常識的な発想だと、こうなります。 ところがフォードの考えは違いました。 当時はまだ一部の富裕層の持ち物だった自動車に注目し、自動 車会社をつくったのです。 フォードにしてみれば、次のような思考パターンで発想したの でしよう。 馬車 ( 対象の特定 ) 速く移動するもの ( 抽象化 ) ↓ 自動車 ( 具体化 ) そして、自動車をできるだけ安く庶民に供給しようと、大量生 産に挑戦したのです。 1 台ずつ手で組み立てていた自動車を、流れ作業で生産するよ うにしたのは、フォードでした。 その結果、マニアの乗り物にすぎなかった自動車が、大衆車「 T 型フォード」として世の中に広まったのです。 ところがフォードは、やがてピンチに陥ります。 フォードの自動車は、「自動車の代名詞と言えば T 型フォード」 と言われるほど有名になったのですが、黒色のモデル 1 種類しか 製造していませんでした。 ところが、ライバル社が多彩な色やデザインの自動車を発表し たのです。 売上が落ち込んだとき、ようやくフォードは気が付きます。 本質が変化したのでした。 ↓
抽象化の 3 つのステップ 第 抽象化は、次のような順序で考えます。 2 対象の特定 抽象化 →具体化 フ シ ひとつ、例を紹介しましよう。 ン キ 自動車王ヘンリー・フォードは、起業する際に何を商売の種に ン グ しようかと考えました。まわりに話を聞くと、誰もが「速い馬車」 必 を開発すべきだと言います。 要 な 時代は 19 世紀末。 3 当時の人たちの「足」は、まだ馬車が主流の時代でした。 つ の カ 6 頭立ての馬車だろう。 4 頭立ての馬車より速いのは、 いや、いっそのこと 8 頭立てにすれば、もっと速くなる。
未来の世界を見通した トーマス・エジソン 電球を実用化したエジソン 2 つ目は、発明王エジソンの例です。 エジソンも、ラテラルシンキングの達人でした。 ところで、電球の「発明者」はエジソンだと思っている人は多 いのではないでしようか。実は、電球を最初に発明したのはイギ リス人のジョセフ・スワンです。 ただ、スワンの電球は 10 ~ 40 時間程度しか持ちませんでした。 それでもロウソクよりは、はるかに長い時間点灯するとあって、 とても重宝されたのです。 エジソンも同じ頃に電球の実験をしており、日本の竹をフィラ メント ( 発熱部に使われる細い線 ) の素材に採用して、一気に 1000 時間を超えるまで電球の寿命を延ばしました。 エジソンが実用化した白熱電球の寿命は、現在使われている電 球の寿命とさほど変わりません。 第 2 章で紹介したフォードが、一部のお金持ちの趣味に近かっ た自動車を大衆化したのと同じように、エジソンは電球を改良し、 実用化することに成功したのです。 電球普及の先にエジソンが見ていたもの ところで、なぜエジソンは電球の実用化にこだわったのでしょ うか ? エジソンが考えていたのは、電球が普及したあとのことでした。 実用化に成功すれば、たくさんの人が電球を買い求めるでしよう。 「だったら、電球を製造すれば儲かるはずだ ! 」 138