人 神話で怪物というのは、なみはずれて大きかっ いよう たり、小さかったり、または、異様な形をしてい きようぼう る生きもののことです。怪物は、たいてい、兇暴 で、すごい力をもっていて、人々を苦しめたり悩 ましたりするので、人々から恐れられていました。 怪物のなかには、いろんな動物の体の一部がより 集まってできているような怪物もありました。た とえば、スビンクスや、キマイラなどです。これ らの怪物は、獣のようなおそろしい性質と、人間 ちえのうりよく のような知慧と能力をもっていました。また、怪 物のなかには、巨人のように、ただ体の大きさが 人間とはちがう、というだけの者もありました。 けれど、その大きさの程度にもいろいろありまし た。人間に近い巨人、たとえばキクロプスとか、 アンタイオスとか、オリオンとかいうような巨人 は、人間にくらべて、それほどとびはなれた大き かいぶつ ていど 159
ベルセポ不 きよじんしんぞく ゼウスとその兄弟が巨人神族を打ちゃぶって、 地獄へ追いや 0 てしま 0 たあとへ、また新しい蘇 があらわれました。その敵というのは、テポン とか、プリアレオスとか、エンケラドスとかいう・・ 巨神たちで、そのなかには百本も手のある者もあ れば、火の息を吹く者もいました。この巨人たち せいく も、ついに征服されて、エトナの山の下に生き埋 めにされてしまいましたが、いまでも、ときどき 逃げだそうともがいては、その島じゅうをゆり動 あっ ししん かして、地震をおこします。また、その熱い息が エトナ山をつきぬけて立ちのぼると、人々はそれ んか を見て、火山が噴火するといっています。 こんな怪物が地の底に落ちて、大地をゆり動か したときに、一番おどろいたのは、よみの国の王 りようど ( デス、 ( プルトン ) でした。 ( デスは自分の領土 であるよみの国が、日の光にさらされるようなこ かいぶつ
きよしん さではなかったらしく思われます。こういう 巨人た あいて ちは、人間を相手に、愛したり、争ったりしている ちょうにんげんてき からです。けれども、神々と戦った超人間的な巨人 は、とほうもない大きな体をしていました。いい伝 えによると、ティテ、ウスが体をのばすと、九エー カ 1 の野をおおい、エンケラドスをおさえつけるに は、エトナの山をその上におかなければならなかっ ラ イた、ということです。 マ この巨人たちが神々に手むかって戦争をおこした ことや、またそのなりゆきは、まえに書きました。 この巨人たちは、神々にとっても、なかなか手ごわ い敵でした。なかには、プリアレオスのように、百 本も手をもった巨人もいました。またテ、ポンのよ うに火を吹く巨人もいました。あるときなど、巨人 が神々をおびやかして、ふるえあがらせたために、 神々はエジプトに逃げてゆき、いろいろに姿を変え てき
た。北の方には高い山々があって、ギリシア人をふるえあがらせる、はだをさすような北風は、 あな この山々のほら穴から吹いてくる、と思われていました。が、ヒベルポレオイ人は、その山々 あたたか こらふく のかなたの、 いつも春のように暖い、幸福な国に住んでいました。その国へは、陸づたいにも、 海をまわっても、近づくことができませんでした。その国には病気もなく、年よりになることも くろうせんそう なく、苦労も戦争もありませんでした。 世界の南のはしには、「大洋の流れ」にのぞんで、ヒ、ベルポレオイ人と同じように、幸福な、 みんぞく りつばな心をもった民族が住んでいました。それはエティオビア人とよ・ばれていました。神々は、 この民族を特別に愛して、ときどきオリ = ンポスのご既から出かけて、 = ティオピア人のささげ るそなえものや、ごちそうをたべにゆきました。 リ、シオンの原 ( 極楽の原 ) と名づけられた楽 世界の西のはしには、「大洋の流れ」に近く、エ とくべっ 園がありました。特別に神々のお気に入りの人たちは、死をあじわわずに、そこにつれてゆかれ こらふく て、視福された不死の生活をたのしむのでした。このめでたい土地は、また、「幸福の野、とも 「視福された人々の島」ともよばれていました。 これを見てもわかるように、大むかしのギリシア人たちは、自分の国の東や南の方や、地中海 えんがん みんぞく の沿岸に住んでいる民族を知っているくらいのもので、そのほかの土地の人間のことは、ほとん きよしんかいぶつまう そうぞらりよく ど知らなかったのです。それで、想像力をめぐらせて、地中海の西方には、巨人や怪物や魔法っ しゆくふく ごくらく こらふく
ゅうめい ヘラクレスのてがらのなかで有名なのは、アンタイオスに打ち勝ったことです。アンタイオス きよしん は、地の神テラのむすこで、巨人で、また力士でした。アンタイオスは、その母である大地にふ ぜったい れているかぎりは、絶対に負けるということはありませんでした。アンタイオスは自分の国にく やく る旅人たちをつかまえて、むりに自分とすもうをとらせましたが、もし負けたら、殺すという約 しあい 束の上でのことでした。勝った者はひとりもありませんでした。ヘラクレスもこの巨人と試合を しましたが、投げ倒すたびに、ますます強くなって起きあがってくるので、これは投げ倒しても だめだと思って、こんどは空中にだきあげておいて、しめ殺してしまいました。 カクスという、 すばらしく大きな巨人がアウ = ンテイヌス山のほら穴のなかに住んで、そのヘ あ おうし かえ んを荒らしていました。ヘラクレスがゲリュオネスの牡牛どもを追って帰る途中、眠っているあ あしあと ゆくさき なんびき いだに、カクスが牛を何匹かぬすんでいきました。足跡をたどって行先を見つけられないように、 あしあと カクスは、牛の尾を引っぱって、後むきにほら穴のほうへ引いてゆきました。ですから足跡を見 けいりやく ・ると、牛はちょうど反対のほうに歩いていったように見えました。ヘラクレスは、この計略にだ ぐ ) ぜん まされてしまって、なかなか見つけることができないでいたところ、偶然に残りの牛を追って、 ・ほら穴のまえを通ったときに、中に隠してあった牛が鳴いたので、やっと分りました。カクスは ヘラクレスに殺されました。 ・さいご 最後に、ケルべロスを、よみの国から連れてきた手柄話をしましよう。ケルべロスというのは、 たびびと たお はんたい てがらはなし
てかくれていたということです。ゼウスは牡羊の姿になりましたから、のちにエジプトではアン モンとい 0 て、まが 0 た角をも 0 た神として、おがまれています。アポ 0 ンはカラスに、ディオ 一一ソスはヤギに、アルテミスはネコに、 ヘラは牝牛に、アプロディテは魚になり、〈ルメスは ・島になりました。またあるとき、巨人たちは天上へよじのぼろうとくわだてました。その足台に ナるために、オ ' サの山をつかんで、べリオン山の上につみかさねました。けれど、とうとうか たいヒ みなりのために、退治されました。このかみなりは、アテナが発明して、〈。 ( イストスと〈。 ( イ トスの工場に働く一つ目の巨人たちに教えて、ゼウスのために、こしらえさせたものです。 てんば 天馬ベガンスとキマイラ ベルセウスがメドウサの首をきり落したとき、その血が地面にしみこんで、。へガソスという、 のはえた馬になりました。アテナがこの馬をつかまえて、よくならしてから、ムーサの女神た おくりもの ちへの贈物にしました。ムーサの女神たちの住んでいる、〈リ「ン山の上にあるヒ〉ボクレネの わ 泉は、この馬がひずめでけった割れ目からわきだしたのだ、といわれています。 かいぶつ キマイラというのは火を吹く、おそろしい怪物でした。その体の上半身は、ライオンとヤギの りゅう あいのこで下半身は竜の尾でした。あるとき、リキアの国がこの怪物のために、さんざん荒らさ れましたので、王様のイオバテスは、それを退治してくれる勇士がいないかとさがしていました。 おびつヒ めうし しめん はつめい
しようち レスを迎え、自分の帯をゆずることを承知しました。けれども、〈ラがアマゾンの女に姿を変え て、女たちのところへいって、いま外国人どもが女王をさらってゆくところだ、といいふらしま をう した。女たちは、すぐに武装して、おおぜいで船に押し寄せました。ヘラクレスは、ヒッポリ、 うらぎ テが自分を裏切ったものと思って、ヒッポリ、テを切り殺し、帯をもって、船に乗り、国へ帰り ・ました。 おうし いま一つの仕事は、ゲリオネスの牡牛をエウリ = ステウスのところへ連れていくことでした。 かいぶつ くれない ゲリオネスというのは、体の三つある怪物で、紅の島に住んでいました。この島は、日の落ち る西のはてにあるので、こうよばれていました。いろいろ書かれているところによると、いまの ス。ヘインにあたるらしく思われます。ゲリ、オネスはそこの王様でした。ヘラクレスはいろんな こっきよう ノの国境まできました。そこに、 国々を旅して、とうとうリビア ( アフリカ北部 ) とヨーロツ。、 せつ きねん の旅行の記念として、二つの山を立てました。カルべとアビラという山です。またべつな説によ かいきょク ると、一つの山を二つに裂いて、その間にジプラルタル海峡をつくった、その半分にわかれてし はしら まった山は二つとも、ヘラクレスの柱とよばれていたということです。さて、ゲリ、オネスの牡 ・牛は、巨人工ウリティオンと頭の二つある犬に張り番させてありましたが、ヘラクレスは、巨人 かえ , と犬を殺して、ぶじに雄牛をエウリステウスのところへ連れ帰りました。 一ばんむずかしい仕事は、ヘスペリデスが番をしている、金のリンゴを取ってくることでした。 おび 194
Ⅱ、、、みルドン人 エコーとナルキッソス アテナ 貨白髪のおとめグライアイ きよしん 巨人 金色の羊の毛皮・ : メレアグロスとアタラン・テ : アタランテ : ヘラクレス テセウス・ きようぎ オリンビア競技 : % ダイダロス : カストルとポリュデウケス : ディオニ、ソス・ でんえん 四田園の神々 四アケロオスとヘラクレス : 一四四 一五九 ・一七六 一八九
3 を きやく ました。「わたしはお客になりに来ました。も いえがらとらと しあなたが家柄を尊ぶなら、わたしの父はゼウ てがら スです。勇ましい手柄を尊ぶなら、わたしはゴ ルゴッを退治してきた者です。わたしを休ませ て、なにか食べさせてください。」けれどもア トラスは、「ゼウスの子が、いっか金のリンゴ ぬす を盗むかもしれぬから、気をつけよ。」という、 よげん 古くからの予言のいましめを思い出しました。 それで、「いや、すぐに出てゆけ ! でないと、 てがらいえがら ルそんなでたらめの手柄や家柄をふりまわしたっ ようしゃ て、容赦しないぞ。」といって、。ヘルセウスを むりに押しだそうとしました。ベルセウスは、 カずくではとてもこの巨人には勝てないと思い ゅうじようかろ ましたから、「それほど、わたしの友情を軽ん おくりもの じるなら、ひとつ、この贈物を受けてもらお う。」といって、自分は顔をそむけながら、ゴ たいじ きよじん
3 アドメトスとアルケスティス アポロンのむすこのアスクレビオスは、父から いじゅっ 非常にすぐれた医術をさずかっていましたから、 死んだ者を生き返らすことさえできました。これ を見たよみの国の王ハデスは驚きあわてました。 そして、ゼウスを説きふせて、アスクレピオスに かみなりを投げつけさせました。アポロンは自分 の子どもが殺されたのをふんがいして、何も知ら しよっこう ない、かみなりをつくった職工たちに、仕返しを しました 0 かみなりを作った工場は、エトナの山 . の下にありましたから、エトナの山からは、その 炉のほのおと煙が絶えまなく立ちのぼっていまし た。そこに働く職工はみんなキ、クロベス ( 一つ きよじん 目の巨人 ) でしたが、アポロンは弓と矢でその十 、ころ 、クロベスたちを躰殺してしまいました。ゼウス・ はそれを見て、たいそう腹を立て、罰として、ア ポロンに一年間人間の家来になってこい