高校 - みる会図書館


検索対象: Pure gold : 華は藤夜叉
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1. Pure gold : 華は藤夜叉

それを、未来を売って買った。 一生、栄には言わないつもりだった。墓場までこの秘密は持ってゆく。 かいじん 今日から、二人の住居は船橋市海神となる。建ったばかりのマンションの九階の一室を、龍 二の名義で受け取ったのだ。 そこから、二人はそれぞれの高校に通うことになるだろう。 栄は県立高校の二次募集に志願した。 あさって 「おまえ、試験明後日だぞ」 受からないと、本当に中学浪人となる。 はからずも、彼らは一校限定受験という、同じスタイルを取ることになってしまった。 「あのな」 あき 栄が呆れた声を出す。二次募集の学校はどれも、彼の成績なら余裕があるのだ。 「万が一を考えろよ。ちゃんと勉強しろよてめー」 や なぜか自分の本番よりも緊張する。今からこれでは、発表までに五キロは痩せそうだ。 それとも、胃炎になるのが先だろうか。 「じゃあ、龍がメシ当番な」 「なんだよそりや」 しれっと言った栄に、龍二は目をむいた。 「俺が勉強すんだろ ? おまえヒマじゃん」

2. Pure gold : 華は藤夜叉

やりたいことなど、龍二にはなかった。今日、おまえの行く高校はここだと教えられてきた 学校に受かった。 あとは三年後、ここだと教えられた大学に受かる。 それだけだ。たったそれだけ。 ( ~ ~ なんでだ ) きけん 失敗したほうがよかったのか ? 途中で棄権したほうが ? 龍二は奥歯をかみ締める。 、いに穴が開いたようだった。まだ厳しい風が、心のうろを吹き抜けてゆく。 ( どうして、こんなにーー・むなしい ) 受験終了の報告のため立ち寄った学校に、栄の姿はなかった。 新学期が始まって以来、ずっと欠席が続いている。龍二は家に幾度か電話を入れたが、一度 も誰も出なかった。 どうしているのか不安に思ったまま、今日まで来ていた。差し迫った受験に、それ以上気を 8 割くことが出来なかったのだ。 「どうだった ? 」 くらも。り クラスに現れた龍二に、蔵森がぎこちなく声をかける。おどおどとうつむき気味だ。 もう二度と話さないだろうと思っていた彼の言葉に、龍二は軽く驚いていた。以前の二人な

3. Pure gold : 華は藤夜叉

証明でしかないような気がした。 ( だから、いくら走ったって ) ヘル、ウンド 獅狼に顔を出そうとも思わなかった。スピードでは、もう何も振り切れないのかもしれな 望もうと望まざると、龍二はこうして生きてゆくしかないのかも知れなかった。 人に流されるように。大人に支配されるままに。 ( そしてーーーオトナに、なる : : : ) 夢も希望もなく。 高校までの道を、龍二はばんやりと歩いた。同じように発表を見に行く者に、つぎつぎと抜 かされてゆく。 永遠に、学校に着かなければいい気がした。それならば、時間もとまる。 この、ま亠ま。 「ナニうつむいてんだよ、おまえ」 校門をくぐろうとして声をかけられた。顔を上げ、龍二は息をのんだ。 8 「きっリ」 いっからここにいたのだろ 駅校門にもたれるように、栄が立っていた。制服を着ている。 「ーーーおまえ」

4. Pure gold : 華は藤夜叉

楽しそうな横顔を見て、龍二はふと思う。和泉は、どんな中学生だったのだろう。 ふなばし さいたま 中学三年間の前半は、埼玉で過ごしたと聞いている。その後、家庭の都合で船橋に越してき て、市立の中学を卒業したのだという。 おおかみ いみよう 荒れていて、校舎のガラスを一枚残らす割ったと聞いた。数回の補導と〈狂い狼〉の異名。 まなぎ おもかげ 龍二の知る和泉には、その頃の面影はない。彼にとっては、和泉はつよい眼差しを持ちなが らも兄のような男だった。 聞いてみたい気がした。学校を好きだったかと。それとも同じように苦しんでいたのかと。 和泉は、高校には行っていない。 「あそこですー 正門までの一本道を、龍二はゆっくりと運転した。朝になればまた来なければならないと思 うと、うんざりする。 「正門、入れつかな」 「門あいてりや入れますけど、警報鳴っても知りませんよ」 最近では、学校にも警備システムが作動している。 既「平気だろ。校舎入るわけじゃないし」 黒いスライド式の校門は開いていた。最後に出た者が、閉め忘れたのだろうか。 龍二は車のまま乗り込んだ。ロータリーをゆっくりと回る。 「おまえの教室どこだよ ? 」

5. Pure gold : 華は藤夜叉

もら たしたい合格祝いにそんなものをくれるなんて、どんな先輩だというのか。貰うほうも、貰 , つほ , つが ~ 、が。 「見つかって、合格取り消しになったらどうすんだよ」 あき 呆れて言う。人生はリプレイ出来るわけではない。 「べつにかまわないもーん」 こともなげに、朋重はそうロにした。手首に絡めていたバッグを引き寄せて、中身をかきま わす。 ふと、その手が止まった。朋重は身を起こし、抱えたひざに顔を埋める。 「高校、行きたいわけじゃないもん。親が泣くから」 ばつりと言って、ため息をつく。 「学校、嫌い。あたしバカだからついてけないよ。どうせ、すぐに辞めちゃうよ。勉強、全然 わかんない」 ′」うもん 小さく洟をすする。彼女にとっては授業は拷問なのだ。 「行きたくないよお : 取り出したビニール袋に、瓶から透明な液体を移し出す。鼻を突く特有の臭いに、龍二は顔 を背けた。 沈んだ朋重の顔がほころぶ。常習者とまではいかなくても、過去に経験があるのだろう。 あまみや 「アタマ腐るぞ雨宮」 はな

6. Pure gold : 華は藤夜叉

ここは公立中学なのだから、泣こうがわめこうが、二月には受験をしなければならないだけ の話だ。 「龍ちゃん、やつばチバタカ ? 」 たず つまんだプリントを振りながら、朋重が訊ねる。〈チバタカ〉は学区内の公立で、一、二を 争う進学校の名だ。 小さな痛みを覚え、龍二は横を向いた。 せんたくし 迷えるような選択肢ははじめからない。 『高校からは、都内に通いなさい。受けるのは、あそこだけです。おじい様もお父様も本家の おおおじ 大伯父様も通われたのだから』 じゅもん 呪文のように、繰り返し言われつづけた言葉が脳裏をよぎる。 来春通う高校は、すでに決まっている。都内の有名私立進学校。まるで東大の予備校のよう に言われているそこだけを、彼は受ける。 ( 敷かれている、レール ) 中学受験をしなかったのは、義務教育までは地元の公立でという〈家〉の方針のため。龍二 はその高校へ行き、さらに一流大学を目指す。大学を出たら、父親の会社に入るだろう。そし ていっか、経営を引き継ぐ。 ( 決められている、道 )

7. Pure gold : 華は藤夜叉

けれど、わかる気がした。 どこにも行けない。何もできない。かけらの力もない。 外へ出たならば、ただの子供。 そう、実感するしかないこと ( 自由になりたいと叫ぶ ) ( どこかへ行きたいと叫ぶ ) ( 俺を支配するなと叫ぶ ) その声は、すべて届かない。 封じられる。 押し開けることの出来ない、重たい鉄の扉の前に 龍二も出られない。出られない。あの家から。 逃れられない。 決められた高校。 そこに行こうと、龍二はまだ思っている。勉強をしている。 どたんば やめてしまえばいいのにと、心がささやく。土壇場で、願書を提出しなければ。違う高校 に、変えてしまえば。 そう思っても、変えられない。成績を落とさぬよう、努力せずにはいられない。

8. Pure gold : 華は藤夜叉

が収されててそれがらみのストーリーもありました。出なか 0 たけど。 そんでね、今回いちばん困ったのは高校選択でした。ストーリ ーに直接関係ないんだけど ねら へんさち さ、キャラの設定上、どのへんの高校を狙ってるとか決めたかったの。でも現在って、偏差値 マジ消えたのねー。「千葉県の高校」なんてガイドブック買っても、制服と所在地しか載って ぬいし ( いや、ほかのことも載ってるけど ) 。おねーさんが中学生の時はねえ、ガイドブック にはそーゅーのが書いてあったでございますよ。だからそのつもりでいたんだけど : のよどうせわたしはばばあ。 余談ですが、ガイドブック見てて専門科に「水産学科」があったのには驚いた。東京にも神 ながわ 奈川にもあった。海あり県つてそういうことよね。当たり前なんだけど、海なし県生まれの私 さいたま にとっては新でした。まあ、逆に埼玉にそんなんあったらケッタイだよな。川魚でもとるの か ? フナとかタニシ ( 魚じゃないだろ ) とか。取るなよ。 じだん 制服もここ十年でずいぶん変わったみたいです。ガイドブック見て、千葉出身の友人は地団 だ 太ふんでいた。在学時の制服は、プレザーと下の色の組み合わせが最悪だったそうな。たまに あるよね、どんな神経してこの色にしたんじゃあってやつ。えんじのベストとか、プルーとピ ンクのレジメンタルストライプタイとか。かくいうわたしの出身中学はジャージがド緑 ( すげ え緑ってことよ ) でした。女子のセーラー服のラインも、体育館の床を傷つけないよう敷くシ ートも、イスも緑。なんでも創立時の校長が緑化にやたら関心があったらしい。やれやれ。 期制服ねえ、カッコ悪かったんだよ。せつかくセーラー服なのに、スカーフついてなくてさ。 ゆか

9. Pure gold : 華は藤夜叉

肘を小突いた。シンナーをやるなとまでは、彼には言うつもりはなかった。 朋重にも、善悪の判断は出来る。それを承知でしていることのはずだ。 「腐っても、いーよ。だって高校行きたくない」 「よかねえだろ。行きたくないならやめろよ」 「やめらんないよ ! 」 思いがけず強い反応が返った。・ ヒニールを握り締めた朋重が、龍二の胸倉をつかむ。 「やめらんないよ ! だってお母さん泣くんだよ ? 朋重みたいにアタマ悪いコ生んだせいで 近所に悪口言われて。それでやめれる ? 龍ちゃんやめる ? 一緒に高校行かない」 龍二は答えられなかった。意に染まなくても、やめられないこと。 ( 俺の、受験・ : : ・ ) 「だからって、こんなもん ! 」 おばっかない手から、ひったくるようにして取り上げた。ビニールのなかで、液体が跳ね 「やだー かえしてよおつ。それで忘れるの ! 嫌なこと全部忘れるの ! 」 8 体を起こした朋重が、両手をさしのべる。奪い返そうとする彼女から、龍二は袋を遠ざけ 朋重の顔色が変わる。怒鳴り散らすかと龍二は身構えたが、次の瞬間彼女は笑った。 「そうだよ。やってみる ? 」 る。 ひじ

10. Pure gold : 華は藤夜叉

ふしようじ しかもこんな時期にと、龍二はロ中で声を溶かした。他人が躍起になって勉強し、不祥事を 起こさぬようにと過ごしている。中学三年生の、三学期なのに。 「おまえさ」 朋重を抱きかかえたまま話しはじめた。聞こえてなければ、それでもいし 「ガッコ、どうすんだよ」 高校のことだ。三年間を通して、まともに授業を受けたことすらない朋重だ。 「行くよ・ ~ 」 帰ってきた言葉に、少なからず驚く。行く、と。行けるとは違うのだと言いかけた龍二に 彼女は県内にある私立女子校の名前を口にした。 「おまえそれ試験は ? 」 のんき 私立高校は、いまが受験シーズンだ。こんなところで、暢気にしていていいのだろうか。 朋重は、声を立てて笑いだした。 「もーねえ、受かったあ。きのーね、合格はっぴょ ~ 」 「受かった」 0 思わず口をつぐんだが、それが本音だった。冗談のようにしか聞こえない。 「うん。そいで、ひさしぶりにセンバイにあったらねえ、お祝いにビンごとくれたの。だから つ、使ってるの」 「使ってる ) じゃねえだろう」 やっき