立ち上がっ - みる会図書館


検索対象: Pure gold : 華は藤夜叉
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1. Pure gold : 華は藤夜叉

「転ぶなよ、槇原 ! 」 とたん 龍二が声をかけた途端に、櫛子のひっくり返る音がした。舌打ちした和泉が引き返す。 「バカタレ ! 龍、したくしろ」 龍二は残りの酒を飲み干した。 「すんません。秋子さん帰ります」 「この続きは、また来週ね」 秋子の不敵な笑みを背に、スニーカーをはく。 最近、店での時間が早い。バカ話をして、笑い転げるようになったからかもしれない。あれ ほどとげとげしかった彼らが、実はそれほど嫌なャツでないとわかったからかもしれない。 いやみ さんじゃ 〈三蛇〉との一件以来、龍二たちを取り巻く状況が変わった。厭味は次第に薄れ、いまでは彼 を〈オポッチャマ〉と呼ぶものはいない。 ぎようド ) レう・ しか まさむね そしてあれきり、将宗も姿を見せていなかった。あまりの行状に和泉が激しく叱りつけたと 聞いた。だが、それはうわさだ。定かではない。 たかなえ 「高苗、俺も一緒に帰るわ。和泉さん、お願いします」 たかさき 高崎が立ちあがった。彼の家は、ここから龍二の家までの通り道にある。 「車行っとけ」 和泉はキーを投げ、槇原を立ち上がらせる。 「おまえも帰んだよ。車ん中で吐くなよな」

2. Pure gold : 華は藤夜叉

龍二は彼らの後を追って走り出した。すぐに行き当たった人ごみを、前の二人は掻きわけて ゆく。悲鳴と怒声が入り混じっているのを聞いて、龍二は足を速めた。 「ナニやってやがんだ。てめえらはア ! 」 あほう 「ド阿呆 ! 」 高崎たちが怒鳴り散らし、人垣がゆれた。ふいに、顔を押さえた少年がまろび出てくる。 少年は足をもつらせ、龍二の目の前で倒れた。両手が真っ赤だ。 だれき かが 龍二は何者か訊こうと屈み、ぐしやりという音に首をすくめた。人ごみを振り返る。 ( 今のは ! ) 冫ふし、いやな音だ。何かがつぶれたような、何かの折れたような。 さんじよう 龍二は立ち上がり、人の輪の中へ駆けた。そこで目にした惨状に、息を呑む。 血まみれの少年が、五人転がっていた。誰もが立ち上がれないほどに痛めつけられている。 におうだ その真ん中で、仁王立ちした少年がいた。和泉ではない。両脇から高崎たちが押さえようと するのを払い、ひくくうめいている一人を蹴った。 「おらア、立てよオ」 はがじ 蹴られた少年が息を詰める。さらに近づこうとする彼を、二人が羽交い締めにした。 かけい 「筧 ! もうやめろ ! 」 か

3. Pure gold : 華は藤夜叉

つまはじ 皿真後ろの席の男子が、これみよがしに机を引いた。爪弾きにするように、栄を遠ざける。 さわ 龍二はひやっとしたが、栄は振り向かない。気に障るはどでもなかったのか。 がったん、がったん、 椅子を蹴倒して、彼が立ち上がった。同時に龍二も立ち上がっていた ! 栄が振り向く。真後ろの席に立ちはだかった。 「動いたな ? 」 みす 見据えたまま、静かに問う。右手はポケットに入ったままだ。 ばうぜん クラスメイトは答えなかった。法んでいるのか、それとも呆然としているのか。 「先生呼ばう」 女子のささやきが耳に届いた。龍二よりも早く反応した朋重が教室を飛び出し、廊下に立ち はだかる。 「余計なこと、すんじゃないよ」 スカートの長さのぶんだけ、ドスのきいた声を出した。 そろそろと、教室に残っていた生徒が出てゆこうとする。 それを封じるかのように、栄は側の椅子を蹴り飛ばした。体を反転させるように、隣の机も ひる

4. Pure gold : 華は藤夜叉

コツン。 つぶて りゅうじ 窓に当たる礫の音に、数式を解いていた龍二は顔を上げた。 またた 瞬く間に年が明け、あと少しで新学期が始まる。 コツン : 二つ目の、礫。 そらみみ 空耳ではないと確信して、立ち上がった。表通りに面している、その窓を開く。 冷たい風が流れ込んだ。龍二は首をすくめ、夜の外に目を凝らした。 塀の向こうに人影がある。こっちを見ている。 りゅう 「龍」 呼ぶ声に彼は目を丸くする。 けろ

5. Pure gold : 華は藤夜叉

高崎がぐいと押し退ける「龍一一はすぐさま振り向いた。 「やめろッてんだよ。店ン中だろ」 高崎もそれを思い出したようだった。ふたたび、栄に手を掛ける。 「オモテにでろよ」 「テメーが勝手に出ろ」 にべもなく、栄は言い放った。今までためてきた怒りが爆発しようとしている。 「一色 ! 」 「んだと ! 」 龍二と高崎の声が重なる。がたツと槇原が立ち上がった。 「ずいぶんとチョーシこくじゃねえよ ? 」 「アンタほどじゃねえよ」 栄が返す。槇原の顔色が変わった ! 「んだコラアⅡ」 「ちょっと待てってんだろ」 店の真ん中に龍二は飛び出した。栄を振り向く。 「おまえも、ワケわかんねえこと言ってんじゃねえよ」 ふっとう 和泉がいないなら、自分で止めるしかない。誰も彼もが、沸騰寸前のお湯だった。このまま では、掴み合いになる。

6. Pure gold : 華は藤夜叉

たかなえりゅうじ 「高苗龍一一」 「はい」 名前を読み上げられた龍二は立ち上がった。決められたとおりに体育館の端へ歩いてゆき、 だんじよう かんかくたも 前の生徒との間隔を保って壇上へ進んでゆく。 こんなもの、繰り返し練習 予行演習には一度も顔を出さなかったが、間違えることはない。 をせずにも、先頭の者を見てさえいればすぐに出来る。 。しくら「あまり時間」とはいえ、単調な儀式をなぞっているだ 受験終了から卒業式までま、、 けでは時間の無駄づかいのような気がする。 たいした緊張感もないまま、龍二は少しずつ進んでいた。 とうじ 答辞を読まなくてもすむ。比べ物にならないほど楽だ。 今年は小学校のときとは違い、 日かー

7. Pure gold : 華は藤夜叉

どっと息を吐き、龍二は立ち上がった。栄を助け起こす。 「なんとか、間に合ったな」 駆け込み乗車した中学生に見せようと、笑顔を作ってみる。 栄も何とかうなずいた。片頬だけが、ひきつるようにゆがんで笑む。 へた 二人とも、下手な芝居だったかもしれない。 服の埃を払った二人は、鞄を手に車両を移った。先頭車両まで歩き、シートに崩れるように 座り込む。 「ばツかやろう : ・・ : 」 乗客は、遠くに一人だけだ。 龍二は思わず毒づいていた。 「あんなモン、持ってやがってよ」 いっか猫を切り裂こうとしたナイフだ。獄狼に出入りするようになって、捨てただろうと勝 手に思っていた。 栄はうつむいたまま、何も言わなかった。すこし余裕が生まれたのか、右手を眺め、手をゆ つくりと握った。 ゆっくりと、またひらく。 ヘルハウンド

8. Pure gold : 華は藤夜叉

「なんだこのザマアリ」 どごう さんじよう ドアを震わせるような怒号とともに、裏口から和泉が飛び込んで来た。彼は店の惨状に一瞬 立ちすくんだが、すぐに通路に現れる。 誰よりも恐れをもって、龍二は振り向いた。 「ーーてめえら」 ぶら下げていたスー ーの袋を、彼は床に叩きつけた。怒りでその先が続かない。 床にうずくまっていた男たちが、反射的に立ち上がった。とっさに口をひらいた斉藤を、彼 ひとにら は一睨みで封じる。 既「言い訳なんざ、聞きたかねえ ! 」 怒鳴って、腹立ちまぎれにスー ーの袋を蹴った。何かのつぶれる音がする。 「片づけろ」 ぜっきよう よく響く低い声で、彼は命じた。ばんやりと動かない彼らを前に、絶叫する。 「一色、もうやめろ ! 」 足元に、吉尾が転がっていた。花瓶でやられたのか、割れた額から血があふれていた。 「一色 ! 」

9. Pure gold : 華は藤夜叉

夏の初めにどかんとやってからも、二チームの関係はくすぶっていた。それが、今日になっ て吹き出したというのだ。 こぜあ すいめんか 水面下で幾度も小競り合いがあったのは、チームと離れていても聞いている。 『会長がふいうちかッくらってんだよ ! すぐ総攻撃だ ! 』 「サチ ! 」 受話器をふさいで振り返ると、栄が床を蹴って立ち上がった。壁に吊るしてあった白い特攻 服に手を伸ばす。 「槇原、場所は」 『オートレース場の裏だ ! 』 とうきようわん みなみふなばし 南船橋駅の側だ。東京湾沿いは、道も広く夜は人もまばらだ。 「五分で行く ! 」 たた 龍二は叫ぶようにして電話を叩ききった。 「龍」 8 待ち構えていたように、黒い特攻服が飛んでくる。龍二は無言で袖に手を通す。 いずみねら 今度ばかりは行かなくてはならない。和泉が狙われている。 龍二は、彼の刃。 栄は、彼の楯だ。 たて そで

10. Pure gold : 華は藤夜叉

突然鳴りはじめた電話のベルに、龍二は箸を置いた。立ち上がってライティングデスクに向 カ , っ 囲んでいたテープルでは、シチューがぐっぐっいっている。あの日買い込んだ調理器を、彼 らはあますところなく使っていた。 「もしもし」 部屋の電話は、彼専用のものだ。栄たちと暮らすようになってから、しばらく鳴っていなか 『龍二』 久しぶりの電話の相手は、男性だった。声だけでは誰だかわからない。 まきはら 『俺だ、槇原』 「槇原 ? 何かあったのか ? 」 めいもくじ・よう・ ヘル、ウンド 狼のメンバーだ。名目上は、龍二の上になる。 もう二月近く、姿を見ていなかった。龍二も栄も、弟妹の面倒を見るようになってから、チ ームとは遠ざかっていた。 ひま のんき なっかしい声だが、暢気にしている暇はないようだった。声が急いている。 さんじゃ やみう ふなばし 『いますぐ船橋に来い ! 戦争だ ! 〈三蛇〉の闇討ちだ凵』 0 せ