顔 - みる会図書館


検索対象: まぼろしの犬
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1. まぼろしの犬

ええ。私は反対しましたよ。こんなことが起こるんしゃないかと思いましたからね。で も、他に方法が無かったんです。プレゼントを待っている子どもたちのことを思うと、本 当にそれしかなかったんです」 教頭は、話し終えるとっかれきったようにイスに腰をおろしました。 「たしかに、サンタクロースが不足していることに関しては、国でも話し合いはしている 力いけっさく が、まだこれといった解決策はみつかっていない : 議長は、「他には ? 」というように会場を見回しました。 校長が立ち上がりました。 かれ たし むちゅう 「彼は、確かに何年も留年しています。でもそれは熱心なあまりに、 一つのことに夢中に なると他のことをわすれてしまうからなんです。それでなかなか卒業できすにいるんです だれ が、子どもを思う気持ちは誰にも負けません。 そこでこのたびのことをよくし ) って聞かせて、サンタクロースにしてしまえば、サンタ クロースの仕事をやり遂げてくれる。そう思ったんです」 教頭も、立ち上がりました。 こし I ー 0

2. まぼろしの犬

さいぜん 「最善の努力をしているんです」 といって、話をつづけました。 「今年も、ようやくプレゼントのめどがついたころ、無理をして働いていたサンタクロー かれ スの一人がけがをして、急に入院をすることになったんです。私たちはあわてました。彼 の受け持ち区域は、広く、他のサンタクロースに割り振るなんてことはできません。時間 も無いことで、今年は私と校長で手分けをして乗り切ろうとも考えてみました。 しかし、私たちは、もう若くありません。プレゼントをくばるのかおくれたり、まちか いがあってはこまるだろうとあれこれ考えて、ある生徒を思いだしたんです。 かれ 彼は、何年も留年している男ですが、自ら希望してサンタ学園に入学してきた男なんが や を ス です。 ええ。たしかにスカウトはしていませんよ。でも、彼は熱心なんです。どうしてもサン ン というんです。 タクロースの仕事をしたい、 サ きよか ですから、私たちも喜んで彼の入学を許可したんです。 校長は、その彼を卒業させて、サンタクロースにしようといいだしたんです。 りゅうねん

3. まぼろしの犬

第都第 0 ー金引第よを、第第第物第 サンタクロースをやめた日 、第を式にら洋毳 木村研

4. まぼろしの犬

しん た。自分を信じて立ち上がるしかない。 呼びかけが終わり、ついにその時がきた。 みく 未来はガタガタふるえながら立ち上がった。そして、「反」の文字をかかげた。会場が しばけん ざわめくなか、左の前の方で、柴健が立ち上がる姿を未来は見た。 すがた 1 丐おばけイチゴを食べた日から

5. まぼろしの犬

かなえちゃんは思ったよりシックないでたちであらわれた。上が大きなえりのある黒 シャツで、下が白い細身のパンツ。やつばりだれよりもめだっていた。 四人はおたがいに目くばせをして卒業式にのぞんだ。入場、開会の言葉、国歌と校歌の しゆくじ せいしよ、っそっぎようしよ、つしよじゅよ しよ、つかい 斉唱、卒業証書授与と式は進んだ。そのあと長い祝辞などがあった。祝電が紹介され、 呼びかけかはじまった。 六年間の思い出やこれからの決意などを、 ートにわけて全員で しゅうばん 一一口りかける。も、つ式も終盤だっこ。 みく しんぞう 未来の心臓はしだいに高なってきた。四人は呼びかけが終わると、立ち上がることにな っている。そして洋服の中にしのばせてきた紙をかかげる。画用紙には大きな字で一文字 しばけん すっ書かれてあった。未来の字は「反」。席の左の方から、アホ道が「戦」。柴健が「争」。 一番右の席にいるかなえちゃんは「対」。 未来は布くなってきた。こんなことをしていいのだろ、フか。でも、自分の意見をアピー ルしたかった。お父さんは無事にもどってきたけれど、今もイラクに行っている人かいる じえいたい 自衛隊のことばかりではない。戦争はだれにも幸せをもたらさない こど、つ むね いちだん 胸の鼓動は一段と高くなってきた。足もふるえてくる。新しい自分かここにいると田 5 っ こわ 102

6. まぼろしの犬

「うん。戦争をなくすには、ひとりひとり、戦争にかぎらすいろんなことに関心を持って、 自分の意見を持つ。そして話し合うって書いた、 これは四人で考えたことだった。 「書いた。おれが書いた所だ」 みち と、アホ道がのりだしてきた。 「だから、おれたちの意見を : : : 」 「アピールするわけだ ! 」 なっとく やっと納得したように、 「うん」 「なるほど。アヒルだアヒルだ。ガアガア」 むし アホ道をみんなで無視した。 そんな話をして以来、元トレイン新聞部のメンバーは、放課後にこっそりと集まるよう そして、とうとう卒業の日がきてしまった。 かなえちゃんがうなすいた。 おばけイチゴを食べた日から

7. まぼろしの犬

「うん」 台所でお母さんの鼻歌がきこえてきた。お父さんがクスッとした。 お父さんが帰ってくる少し前に、トレイン新聞最終号は完成していた。完成までは、け っこうな日数をついやした。というのは、特集のイラク戦争の調べに時間がかかったから せんねん しりよ、つ 卒業ファッションに専念すると言ったかなえちゃんも加わって、熱心に資料を読んだ。 じえいたい そして、どうして戦争をするのか。なぜ日本が自衛隊をイラクに送ったのか。戦争をなく はしら すために、私たちはどうするのか。という一二つの間題を考えて、特集の柱にした。その他、 けんば、つ だいきゅうじようの 年表を作ったり、憲法の前文や第九条を載せたりした。 みち わからないことだらけで、資料を読むのはつらかった。あいかわらすアホ道はやつばり アホ道で、かなえちゃんもあきつばいところもあったけれど、新聞作りに協力的だった。 ふしぎ みく なみだじけん 不思議なほどみんなはまとまった。みんなは未来の涙事件から、なんとなく変わったよう なのだ。どうして未来のお父さんがイラクに行ったのか、未来の涙のわけを考えようとし てくれたのかもしれない。 、ゞ 0 しりよ、つ

8. まぼろしの犬

みく お父さんの手から、小さな赤茶色い石が、未来の手のひらにわたった。 「イラクの小石 ? 」 「うん。ただの小石でがっかりだろうけど」 ばくだんじゅうだん 石に命はないけれど、 この小石の上を爆弾や銃弾が飛びかったのかもしれなかった。小 そうぞう イラクからやってきた小さなかたいかたまりは、命を想像させた。それは無事にもどった お父さんの命でもあるようだし、イラクで戦争で死んでいった人たちの命でもあるような 気がした。 「ありがとう。大切にする」 なみだ お父さんを見ていたら、新聞部でまちがっているという話が出て、涙がこばれてきちゃ ったことを思いだした。イラクに行ったお父さんは、まちがっているのか、まちがってい みく ないのか、あれから何べんも考えたことだった。未来は思いきって聞いてみた。 「戦争はいやだよね。お父さんもいやでしよ」 「ああ、いやだね」 お父さんはきつばりと答えた。 9 / おばけイチゴを食べた日から

9. まぼろしの犬

みち たら最悪だ。急いでおもしろいことを考えようとした。アホなことをアホ道が言って笑わ せてくれないだろうか。お願いとアホ道を見た。アホ道はこんな時にかぎっておとなしい。 じけん つばいあ しかたがないので、アホ道の一番アホな事件はなんだったろうと考えてみた。い って、すぐにはなんにも思いだせなかった。どこがまちがっているのか、だれがまちがっ せいり ているのか、整理して考えられない。気持ちだけがどんどん熱くなる。盛り上がってきた なみだ 涙に、ストッフかかけられなかった。 「アホ道なにか言ってよ」 みく と、未来は言った。 す だから、大人は戦争が好きなんだよ。子どもには、みんな仲良くというのに。んだ ちっともおもしろくない。がまんしていたけれど、ポロッと涙がでてしまった。 ばれると、もうかまんかきかなくなって、次つぎにあふれてきた。 何でえ ? 」 しばけん と、ばかんとしてアホ道がいった。かなえちゃんにも、柴健にもばれてしまった。未来は 一度こ 2

10. まぼろしの犬

ひがしのしろ ごのうせん 「おれは今、五能線だな。すごいんだぜ。始発駅が東能代。それから能代だべ。向能代、 とりがたさわめひがしはちもり 北能代、鳥形、沢目、東八森 : 「わかったわよ。じゃ、未来は ? 」 「うん。関心ごとといったら」 「なによ」 「うん。イラク戦争かな」 、も 「ウワッ、ダサ。そんなの盛り上がんねえよ。五能線にするべ」 じえいかん 「私のお父さん自衛官なんだけど、今、イラクのサマワに行ってんの」 「へエー、すごいしゃん。戦争に行ってんだ。パキューン、パキューン、パキューン。か っこいいしゃん」 戦争なんて。未来には悪いけど、ちょっとね」 「やつばりダサくない ? しばた 、ノー柴田 かなえちゃんは全然関心がないようだった。かなえちゃんが、もう一人のメノヾ しよ、つきよくてき かげ・ りやく けんたろう 健太郎に目を向けた。柴田健太郎、略して柴健。柴健は消極的でまったく影がうすい存 在だった。無ロ。引っこみじあんの未来でさえ、柴健を見ているとイライラすることがあ むかいのしろ そん 89 おばけイチゴを食べた日から