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検索対象: 蘭の血脈 : カウス=ルー大陸史・空の牙 天青篇
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1. 蘭の血脈 : カウス=ルー大陸史・空の牙 天青篇

ザカードを呼ばずに。はじめに彼を呼んだわけも、きちんと思い出して。 くず 〈 : : : 効き目が崩れたか〉 つぶやきがあり、ザカードが目の前に姿を現した。くつろいだ、ゆったりとした薄紫色の上 着が、床からの光に、ほのかに輝いて見える。 「ザカード ちからが抜け、透緒呼はその場に膝をついた。ため息とともにうなだれる。まるで、道に迷 った子供が、親を見つけたようにほっとしていた。 「よかった、でてきてくれたのね : : : 」 「こころからそう思うか ? 」 「おもうわ」 問われ、よく考えずに答えた。言われたことの意味を理解しようとしないのは、すでにくせ になっている。ザカードの言葉は、透緒呼にとって光のようだった。〈導き手 >' だ。彼は正し 青 天 脈その思いがこころを占めている。だから、もう考えない。 のナニモ。 蘭 透緒呼は顔を上げた。手を伸ばす。彼の衣に触れようとした。 「思うわ。思うの。あなたがいてくれてよかったわ。いてくれなければ、困るのよ。出てきて ひざ ころも

2. 蘭の血脈 : カウス=ルー大陸史・空の牙 天青篇

よっ よりつよいちからを持った〈命〉であり、世継ぎとなる男児でなければ、蒼主は見向きもし ないだろうというのだ。 「そんなことはない」 「そうでしようか」 よみがえ とっさに出した言葉は、ふいに蘇った真梛の、つよいまなざしに弾かれた。 「わたくしの目を見て、もういちど仰せになれるでしようか」 髪ひとすじほどの嘘も見抜き、ゆるさないという顔つきをだ。 答えられず、蒼主は彼女を凝視する。このまなざしの前で、誓いにも似た言葉は出せない。 出てこない : うなずけなかった。言えない。この目の前の少女を、どう思っているのかさえわからなくな る。 青マガナを嫌ったのは、なぜだったろうか。花涼に苦しめられ、耐えつづけた筮音の姿があっ たから ? 界座大公に、透緒呼より彼女が愛されていたから ? 界座大公が、貴里我との確執 脈 血の果てにマガナを婚約者として押し出してきたから ? 蘭 真梛の顔がふいにゆがんだ。はツとする間もなく、彼女に言葉を叩きつけられていた。 「ならばなぜ、私を抱いたの ? 家のために、歯を食いしばったというの ! 」 おお

3. 蘭の血脈 : カウス=ルー大陸史・空の牙 天青篇

ばっと輝いた真梛の顔に、痛みを覚える。 「だめだ」 「陛下」 ′」う・ - もく こぶし 彼が許したものだと思った真梛は、瞠目した。拳を握りしめる。 おお 「なぜいけないと仰せられます ? 暗闇のなかで、亜羅写は自分を責めつづけているんです わ。そのままになさろうなんて、まさかそうお思い あわ 「亜羅写を哀れとは思う。罪の意識からどんな行動に走ろうとするか、案じてもいる。けれ ど、だめだ。真梛、おまえがあの部屋に近づくことは許さない。治療することも、許さない」 言い切って、ふたりをつなぐ道をとざすように目を閉じた。どれにど反発されようと、決定 をひるがえすつもりはない。 「ーーなぜでございますか」 よ亠つよろ・ 真梛の声が冷え、すっと低くなった。空牙の予兆だ。 黙っていれば済むかも知れないと、わかっていて蒼主は答える。あえて、嵐を呼んでしまう と覚悟をした。 「自分のからだをわかっているか ? おまえの腹のなかの子が、だれの子か知っているの か ? 」 「わたくしの子です」 つみ

4. 蘭の血脈 : カウス=ルー大陸史・空の牙 天青篇

同じ銀の瞳の真梛を、厭わしく思ってきたのに。 つま 彼女が、妃になる。もう子もいる。 : ひどく不思議な気がした。父になり、夫となるのだ。すぐに。 なぜだろう。 あた 黒い夢が辺りに広がっているようだった。その中で、真梛だけが輝いているのか。手のひら かば を庇うようにあてて。 「陛下」 顔を上げた真梛が、小さな声で切り出した。どう話すべきか迷っているようだった。時折、 視線が横に流れる。 目が合うと、彼女は気まずそうに横を向いた。二人のあいだに横たわっている、穏やかで、 とまど けれど居心地の悪い空気に戸惑っているのだろうか。 話し合いをしようと思うのは、はじめてのような気がする。 青聞く姿勢を見せている蒼主さえ、ここから早くに去りたかった。持ったためしのない会話を こら しんばう 天 持とうとするならば、ちからが必要なのだ。こうやって。お互いに堪えて、辛抱強く、相手を 脈 待っ : 蘭 真梛が次の言葉を紡ぐまで、二刻が過ぎたような間があった。それくらい、蒼主は待った気 がした。 つむ

5. 蘭の血脈 : カウス=ルー大陸史・空の牙 天青篇

せいいつばい やっとの思いで訊ねた。内心の揺れをさとられないようにするのが精一杯だった。 透緒呼。 〈鏡〉のなかの透緒呼が、九鷹のなかにさざ波を立てる。捕らわれて、意思さえも奪われたよ おそ うな彼女に、彼は陳れを感じていた。 魅せられた、翳に魅せられた、そのー 1 顔 : ・ いつもの透緒呼ではなかった。けれど、それはたしかに透緒呼だった。 侵されている。なのに、なぜ、九鷹はそれを嫌うことができないのか 「そのほう」 見透かすように、ザカードの声がかカった 「サクーシャを、愛しているというのか ? 」 ぶべっ 侮蔑するような声だった。見下ろす紫の瞳が、刺すようにするどい だったらなんだッてんだよッロ のどまででかかった言葉を、九鷹は辛うじて飲み込んだ。焼けた鉄のかたまりが、胃の腑に こら 落ちてゆくようだった。それを堪える。九鷹は〈陽使〉を見上げ、笑った。 「いちいち聞いてたしかめなけりや、わかんねえほどの馬鹿野郎だってわけか」 その笑顔のまま、横を向く。ざまアみやがれ。 おか かろ

6. 蘭の血脈 : カウス=ルー大陸史・空の牙 天青篇

闇の裾をひるがえすように現れたザカードは、九鷹の前に来るなりそう言った。見ていたの か、とは問わない。 わかっているのだと九鷹は思う。閉じ込められ、自由を奪われた彼の前に透緒呼の姿が映し ゆが 出されるのだ。見ないはずがなかった。そして、それを承知でザカードは、空間を歪めた 〈鏡〉を作りだしたのだから。 そう、俺は見ていた。 こぶし つめ ザカードに答えないまま、彼は思った。親指を拳のうちに握り込み、きつく爪を立てる。 見せつけ、られていた。 おり 黒くささくれだった檻のなかで、九鷹は透緒呼を見ていた。この城に連れられてきたのを見 ていた。長椅子に座るのを見ていた。ザカードに置き去りにされ、虚空に問いかけるのを見て 手首に黒いものを巻き付けられるのを見ていた。すべて見ていた ! 見て : ・ 「赤毛、ザクーシャが見えたか ? 」 焦れたようにザカードが繰り返した。九鷹はうずくまったまま、あえて動かない。動いて、 顔を上げて答える必要があるだろうか , 見えたかーーー見たか ? 見ていたとも。 すそ クョウ

7. 蘭の血脈 : カウス=ルー大陸史・空の牙 天青篇

彼が笑んだと、わかった。 「そう、楽しめ。この美しい青い炎を、血にまみれさせよ。それでこそ、そなたは輝く , ーー・ザ クーシャ : みずか 手のひらを返させ、ザカードは刃を自らに向けた。手首をつかみ、もう片手で、刃を握りし めた。 じ , っ : にお 肉の焼ける臭いがした。ザカードの手から黒煙があがっている。 「なに、してるの ? 」 すず 落ちつきはらっている彼にヘ透緒呼は訊ねてみた。涼しい顔をしているのだから、きっと、 たいしたことではないのだろう。痛みもなく、苦しみもないのだろう。 惚けたような透緒呼のなかへ、空牙刀がもどる。刃を握りしめた形のままに手を閉じていた ザカードは、ようやく手をひらいた。赤黒く焼けただれた手のひらを、示してみせる。 透緒呼は何もしなかった。その嫌なにおいに、眉をひそめることさえなかった。 「くつ」 ザカードが押し殺した笑いを漏らす。何も感じない透緒呼に、嬉しさを隠しきれないようだ っ ? ) 0 え

8. 蘭の血脈 : カウス=ルー大陸史・空の牙 天青篇

: くろ。 きり しみ込んでくる彼の気配に、透緒呼は目の前に霧がかかってゆくのを見ていた。黒い気配 それが、彼女を包み込み、満たしてゆく。この部屋のように、闇に閉ざされるように。 やがて顔を上げたザカードは、透緒呼の頬に触れ、そっと離れた。立ち上がり、部屋を出て ゆく。 ふいに置き去りにされた透緒呼は、声をかけることもできずに見送った。その動きは風のよ ころもすそ うで、わずかな間のことだった。ながい衣の裾が流れるように広がり、彼のあとを追う。 あた きぬず 衣擦れの音が行ってしまうと、辺りから音が消えた。はじめから、ここには音がなかったよ うに静まり返る。 暗がりが、のしかかるように重くなった。 「押しつぶすの ? 」 壁に問う。答えが返らないとは思ってもいないように、透緒呼は壁を見上げていた。 「つぶすの ? 」 むろん、応えはない。 「ねえ ? 」 こぶし それでもなお、彼女は問うていた。知らずに拳を握りしめている。 幼子のように、透緒呼は答えを待つ。応えはない。 おさなご

9. 蘭の血脈 : カウス=ルー大陸史・空の牙 天青篇

- 一ぶし Ⅷ真梛は拳を握りしめる。投げつけてやりたかったが、物がなかった。 たず 「わかっているんでしようね、獅伊菜。あんたに、そんなこと訊ねる権利なんてないのよー 胸に手を当ててごらんなさい , 何をしたのみんなめちゃくちゃにされたわ ! 私も、透 緒呼も、そうよ殿下もね ! 」 下腹部に、ひきつれるような痛みが走った。 「ちょっとやめてよ ! 」 紫万が声を上げた。庇うように獅伊菜に向かう彼女に、真梛はなぜかかッとした。 「あなたは黙ってらっしや、 獅伊菜、教えてあげましようか、ご自分が何をなさった か ! 」 獅伊菜の前に立ちはだかり、指を突きつける。 この身に起こったことをぶちまけたら、獅伊菜はどんな顔をするだろうか。うつむくだろう か。このままだろうか。 見てやりたい気がした。泣くのなら、ひざまずいて許しを請うほどに、泣きわめかせてやり 「清和月は変わったわ、もうめちやめちゃよ。九鷹も透緒呼も行方不明。亜羅写は使い物にな けが らないわ。矢禅も怪我をしてる」 「やめてよ ! 」

10. 蘭の血脈 : カウス=ルー大陸史・空の牙 天青篇

114 った。けれど、それならなぜ、想いを口にしようとしたのか ? なにを望んだというのか ? 申し訳なさがつのる。そんなに眉をひそめて、心配してくれなくても、 しいと言ってやりたか った。透緒呼には、それだけの価値がない「 つむ 九鷹のくちびるが、言葉を紡ぎだす。大丈夫か、と聞かれたような気がしたが、違うかも知 おはか れなかった。声が聞こえてこないのだ。くちびるの動きだけでは、推し量るしかできない。 口を引きむすび、透緒呼は首を振った。動きは小さかったから、彼にはよく見えなかったか も知れない。かまわなくても、 しいと、言ったつもりだった。そんな顔をしないでー トオコロ くちびるが、はっきりとそう動し 九鷹が膝を床に押しつけるようにして、いきおいよく立ち上がる。駆けたー ガラス どおん ! とにぶい音がこだました。硝子にぶつかっていった九鷹がはねとばされる。 彼はすぐに起き上がり、またおなじことをした。いくども、 いくども、体当たりして硝子を 破ろうとする。 そこから抜け出そうというのだ。透緒呼のもとへ来ようとしているのだ。 「ーーやめて ! 」 ひぎ まゆ