洋介 - みる会図書館


検索対象: Pure gold : 華は藤夜叉
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1. Pure gold : 華は藤夜叉

アルフア・ヘットの、。 スネーク 蛇の、 (f) 。 三本の、スネーク。 「〈三蛇〉は」 はツと、洋介は声をあげた。 〈三蛇〉とは、春からずっとにらみ合いが続いている。 ( そいつらが、集会所へ ) めずらしく、かッと全身が火照った。これは、挑戦状なのか かが 洋介は屈み、文字に触れてみた。指先に赤いものがついた。 まだ、新しい。少なくとも、今夜描かれたものだ。 ほお はげしく頬をゆがませて、彼は車に戻った。アクセルを踏む。 「ふざけんなよ」 けんか あくたい し度胸だ。 悪態が口をついた。獄狼に喧嘩を売るとは、。、 せんせんふこく 8 宣戦布告。 洋介はあの文字をそう受け取 0 た。他のメンバーも同様にするだろう。 〈蝶々〉の近くを通過したとき、洋介は和泉に知らせようか迷った。時間が遅すぎる。起こし らち ても、埒が明かない

2. Pure gold : 華は藤夜叉

待ちに待った真夜中。 彼は上機嫌でプレイヤーを操作する。もちろん曲は、父親の演歌ではない。好みのもの に替えてある。 聞きなれたギター。彼はポリュームを少しあげた。 曲のリズムに合わせるように、洋介は細い道を進んでゆく。一人だけのドライプ。コースは いつものお定まりだ。 ふなばし なかやま 中山競馬場の裏にある自宅から、県道を通って船橋駅を目指す。この時間では秋子も和泉も ちょうちょう なら 寝ていると知りながら〈蝶々〉の前を通過するのが習わしとなっていた。 洋介は今夜もそうした。時間にして二十分ほど。まだ、眠くはない。 ひそ 平和な夜なのか、車通りも少なく、警察が潜んでいる様子もなかった。この調子ならば、あ と三十分ほどは走っても大丈夫だろう。 さて。どこへ行こう ? 幾台ものパトカーとすれ違い、そうそうに引き上げる日もあるか ら、今日はツィている。自宅まで三十分のコースをあれこれ考える瞬間が、洋介は好きだっ かれら 8 ふと思いついて、国道三五七号方面へ向かった。その先の工場地帯で〈獄狼〉は集会をす る。 平日に行っても誰もいないとわかっていたが、信号のない広い道を飛ばし、工場地を一周す るのも悪くない気がしたのだ。 そうさ しゅうこ

3. Pure gold : 華は藤夜叉

バネル時計のデジタル表示が、午前二時ちょうどに変わった。 もういいたろう。 つじようすけ 待ち望んでいた瞬間に、辻洋介は心を躍らせてマジェスタのキーを差し込んだ。 父親の趣味の、どこかのみやげ物の木彫りの熊のキーホルダーの付いたキーは、見るたびに みけんしわ 「ダセェ」と気が滅入る。だが、勝手に替えるわけにもいかず、いつも眉間に皺を寄せながら、 彼はイグニッションを回すことになる。 8 白い高級車は、静かに息を吹き返した。エンジン音がおとなしいと、こういうときは便利 はで いずみ 普段の洋介は、和泉の改造セドリックのような、派手な音の車を好む。とはいえ、深夜にあ の騒音では〉 - 近所も、寝ている家族も目を覚ましてしまうだろう。

4. Pure gold : 華は藤夜叉

118 何か赤いものの上を通過し、彼ははっとしてミラー越しに振り返った。 何かあった。だが、暗くてわからない。 彼はマジェスタを反転させ、それのあった場所に戻った。さきほどよりもずっとスピードを 落として進み、見つけた赤いものの手前で停まる。 それは大きな文字のようだった。同じ形のなぐり書きが三つ、スプレーベンキで道幅いつば いに書かれている。 車内からは読むことが出来ず、洋介は車を降りた。なぐり書きの真上に立ち、それが放射状 に描かれたアルファベットだと気づいた。 なれ親しんだ道を、洋介は時速百キロで飛ばした。国道三五七号を越えると、ぶつつりと対 向車が途絶える。 より遠くまでを照らすためにライトを〈ハイビーム〉に調節し、彼は進んだ。工場の煙突か かどう らは、灰色の煙がたなびいている。二十四時間稼働し続けているのだろうか。 集会では百台近くのバイクがひしめくこの場所も、いまは白く乾いたアスファルトが伸びて いるだけだ。

5. Pure gold : 華は藤夜叉

( 明日だ ) がまんいらだ 我慢が苛立ちを深めた。洋介はステレオのポリュームをめいつばいにあげて、夜の道を飛ば しはじめた。

6. Pure gold : 華は藤夜叉

116 まさか中学一一年生の自分が、親の車を拝借していると知られるわけにはいか もっとも、父親は気づいているかもしれない。知らない間にガソリンが一目盛りも減 0 てい れば、息子を疑うはずだ。母親は、自動車を運転できない。 スモールライトと呼ばれる小さな灯だけをつけ、彼は車庫からスタートした。右折しなが ら、公道に出てゆく。 かげんたち 車庫の両幅に余裕はないが、なれたものだ。わりといい加減な質の父親が、それだけは小学 生の時から彼にさせていたためだ。車庫の出し入れだけならば、キャリアは四年あまりにな る。 てんとう 家から少しはなれた場所まで進み、洋介はライトを点灯させた。ゅ「くりと、アクセルを踏 んでゆく。 ひ・よう・しき 五分ほどは標識の定める法定速度を保ち、〈安全〉を確認してから一気にスピードをあげる。 〈安全〉とは、道路上の問題ではなかった。警察だ。検問でもやっていれば、たちまち捕まっ てしま , つ。 しゆとく 彼が免許を取得できるまでに、あと四年がかかる。十八歳になるその日まで、こうして用心 しなければならない。 こんな真夜中のドライプの理由もそれだ。警察はたいがい、深夜の一時、二時で問などの 作業を終える。 それを待たなければ、どんなに腕がうずいても、洋介は公道には出られないのだ。

7. Pure gold : 華は藤夜叉

「たあのしーよなあ」 そのガードを緩めたような言い方に、龍二はつられて笑んでいた。そうだ、と心から思え る。 「はい」 こう、 ) う 「どうだったの ? キヨーダイ孝行」 洋介にワインを注がせながら、秋子が訊ねる。ビールの入った紙コップを持ったまま、栄が うつむくようにして軽くうなずく。 「まあ」 ロの端がかすかに持ち上がっている。 「ありがとうございました、ケーキ」 とたんに秋子が笑いだす。 「なによお、照れるじゃなあい ! 」 「 : : : おいしかったです」 言って、照れ隠しのようにビールに口を付けた。 8 ( お ) 龍二は目を丸くした。あのアルコール嫌いの栄が、珍しいことだった。 「やつだな、もうつ」 カ任せに秋子は栄の肩をたたいた。はすみで、彼はビールを口中に放り込むように、半分ほ くちは

8. Pure gold : 華は藤夜叉

回転させた。 キュキュキュッロ 焦げたタイヤのにおいが鼻をつき、うっすらと煙が上がる。セドリックは、まぶしいハイビ ームにしたまま、ゆっくりとメンバーたちの間を通りすぎる。 「高島さん ! 」 どこへ行くのかと訊ねる声に、和泉はかるく手を振る。スモークフィルムの張られた窓をあ け、ひょいと顔をだした。 「一時間で戻って来んよ」 こつけ・きしょ , つか ? 」 「んじゃ、誰か後 集会中にチームの会長を襲撃されたのではたまらない。護衛を、というのだ。 それより、イッシキどこだイッシキ 「いらねえって。 親衛隊の白い特攻服を着た男は、あちこちを見回した。 思わず龍二も、車内から栄を探す。 今日は、集会の始めに見かけただけだ。所属部隊が違うため、大きな集まりでは、共にいる ことは出来ない。 「ああ、あすこです。呼んできましようか ? 」 「そうしろ」 つじようすけ 親衛隊員は、やはり群れから離れた場所で、辻洋介と話をしている栄を見つけた。 さかえ

9. Pure gold : 華は藤夜叉

「何がですか、なにが ! 」 たまり兼ねたように悲鳴を上げ、栄は横をむいてしまった。 めんどう 「もう : : : 面倒くせえ : : : 」 その様子に、ふたたび二人は爆笑した。 声を出して笑ったことでか、心の重苦しさが少しずつ晴れてゆく。和泉と三人で、埠頭を抜 け出したこともあるだろう。 「おまえ、運転上手くなったの ? 」 龍二はふたたび振り向き、訊ねた。栄がむっとした調子で両眉を上げる 「一応のことは覚えた」 辻洋介の指導でハンドルを握るようになってから、そろそろ二週間だ。龍二はチームに入っ あやっ てすぐに和泉にたたき込まれたため、バイクも車もひととおりは操縦れる。 じようず . 普段はもつばら和泉の助手席の専門だが、まだ栄よりは上手だろう。 「ヨースケの教え方、どうだ ? 」 和泉が訊くと、栄はばっと体を起こした。 8 「あいつの、分かりやすいです。コツ、きちんと言ってくれるから」 駅「ヨースケとは、気が合いそうだなおまえは」 「はい 「辻って、イヤガラセしねえの ? 」

10. Pure gold : 華は藤夜叉

めぐみたちを家に帰し、〈蝶々〉に戻ってきた二人は、裏口をあけた途端に破裂音につつま れた。 何が起きたのかわからずに、とっさに身をすくめる。その髪に背に、紙吹雪と色とりどりの テープが降りかかった。 「メリークリスマス たかさき 高崎の酔った声が響く。 「やっと帰ってきたな、てめーらあ」 まきはら シャンパンの瓶を持ち上げた槇原の顔が赤い。 「あんたたち、『静かにしな』ってずっと言ってたのにもおっ」 す 椅子ではなくテープルの端に腰掛けた秋子も、目のふちを赤くしている。店じまいをしたあ と、片付けを放り出して仲間入りしたのだろう。 ヘル、ウンド かきよう 8 狼のパーティーは深夜を回り、とっくに佳境に入っていた。食べ物はすべてなくなり、 駅酒のつまみはスナック類に変わっている。 ようすけふじ 龍二たちは、立ち上がった洋介や藤井に手を取られ、押し込められるように椅子に座った。 有無を言わさず紙コップを持たされ、ビールを注がれてしまう。