ないなんてこと、あるはすがない。ボクたちはすっと、人間といっしょに生きてきたんだ か、ら。 サクラに似た大は、建物のかげに消えていって、それからどうなったかはわからない。 だけど、それいらい、戦争のニュースを見ると、その大の姿がうかんできて、胸が苦しく てたまらなくなる。そうなると、ごはんものどを通らなくなるんだ。 ハクパクとチョコクッキーを食べて 詩穂さんはテレビを見て悲しそ、フな顔をしながら、 ごくバツの悪そうな顔をする。別に責めて いたりする。そんな時、ボクと目が合うと、す だいす るわけじゃないのに。だって、詩穂さんがむかしからチョコクッキーが大好きなこと、知 っているから。ただ、悲しい顔をして食べる詩穂さんを見るのが、ボクはせつない。 ) 、胸か苦しくなる 爆弾が飛びかうあの国の人だって、テレビを見ながらチョコクッキーを食べられたら、 いつも幸せな顔をしてチョ どんなにいいだろう。詩穂さんも、あんな悲しい顔しゃなく、 コクッキーを食べられたら、どんなにボクはうれしいだろう。 ばくだん すがた むね まは、ろしの大
そしてその思い出は、その人の優しい心もいっしょに引っぱり出してくるのだろう。 ボクを見て、おどろいたり、なっかしがったりしている時は、みんなすごくやさしい顔 をしている。きっと、こっちがほんとうの顔なんだ。それを、こわい顔に変えてしまうの が、戦争ってものなのだと、ボクはつくつく思う。 それから、も、つひとつ、もっとふしぎなことかある ボクらが人間を守る様子は、何度もビデオや写真に撮られて、世界中にニュースとして 伝えられた。 すがた ところが、ニュースになった映像には、ボクの姿だけがいつも映っていないらしいのだ。 もちろん、写真にも、ボクの姿は写っていない。ボク以外の大や人間、動物は全部、ちゃ んと映っているのに : ボクのいた場所だけが、ポツンと空白になっているというのだ。 でも、その場にいた住民も、兵士も、マスコミの記者も、みんなボクはたしかにいたと しよ、つげ・ん 証言している。 もっとも、そのことで一番とまどっているのは、ボク自身なんだ。だって、そこに自分 かいたってこと、自分がだれより知っているのだから。 やさ えいぞう うつ まは、ろしの大
「おっとうー ! 」 とよんで、ただ泣くばかりだった。 そしてまさに、戦いの火たが切られようとしたときだ。 にら いっからそこにいたのか、高い土手の大岩の上に、『しやもじい』が立っていた。 みあった二つの軍を見おろして。その顔は今まで見たこともないこわい顔だ。ふさふさの 髪はさかだち、ひげはふるえ、目はらんらんと燃えるような光を放っている。そのすがた を見て、 、な、なんだあー 「うわあー どちらの軍の兵も、どよめかずにはいられなかった。 『しやもじい』は、そのどよめきをつきやぶり、 「おおうー と、声をあげた。うなり声ともさけび声ともっかない声を。その声は地面をふるわせ、野 いっしゅん 原は一瞬、まっ暗やみに変わった。 その中で『しやもじい』は、ただひとりすっくと立って、天に向かってたかだかと右手 かみ
みちしばけん る。未来もアホ道も柴健の顔をうかがった 柴健はみんなに注目されたのでドギマギして、目玉をキョロキョロさせた。 「ねえ、たまには意見を言いなよ ! 」 いらだった声で、かなえちゃんが言った。 「ばど、は、 ばくは戦争のことかいし ちがってるよ」 オドオドした小っちゃな声だった。 「エェッ と、かなえちゃんが顔をひんまげた。 ごろ 「しゃあ三対一できまった。イラクの戦争にするべ。ダダダダダ、ダダダダダ。みな殺 せきにん 「まあいいかあ。三人で責任持ってやってよ。私は卒業ファッションにせんねーん」 トップの特集はイラク問題。そのほか、一年間の重大ニュース。卒業ファッション。五 のうせん マンガ。とい、つことになった。 ム目線を行く。 し」 じえいたい ) と思う。イラクに自衛隊が戦争に行くなんてま ご 0
「うそ」 カズキは「はあ」と声にして息を大きくはきだした。老人はにやにやしている。右手を 顔の前に立てて、悪い悪いを連発した。 じえいたい 「今度は本当の話。今、自衛隊って言ったけど、あれを自衛軍に変えようって言ってる政 家かいるぞ。日本も正式に軍隊を持って、戦争かできる国になったはうかいい 「本当に ? 「ほんとほんと」 ・・うそだ」 「さてどっちだ」 もうれつはら ふくじんづ ご飯とルーと福神漬けをぐちゃぐちゃにかきまぜて、カズキはかきこんだ。猛烈にカ しよ、つわる さっさと食 声も聞きたくない。 立っていた。こんな性悪じしいの顔なんか見たくない。 べて店を出てやる。 そんなカズキの気分を逆なでするかのように、老人がヘらへらとつづけた。 へいわけんばう 「あーあ、平和憲法も百年もちそうにないなあ。しかたないか。今時、世界平和なんては さか 2 2
だいじようぶ 「だ、大丈夫 : 「な、なんだって卩」 まさ 「あのままじゃ、将くんか : 舞は声をつまらせて泣きだしてしまった。 まさのり こんらん 将紀の頭は混乱していた。なにがどうなっていたのか、まったく理解できなかった。両 手で抱えていたサブマシンガンは、影も形もない。血でまっ赤にそまっていたはずの手や あせ げんそう 顔は、汗ばんでいるだけだ。それにしても、いままでの『ノ が幻想だ ったとは、とうてい思えない。 いちねん 「まさか、おれの一念が、こんなことに ? : 将紀はっやくようにいった。それとも、この暑さのせいだったのだろうか だま ふたりは黙り込んだまま、空き地に座り込んでいた。 —』で高ポイントをあげたやつらは、もしかしたら、血をあびても知 ころ り合いがいても、撃ち殺せたのか : 将紀がばんやり考えていると、舞が将紀の顔をの ぞきこんできた。 こ あたしが、マシンのコンセントを、無理やり抜いたの : 0 ぬ
わし始めた。しやまをしたかと、カズキはいたたまれない気持ちになり申し出た。 「あの、ば く、もう行くから。あ、またなんかしゃべってるよ。じゃ」 行こうとしたカズキを、老人が「おいと呼びとめた。おこったような目でカズキを見 ていた。 「おまえ、おれがここにいたの、さっきから見てたのか ? 」 ・・うん」 せんきょ 「言っておくが、おれは選挙になんか、一度も行ったことないんだからな」 しんけん 「そう ? でもすごく真剣な顔して演説を聞いてたよ。行く気満まんに見えたよ」 ーっと赤くなった。二、三歩後ろに下がった、と思ったらいきなりかけ出 老人の顔がか しん」う した。がにまたで、首にさげたタオルをぶらぶらさせて、ちょうど青に変わった信号をわ むぎわらばうし き目もふらずにわたった。麦藁帽子がふっ飛んでも走るのをやめない。みるみる遠ざかり、 カズキの前からいなくなった。 「なんだ ? 」 カズキはあっけにとられて、その場に立ちつくした。なにか失礼なことを言ったか、し も、つ
伏だって ! 負けてやんの ! 」 コップの氷を口にふくみ、あらあらしくかみくだいた。 きも 「だから君たちは肝にめいしておかないといけないよ。この国の大人の一一一口うことをうのみ きけん めんどう にしたら危険だよ。面倒くさいことはみんな後の世代に先送りにして、自分たちに都合の しる からし しいことばっか言ってるんだから。辛子入り汁かけ飯がいつのまにかカレーライスになっ かくへいき けんば、つ てたみたいに、憲法があるから戦争は起きないって思ってたら、国が核兵器をこさえてた、 なーんてことがあっても全然おかしくないんだからね、ってよ」 「ああ、そうですか。あんたって年よりの顔をしたガキだわ。いまだにうらんでるんだ。 大人たちめ、よくもおれをだましたなって」 すみ 「おうよ。おれがどんなにみじめな気持ちで教科書を墨でぬりつぶしたか、おまえになん かわかるか」 なみだ 「わかるよ。だってその時あたし、あんたのとなりの席にいたもん。あんた、涙とはなみ すで顔中ぐちゃぐちゃだったね」 「 : : : その話、やめろって」 ふく
くら うす暗がりの中に、十数人の人間たちが、かたまってすわっていた。男性たちのかげに かた かくれるように、女性や子ども、年寄りが不安げな顔で肩を寄せあっている。母親らしい こねこ 女性のうででは、やせた赤ん坊が眠っている。子猫を抱いた、まだ小さな女の子もいた。 人間たちの脇では、五、 , ハ匹の大が、アリサを取り囲んでいた。 「だいじようぶだったのか ? 」 一番からだの大きな大が、たずねている。シェパー 。いかにも強そうな大だった。 しりした体つき かれ 「ええ、彼が助けてくれたの。ポンタっていうのよ」 「こっちょっ ! 」 アリサが細い路地から顔をだして、するどい声でボクをよんだ。ボクは死体から目をそ むけると、彼女を追った。路地に入ると、つきあたりに、こわれたとびらがゆれているの いく。ボクもあわて が見える。とびらのすきまに、アリサのふさふさしたシッポが消えて て、中に飛びこんだ。 かのじよ わき 、ほ、つ びき かこ トの血かましっているよ、フだ。が だんせい っ
りがどこかへ行っていたりしませんか。良くも悪くもメディア ( 特にテレビ ) の力は大きいので す。それを肝に銘じなくては、と改めて思いました。 げんじようあや つな さて、日本の現状の危うさを知り、「おはなし」のカで戦争のイメージがふくらんだり、 むずか げんじっ あせ がったりすると、今度は、では、この難しい現実の前でちつばけな自分に何ができるのかと、焦 るような苦しいような思いになる人も多いことでしよう。そもそも、自分に何ができるのか、い つもいつも宿題が残っているようなすっきりしない思いを抱えているからこそ、答えを求めてい るうちにこの本に出会ったとい、フ人もいるでしよう。そうい、つ人は、「まばろしの大」で、「テレ しほ ビを見て悲しそうな顔をしながら、パクパクとチョコクッキーを食べていた」詩穂さんが「ボク と目が合うと、すごくバツの悪そうな顔をする」気持ちが、よくわかったのではないでしよう からし か。「辛子入り汁かけ飯ーでも「真夏のノ ヾトルフィールド」でも、ものすごい暑さの中、お店に あせ はいるとクーラーがききすぎなくらいきいていて汗がひくという場面かありましたね。たくさんの すず あたた せいけつかいてき の電気を使って、暑い夏も涼しく、寒い冬も暖かく、清潔で快適な暮らしをしている私たちの多ナ くは、詩穂さんと同じなのです。この後ろめたさ ( 悪いことをしているような、申し訳ないよう な落ち着かない気持ち ) から逃げるために、目をつむり耳をふさぐという生き方もあるでしょ きもめい しる かか わけ