「気にいったー とっぜん 、ポンとひざをたたいたので、ノンちゃんはギックリしました。 突然、おじいさんが大声でいし おじいさんは : : : 何がそんなに気にいったのでしよう。にいちゃんのことか、ノンちゃんの 請しかたか : : たぶん両方だろうと、ノンちゃんは思いました。でも、にいちゃんのことなら、 そのうち、だんだん気にいらないことも出てくるのです : ノンちゃんは、だまって待っていました。 「うむ : : : 」おじいさんは、こんどは、うなりだしました。 そして最後に、 「鬼のべんけい、あやまったア : で、にいちゃんはとうとう、おちごに結たトキ子ちゃんの前 ( 、両手をついて平伏しまし たけれど、幕がしまってから、だれもかれもが、ほめそやしたのは、トキ子ちゃんではなくて、 にいちゃんでした。トキ子ちゃんは、橋のむこうにかくれていた先生に手つだってもらって、 びよんびよんはねたのですが、にいちゃんは、ほんとに自分のカでナギナタをふるったのです から、それもむりはなかったでしよう。 これが、おとうさんが、にいちゃんにつけたあだ名、「ムサシ坊」の由来です : 「いい坊やだな ! 」 122
にゆうえん そこへ、 にいちゃんが入園しました。そして、にいちゃんの組には、トキ子ちゃんという、 たいへんかわいい女の子がいました。ですから、先生は、ぜひともこの年、「京の五条の橋の上」 をしなければならないのです。 先生からこのお話をきいて、まもなく、にいちゃんはすっかりなおって、はりきって幼稚園 へ出かけました。けれど、何時間かすると、しおたれてかえってきました。 「ぼく、あんなゲキしないよっと : ぼく、トキ子ちゃんに負けるんだもの ! 」 うしわカまる おかあさんが、いまからそんなことをいったら、先生がおこまりになります、牛若丸に勝っ 弁慶なんかありません、といっても、にいちゃんはおこるばかりです。 しいよ。そんなら、ぼ く、トキ子ちゃんのこと、なぐっちゃうから ! 」 にいちゃんは、おひるがすむと、ぶんぶんしながら、おじいちゃんのところへあそびにいっ てしまいました。でも、それから少しすると、ニコニコしながら、とんでかえってきました。 「おかあさん、ぼく、やつばり、あのゲキするよ : それから、にいちゃんはおかあさんに、こんな話をしました。 べんけ おじいちゃんもやつばり、弁慶がだいすきだったそうです。おじいちゃんは、にいちゃんが うらやましいといいました。けれども、おじいちゃんはもう年よりなので、目玉の大きいのは、 ようち・んん にいちゃんにまけないけれど、幼稚園の「京の五条の橋の上」に出るわけにはいきません。で べんけい ようちえん 120
は、なぜ、おじいちゃんは、そんなに弁慶がすきなのでしよう。ノンちゃんたちが、やけどを チチンテイプイみよ したとき、よくおばあちゃんは、「智仁武勇、御代のおん宝、ふッ ! 」と、おまじないをして べんけ くれますが、そのたいせつな御代のおん宝、智仁武勇を人間にしたようなのが、弁慶だからで よしつね べんけ す。弁慶あっての義経です。弁慶はなにも弱くて、牛若丸に負けたのではありません。それが くら べんけい 証拠には、九百九十九人が九百九十九人まで、弁慶に負けたではありませんか。けれども、鞍 まやま てんぐ けんじゅっ うしわかまる 馬山の天狗に剣術をならった牛若丸は、子どもでも、ふつうの子どもではなかったのです。そ ・フーし・わカ して、にいちゃんは、トキ子ちゃんに負けるのではありません。おとなもかなわなかった牛若 丸 ( になっているトキ子ちゃん ) に負ける ( ふりをする ) のです。 そっぎようしき さて、それから、にいちゃんが、い さんでおけいこをはげむうち、待ちに待った卒業式がき ました。ノンちゃんもよそゆきを着て、おばあちゃん、おかあさんといっしょに、その晴れの 場所にのぞみました。 式がおわって、いよいよゲキがはじまり、 「京の五条の橋の上ーーー」の合唱とともに幕があき、ナギナタをたばさんだにいちゃんが、「ム ばうべんけ サシ坊弁慶」の目をむきながら、のつしのつしと舞にあらわれたとき、ノンちゃんの小さい しんぞう ようちえん はくしゅわら 心臓はやぶれんばかりにとどろきました。そして幼稚園の小さい教室も、拍手と笑い声で、われ んばかりに鳴りひびいたのです。おかあさんさえ、涙をこぼして笑ったほどです。 べんけい たカら チチンプイプイ - フしわカまる , 0 ら わら 121