 伏目がちになった真梛が、ふたたび目を上げた。慌てたように、亜羅写はつづける。 : なんか、ヘンだよね。見てて、キミわるい」 「うん、だからサ。 「そうなのよ。私も、そう思う」 ふかく真梛はうなずいた。ため息をつく。 「きっと、みんな思ってるわね。九鷹がいなくなる前から、なんとなく、そんなふうではあっ たんだけれど」 「そんなフウ ? 」 ′うこう 十日は前から、兆候があったというのだろうカ ゝ。はじめて聞くことに、亜羅写はおうむ返
から転がる。 かわされた どうして ? 亜羅写は真っ白になる。 チカラではオレにかなわないはず。なのにナンでだよー 亜羅写はやみくもに押しただけだ。それくらいで透緒呼が負けるはすはない。 けもの 目先しか見えない、荒くれた獣のような彼を、かわせない透緒呼ではなかった。すっと身を きんこう 引けばいいのだ。それだけで、相手は均衡を失ってしまう。 そんな簡単なことが、亜羅写にはわからない。悔しさだけが吹き上がった。 「チクショ いど はね起きて、ふたたび挑みかかった。教えられたことなんて、何一つ思い出せない。ただ、 やたらに木刀を振り回す。 「目工あいてんのそんなとこ狙ったって、かすりキズも負わせらんないわよ ! 」 亜羅写の剣をことごとく払いながら、透緒呼が一一 = ロう。あせりも、乱れもしない声。 れ 烙わっ、とか、きやっ、と言わせたかった。ふいを突かれて上げる、おどろきの声が聞きた 。泣かせてやりたいー 「バカヤロウつ」
「おまえが案じると思ったから、あえて伏せていた。たしかに、九鷹はあの爆発にまきこまれ た可能性がつよい」 「そんな ! 」 蒼主が片手を上げた。聞くように、と身振りで示している。 声を上げた透緒呼は、こらえるように唇を噛んだ。こわばる指先をほぐすように、蒼主がそ の手にちからを込める。 セイワゲッ 「あの朝、九鷹は彩女領に入り、獅伊菜が清和月に向かったかを確かめてから、城にもぐり込 んで、人質を助け出すはすだった。 せつこう ぶじにあちらに着いたのなら、街道沿いに散らばっていた清和月軍の斥候と、顔をあわせる てはず 手筈だったのだよ。だが、、 しくら待っても、あれは現れなかったという」 「それを、結論付けると、そうなるんだ」 「九鷹は、巻き込まれた・ : 群透緒呼は上目遣いになった。ここまで来ても、まだ、否定してほしい。 烙蒼主は、うなずいた。うなすいてしまった。 華 「ああ、そのとおりだ」 づか
まなぎ 同じ所に二月とはいられなかったと、矢禅は静かにつづけた。透緒呼を見つめる眼差しは、 夜のように澄んでいる。 彼女はひとことも発さずに、彼を見ていた。いまから何が飛び出すのか、測ることもできな ひんやりとした、つめたさのような恐れがこころのなかを満たしてゆく。聞いてはいけない のではないか、と、どこかで声がしている気がした。 矢禅の言葉はつづいている。 「矢歌への風当たりは、次第に強くなっていきました。あの女、彩女貴里我が領土中を狩り、 焼き払う許可を与えましたから。 ・ : 僕の目の前で」 母は僕が五歳のとき捕らえられ、縛り上げられて、首を斬られました。 はツと透緒呼は息を詰める。視線が、矢禅とぶつかった。矢禅が苦笑する。 「そんな顔しないでください、透緒呼。もう、済んだことですから : : : 」 れ「そんな、済んだ、なんて ! 」 の「いいんです」 華 抗議するように声を荒らげる彼女に、彼はなだめるように手をかざした。ゆっくりと首を振
てゆくようなものだ。 しかも、だれもその間の私を知らなかったとしたら アラシャけいこ 「三日間、ですか ? ごく普通でしたけれど、朝起きて、亜羅写に稽古をつけてあげて、終わ ったら部屋へ戻っていたのでしよう ? その先は、僕の知るところではありませんが。とにか 稽古はこなしてました。今も、外へ行こうとしていたんじゃありませんか ? 」 木刀を指し示されて、透緒呼の記憶の糸がはぐれはじめる。 そう : : : ね。そうだった。私、昼間は毎日亜羅写と稽古をしてたんだわ。 すぶ ようやく、ひとっ思い出す。亜羅写の引けた腰と頼りない素振りを思い出した。 「そういえば、私昨日も怒鳴ってたわね。亜羅写、へたくそーって。真梛と矢禅、側でーー見 てたわよね ? 」 「ええ、見てましたよ。ばくは真梛のお目付役ですから。あのかたが、またとんでもないこと をしでかさないように」 矢禅が眼鏡を押しながらうなずいた。どこかホッとしているようだった。 「 : : : やれやれ。頭を打ったんですね。ほうっておけば、じきに今までのことも思い出します 何も問題はないというように、矢禅は言う。 「ほんとうに ? 」
102 嵐のように荒々しかった、と言われて、透緒呼はうつむいた。 「ごめんなさい。そんなつもりじゃ、なかったわ。聞きたいことと、お願いしたいことがあっ たの」 九鷹のことを知りたかった。いま、彼はどこに、どうしているのか 「九鷹か ? 」 あやすように、彼は手のひらを叩いた。 蒼主の手は冷えている。それでも、触れているだけで落ちついた気持ちになれた。まるで、 だれかと手をつないでいるだけで、暗闇が怖くないように。 「ええ。〈大扉〉の事故に巻き込まれたって聞いたわ。ほんとうなの ? 」 「矢禅に聞いたと、おまえはさっき言っていたけれど、そうなのか ? 」 「そうだわ。 亜羅写の剣の古をつけていたのだけれど、私が我をして。それで矢禅の 部屋に運ばれたの」 突かれた右肩に、鈍い痛みが戻ってくる。骨と骨の継ぎ目を、断つように木刀があてられ っ ) 0 「矢禅が、相手をして怪我をしたのか : : : 。大したことは、ないようだね」 とぎれとぎれの言葉でも、彼には何があったのか察せられるようだった。透緒呼の無事を問 うてから、ふと黙り込み、やがて蒼主はため息をついた。 アラシャ にぶ
おずおずと、亜羅写は切り出した。失礼に当たらなければ、聞いてみたい。い つまでも知ら ないからこわいなどと、言っていてはいけないだろう。 「オコラないで、教えてほしいんだケド。赤ちゃん、いるとサ、オレがどなったりしたら、マ ズイこと、あるかな ? 」 「なあに、私のこと怒鳴りたいの ? 」 とうとつに訊かれて真梛は、目を丸くした。おかしなことを言ってしまったかと、亜羅写は 赤くなる。 真梛が、笑いだした。 「気をつかわなくても、平気よ。それくらいで、どうにかなったりはしないのよ。そんなに弱 かったら、身ごもった女の人は、塔にでも入らなくちゃならなくなるでしよう ? 」 「あ、ああ、ソッカ : ・・ : 」 つば ほっとして、何となく彼は笑った。たしかに、よく考えればそうだ。手を滑らせて壺を落と した音で危険になっていたら、女の人は家事もできない。 「へんな亜羅写。病気じゃないのよ、これ。普通にしていて、かまわないのよ。とくに駄目な 烙ことなんて、ないわ」 華 くすくすと、真梛はロを押さえた。だれにも聞かれなかったようなことだったのだろう。な かなか、笑いをおさめてくれない。
: こわかったの、私のなかに生きているの : 「こわかったのよ。 お腹をおさえ、首を振る。いやいやをするように。 「のぞんでないわ、どうしようもなかったの。まさか、いちどきりでこんなことになるなん て。このままいったら、私、この子を生むのよ ? 生むのよ生むのよ ! 」 わあッと真梛が泣き伏した。しやがみこむ彼女に、亜羅写はかけよる。抱き起こした。 「マーナ、マーナ、ヒトがくるよ」 「生まなければならないのよ、私が、私が : : : 」 真梛は聞いていなかった。拒むように震える。 「だってそういうやくそくだもの。かくごしたもの。したのよ。でも、こわくて、こわくてー 思ったのよ、あのとき透緒呼が手をすべらせたらって。そうしたら、わたし生まなくてすむ もの。へいかにあやまればすむもの : 魔がさしたのだ。 うわごとのような言葉を、亜羅写は半分も理解できなかった。それでも、透緒呼を傷つけよ れ うとしたのではなかった、とだけは、感じ取れた。 群 烙「もういいよ、マーナ」 華 これ以上聞いても、意味をわかづてあげられはしない。 亜羅写は彼女の背をさすった。しがみついた真梛は、声を殺して泣きつづけている。 どうして :