「ふつふつふつふ ! 」おじいさんが、がまんしているように、ロの中で笑いました。「しかたが ないさ : 男の子というものは、学校へいくころになれば、ままごとはしなくなるんじゃ。 タケシ君のような子は、なおさらじゃ。だが、おまえはおかあさんがいるから、さびしくはな しな ? ・」 ノンちゃんはうなずきました。 / しから、平気。」 「あたしだって、もうこのごろは、にいちゃんなんか相手にしよ、 「ほう、えらくなったな ! で : : : このごろ、タケシ君は、なにしてあそんどるね ? 」 「ちゃんばら。」 「ふむ ! 」と、おじいさんはうなって、「だれとね ? 」 「たいてい田村さんとだけど、お友だち大ぜいつれてくるときもあるの。氷川様であそぶから、 うしわかまる くらまやまてんぐ 大ぜいであそべるの。ふたりのときは、鞍馬山の天狗と牛若丸、大ぜいのときはね、たいてい なす ひょうたん池で那須ノ与一。」 げんじ 「ほほうーみんな源氏だな ? 」 うあそんでくれなくなりました。ノンちゃんは、まだ小さかったので、ずいぶん泣いてしまい ました : むら わら ひかわさま 149
しトフぶまち ノンちゃんのにいちゃんは、ノンちゃんより二つ年うえの、ちょうど十歳、菖蒲町の小学校 はんみよう しいますが、いつもタケちゃんとよぶのは、ほとんど、 の四年生です。本名は、田代タケシと、 おかあさんひとりといっても、 ししくら いろんな名まえをもっています。時間にかぎりがあ 三についてしか、お話できないのは、まことにざんねんです。 りますから、おもなもの、二、 と、お にいちゃんが生まれてから、まず最初に自分の名まえとしてつけてもらったのは ことわりするわけは、にいちゃんも生まれてから六日間は、、 との男の子にもあてはまる「赤ち ゃん」とか「坊ちゃん」とかいう名でよばれていたからですーーーもちろん、本名のタケシでし ばうず た。けれど、すぐそのあとを追っかけて、「根っこの坊主」という、最初のあだ名をもらいま はんみさっ した。名づけ親は、本名のときと同じく、おじいちゃんでした。 にいちゃんは生まれて以来、いつもいつもふとってばかりいて、ノンちゃんのように、やせ たりふとったりしたことはないのです。生まれたてのときにもう、その首、その胴、その手足、 ノンちゃんのお話 ( にいちゃんーにいちゃんのあだ名 ) おや たしろ さいしょ さいしょ はんみよう 113
おちついてはじめました。 「にいちゃんのほんとの名は、田代タケシです。でも そうしいかけて、ノンちゃんは笑ってしまいました。 つばりおもしろい子です。 わら にいちゃんは、にくらしいけれど、や 110
ノンちゃんは、おかあさんのひざの上で、ギックリしました。 とうとう、避けられないことがやってきたのですー そのとき、にいちゃんは、ひとり、部屋のすみで、めずらしくもノンちゃんの絵本を見てい ました。が、おとうさんにこういわれると、とてもいやアな顔をして、じろッとおとうさんを 見ました。 「こっちへこい」 もう一度いわれて、にいちゃんはようよう立ちあがり、おとうさんのそばに来てすわりました。 「もっとちゃんとすわるんだ。」 にいちゃんは、二、三度、いずまいをなおされました。 それから、おとうさんは、しずかにはじめました。 「タケシ、きようの話は、おかあさんからすっかりきいた。おまえ、ほんとに『ストップ』や ったんだな ? 」 にいちゃんは、うなずきました。 「ふむ。」といって、おとうさんは、しばらくにいちゃんの顔をながめていましたが、「どうだ、 ことか、わるいことか ? ・」 おまえのしたことは、、、 にいちゃんは、くちびるをくいしばるばかりで、返事をしません。 134
「なんだい、おまえ、うそっきだなあ : : : 。」と、おじいさんがいいました。 ノンちゃんは、ハッとしておじいさんを見ました。 「タケシ君は、 こ、ちゃんじゃないか」 ノンちゃんは、急にはなんともいえないで、だまっていました。 : こんな遠くへ来てしまったせいか、 ふだんなら、ほんとにいやなにいちゃんなのです。でも : さっきから、なんだかしきりににいちゃんがなっかしいような、妙な気もちになっていました。 「でも : : : でも : : にいちゃん、とてもうそっき ! 知らないまに、うそっいちゃうの ! 」 しいました。 ノンちゃんは一生けんめい、自分の弱い、いにまけまいとしながら、 「ほうー」おじいさんは、またうれしそうな顔をしました。「知らないまにか ? ほう、おも しろそうだな。その話をしてくれ。」 にいちゃんのことになると、おじいさんは、まるで子どもです。 ノンちゃんは、にいちゃんが、知らないまにうそをついて泣いたお話をはじめました。 「うん、だから、元気になったんだよ。」 その日、にいちゃんは、ノンちゃんをおいてきぼりにしないで、仲よく学校まで話しながら いきました : よわ 169
ゃんにしかられるんだな ? 」 ノンちゃんは、またコツンとたたきました。 もちろんおとうさんはふざけているのです。けれど、ふざけてばかりいるのではないという 気が、ノンちゃんにはするのです。おとうさんは : : にいちゃんのことを考えているのです : はたして、そのすぐあとで、おとうさんは、 「タケシはどうしたんだ ? 」と、おかあさんにききました。 「田村さんへいって、まだ帰りませんの。」 「しようがないやつだな。」 やくそく 「早く帰ってくるって、約束してったんだに。」と、ノンちゃんがいいました。 おも 「おい、ノンちゃん、重いよ。どいとくれ。」と、おとうさんがいいました。 げんかん ノンちゃんが、おばちゃんのわきへすわって、お話してると、玄関の戸がガチャン ! とあ き、。ヒシャ・ンー・としまりました。 にいちゃんが、手や足へ白い粉をくつつけてあらわれました。 こ、ちゃんは、にこにこして、おばちゃんにおじぎしてから、「なんだい、 「いらっしゃいー・」ーし おとうさん、ばかに早かったね。」 「なんだい、おまえがおそいんだ。もっと早く帰ってこいよ。まっくらじゃないか」 200
おかあさんは、びつくりしたようにふりかえり、 「ああ : : : にいちゃんにもこまるねえ : ああ、ノンちゃん、すまないけど、えちご屋まで お酢とりにいってきてくれる ? 持ってきてくれるっていって、持ってこないから。」 げんき 「うん、いってくる ! 」ノンちゃんは、元気に立ちあがりました。 にいちゃんがいたずらをすればするほど、ノンちゃんは、それだけ「いい子」になるのです。 それだけ「いい子」になって、おかあさんをなぐさめたいと思うのです : それなのにー にいちゃんは、そんなことしたおぼえはないといっていますー ばうべんけ 「うそオつけッ ! 」ムサシ坊弁慶の目が、ノンちゃんをにらみました。 「うそじゃないー うそじゃない ! 」ムジツの罪に、おとしいれられてはたまらないので、ノ むちゅう ンちゃんも夢中でにらみかえしました。そして、もう少しで、にいちゃんが、ノンちゃんにつ かみかかりそうになったときです、おとうさんが、中へはいりました。 ちゃ 「なんだ、タケシ、お茶がこぼれるぞ。」 にいちゃんは、急にぐんにやりなって、 「だって、ぼく : : : そんなことしないんだもの : 「だけど、おかしいじゃよ、 / しか。おかあさんもノブ子も、おまえがしたといってるぞ」 「ノブ子が自分でして、おかあさんにうそっいたんだ。」 174
います。 ごはんをたべな おとうさんが、おふろから出てきました、いつもとおんなじ顔をして : がらも、おとうさんとおかあさんは、にいちゃんをしからず、いつものようにお話していまし ちやわん た。ごはんがすむと、おかあさんは、お茶碗やおさらをもって、お勝手へいきました。おとう ゅうかん さんは夕刊をよみはじめました。 しばらくすると、おとうさんはひょいと顔をあげ、少しはなれたところから、じいッとおと わら うさんのようすをうかがっていたノンちゃんを見て、笑いました。 「ノンちゃん、そこで何してるんだ ? こっちへおいで。」 ノンちゃんは、おどろいて、おかあさんのところまでとんでいきました。 「おとうさん、あたしにおいでって ! 」 わら 「じゃ、 ってらっしゃい。」と、おかあさんは笑いました。 けれども、ノンちゃんは、おかあさんの用事のすむのを待って、おかあさんといっしょに、 おとうさんのそばへいきました。 ど・フじ おかあさんがおとうさんの横へすわり、ノンちゃんがおかあさんのひざに腰かけると同時に、 ゅうかん おとうさんが、しずかにタ刊をわきにおきました。 「タケシ、こっちへこい」 133
かったら、にいちゃんに話してやれ。」 ノンちゃんは、じっと考えました。「ヒトニ」まではわかります。「メイワク」はよくわかり ません。でも、 いけないことです。おかあさんは、よく「ごめんなさい」というようなときに、 「ゴメイワクサマ」といいます。「ヲカケルナ」は、よくわかります。にいちゃんのように、 ひとを追っかけてはいけないということです。 、ました。 「お菓子もってても、追っかけちゃいけないの。」と、ノンちゃんはいし わら さっきから、だまっていたおかあさんが、ノンちゃんの背中で、クックと笑いました。 けれども、おとうさんはほめてくれました。 はんぶん 「そうだ、半分あたってる。そういうふうに、ほかの人のこまることを、やってはいけないと いうことだ。わかったか、タケシ。これから、毎朝、教室へはいるたんびに、あの紙をグッと せいしん にらめ ! そうすれば、 いまに大きくなったとき、あの精神がおまえのなかに、ちゃんとしま ってあるようになる。 おまえが自動車の前へとびだして、ひかれても、自分のすきでやったんだから、おまえはこ まらないな。おとうさんだって、おまえがすきなことなら、いやだが、がまんしてやってもい うんてんしゅ ー、さっ 。けれども、運転手さんがこまる。警察でも、それこそやっかいだから、メイワクする。お 医者さんだって、子どもの足がとれたの、くつつけるのなんか、いやだろう。それから、おか しゃ せなか
「ほら、あすこのかきね。」 「ああ。」と、おとうさんは笑いました。「あれは赤い。人間とおんなじだ。あれはカナメだよ。」 「きれいねえ ! あたしのおふとんみたいだ。この木は、おとうさん ? この大きい木。」 「ああ、これはケヤキだな。」 「ああ、きれいだ、ポチボチ、小さい葉っぱが、コケみたいに出てる ! 」 わら そばで、にいちゃんが笑いだします。 しってやがる。」 「ノブ子、きれいだ、きれいだって、おんなじことばっかり、 みかた けれども、そういうとき、おとうさんはノンちゃんの味方をします。 「みんなきれいだからさ。タケシ、おまえもよく見ろ。どの木もどの木も芽を吹いたばかりで、 どうだい、 きれいじゃないか。いまが木の芽どきというんだ。木の芽も草の芽も、まだちっと もよごれてない。虫もくってない。人間でいえば、おまえたちみたいなもんだ。これからぐん ぐんのびていく力でいつばいなんだ。あれは、なんだかわかるか。あの家の庭にある、葉と花 が半分ぐらいずつついてる木 : : : 。」 やえ 「八 ( 里ザクラー・」 にいちゃんもノンちゃんも、おまえたちのようによごれてないといわれたので、うれしくな って、大声でさけびます。 ( にいちゃんはときどき、とてもよごれるのに : わら