船橋 - みる会図書館


検索対象: Pure gold : 華は藤夜叉
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1. Pure gold : 華は藤夜叉

夏の初めにどかんとやってからも、二チームの関係はくすぶっていた。それが、今日になっ て吹き出したというのだ。 こぜあ すいめんか 水面下で幾度も小競り合いがあったのは、チームと離れていても聞いている。 『会長がふいうちかッくらってんだよ ! すぐ総攻撃だ ! 』 「サチ ! 」 受話器をふさいで振り返ると、栄が床を蹴って立ち上がった。壁に吊るしてあった白い特攻 服に手を伸ばす。 「槇原、場所は」 『オートレース場の裏だ ! 』 とうきようわん みなみふなばし 南船橋駅の側だ。東京湾沿いは、道も広く夜は人もまばらだ。 「五分で行く ! 」 たた 龍二は叫ぶようにして電話を叩ききった。 「龍」 8 待ち構えていたように、黒い特攻服が飛んでくる。龍二は無言で袖に手を通す。 いずみねら 今度ばかりは行かなくてはならない。和泉が狙われている。 龍二は、彼の刃。 栄は、彼の楯だ。 たて そで

2. Pure gold : 華は藤夜叉

にらみ合い、それきり背を向ける。長い長い確執が、はじまる。 まくはり みなはふなばし 将宗は南船橋駅方面へ、龍二はバイクを放り出した幕張方面へと走った。 (T)>< が向かってくる。とっくに引き返していた栄が、戻ってきたのだ。 「乗れ、サイレンが聞こえる」 彼はわざとタイヤを滑らせて、車体を反転させて止めた。爆音が、オートレース場裏から四 方に散ってゆく。 「早く」 うながされ、龍二は拳を握る。こんな幕切れは許されない , 「くそッⅡ」 「おいてくぞ、このタコ ! 」 怒鳴られて、シートにまたがる。走りだすバイクの後ろで、龍二は目を閉じた。怒りをかみ 殺す。 ( くそ 0 家に戻ってくると、玄関のドアが開いていた。一階の明かりもすべてついている。 めった まだ十時にもならないと思えば、当たり前のような気もするが、高苗家では滅多にないこと ワ 4 、、こっこ 0 かくしつ

3. Pure gold : 華は藤夜叉

しんふなばし 『新船橋、新船橋ー』 隣の駅に着いた。乗ってくる客はまばらだ。 降りようか。龍二はそれを思いまる。 まだだ。近すぎては、すぐに足がつく。 とっさに、家とは逆の方角を目指したのは正解だった。地元での事件ではなかったのも、捕 まらないためのプラスの材料になるだろう。 夜遊びを始めたとき、あの町を選んだ理由が、いま役に立つなんて。 皮肉な気持ちが、苦笑を生む。 ( 警察が、マヌケだといい : そう祈らずにはいられない。 「おまえ、前は ? 」 上の空で、彼は首を振った。 ( よかった。マシになる ) ホッとしながらも、恐れがっきまとう。現代の警察は、血の一滴からでも、犯人を割り出せ るのだから。 祈るしかない。 栄はまだ、手を開閉させている。その目つきとしぐさは熱に浮かされたようで、龍二はぞっ とした。手を伸ばし、彼の手を握って膝に下ろす。 ひぎ

4. Pure gold : 華は藤夜叉

「じゃあ帰れよ」 こぶしなぐ 何だそれは、とかッとし、龍二は船橋までの金額のボタンを、拳で殴りつけた。吐き出され た切符を、引きむしるように取り上げる。 電車を待つあいだも、車内でも、栄は一言も喋ろうとはしなかった。視線も合わさずに、窓 の外ばかり眺めている。 気に入らない。 龍二は歯ぎしりした。彼はどういうつもりなのだろうか 訊きたいことはたくさんあるのに、きっかけがなかった。黙りこくったまま、船橋に着いて し亠ま , つ。 ホケットに手を入 改札を抜け、〈蝶々〉への道をたどりながらも、栄は無言のままだった。。、 れ、右肩を斜めに落として歩いてゆく。 しい加減にしろよ」 耐えきれなくなり、龍二はロ火を切った。 〈蝶々〉に着いてしまえば、すべてがうやむやにされてしまう気がしたのだ。 「何がだよ」 いらだ 立ち止まり、振り向いた栄は、まぎれもなく怒っていた。苛立ちを隠そうともせず、切り結 ぶように視線をあててくる。 しゃべ

5. Pure gold : 華は藤夜叉

はじめて船橋駅に降りたのは、半年前だった。 そのころの龍二はまだ、のどまで出かかった苛立ちを吐き出すすべを知らずにいた。 このままじゃ嫌だ。このまま誰かの言うなりに生きていたくない。 。ししカわからすにいた。 泣き出したいほど思っても、どうすれま、、、 中二の秋頃のことだ。学校では、相変わらす〈いい子〉だった。 苛立ちのはけ口に、なぜこの街を選んだのかは分からない。ただ無意識に、知り合いに会わ ない場所を選んだのは間違いなかった。 龍二たちの住む千葉市の中心は、千葉駅周辺だ。遊ぶにも買い物するにも、そこで用は 足りる。 とうキエう このまち 千葉駅から約三十分東京寄りの船橋に、自分の仲間や知っている大人たちが、理由なくして 来ることはない。 よはど運が悪くないかぎり、誰にも会わないとわかっていた。 だから半年前のあの日、龍二は、まだ自分が何しようとしているのかも分からないまま、船 はんかがい 橋駅に降りた。改札を抜け、繁華街のある西口に向かった。 とにかく、何かしたかった。この気持ちが収まるならば、なんでもよかった。 路上の看板を蹴り倒してす。デバートでの万引き。駅での置き引き。 十四歳の頭で、考えつくかぎりのことは、すべてやった。 ほどう じゅく がいけん いちども補導されなかったのは、塾帰りにしか見えない外見のせいだろう。大人たちはとり ふなばし

6. Pure gold : 華は藤夜叉

登場人物紹介 ノ 局苗龍二 本編の主人公。 1 5 歳。自他、、 ともに認める優等生だった が、そんな自分に嫌気がさ し、和泉に誘われるまま、 く獄狼〉に参加する。 R Y U Ⅱ T A K A N A E 筧将宗 船橋に住む 14 歳。和泉が目 かけているが、手のつけ られない暴れ者で、だれか れかまわず突もかかっては 乱闘を繰り返している。 0 M A S A M U N E K A K 日

7. Pure gold : 華は藤夜叉

龍二の名前は : : : あった。 「やったな」 くち・よう おまえなら当然だというロ調で、栄は言って肩をすくめる。押しつけるようにして受験票を 返し、歩きだした。 「おい待てよ」 「帰ろうぜ」 長居は無用だというように答え、栄は止まろうとはしない。仕方なしに追いかけながら、龍 二は受験票を乱暴にポケットに押し込んだ。 来たときの半分の時間で、彼は駅に着いた。栄は無言のまま切符を買う。金額は地元までの 値段ではなかった。 「ーーーどこ行くんだよ」 「フナバシ」 訊ねると、簡単に返ってきた。 ふなばし ( 船橋 ? ) ちょうち - レう 8 解せない。〈蝶々〉に行くつもりなのか。 駅「気分じゃねえよ」 いずみ 和泉にも、メンノし ヾーこも会いたくない。 そんな気分になれないと告げると、栄はにべもなく言った。

8. Pure gold : 華は藤夜叉

突然鳴りはじめた電話のベルに、龍二は箸を置いた。立ち上がってライティングデスクに向 カ , っ 囲んでいたテープルでは、シチューがぐっぐっいっている。あの日買い込んだ調理器を、彼 らはあますところなく使っていた。 「もしもし」 部屋の電話は、彼専用のものだ。栄たちと暮らすようになってから、しばらく鳴っていなか 『龍二』 久しぶりの電話の相手は、男性だった。声だけでは誰だかわからない。 まきはら 『俺だ、槇原』 「槇原 ? 何かあったのか ? 」 めいもくじ・よう・ ヘル、ウンド 狼のメンバーだ。名目上は、龍二の上になる。 もう二月近く、姿を見ていなかった。龍二も栄も、弟妹の面倒を見るようになってから、チ ームとは遠ざかっていた。 ひま のんき なっかしい声だが、暢気にしている暇はないようだった。声が急いている。 さんじゃ やみう ふなばし 『いますぐ船橋に来い ! 戦争だ ! 〈三蛇〉の闇討ちだ凵』 0 せ

9. Pure gold : 華は藤夜叉

「龍、それどうすんの ? 」 思い出したように、栄が彼のズボンを指さす。尻ポケットから、つぶれた卒業証書がのぞい ている。 「ああ。 ーーー忘れてた」 夢中で突っ込んできたままだったそれを、龍二は引き抜いた。 広げて、まつぶたつに引き裂く。 「おい」 栄は驚いたようだが、やめるつもりはない。 ( 証書は破り捨てる ) 決めていたことだった。それが龍二のやり方だ。 彼はこれ以上は無理だと言うところまでちぎり、そのまま放り投げた。 二人の上に証書がふりそそぐ。アスファルトに落ち、風で幾葉かがひるがえった。 ( もう帰らない ) 千葉のあの町は、龍二の故郷ではなくなる。 8 ( 俺たちは、船橋ではじめる ) 一月ほど前 ( 彼は一人の男に会いに行った。 あるじ 高苗の、本家の主。 その男と、彼は正式に契約をした。彼らの住む場所と、二人分の学資の保証。 しり

10. Pure gold : 華は藤夜叉

「おまえら ! 」 「待ちなさい二人とも ! 」 もちろん二人は止まらなかった。フェンスをよじ登り、朝のうちに隠しておいたヘルメット かぶ を被り、 O(-DX に飛び乗った。 「高苗 ! 」 「一色 ! 」 「証書おとすなよ、サチ ! 」 どせい 教師たちの怒声のなか、龍二は叫んでエンジンを吹かした。 ねら この騒ぎは事前に報告済みだ。入学取り消しを狙う教師がいても、それは〈カ〉でもみ消さ れる。 「事故んなよ、てめえ」 栄の言葉を背に聞きながら、龍二は公道に飛び出した。 時刻、午前十時五分。 ふなばし やっと通勤ラッシュの過ぎた国道十四号を走り抜ける。集会へ急ぐように、船橋へ抜ける海 とうキ一ト ` う・ ひんおおどお 8 浜大通りを東京方面へ向かう。 オン、ウオン す シフトチェンジにエンジンが唸る。空いているとはいえない道を、龍二は縫うようにバイク を走らせる。 いっしき