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検索対象: Pure gold : 華は藤夜叉
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1. Pure gold : 華は藤夜叉

シンナーだと直感した。彼自身はしたことがないが、チームに出入りしているのだ。そうい った人間を全く知らないわけではない。 「なあ てんじよう 朋重は楽しそうだった。首を支えられないのか、顔がすぐに天井を向く。 頭を支えると、視線があった。途端、ひやらひやらと笑いだす。 クラス中の視線が集まっていた。眉をひそめ、ささやきかわす少年たち。 「まずいって、おまえ」 耳打ちする。これが教師たちの知るところとなったら。 「ちょっと来いよ」 から 彼は、教室から朋重を引きすり出した。布のバッグを手首に絡めたまま、朋重は廊下を引き ずられてゆく。 そうしながらも、一定の間隔でけたたましく笑いだす。それを、校舎の裏につくまでやめな 、カ子 / 吸入して、それほどの時間は経っていないのだろう。いちばん楽しいときだ。 話しかけても、ロクに理解できないだろう。 ひ わずかな陽だまりを見つけて、龍二はそこに朋重と座った。こんな状態で放って置くわけに は行かない。 こうかい 風が冷たく、教室にコートを置いてきてしまったのを後悔する。 まゆ ろうか

2. Pure gold : 華は藤夜叉

証明でしかないような気がした。 ( だから、いくら走ったって ) ヘル、ウンド 獅狼に顔を出そうとも思わなかった。スピードでは、もう何も振り切れないのかもしれな 望もうと望まざると、龍二はこうして生きてゆくしかないのかも知れなかった。 人に流されるように。大人に支配されるままに。 ( そしてーーーオトナに、なる : : : ) 夢も希望もなく。 高校までの道を、龍二はばんやりと歩いた。同じように発表を見に行く者に、つぎつぎと抜 かされてゆく。 永遠に、学校に着かなければいい気がした。それならば、時間もとまる。 この、ま亠ま。 「ナニうつむいてんだよ、おまえ」 校門をくぐろうとして声をかけられた。顔を上げ、龍二は息をのんだ。 8 「きっリ」 いっからここにいたのだろ 駅校門にもたれるように、栄が立っていた。制服を着ている。 「ーーーおまえ」

3. Pure gold : 華は藤夜叉

笑 , つよ , つには栄は一一 = ロった。 「おいちょっと待てよ とりはが、 言いながら、両腕に鳥肌が走る。 しつねん 自分が私立単願だからと失念していた。彼はずっと不登校だったのだ。 けれど、何とかしていると思っていたのに。取りあえず、願書だけは出しているだろうと。 栄のことだからと。 不覚だった ! 「じゃあおまえ : : : 」 栄が顔を戻す。頬をゆがめた。 「働くしか、ねえじゃん ? 」 かえり 家族を顧みない父親と暮らすのでは。 義母と、別れるのでは。 かせ 「自分で稼ぐなら、もうあんな野郎といたくねえじゃん ? あいつのせいで、俺たちめちゃく ちゃになったのに。毎日、顔つきあわせんの嫌じゃん ? 」 だからーー出てゆく。 8 どこかへ。 ) 一「何で言ってくれなかったんだよ」 まだ信じられない思いのまま、龍二は訊ねた。

4. Pure gold : 華は藤夜叉

つまはじ 皿真後ろの席の男子が、これみよがしに机を引いた。爪弾きにするように、栄を遠ざける。 さわ 龍二はひやっとしたが、栄は振り向かない。気に障るはどでもなかったのか。 がったん、がったん、 椅子を蹴倒して、彼が立ち上がった。同時に龍二も立ち上がっていた ! 栄が振り向く。真後ろの席に立ちはだかった。 「動いたな ? 」 みす 見据えたまま、静かに問う。右手はポケットに入ったままだ。 ばうぜん クラスメイトは答えなかった。法んでいるのか、それとも呆然としているのか。 「先生呼ばう」 女子のささやきが耳に届いた。龍二よりも早く反応した朋重が教室を飛び出し、廊下に立ち はだかる。 「余計なこと、すんじゃないよ」 スカートの長さのぶんだけ、ドスのきいた声を出した。 そろそろと、教室に残っていた生徒が出てゆこうとする。 それを封じるかのように、栄は側の椅子を蹴り飛ばした。体を反転させるように、隣の机も ひる

5. Pure gold : 華は藤夜叉

「二階の左から : : : 」 ヘッドライトが何かを浮かび上がらせた。誰かいるー 思わず龍二はプレーキを踏んだ。とっさのことに、和泉が体をつんのめらせる。 「おいつ」 ひるがえ 人影が振り向き、身を翻して駆け出した。 ( 一色 ) 一瞬だったが、彼のようだった。顔が、腫れていた気もする。 だが、それ以前になぜこんな時間に ? 龍二は車を降りた。すぐに和泉の声が追ってくる。 「おい龍、どこいくんだ ? 」 かいちゅうでんとう 彼は答えずに、雨に手をかざして歩き出した。後ろから光の束が伸びてくる。懐中電灯を手 にした和泉が駆けてくる。 「濡れるぞ」 そういった和泉も、傘をさしていない。龍二は額にはりつく髪をかきあげて見上げた。 「車戻っててください。クラスのヤッ 、いたみたいなだけなんで」 「そんなに大事な友人なのか ? 」 「えつ」 龍二は目を丸くした。 いっしき かさ ひたい

6. Pure gold : 華は藤夜叉

しり 龍二はナイフを尻のポケットにねじ込み、ハンカチを出した。体を折って、手にまきつけ る。 すぐに血がしみてくる。朋重が悲鳴を上げて戻ってきた。 「龍ちゃん」 龍二の手を取り、すぐに栄に食らいつく。 「さっちゃんあんた何したかわかってんの龍ちゃんのね、龍ちゃんのねえ」 「一色のせいじゃなくて、俺がしくじったんだよ」 たしな 窘めたが、朋重は聞いていない。 聞いていないという点では、栄も同じだった。 彼は立ち尽くしている。呼吸は荒いが、動こうとはしない。顔は上げているが、目はどこも 見ていない 龍二が傷ついてショック、というわけでは無さそうだった。第一彼は、止めに入った者が誰 かさえ、わかっているか怪しい ナイフが手から離れたせいか、それ以上暴れるような形跡はない。だが、心ここにあらず ( おいおいおい ) ナが 自分の我よりも、彼のほうが心配だった。彼は本当に壊れてしまったのだろうか。 あまみや 「雨宮やめろよ。一色、一色 ! 」

7. Pure gold : 華は藤夜叉

「そ。ならいいわ」 子供がいいつけを守ったか、確認しただけなのだ。龍二の気持ちに気づきもしないー 死んじまえ 「いちいちそんなこと訊くんじゃねえよⅡ」 廊下に反響するほどの声を出し、龍二は階段を駆け登る。ほっとしたような、あの顔ー 「タ食よ ! 」 「てめえの作ったものなんか、食うか ! 」 怒鳴り返し、部屋に飛び込んだ。ま カちりと鍵を掛ける。 そのまま鞄を壁に投げた。あの顔、あの顔、あの顔ー 一一一一口われたとおりに小学校へ行って、中学校へ行って、高校へ行って大学に行って。 後を継ぐと決めてかかっていやがる めまい 怒りが、水のように揺れた。目眩を覚え、龍二は喘ぐ。泣きだしたい気持ちと、くやしさが ごっちゃになった。 8 吐き出したいのに、うまく出来ない。 ( あの女ーー ) ほうび 〈いい子〉にしていれば、人一倍褒めたのは誰だったか。成績がよければ褒美を与えたのは、 四誰だったか。 あえ

8. Pure gold : 華は藤夜叉

チームが見下されたのはおまえのせいだと、槇原が声を上げた。その通りだと高崎は肩をす くめる。 いつものことだった。〈獄狼〉の幹部は、入りたての下っ端でありながら溜まり場に出入り する龍二を快く思っていない。 きびす 和泉が怒りを向けると、彼らはさっさと踵を返した。 「まいるよなあ、高島さんの気に入りはよお」 「〈オポッチャマ〉に〈暴れん坊将軍〉じゃあなあ」 「てめえら ! 」 和泉が怒鳴ったが、二人は無視を決め込んだ。 「あー、ざってえ」 将宗は和泉の腕を振り解いた。転がっている少年たちに一瞥をくれて歩き出す。 「けつ。 てめえら見てんじゃねえよおっ」 野次馬を威嚇してその輪を抜けてゆく。 「 : : : 誰なんすか、あいつ」 たず 煮える思いを殺しながら、龍二は訊ねた。カケイ、マサムネ 「チームのヤツ、じゃないんですよね ? 」 「ああ、ちがう。俺が個人的に目工かけてんだけど」 将宗は船橋市内の中学生で、十四歳。手のつけられない暴れ者で、だれかれかまわず突っか

9. Pure gold : 華は藤夜叉

彼女の使っているカンフー少女が、意味のない動きを繰り返しながら、まぐれのように必殺 すき 技を出す。龍二は黙々とそれをよけた。ふとした隙をねらい、スライディングをかける。 「あっ」 カンフー少女が転んだ。起き上がる時間を与えす、立て続けにスライディングを繰り出す。 ヒットボイント A-* のゲージが、ドミノ倒しのように消えてゆく。 あっという間に勝負はついた。二戦目も、同じ調子でやりこめる。 はじめはきちんと技を使っていたが、もうそんな気力はない。とにかく、 のだ。 。もう一回 ! 」 「もうイヤですよお」 龍二は眉をひそめ、自分の水割りを飲んだ。秋子は勝つまでやめないのだ。しかも、切り上 れつか げようと手加減すれば、烈火のごとく怒る。 ( どうしろってんだよお ) さかえ 栄がいたら、さっさと押し付けたところだ。だが、彼は用事があると来ていない。 画面では敗者のカンフー少女が涙を浮かべている。コンティニューの数字が、一秒ごとに減 っ ) よっこ。 ってゆき、ゲームオー 食い入るように見ていた秋子が、拳を握りしめた。 、 ) ぶし 秋子はヘたくそな

10. Pure gold : 華は藤夜叉

もら たしたい合格祝いにそんなものをくれるなんて、どんな先輩だというのか。貰うほうも、貰 , つほ , つが ~ 、が。 「見つかって、合格取り消しになったらどうすんだよ」 あき 呆れて言う。人生はリプレイ出来るわけではない。 「べつにかまわないもーん」 こともなげに、朋重はそうロにした。手首に絡めていたバッグを引き寄せて、中身をかきま わす。 ふと、その手が止まった。朋重は身を起こし、抱えたひざに顔を埋める。 「高校、行きたいわけじゃないもん。親が泣くから」 ばつりと言って、ため息をつく。 「学校、嫌い。あたしバカだからついてけないよ。どうせ、すぐに辞めちゃうよ。勉強、全然 わかんない」 ′」うもん 小さく洟をすする。彼女にとっては授業は拷問なのだ。 「行きたくないよお : 取り出したビニール袋に、瓶から透明な液体を移し出す。鼻を突く特有の臭いに、龍二は顔 を背けた。 沈んだ朋重の顔がほころぶ。常習者とまではいかなくても、過去に経験があるのだろう。 あまみや 「アタマ腐るぞ雨宮」 はな