後 の図は説明のために、誇張されて描かれている。 修理では、下半分を上半分に繋ごうとして、下からリべットを打っていた。すると上下を繋ぐ部分 で、一部リべットを打っ余裕がなくなった ( 図 3 ・ 6 ) 。そこで四角な継ぎ板 ( スプライス・プレ ート ) を挟んで、繋ごうとした。図 3 ・ 6 ⑤のように繋げば、隔壁は与圧圧力にも疲労荷重にも抵抗 できた。しかし実際には、一枚のはずの継ぎ板が、二枚になっていた ( 図 3 ・ 6 ⑥ ) ら 図 3 ・ 6 では、説明の便宜上、四 分 カ 角の継ぎ板を隔壁の後ろ側において っ の 註描いている。しかし実際には、この 板 継れ 司継ぎ板は上・下隔壁に挟まれるよう < にーー上部隔壁の前、下部隔壁の後 < ろにーー挿入されている。 カ 理発見できなかった修理ミス なぜ図 3 ・ 6 ⑥のようなことが起 きたか。実はこの図には、スティッ この図の 図フナ 1 が描かれていない ー断面は、図 3 ・ 7 のようにな 張カ ( 非与圧側 ) ( 与圧側 ) 補強板 上部隔壁 ( ペコペコ止め ) 与圧 フィレット ・シール スティッフナー 下部隔壁
ける。この繰り返し荷重と無益な継ぎ板のため、隔壁に疲労亀裂が発生し、成長した。そして一万二 三一九回目の飛行で、隔壁は一気に裂けた。壊れた部分の面積 ( 開口面積 ) は二—三平方メートルと される。開口面積が大きすぎ、諸々のフェイル・セーフ機構は機能しなかった。 隔壁から噴出した空気は、尾部にある補助エンジン (<>) やその防火壁を吹き飛ばし、同時に 垂直尾翼の主要構造部分であるトルクボックスに流れ込んだ。このため垂直尾翼はほば瞬時に倒壊し 垂直尾翼の破壊は、方向舵を制御する油圧操縦系統のすべてを破壊した。 B747 は、独立した四 系統の油圧を持っている。しかし垂直尾翼の破壊は四系統の油圧管を破断し、作動液を流出させた。 落約二分後には、油圧による操縦は不可能になった。 この間、操縦舵面を動かせ 隔壁破壊後の迷走飛行経路は、パイロットの意思によるものではない。 山 鷹 ない 123 便には、航空機固有の運動が発生した。経路を波打たせて飛ぶフゴイド ( 長周期 ) ・モー 巣 御 ドや、横の傾きと機首の左右振りが連成するダッチ・ロール・モードが、特に顕著に現れた。 〇乗員は最後まで操縦操作を続けた。油圧が失われたことは、計器に表示される。乗員はそれを信じ 走なかったか、あるいはわずかな利きを期待したようである。乗員の操作で飛行制御上意味を持つの 迷 は、推力増減による上昇・下降だけであった。もし左右の推力を非対称に使えば、ある程度の旋回は 三可能であった。しかし、乗員がその手段に訴えた形跡はなかった。 修理のミスは、専門家がよほど注意深く見ないとわからない種類のものであった。一方、疲労亀裂 こ きれつ 149
プレイの意味である。 ③圧力隔壁後方の胴体内部を、腐食に対し目視で検査する。 隔壁の傷み 右の作業のうち、③項は日航が自主的判断で設定したものである。これ以外はポーイング社からの サービス・プリティン ( 改修指令の勧告などを配布すること ) など、日航以外の書類に根拠をおく整 備である。 これらの作業内容は、隔壁を後ろから見るものばかりである。その際、修理ミスから発生した亀裂 が果たして見えるか。しかりである。 隔壁の修理部分はすでに図 3 ・ 7 に示した。上半分は後ろ側、修理で取り替えた下半分は前側にあ る。そして隔壁自体の厚さは上側が〇・八ミリ、下側が〇・九ミリである。弱るのは上側であった。 事故機の場合、疲労亀裂は隔壁の後ろ側から見た場合のみ、発見できた。 では、どのくらい傷んでいたカ 図 3 ・ 8 の横軸「リべット孔番号」は、 *-Ä ( 図 3 ・ 5 ) 上のリべットを、左から右に向かって番 号をつけたものである。第一ストラップ ( 最も径の大きい円輪状の補強材 ) はリべット番号 3 3 第二ストラップが浦、葭 第三ストラップがの位置にある。 一方縦軸は、リべットとリべットの間の距離を一〇〇とし、その間を亀裂が、事故前何パーセント 168
には入るはずのないミスが紛れ込む可能性が潜んでいる。 例えば図面を、現場で現物をよく見てから描く。これをリワーク・スケッチなどという。この図面 の描き方も問題がある。 図面を描くとき、普通は見える部分は実線、見えない部分 ( 想像線 ) は一点鎖線や破線で描く。し かしリワーク・スケッチでは、慣例として、修理しない部分を点線や二点鎖線で描くことがある。 修理する ( 新しい ) 部分はもちろん実線で描くが、その想像線と、修理しない部分の点線や二点鎖 線が混乱するかもしれない。だから、補強板の幅を誤って切る可能性などもなしとしない。 しろいろの約束ごとがある。約束ごとが守られていなければフ フェイル・セーフが働くためには、ゝ 落ェイル・セーフは働かない。まして修理にミスがあっては、それはもはや飛行機とはいえない。 ゝ。品質管理は飛行機が誇る技術の一つである。現代の 飛行機の品質は、機体間でほとんど差がなし 山 飛行機は、どの機もみなほとんど差がないように組み立てられている。そして整備も、このことを前 御 提として行われている。 それをチェックするのはきわめ 〇このなかに、もし、一機だけ欠陥機が紛れ込んでしまったら : 走て難しい。それだからこそ、全作業工程や全機の品質が、厳重に管理されている。 迷 今回の事故の最大の原因は「修理にミスが入り得る」という認識の徹底を欠いたことにある。後か 三ら考えれば、修理したこと自体が誤りだったともいえる。あるいは、修理を行ったとき、「ミスが入 り込むこと」を前提にしたチェック機構がなかった。これが誤りであった。 213
っている。 上部・下部隔壁に挟まっているのが、四角い継ぎ板である。本来一枚の板であるべきなのだが、ス ティッフナーの下面と下部隔壁の上端の間が、繋がっていない。 上下の矢印は、与圧がかかった場合の張力を示す。本来ならこの張力は、接合部では、リべット 、に半分ずつ分散して伝えられるはずであった。しかし継ぎ板が繋がっていないため、張力はす べてリべット CQ にかかってしまった。 では、修理ミスが、なぜわからなかったのか。 図の斜線部は、フィレット・シ 1 ルである。与圧の気密を保っための、ペイントのようなものであ る。フィレット・シールは、まず接触面に塗っておいて組み立て、最後に外側から要所要所を塗る。 したがって細い溝のようなところは埋められてしまう。 図のような隔壁を見て、補強板が二つに分かれていることが果たしてわかるであろうか。事故報告 書は次のように述べている。 「後部圧力隔壁の修理作業が完了した後からでは、当該接続部分の縁がフィレット・シールで覆われ ているために、指示とは異なる作業結果を目視検査で発見することは不可能であったと考えられる」 隔壁の整備 この修理ミスは、整備で発見できなかったのであろうか。 166
なかった。 ・シティ消防部の消防車が位置に着き、二 このためーの連結は解かれ、一六時一八分に、スー 車輛に水を補給した。 このときまでに、右翼部の火災は強さを増し、機体内部に広がった。火災は一七時〇〇分ごろまで 勢いを増し続け、墜落後約二時間制圧できなかった。小さい火災は夜まで燃え続けた。火災の鎮火に は、全部で一万五〇〇〇ガロン ( 約五七キロリットル ) の水と、五〇〇ガロン ( 約一一キロリットル ) の消火剤を要した。 油圧喪失の原因 陸 ・シティに進入中に撮影された写真は、第二エンジンと尾翼部分に損傷があったことを示して 着 跡いた。第二エンジンは残っていたが、右側のファン・カウリング ( ファンの覆い ) やティル・コーン 奇 ( 胴体後端の整形部 ) はなかった。水平尾翼にも三カ所穴が開いていた。 能そして後述するように、第二エンジンと尾翼構造部分の部品は、アイオワ州アルタ付近で発見され 御た。事故調査委員会によれば、事故は次のような順序で起こった。 まず第一段ファン・ディスクが破砕、分離した。これがエンジン回転部分の部品を強いエネルギー 四で飛散させた。それらが機体構造部分を貫通した。 エンジン破損直後、乗員は、油圧の作動液と圧力が、三系統ともゼロになるのを見ている。破損の 241
増す火勢 ざんがい 大きな火災が発生していた。大部分は残骸の外で燃えていた。防火主任は脱出した乗客から「他の 乗客がトウモロコシの茎の間にいそうだ」と教えられた。茎は約七フィート ( 約二メートル ) の高さ だった。出てきた乗客は後に、「高いトウモロコシの茎で方角がわからなかった」と述べた。 現場に最初に到着したの車輛は、多量の ( 化学消火剤の ) 泡を、裏返しになった中央部分 の表面を覆うように浴びせた。防火主任は「泡は右翼まで楽に届く」と言った。乗客の何人かは、 「脱出するとき、泡を浴びせられた」と述べた。 防火主任は「火は主に右翼箱形部分 ( ポックス・エリア ) の下で胴体前部に沿っている」と知らせ た。彼によれば「一〇から一二ノット ( 時速約一八—一三キロ ) の北風が、火を胴体から遠ざけてい 一六時〇四分ごろ、最初に到着した車輛は、積んでいた水を使い果たした。このときまでに、二台 目の車輛が到着していて、多量の泡の放出を開始していた。第二車輛から ( 直径 ) 一インチ ( 約二・ 五センチ ) の手で使う放水筒 ( ハンド・ライン ) が、泡の届かない右翼箱形部分の消火に使われた。 の人間によれば、「ハンド・ラインは残骸前部から脱出する乗客を守るのに役立った」。一六 時一〇分ごろ、第二車輛も水を使い果たした。 一六時一〇分、これら消防活動の進行中に、第三隊のコバッチー水供給車輛が位置に着き、他 の二隊に水を送ろうとした。送水管は繋がれたが、メカニカルな問題で、ーは他車輛に水を送れ
テープは交信の最後の部分、すなわちウインターズがミセス・ヤードウインにパワ 1 設定を下げる 指示をする部分を記録していなかった。 ャードウイン機は滑走路に激しくぶつかり、草地の中へ曲がった。機首車輪はもぎ取られた。燃料 はほとんど使いつくしていた。 ミセス・ヤードウインも乗客も、負傷しなかった。リチャ 1 ド・ヤ 1 ドウインは、沿岸警備隊のヘ リコプターで病院に運ばれた。そこで重い心臓病による死亡が宣せられた。 ナバホはその地にとどまり、交信をリレーする役割を果たした。 146
思われる ) 事故があった。ほとんど同じ事故が起き、多数の人命が失われてから、次の報告書で原因 しんえん ミスがーー指摘された。私は、航空業界の裏に潜む深淵を垣間見た思いがした。 いずれの事故も、私の不勉強を暴露しているに過ぎない。しかしとにかく、私は事故や原因の多様 きようがく さに驚愕した。いま私は、予断を持たず報告書を読むことに努めている。 仮に事故に「流れ」のようなものがあれば、私はそれを、改めて整理するつもりである。ひとまず は、この分類に従って、事故のありのままの姿を、平易な言葉で原稿に写すことにした。 よできる限り控えた。事故報告書に現れる勧告などもできる限 そしてその際は、余分な注釈や評論。 り省いた。そこは事故原因の記述と重複する部分が多い。ただ事故の姿をありのまま伝える。それを 私の立場とした。 図についても、原典を最小限の説明で ( 例えば必要な箇所だけ日本語訳を入れて ) 引用した。ただ し必要に迫られて、書きなおしたものもある。それらは図のタイトルの後ろに、括弧書きで、「注〇 趨を参照して作成。と書かれている。これらの図は、グラフィトリアの田村哲也氏によって描かれた。 機分類の弱点 空 航この本には多くの弱点がある。すでにわかっているところを、列記しておく。 ① ( コックピット・ポイス・レコーダ 1 ) の記録は、報告書の原典では、一般に詳細であ る。例えば時刻は秒まで、会話の内容は録音されたまま、というのが多い。
地上の痕跡の中心線は、磁方位約二三〇度であった ( 滑走路の磁方位は約二四〇度 ) 。残骸は長さ 約一六七〇フィ 1 ト ( 約五〇九メートル ) 、幅約三九〇フィ 1 ト ( 約一一九メートル ) 内に分布して いた。胴体は三つの部分に分解し炎上、主翼もいくつかの部分に分解した。エンジンは主翼から分離 し、脚も取り付け部から分離した。 コックピット部分は、衝撃によって損傷を受けた。しかし火災による被害はなかった。コックピッ トの床は上方に曲がり、内部は全面的に粉砕されていた。乗員三名、牛の取扱者二名は、衝撃による 多重損傷で死亡した。 牛を拘束する囲いの損傷は、牛が右前方へ強制移動して生じたものであった。囲いが墜落前に破損 したことを示す証拠はなかった。 運主翼性能の劣化 コンピュ 1 ター・シミュレーションによると、ローテーション速度Ⅵまで加速は正常であった。し ら 7 かしⅥから安全離陸速度Ⅵへの加速は正常以下であった。これは機体が、Ⅵに達する以前に、過度の 機首上げ回転を行ったことを意味した。 章 フライト・デ 1 タ・レコ 1 ダ 1 記録と比較すると、機体はⅥがコ 1 ルされた直後に失速 第 し、失速は墜落まで続いた。迎角は少なくとも一八度に達したと推測された。 ざんがい