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検索対象: リトルボーイ
214件見つかりました。

1. リトルボーイ

す ほそい草の茎でこしらえた巣のなかにおさまっていた。 「わあ、かわいい 「このたまご、びいびい鳴いてるよ」 「だったら、もうすぐヒナが生まれるのよ」 しやがんでながめていると、たまごのひとつが割れて、ぬれた羽のヒナがころがりでた。 ひょろついたあと、たおれてしまった。横になったまま動かない 「死んだのかしらー しんばい 敏子が心配そうにいったら、 「そうじゃないわ。まだうまく動けないのよ」 敏子の肩に手をまわしつつ、真弓はいってる もうひとつのたまごが割れて、頭があらわれ、 くちばしをおおきくあけながらヒナかころがりでた。 しり もぞもぞと尻をふって、いままで守ってくれていた から 殻をふりすてた。 みえこ 「美枝子」 真弓は美枝子の肩にも手をまわし、 AJ しこ 0

2. リトルボーイ

みんなが手をふり、呼びかける。 さくらいみつお 桜井光男も手をふりかえしつつ、足ばやにやってくると、 「全員そろってるな。よかった、よかった」 じゃれかかる子らの頭をなでたり、肩をひきよせたりしている ぐんたい 、も、つふ 「軍隊から払い下げてもらった毛布を持ってきた。 二枚しかないけど、小さい子に」 みつお 光男はいって、まるめた毛布を真弓にさしだした。 「ありがとう」お礼をのべる真弓につづいて、 「桜井さんよ、ありがとう」 ひろひこふし 広彦が節をつけて歌った。 「桜井さんよ、ありがとう」 いくにんかが、すぐに声をそろえて歌いだす。 「桜井さんよ、ありがとう」 「一銭ポリよ、ありかとう」 とくりかえし、子どもらは二人の大人をかこんで、 ひょうきんな身ぶりでおどりまわっている。 いっせん まゆみ 3 乙 1 ノ

3. リトルボーイ

せいじろ、つ ; 、、良力しった。 「それはわかってるけど」 みつお と光男は全員の顔ぶれをながめつつ、 しよくじゅう こじいん 「衣食住がととのった孤児院でしつかり勉強して、 父さんや母さんの霊をとむらってはどうだ。 人間らしい心をやしなって生きてゆこうじゃないか」 ひろひこ そしたら、こんどは広彦かいいかえした。 「ばくらは心を助けてもらわなくていい お腹を助けてくれ。お腹は心の家だ。家がしゃんと していたら心もしゃんとするから」 「じゃあ、少ないけど受け取ってくれ」 まゆみ 光男はわらって広彦のひたいをつつき、二十円さしだした。そのお金が、広彦の手から真弓の手 にわたる なごやかに反発しあいつつ、光男は、真弓たち九人が、命のもろさと命の強さを併せ持った子ど もたちに田 5 えてならなかった。 なか 0 はんばっ イ〇 あわ

4. リトルボーイ

すっかりランプが好きになった。 」し医」 このランプに火をともすときには、だれもが儀式めいた気分になったものだ。火がともったしゅ やみ かんたん んかん、みんなにまとわりついていた闇がかき消える。と同時に、全員が感嘆の声をあげた。 「わあ、まるで昼みたいじゃないか」 「うん、うん。まぶしすぎるくらいだね」 よしのり 義則かランプをもち歩くと、コンクリ 1 トの壁に 仲間たちのか、つごいた。木しそ、つに、つごいた 手をふり、頭をゆらすと、もっと楽しそ、つにうごいた せん一、つば、つ 子どもたちはその影の中に、てつかぶとや戦闘帽や 食器や靴など、いろんなものをちらっかせた。 みんなが笑うと、影までが声をたてて笑った。 手をふり、頭をうごかし、しばらく自分の影を たしかめていたが、ランプを置く場所がきまると、 仲間たちの影もおちついた。 しんべい 晋平が、ランプに照らされた真弓の足をじっと見ている 「いやらしいやつめ ! 」 まゆみ

5. リトルボーイ

石垣のすきまに手をいれたとたん、 「いててて ! 」 いたいのなんの、広彦は、おもいきりカニに 指をはさまれてしまった。 広彦をいためつけたアカテガニは、ごめんなさいも おく いわずに石垣の奥へひっこんだ。 「おのれ、やりやがったな」 まぶたをしかめ、はさまれた指をくわえていた広彦だが、 あらて たちまち新手の遊びを思いついた。かまゆでにして、 かんさっ 苦しかるカニどもをじっくり観察してやろうというのだ。 いちれんたくしよう 「こうなったら、おまえら一蓮托生じゃ。どうするか見てろよ」 一蓮托生は、じいちゃんがいつも口にしている言葉である うんめい みんなで運命をともにする、という意味だとおしえてくれた。 広彦が家に引き返し、プリキのバケッとプリキの火ばさみをとってくる。火ばさみとカニのハサ しようぶ あぜ みぞ ミでは勝負はきまっている。畑の畦をうろついているやつも、草道の溝にたむろしているやつも、 石垣のすきまでおびえているやつも、はさまれて、手あたりしだいにバケツにほおりこまれた。 2

6. リトルボーイ

ほうたい かそ、つば 火葬場の空き地には水道があって、シラミや血うみのついたガ 1 ゼとか包帯を金ダライにいれて よご 石けんもないから汚れがきれいに落ちて 洗う。たたんだり巻いたりしてふたたび使用するのだが、 いるわけではなかった。 べんき 真弓の母の、すぐとなりの女の人は下痢ぎみで、便所に間にあわず、かたわらに便器をおいてい みしようか た。便器には未消化の下痢便がたまり、女の人の手も便で汚れている。 便器の中味をすててきた祥子が、 「真弓ちゃん。けさはありがとうね」 真弓に笑いかけつつ、女の人の手を洗ってやってる。 「祥子ちゃん」 そのとき、せんばいの看護婦が呼びかけ、 じようみやく 「あなた、注射がじようずだから、この患者さんの足の静脈に注射してあげて」 「はい」 祥子か注射をしおえると、 「この患者さんの足を見たら汚くて。だからあなたに回したのよ」 せんばいは、あたりをはばからない声で祥子にいってる 、、こよ、ちっとも動かない患者を十時間もおなじ角度から見つめているおばあさんか 真弓のむ力し。 ( きたな よ 0 かくど

7. リトルボーイ

ただよしとっこ、つ 父の忠義が特高につかまったことまでは話さなかったが、五年生のったない言葉をおぎなえば、 せいじろ、つ 一 = 治郎の話はこうなる 「たいへんだったね、誠治郎くん」 まゆみ 真弓の、もちまえのやさしい目が誠治郎にそそがれる。義則はだまって、誠治郎の背なかを平手 でパンとたたいた。元気づけたつもりだ。そして広彦が手をさしだし、 「おなじ十一才だから、誠治郎と呼ばせてもらおうかいー 誠治郎はその手をにぎりかえした。 しろくじ 真弓たちにめぐりあうまでの誠治郎は、四六時ちゅう父と母と妹のことに思いをめぐらせながら、 ひとりで焼けあとをさまよい歩いていた。 父のことを思いだせば、どこにもぶつけようのない恨みか腹のそこからわきあがってくるのだっ た。のしかかったひさしをもちあげることができなくて、生きたままの父を火炎のまっただなかに おいて逃げたことが、いかにもくやしかった。 ノ、、つふ′、 母ちゃんは、いつも空腹をかかえているばくと万里子に、なにを食べさせようかと、そればかり 考えていたつけ。万里子が三才のころ、母ちゃんは子守歌をうたって寝かしつけていたけど、母ち ゃんが先に寝てしまって、万里子が声をはりあげて子守歌を歌っていたつけ。そして、家で飼って なべ いたニワトリを父ちゃんがトリ鍋にしたら、ひょこのときからかわいがってた万里子は、泣きなが 、つら よしのり

8. リトルボーイ

目をとめると、もときたほうへ引き返しだした。 まゆみ すぐに真弓があとを追った。女の子にむきあい、 「お腹がすいてるんでしょ 「すいてる」 まえがみ おかつばの前髪を切りそろえたその子が、 消えいりそうな声で答える 「おいで」 手をとって、仲間にくわえた。 真弓のわきに腰をおちつけた女の子は、 たにぐちとしこ 谷口敏子だと名前をつげた。 かんざき 神崎国民学校の二年生だという。 家族の人はどうなったのかと、真弓たちは あえて敏子にたずねようとしなかった。 身よりにはぐれたことを、思いつめた 表情がすでに示していた。 「またひとり仲間がふえたな。ばくらは、人間関係だけはぜいたくだな」 なか としこ

9. リトルボーイ

ぞうすい 煮立った雑炊のまわりに腰をおろそうとしていた一同が、 / しっせいに橋のほうへと目をむける。 「ほんとだ。あれはきっと、美枝子のお父さんだぞ」 「ほんとだ。ほんとだ。美枝子のお父さんが せんち 戦地からもどってきたんだ」 「ははは、美枝子のやっ、お父さんに会えたんだ」 きしべ 子どもらは岸辺に走って立ちならび、 とびはね、手をふりつつ、 「お 1 い美枝子ー 「美枝子。そのひと、美枝子のお父さんか」 「おまえ、お父さんに会えたんか」 ーむこうに呼びかけた。 「そうよ。お父さんに会えたの」 美枝子の小さな声は、みんなに届かなかった。でもお父さんの腕をかかえこんでいる美枝子のそ よろこ ぶりか、かくしようのない喜びをあらわしていた。 なかま 美枝子がお父さんの腕をかかえこんだまま、仲間たちのほうへ引き返しだす。 みえこ うで 3 〇び 第 冖

10. リトルボーイ

: ンや 「水だ ! 水だ ! 水だ ! 」 「あわてるな。いまのうちに、めばしい道具を 一階に運びだせ。まずは自分の持ち物だ」 「ランプ、ランプ。なべ、なべ」 しよっき 手わたしで肩かけカバンやら食器やらを一階に ちかしつ 上げているうちにも、みるみる地下室の床に 水がたまりだす。 「ばくのこいのばりが泳いで逃げるぞ。こいのばり、 こいのばり、こいのばり、こいのばり」 しんべい 「わかった、わかった。うるさいぞ晋平」 「もう道具はあきらめよう。自分で自分の 命を一階にはこびだそうぜ。まだちょっとしか 使い切っていない命が、いちばんたいせつだもんな」 ひろひこ と、こんなときにも、おどけたロぶりの広彦 ではある。 みんなで一階のおどり場に身をよせあった。 〇し 0 2 ( し