はつくっさくらしきよういくしいんかい さくらだんちしゅふ さんか 発掘は桜市教育委員会が中心となっておこなわれ、桜団地の主婦たちもたくさん参加していた。 ′」、つと、つ かんだ おく 「あたしたちの三号棟でも、神田さんの奥さんがこのところ毎日、裏の山へ出かけて行くわよ くみじようほう あいかわらず、久美は盾報にくわしい げんば きゅうけいじよそうこ 発掘は何か月もかかるので、現場にバラックを建てて、休憩所や倉庫などに使うことが多い 「こんにちは」 りゅうた 竜太と久美はまずバラックをたずねた。 はつくっげんば かんけいしゃい力し せきにんしやきよか 発掘現場に関係者以外の者がはいるには、責任者の許可がいる。 きよ、ついくしし ) んかい わたなべしゅにん 責任者は教育委員会の渡辺主任だった。 「発掘を見学させてください」 へ 竜太がたのむと、渡辺主任はこわい顔でことわった。 ぶがいしゃ とうぶんきんし ど 「だめだ。部外者の見学は当分禁止だよ」 器 「どうしてですか ? 土 ふまん な と久美は、不満そうにたずねた。これまで、発掘現場はなるべく市民に見学させるようにという事 ほうしん のが教育委員会の方針だったのだ。 話 どき さくや せきあ 「昨夜、遺跡荒らしが、発掘したばかりの土器をぬすんで行ったんだよ」 第 渡辺主任ははきすてるようにいった。 さぎようふく かんだふじん 3 そこに、作業服すがたの神田夫人がはいってきた。 、つ、り
「それじゃ、人目につかないでこ , 、にしのびこむことも : : : 」 みだんていてき りゅうた 久美が断定的なことをいいだしたので、竜太はあわててさえぎった。 はんにん 「証拠がないのに、人を犯人あっかいしちゃだめだよ」 「だって、あやしいんだもん」 と久美はロをとがらせた。 げんばちょうさ じようもんいせきはつくっ せきあ こんなわけで、竜太と久美の縄文遺跡発掘の見学は、遺跡荒らしの現場調査のようなものにな ってしまった。 「夜中に、かんたんに発掘現場にはいれる人はいますか ? 」 さ かんだふじん 一は、つ、か′、 竜太がたずねると、神田夫人は南の方角を指した。 じゅうたく 「あのあたりは、住宅の庭と地つづきだからいつだって行ったりきたりできるわね」 じようもんどききようみ 「そ , 、に、縄文土器に興味を持っている人なんか、い ませんか ? 」 どき かわまたけ わか はつくっ 「そうねえ、川又家のおじいさんなんか、若いころから、一人で土器を発掘しているそうよ」 「いまもやってますか ? さいきん 「最近は年もとったので、自分が発掘した土器のコレクションを研究しているだけだって聞いてる わ」 神田夫人は時計を見た。そろそろ発掘の仕事にもどる時間だ。 「最後にもう一つだけ教えてください さい′」 しようこ 8
「犯人の心あたりはないんですか ? くみ 久美はたずねた。 「まるつきり」 と神田夫人は首をふった。 はつくつないじよう 「でも、犯人は少なくともここの発掘の内情にくわしい人間だということは、たしかです」 そうさ たてあなじゅうきょあとしゅうい りゅうた 竜太は、荒らされた竪穴住居跡の周囲をあるきまわりながら、捜査をはじめた。 「犬の足跡がある」 それは、やわらかい土の上にいくつもはっきりのこっていた。 「犯人は、犬をつれていたのよ」 久美はきめつけるようにいった。 やけん 「このへんをうろついている野犬の足跡かもしれないわ」 はつくっげんば 神田夫人の話によると、夜になると二、三頭の野犬が発掘現場をうろついているらしい はつくっさぎようさんかしゃ 「発掘作業の参加者の中で、きのうは来ていて、きよう休んでいる人はいませんか ? 」 竜太は神田夫人にたずねた。 くやしそうに神田夫人はさけんだ。 はんにん あしあと かんだふじん 6 3
かわまたふじんなみだ そういって、川又夫人は涙ぐんだ。 かんだ 「神田さん、これを見てください」 りゅうたゆか 竜太は床の箱を指さした。 どき そこには、どろだらけの土器の破片が大小入りまじり、ごたごたと入れられていた。 「あっ ! 」 ちょっけい かんだふじん とっぜん、神田夫人は大きな破片をつかみあげた。直径二十センチ、高さ十センチぐらいの深 ばちどきじようぶ 鉢土器の上部だった。 はつくっげんば 「こ、これよ ! 発掘現場からぬすまれた土器は ! 」 さらに箱の中をかきまわして、神田夫人は大きめの破片を七つとりだした。 かんぜん このように、ばらばらになった破片を、ヘ 「見て、全部つなぎあわせると、完全な形になるわよー こ 一は きず ど 一つのこらず、傷つけずに掘りだすのは、よっぱど発掘になれた人だわ」 なざ ひつよう 器 土 その人がだれだか、もう、あらためて名指しする必要はなかった。 な 「ごめんなさい。おじいちゃんは、夜中にふらふらとおきだして、この土器を掘ってきたんだわ。事 でもポケているから、自分のやったことをぜんぜんおばえてなかったのよ、きっと : : : 」 川又夫人はしきりにあやまった。 第 かわまたけ 川又家に隣接する発掘現場は、以前、川又家の土地だった。それで、ポケた川又老人は自分の庭 5 だと思って、あるきまわったのかもしれない。 りんせつ はヘん かわまたろうじん ふか = 一口
じゅうたくがい きっさてん 東町は静かな住宅街だった。その中に小じんまりした喫茶店があった。 「ここよ、『コーヒ 1 ・ Z << 』って書いてあるー みかんばん 目ざとい久美が看板を読んだ。 なかむら おっとけいえい このコーヒ 1 店はこれまで中村さんの夫が経営してきたが、先日急病で入院したために中村さん いせきはつくっさぎよういん が店に出なければならなくなった。それで、遺跡発掘作業員をやめたのだった。 かんだ 「いらっしゃい、あなたたちのことは神田さんから電話で聞いたわ」 じけん 中村さんは、二人にコ 1 ヒ 1 をすすめてくれた。事件のことはもう知っていた。 「犯人の心あたりは、ありませんか ? 」 りゆ、った 竜太がたずねると、中村さんは首を横にふった。 いせきはつくっ 「さあ、ねえ : : : 神田さんの話だと、土の掘りかたから見て、犯人は遺跡の発掘になれている人間へ ど だそうよ」 ようぎしゃ 器 自分が容疑者の一人にされているとは、思っていないようだった。 土 な 事 ジリリーン。電話機が鳴った。 大 「ちょっと失礼」 中村さんは左手で電話をとり、なにか話しながら、右手にポールペンをにぎってメモ用紙になに 第 か書きつけた。 5 -4 電話がすんでから、また中村さんは発掘の話をはじめた。 ひがしまち はんにん しつれい ナ カ ム ラ はんにん = 一口
じようもんどき 「縄文土器がぞくぞく出てるらしいよ」 かんぜんふかばちどき 「完全な深鉢土器も見つかったらしいわ」 さくらしようがっこう はつくっ 桜小学校六年二組の教室は、発掘の話でにぎやかだった。 さくらしない じようもんじだい せき 、つらおか 桜市内には縄文時代の遺跡がたくさんある。そして先日、学校のすぐ裏の丘で大がかりな遺跡 の発掘がはじまったのだ。 「いまから五千年前ぐらいの縄文中期の遺跡らしいよ」 ほ、つか′」 「放課後に行ってみない ? 」 りゅうた くみ そうだん 竜太と久美は休み時間に相談した。 第ニ話大事な土器はどこへ ? じ ちゅうき き 0 3
ひがしまちなかむら 「休んでいる人はいないけど、きのうでやめた人はいるわ。東町の中村さん : : : 家のつごうで、 昼間出られなくなったんだそうよ 「女の人ですか ? 「そうよ くつぐらいの人ですか ? 」 「三十五、六かな ? はつくっ 「いつごろから発掘をやっている人ですか ? 」 しゅにん なかま 「五、六年前からね。あたしたちの仲間でも一番のべテランよ。急にやめられて、主任さんはこま っていたわ」 かんだふじんざんねん へ と神田夫人も残念そうにいうのだった。 ど 「朝早く、このあたりを通る人はいないんですか ? 」 くみ 器 こんどは久美がたずねた。 くろぬましんじ な しんぶんはいたっ 「新聞配達の男の子が、毎日朝夕五時ごろ自転車で前の道を走るわよ。たしか黒沼新二つていう高事 校生で、発掘を見学にきたこともあるわ」 話 と神田夫人は答えた。 第 「じゃ、今朝も、まだだれもいないときに通ったんですか ? 」 3 「たぶん」
「いや、あと二人いるよ」 てんしゅ と店主は、ざっくばらんになんでも答えてくれた。 はいたっ さくらし 「桜市は坂が多いから、自転車で配達するのはたいへんでしようね」 くろぬま 「うん、黒沼くんの受け持ちが一番、上り下りがあるようだな」 じようもんいせきはつくっ 「いま、縄文遺跡の発掘をやっているあたりですか ? 」 「そうだな」 どき 「発掘中の土器がぬすまれたことでなにかいってませんでしたか ? 」 せきあ 「そうそう、黒沼のやっ、遺跡荒らしにひどく腹を立てていたよ」 「黒沼さんは、配達のとちゅうであやしい人間を見なかったんでしようか ? 」 「見るわけないよ」 「どうしてですか ? 」 じけん 「事件があったのは、一昨日の夜中から朝までとかいうんだろう ? 」 「そうです」 ゅうかん 「黒沼くんは、一昨日の夕刊を配達したあと、おかあさんが入院している病院へかけつけて、朝ま ちょうかん きとくじようたい でずっとっきそっていたそうだ。このところ、危篤状態がつづいているのさ。それで昨日の朝刊 ′、いき は、別の人間が黒沼くんの受け持ち区域をまわったんだよ」 「黒沼さんもたいへんですね。その病院は遠いんですか ? 」 おとと はら
「だいきらいよ。見ただけでこわくなるらしいの」 「ありがとうございました」 りゅうた 竜太はていねいに頭をさげた。 かんだふじん ′」うとう み 神田夫人が三号棟にはいったあと、久美はじれったそうにいった。 ようぎしゃ ひがしまちなかむら かわまたろうじん くろぬま 「ねえ竜太くん、容疑者は、東町の中村さん、川又老人、高校生の黒沼さんの三人でしよう ? はんにん このうち、犯人はだれなの ? 」 き 「まだわからないよ。ただ手がかりが二つある。利き腕と犬さ」 竜太はめずらしくヒントを口にした。 はつくっげんば 「三人の容疑者のうちで、発掘現場を一番よく知ってるのは、東町の中村さんよ . と久美がいった。 「それはそうだ。事件がおきる前の日まで発掘現場ではたらいていたんだから」 と竜太はうなずいた。 ほうか」 放課後、二人は東町へ向かった。 はんにん ちよくせつ 中村さんに直接会って、犯人かどうか、たしかめたいー もくてき それが二人の目的だった。 じけん うで
「おねがいします」 かわまたろうじん 二人が、ていねいにたのむと、川又老人は顔をほころばせた。 じようもんどき 「小学生で、縄文土器の勉強とはえらいな。こっちに来なさい」 やしきべつむねりゅうた 川又老人は、屋敷の別棟に竜太と久美を案内した。 てんじしつ そこは縄文土器の展示室だった。 「うわっ ! すごい どき きよ、つどしりようかん 「郷土資料館よりたくさん土器がある ! 」 二人は、かぞえきれないほど、たくさんの土器にかこまれて、びつくりぎようてんした。 しゆっど はヘん しくつもないよ 土器のほとんどは、破片をつなぎ合わせたもので、完全な形で出土したものは、ゝ さいきんはつくっ うだった。床の箱の中には、最近発掘したばかりでまだ破片のままのものがかなりあった。 かんだ 「神田さんが写生した土器の絵によくにてる破片もあるね」 「あの頭の部分なんか、そっくりよ」 二人はささやき合った。 でも、昨夜ぬすんだものを人目につく場所へおいておくとは思えなかった。 まもなく二人は、川又老人にお礼をいって別れをつげた。 きようかいせん きたがわじようもんいせきはつくっげんば 別棟の北側に縄文遺跡の発掘現場が広がり、境界線には長いロープが一本、張ってあるだけだ っ一」 0 ゆか みあんない イ 7 第 2 話大事な土器はどこへ ?