一本もなくなってしまった。 れも切り倒すことになり、とうとう甲板にはマストが あらし 船にはずぶのしろうとで、このあいだの、ほんのちょ「とした嵐にも、あれほどふるえあが 0 そうぞう れにも想像がつくだろう。あれから長い年月をへだ たわたしが、今度はどんな気持でいたか、だ 1 」 5 ・カし てた今とな 0 ては、なかなかうまくいえないが、とにかく、せつかく一度は後悔しながらも、ま たもとの、ろくでもない、向こう見ずな気持にもど 0 てしま「たということに思いあたると、そ ま、 のことのおそろしさのほうが、死ぬのではないかというおそろしさより十倍も強くなった。その くわ うえに、嵐をおそれる気持も加わ 0 たのだから、その時のわたしの気持がどうだ「たかは、とて さいあくじようたい こし J ・は も言葉ではいいあらわせない。だが、それでもまだ、最悪の状態には達していなか。たのだ。嵐 のりくみいん はあいかわらずたけりくるい、乗組員たちも、こんなおそろしい目にあったことはないというほ つみに ゝこま上ノ っしりした船だったが、積荷が重くて、揺れカオカ どだった。わたしの乗っているのは、が ファウンダー のりくみいん しいので、乗組員たちは、何度も、「浸水沈没するぞ。」とさけんでいた。わたしは、あとで教え ことば てもらうまでは、その「ファウンダ 1 」という言葉がどういう意味か、わからなかったが、かえ ってそのほうがよかったかもしれない。 、っぽう、嵐はつのるばかりで、とうとうしまいには、こんなことはめ 0 たにないことだが、 しず すいふちょう 船長や水夫長をはじめ、乗組員の主だった者たちが、今にも船が沈みはしないかとはらはらしな まよなか がら、神に祈りをささげるのを、わたしはこの目で見た。真夜中にな「て、だれもかれもが、う たお あらし あらし のりくみいんおも かんばん たっ ゅ あらし
親切にいってくれた。 「あなたを助けたのは、別に下心あってのことじゃありません。もし立場が反対になって、こ のわたしが救われたとしたら、さぞうれしいだろうと思ったまでのことですよ。いっかは、わた しのほうが、あなたと同じような目にあって、助けてもらうことになるかもしれませんからね。」 ことば と船長はいった。「おまけに、」と船長は言葉をつづけて、「お国から遠くはなれたプラジルまで お連れしたあげくに、あなたの持ち物をとりあげでもしようものなら、あなたは飢え死にするに いのち きまっているし、そんなことにでもなれば、みすみすお助けした命を、またうばいとるのと同じ ことですからね。とんでもない、そんなことができるものですか。ね、あなた、ただで乗せてあ ひつよう げましよう。それに、あれだけの持ち物があれば、むこうでくらすのに必要な品物を買ったり、 りよひ 帰りの旅費のたしにすることもできるでしよう。」といってくれた。 どうじよう 船長は、口先だけの同情ではなく、約東したとおりのことを、ちゃんと実行してくれた。乗組 員には、わたしの持ち物にぜったい手をつけてはいけないといいわたし、なにもかも自分であず めいさいしょ かってくれたうえ、明細書に、品物の名前を一つ残らず、三つの水がめまで落とさずに書いて、 わたしてくれた。 わたしのポートについては、たいへんりつばなものだとわかったので、船長は、自分の船でつ かいたいから買いとろうと、 いくらで売ってくれるかとたずねた。わたしは、こんなになに べっ 、 . し のこ はんたい のりくみ
たことが、今までとは全ちがうことだ 0 たからだ。わたしは大急ぎで外 ~ とび出し、すぐさま はしご がんべき 梯子をかけて、岩壁の中ほどまでよじのばると、それをひつばりあげてから、また立てかけて、 岩山の頂上までのばった。そのとたんに、光がビカッとひらめいたので、また大砲の音がきこえ びよう るだろうと、耳をすまして待ちかまえていると、三十秒ほどた 0 て、たしかにきこえた。音がし はっしゃ た方角から判断すると、この前わたしの舟が潮流におし流されたあたりで発射したようだった。 ごうほうはっ わたしはすぐに、これは、どこかの船が遭難して、助けを求めるために、仲間の船に号砲を発 射したものにちがいないと思った。こんな時でも、わたしには、こちらがあの船を助けることは できないまでも、むこうはこちらを助けてくれることができるかもしれないと、とっさに思うぐ らいの心のゆとりがあった。そこでわたしは、あたりにあるかわいた木切れを手あたりしだいに かき集め、大きな山に積みあげて、火をつけた。木切れは、よくかわいているので、いきおいよ く燃えあがり、はげしい風に吹き消されもせずに、さかんに燃えつづけた。だから、もしあれが ほのお のりくみいん 船なら、乗組員にはこの火がき 0 と見えるはずだと思 0 たが、まさに思ったとおりだ 0 た。炎が ひとばん つづ 高くあがったとたんに、また号砲がきこえ、続いて何発も、同じ方向からきこえてきた。一晩じ 夜が明けるまで火を燃やしつづけたが、やがてあたりがす 0 かりあかるくなり、空も晴れ おきあい てくると、島の真東にあたるはるか沖合になにかの姿が見えた。だが、それが帆なのか、船体な ぼうえんきよう のか、肉眼ではもちろん、 いくら望遠鏡で見てもはっきりしなかった。なにしろ、ずいぶん遠く しゃ ちょうじよう にくがん はんだん まひがし ごうほう ふねちょうりゅう そうなん すがた なかま たいほう 273
ろが、張れるだけの帆を張ったあげくに、こちらがあきらめかけたころになって、むこうの船の ぼうえんきよう 望遠鏡にこちらの姿がうつったらしい。しかも、ヨ 1 ロツ。ハのどこかの国の難破した船に積んで あったポートにちがいないとわかったらしく、すぐに帆をしばって、こちらが近づけるようにし そうなんしんごうあいず てくれた。わたしは、それを見ると、いちどに元気が出て、遭難信号の合図として、ボートに積 しんごう んであった主人の旗をふり、鉄砲も一発撃った。その二つの信号を見ると、ありがたいことに、 むこうは船をとめて、待っていてくれた。わたしのポ 1 トは、三時間ぐらいかかって、やっと追 いついた。 船からは、ポルトガル語や、スペイン語や、フランス語で、わたしが何者かとさかんにたずね ているらしいが、わたしにはさつばりわからなかった。だが、 その船に乗り組んでいたスコット ランド人の水夫が声をかけてくれたので、やっと話が通じた。自分はイギリス人で、ム 1 ア人の 奴隷にされたため、サリ 1 にいたのだが、逃げ出してきたのだと話すと、こちらの船に乗りうつ れといってくれた。そして、わたしを親切に迎え入れ、持ち物も運んでくれた。 だれにもわかってもらえると思うが、あれほどみじめな、一かけらののぞみさえほとんどなか じようたい すく った状態から、こうして救われたわたしのよろこびは、たとえようもなかった。さっそく、お礼 のしるしとして、持ち物を全部さしあげたいと船長に話したが、船長は、なに一つ受けとろうと しないばかりか、あなたの持ち物は、プラジルに着いたら、そっくりそのまま返してあげようと、 どれい すがた はた ぜんふ てっぽう いつばつう むか なんば
った木切れをつかって、ナイフでやるのと同じぐら、 もいや、もっとじよ、つず - に、毛皮をはぎと ってしまった。わたしたちにも肉をすこしわけてくれようとしたが、こちらはいらないから遠慮 なくお取りなさいというかっこうをして見せ、そのかわり、毛皮がもらいたいという合図をする と、いやがるどころか、よろこんで、わたしてくれた。その上、自分たちがふだん食べているも のを、たくさん運んできたので、何だかよくわからなかったが、とにかくちょうだいした。こん どはこちらから、長がほしいということをわからせるために、水がめを一つとり出してきて、中 がからっぽだというしるしにさかさまにして見せ、水をいつばいにしてもらいたいと合図した。 ねつや すると、むこうでは、仲間のだれかにすぐ声がかかり、やがて、女が二人、太陽の熱で焼いてつ どせい なみう くったらしい土製の大きなかめを持って、波打ちぎわまで来ると、さっきと同じように、その水 がめをおろして、あともどりした。わたしは、ジ = 1 リに水がめを持たせてやり、三つともいっ ばいにしてもらった。 わか こうして、芋や、穀物らしいものや、水が手にはいったので、親切な土人たちに別れを告げ、 さらに十一日ほど、岸に近づくこともなく、走りつづけた。やがて、四、五リ 1 グぐらい前方に、 おきあい っ りくち かなり沖合まで海上に突き出している陸地が見えてきた。海はすっかり凪いでいたので、その陸 おき 地の先端を目ざして、ずっと沖へ出た。やがて、およそ二リ 1 グほど海上に突き出しているその 先端をまわると、またもう一つの陸地が、そのむこうに、はっきり見えた。そうすると、こちら せんたん せんたん こ ~ 、、もっ なかま りくち たいよう えんりよ
ソ ロビン・クルーソ 1 。」とくりかえすので、ようやく目がさめ、あわててとび起きた。 だが、目をはっきりあけてあたりを見ると、おうむのポルが垣根のてつべんにとまっているので、 ああ、そうか、話しかけたのはポルだったんだな、とすぐわかった。わたしは、しよっちゅう、 ちょうし ことば そのようなあわれっぽい調子でポルに話しかけては、言葉を教えこんでいたからだ。ポルはわた かんぜん しのいうことを完全におばえ、よく、わたしの指先にとまっては、くちばしをわたしの顔すれす れに近づけて、「あわれなロビン・クルーソ 1 おまえはどこにいるのだ ? どこに行って たのだ ? どうしてここに来たのだ ? 」などと、教えたとおりにしゃべるのだった。 それでも、今口をきいていたのはおうむで、ほかのだれかが話すことなどありえないとわかっ てからでも、しばらくは気持が落ち着かなかった。だいいち、ポルがどうしてこんなところまで 来たのか、それに、どうして、ここからほかのところへ行かずに、、 つまでもこのへんにいるの か、ふしぎでならなかった。だが、とにかく、ここにいるのはほかのだれでもなく、主人思いの ポルにまちがいない、 ということがはっきりして、わたしは安、いし、それ以上は考えないことに した。わたしが手をさし出して、呼んでやると、人なっこいポルはすぐとんできて、いつものよ うにわたしの親指の先にとまり、また会えたのでうれしくてたまらないとでもいうように、「あ われなロビン・クル 1 ソー どうしてここへ来たのだ ? どこに行っていたのだ ? 」としゃべ っ りつづけた。こうして、わたしは、ポルを連れて家へ帰った。 かきね いじよう 212
わたしがこういうと、ム 1 ア人は、向きを変えて、岸をめざして泳いでいった。もちろん、ら くらくと泳ぎついたことだろう。 実は、このム 1 ア人を連れていき、少年のほうを海にほうりこんでもよかったわけだが、わた しんよう しには、どうしてもこの男が信用できなかった。そいつが行ってしまうと、わたしは、名前をジ ューリというこの少年にむかって、「ジュ 1 リ、もしおまえが、おれのいうことをよくきくなら、 今におまえをえらい人にしてやろう。だが、もしおまえが、おれの いいつけを守ると、顔をなで ちか て ( つまり、マホメットの神と父親のひげにかけて、という意味だが ) 誓うのがいやだというな ら、おまえも海の中に投げこんでしまうぞ。」といった。少年は、わたしの顔をじっと見つめて、 わら につこり笑い、いかにもすなおに、わたしのいいつけをよく守って、世界じゅうどこへでもいっ ちか しょに行くと誓った。 およ ホ 1 トをそのまままっすぐに、つまり、 わたしは、泳いでいるム 1 ア人が見ているあいだは、、 わざと風上のほうにむかって走らせて、わたしたちが、ジプラルタル海峡のほうへ逃げているも のと思わせようとした。実際、まともな人間ならだれだって、そうしただろう。まさか、わたし じようりく やばん たちが、わざわざ南のほうに進んでいき、文字どおり野蛮そのものの土地に上陸するだろうなど そうぞう もうじゅうもうじゅう とは、だれだって想像もしなかったろう。そんな土地へ上陸でもしようものなら、猛獣か、猛獣 ざんこく やばんじん よりもっと残酷な野蛮人に食い殺されるにきまっていたからだ。 およ じっさい ころ じようりく およ 力い強一よう
こうさん ぶきす たのむから、トム・スミス、武器を捨てて降参してくれ。さもないと、おまえらは、たちまち殺 されちまうぞ。」といった。 こうさん 相手はどこにいるんだ ? 」とスミスはきいた。 「だれに降参しなくちゃいけないんだ ? 「ここにいるよ。船長もいるし、ほかに男が五十人もいるぞ。みんな、船長といっしょに、さ すいふちょう つきから二時間もおまえたちをさがしてたんだぞ。水夫長は殺されちまったし、ウイル・フライ こうさん は負傷したし、このおれは捕虜になったよ。おまえらも降参しないと、みんな殺されちまうぞ。」 と、ロビンソンは答えた。 こうさん いのち 「降参したら、命は助けてもらえるかね ? 」とトム・スミスはたずねた。 こうさん やくそく 「降参するとはっきり約束するなら、たずねてやろう。」と、ロビンソンはいって、船長にた ずねた。すると船長は、自分から声をかけて、「おい、スミス、わしの声がわかるだろう。すぐ こうさん ぶぎす 武器を捨てて降参すれば、みんなの命は助けてやる。ただし、ウイル・アトキンズだけは別だ。」 いのち これをきくと、ウイル・アトキンズは、「後生だから、船長、命だけは助けてくださいよ。こ のおれが、なにをしたというんです ? 悪いのは、おれだけじゃなく、みんなも同じことです ぜ。」とどなった。 ところが、これは事実とはちがっていて、反乱を起こしたとき、まっさきに船長をつかまえて、 ふしよう ほりよ いのち はんらん ころ ころ べっ ころ
てき かけたり答えたりしながら、敵を山から山へ、森から森へとひきずりまわして、へとへとに疲れ させただけでなく、明かるいうちにポ 1 トのところまでもどるのはとても無理な場所に、置き去 りにしてきた。それだけに、二人のほうも、わたしたちのところへもどってきた時には、くたく たに疲れきっていた。 こうなれば、わたしたちとしては、水夫たちがもどってくるのを暗がりの中で待ちぶせし、失 敗しないように気をつけて、おそいかかるだけのことだった。 水夫たちは、フライデ 1 がもどってきてから何時間もたって、やっとポートのところまで帰っ はや れんじゅう すがた てきた。姿があらわれるずっと前から、先頭の男が、うしろからついてくる連中に、もっと速く つか れんじゅう 歩けとどなったり、どなられた連中が、それに答えて、足は痛むし、くたくたに疲れているから、 いじようはや これ以上速く歩くことなんかできやしない、などと不平をいっているのが、よくきこえた。これ は、わたしたちにしてみれば、まことにありがたい話だった。 1 トのところまでたどりついたが、潮がひいていて、ポートが やっとのことで、水夫たちはポ 岸に乗りあげており、おまけに、見張りの男が二人ともいなくなっているのがわかると、そのあ わてぶりはたいへんなものだった。水夫たちが、なんともあわれな声で、おれたちは魔法の島に ひきずりこまれたんだとか、この島には人間が住んでいて、きっとおれたちをみな殺しにしてし あくま まうだろうとか、いや、この島にいるのは、悪魔か化け物で、そいつがおれたちをさらって食べ もの しお むり ごろ まほう しつ
してきた。そう思うとすこしは気も軽くなってきて、そうだ、なにもかも思いすごしで、あれは あしあと 自分でつけた足跡にすぎないのだと、自分を説きふせにかかった。舟からおりた時あそこを通っ ふね たかもしれないし、あるいは、舟にもどる時通ったかもしれない。だいいち、足でどこをふんだ か、どこをふまなかったかなどと、はっきりおばえているわけがない。けつきよく、あれが自分 ゅうれいばなし あしあと の足跡にすぎないということになれば、このわたしは、いってみれば、自分でわざわざ幽霊話を やくわりえん つくっておきながら、ほかのだれよりも自分がいちばんこわくなるような、おろか者の役割を演 じたことになる、とも思った。 こう思うと、すこしは元気も出てきたので、わたしは、おそるおそるではあるが、また外へ出 しろ かけるようになった。なにしろ、三日三晩というもの、城から一歩も出ず、家の中には、大麦の 。ハンと水のほかには、ほとんどなにもなかったので、食糧が不足しかかっていたからだ。それに、 ちち 山羊も乳をしばってもらいたくて、待っているにちがいなかった。今までいつも、乳しばりは、 わたしの夕方の気晴らしだったのだ。行ってみると、かわいそうに、思ったとおりかなり苦しが っていて、なかには乳の出がほとんどとまってしまったのもいた。 あしあと こうして、わたしは、あれは自分の足跡で、いわば自分の影におびえたようなものだと、自分 ゅうき の心を勇気づけては外出し、別荘へも乳しばりに行った。とはいうものの、どんなにおっかなび つくりで前へ進み、どんなに何度もうしろをふりかえったか、また時には、どんなにあわてて籠 ちち べっそう かる ちち ばん しよくりようふそく かげ ふね ちち カこ