が、見過ごすわけにはい ) 病気や疲労、ストレスの影響 もし、あなたが私に一九七九年の冬や八一年の秋、八七年の秋に会っていたら、おそらく私のこ とを気むずかしく、弱々しく、泣き虫でユーモアのない人だと思っただろう。外見やボディー・ラ ンゲ 1 ジ、声、言葉、行為のすべてが、そういう人間だと示していたはずだ。あの頃の私はめちゃ くちゃだった。 しかし、その二カ月後に、あなたの友達が私に会ったとする。あなたはその友達に、私の様子に ついてこと細かく説明していたのだが、その友達は「あなた、勘違いしているんじゃない ? 全然 そういう人じゃなかったわよ」と言うだろう。その時の私は自立しており、外向的で幸せだったか らだ。 何が起こったのだろう ? 多くの女性と同じように、私は三人の子供を産む度に、ひどい産後う つに悩まされていたのだ。私の体に起こった生理的変化が全人格を一変させてしまった。何が起こ っていたかを知らなければ、あなたは私をまったく誤解しただろうし、「正常ーな状態で私がどう いう行動をするか予想もできなかっただろう。 産後うつ、月経前症候群、慢性的ストレスなどは人の性格に大きな影響を及ばす。流感やしつこ い咳、歯痛、胃のもたれも一時的に性格に影響を与える。 289 第九章見かけ通りではないこともある
「そうでしようか ? 」私は答えた。「彼女を残した方がいいかもしれませんよ。素直な人かもしれ ないという気がするんです」 弁護士が不審そうな顔をした。 , 彼女を陪審に残すには、もっとはっきりした理由が必要だ。クラ イエントの命がかかっているのだから、単なる勘に頼るわけにはいか その夜、私はべッドに寝そべり、自分がなぜあの白人女性にこだわるのかを考えた。法廷での質 疑応答から得た客観的情報よりも私の直感の方が説得力があるように感じた。いったいこの勘はど こからくるのか ? なぜ私はこの勘が正しいと思うのだろう ? もちろん、陪審候補者の客観的評価は、単なる想像よりももっと重要だ。しかし直感は想像では ないし、私の仕事においても直感はいつも重要な役割を果たしてきた。長年の経験から、ある人や 状況に対して自分が感じる直感には、慎重に注意を払うことが大切だと学んだ。直感的なひらめき がそれまでの理性的な結論を覆し、結局その直感が正しかったことも少なくない。 そういう経験から、直感はとても現実的なものであり、かっ、とても説得力があるので、人を読 む上でかなり役立っこともあると思うに至った。と同時に、直感の働きは何も神秘的なものではな しとも思うよ一つになった。 違う意見を持つ人も多いだろうが、私は直感というのは私たち人間の正常な精神の働きの一部だ と思っている。ただ、自分たちでよく理解していないだけだ。もし直感をもっとよく理解できた ら、もっと頻繁に有効活用できるはずだ。 多くの人の目には、直感は特別な人に与えられた神秘的な才能だと映るようだ。しかし私は、誰 298
四つのステップの実例 O ・・シンプソン事件では、私自身この四つのステップを踏んでいた。 若いヒスパニック系の女性が陪審員席に腰掛けた。公判前の調査として、私たちは各人にあらか じめ質問状に答えてもらってから、口頭で質疑応答をした。その結果私たちは、この女性は被告人 側の言い分に共鳴し、検察側の言い分ーー配偶者の虐待を強調した論理ーーには動かされないだろ うと結論した。 陪審選定をした翌朝、この若い女性が私の目を引いた。 何かひどくおかしい、と強い感じに襲われた。何カ月もかけてやっと選んだ陪審員をもう一度見 直すべきだ、という意見は歓迎されないだろうと考えながらも、この直感は無視すべきでないと私 は思った。少し考えてから、彼女はもしかしたら虐待されているのかもしれない、 と自分が心配し ていることに気づいた。そのあと今度は何でそう思ったのかを考え、すぐに自分の気がかりの原因 を発見した。 それまでこの陪審員は法廷であらゆることにとても慎重に注意を払っていた。弁護士や裁判官、 シンプソン氏にいつも目を配り、法廷で起こっていることすべてを吸収しているようだった。 だが、その日の朝は様子が違っていた。私たちに目を向けず、宙を見つめていた。さらに彼女を 観察すると、顔に小さなアザがあった。意識的にか無意識的にか、彼女はそのアザを私たちに見せ 3 12
り込んでいるのだろうか ? 私をコントロールしようとしているのか ? それともただ注目を浴び たいだけ ? 説教屋には説教をせずにいられない理由があるのだ、と頭に入れておこう。もっと相手がわかっ てきた時点で、その理由を探してみよう。たいていは見つかるものだし、その見つかった理由は人 を読む重要な手がかりの一つになる場合が多い。 いちいち大騒ぎばかり ある晩、私がカフェでゆっくりしていた時、近くの席に座っていた男性が誇らしげに「これは私 のおごりですからーと言っているのが聞こえた。声の方に顔を向けると、五十代前半といった感じ のきちんとした身なりのカップルが見えた。この男性は、ぎこちないが興奮した様子で女性の腰に 手をまわしている。おそらくはじめてのデート、あるいは二回目くらいなのだろう。自分の寛容な 申し出が相手に聞こえなかったと思ったのか、この男性はまた繰り返した。「ここは私がごちそう しますから [ その途端、緊張のあまりか、彼は彼女のコ 1 ヒ 1 をこばしてしまった。私はおかしくなった。カ プチーノ一杯でこの騒ぎなのだから。 これにかごら、す、どこにでもこのよ , つに・人騒ごす - る・人がいる。 レストランで勘定を払う時、黙って自分のクレジットカードをウェイターに渡せばいいものを 「私が払う」と宣言せずにいられない人。部屋中をのし歩き、自分の指輪に接吻してうやうやしく 272
感がする高揚感など。 つまり、私たちが直感と呼ぶものは、埋もれていた記憶の蘇りなのだ。あまり覚えていない事 や、 いくつかのできごとが組み合わさり記憶となって、意識に上ってくるということだ。 この「感じ」は宇宙のエーテルからくるのではなくて、私たちの潜在意識からくるのだ。私たち がやるべきことは、この直感という能力を改善し、情報を集めて、貯蔵し、潜在意識からこの情報 を引き出す方法を新しく探すことだと言える。 潜在意識に蓄積されたバターンからわかること ードディスクに情報を保存しておくように、 私たちの潜在意識は、ちょうどコンピュータ 1 がハ 何千という経験や観察を保存している。ただ、コンピューターの場合は、「探す」ボタンをクリッ クすればすぐにほしい情報が引き出せるのに、潜在意識へのアクセスは、でたらめで偶然に満ちて いる。とくにあまり注意を払っていない時に記憶された情報は見つけにくい。 傾 私はいつも注意深くものごとを観察して、ある種の外見や行動、声などが、ある種の考えや行動弭 声 につながっていることに気がついた。そのため、私の潜在意識のデ 1 タベースには、膨大な量の人 内 間の特徴や、その特徴が状況に応じてどう変化するかというパタ 1 ンが蓄えられている。この膨大 章 十 第 なデータベ 1 スが、人や状況について感じる直感のもとになっている。
安全圏での決断をしよう これまでにあなたは、全体に目を通し、取り出し、拡大し、評価した。今度は決断を下さなけれ ばならない。あなたが決断しなければ、それも素早く決断しなければ、あなたの運命が決定されて しまうのだ。 ガソリンスタンドでの決断が少しでも遅れていたら、銃を持った若者のひとりに車から降りろと 命令されていたかもしれないし、あるいはもっとひどいことになっていたかもしれない。 を使って人や状況を読む場合、間違った決断を下すこともあるだろうが、即断が必要 とされるような状況で間違うと、そのツケははかりしルない。だから、私はいつも、「もし間違え るなら、安全圏での間違いをしろ」というルールに従っている。 これまで私が陪審コンサルタントとして成功してこれた理由の一つは、もし何か疑いがある場 合、冒険をせずに、最悪の結果にならない方の道をとってきたからということだ。 , 後悔より安全を 2 す 取った方がいし 断 決 ガソリンスタンドで、私は自分に残った選択肢とその結果を素早く考えた。もし私の懸念が当た 早 り、これから盗難が起これば、ガソリンスタンドに車を止めてしまうと、私や家族に危害が及ぶ可 編 能性がある。だが、盜難が起こらなかった場合に、私が失うのは次の町のガソリンスタンドまで車 を走らせる数分だけだ。次の町まで数マイルしかないし、そこまでガソリンが持っことはわかって
もが直感力を持っていると信じている。私たちは皆、直感を鍛えてもっと鋭くすることができるは ずだ。 数年前に『アメリカン・ロイヤー』誌は、私が陪審員を理解し、彼らの行動を予測できることか ら私を「予見者ーと呼んだ。これはうれしいお世辞だし、実際、本当に第三の目があったらどんな にいいだろうと思うこともある。私生活はもちろんのこと、仕事もずっと楽になるだろう。 しかし、私は千里眼ではない。私が人間の行動を予測する時は、神秘的な第六感を使っているの ではなく、どの人間にも備わっている普通の五感を使っているだけだ。法廷での私の成功をもたら してくれたのは、「第三の目 . ではなくて、好奇心、観察そして努力だ。 直感とは何か ? 「直感」という言葉にはどうも、分析や説明を拒む、神秘主義的なうさん臭さがっきまとう。占い 師は直感を使って、あなたが結婚するかどうかにはじまって、世界の運命まで予言すると思われて いる。たしかに占い師の一言うことには、一見感心させられることもある。 一体、占い師はいったい何をやっているのだろうか ? 占い師を一皮剥いてみよう。驚異的な結論、つまり「予言」に至るまで、彼らはどういうプロセ スを辿っているのだろうか。よく見てみると、結局占い師は「人を読む」ことに長けた人に過ぎな いことがわかるはずだ。 299 第十章内なる声に耳を傾ける
女性は男性よりも直感力があるか 人の心を読み、未来を予測する特別な才能を持っている人を知っている、という人は多いだろ う。そして、なぜかそういう人たちは女生であることが多い。直感についての私の定義ーー五感を 通して集まった情報が潜在意識に貯蔵され、そこから浮かんできたメッセージーーを話すと、たい てい皆、自分の知り合いの祖母、叔母、母親のサイキックパワ 1 についてはどう説明するのかと挑 んでくる。 「彼女は友達が風邪を引く二日前に、それを予言したんだ」 「ジミー・スミスが自動車にひかれて死ぬって予言したんだよ 「私が嘘をつくと必ず彼女にはわかっちゃうの」 もしかしたら世の中のどこか には、本当にバイプレーションを感じたり、まったく知らない人の 性格を言い当てたり、未来を予言したりできる人がいるのかもしれない。だが、私はそういう人に 会ったことはない。 つまっていた。この女性について感じたことは、彼女がこのデ 1 タベ 1 スにあるパターンと違う、 とい一つことだった。 結局私たちは彼女を陪審員として残し、果たして私たちのクライエントである被告人は無罪とな
誰かについて否定的なことを言う時、彼女は必ず犠牲者的な口調になり、やや声を低め、躊躇し たようにしゃべり、ポイントを強調するためにぐずぐずと泣き言を入れた。ここで彼女が送ってい るメッセージは「この意地悪な人が私を傷つけているの、助けて」だ。 一方、何か自分の考えを述べようとする時は違うテクニックを使った。家の中では、聞くに値す る意見を持っているのはスティープだということになっていたようだ。だからセーラは何か言いた いことがある時は、いつも抑揚のない単調な話し方をした。この意味は「言いたいことがあるけれ ど、言うのは私の役目じゃないってわかっているから、私の考えなんかどうでもいいっていうふり をするわ。もっと私より頭のいい人に私の考えがいいかどうか評価してもらうの」だ。しかも彼女 の声はいつも、甲高く甘いマリリン・モンロー風だった。 セーラは、自分の言いたいことをスティープに聞いてもらうために、無力な少女の役を演じ「助 けてもらわないと困る」という素振りを見せる癖がついてしまったようだ。 切 大 甲高い声というのはおそらく選択的なものだろうが、あまりにも長い間使ってきたのでほとんど 習い生になってしまったらしい。彼女が本当に怒ったらどんな声になるのだろうかと、私は考えず 話 にいられなかった。 で 非選択的な、つまり無意識的だったり生まれつきだったりする特徴は、慎重に取り扱わなければ 内 ならない。その特徴を本人がどう利用しているか、どうやって隠そうとしているかを見れば、いろ 章 五 第 いろなことがわかるからだ。 たとえば「女性的ーと言えるほど高い声をしている男性が、「男性的。になろうとしてわざと荒々し
たから、また公平な裁判を受ける被告の権利を考えたから、というのがその理由だった。彼女よ 質問状の自分の答はあまりにも頭ごなしに被告人を有罪だと決めつけていたと謝り、もっと素直に なると言った。 普通なら、私は彼女のような人を選ばうとは絶対に思わない。彼女の言葉や行動から、この有名 な事件の陪審員になりたいということ、そのために自分の公平さを売り込もうとしていることがあ りありと窺えるからだ。しかし、なぜか私は彼女を信じたいと思った。 , 彼女は本当に素直な人だ、 と何かが私に告げた。 そこで、もう一度彼女の言ったことや外見、行動を吟味してみた。彼女は質問に答える時、まっ すぐに私たちの目を見つめていた。やや前屈みに椅子に腰掛けていた。質問状に書いた自分の答に ついて話す時、何度もため息をついた。有罪だと決めつけていたことを後悔していると何度も述べ 黒人女性である自分に偏見を持つ人がたくさんいるが、自分もまた同じように犯罪者かもしれな い被告人に偏見を持ったことに気づき、苦悩しているようだった。ゆっくりと誠意の込もった話し 方をしていた。まるで自分の感じたことについて、絶対的な真理を求めるかのように、心と魂に深耳 声 く入り込んでいるようにさえ見えた。 内 私はそれまでに、実に多くの人が有名な裁判の陪審員になりたいばかりに、自分を曲げて売り込 章 十 第 むのを見てきた。彼らが裁判官や弁護士に対してどういう行動を取るかは充分にわかっていたつも りだ。彼らのボディ 1 ・ランゲージや声の調子、話し方は私の潜在意識のデータベースにたくさん