商売の鉄則・・・回収イソゲ ・回収スピードを見るのが売上債権回転率 ( 回転期間 ) 売上債権とは未回収の売上代金のことである。そして、売上高を 売上債権で割った売上債権回転率は回収の効率性を示す。値が低い ほど、回収に時間がかかっていることを意味する。 回転率の逆数、つまり「売上債権 + 売上高 ( 日商または月商 ) 」 を売上債権回転期間と呼ぶ。回転期間は売上の何日分が未回収にな っているかを示すので、回転率よりもわかりやすい。 回転期間は業界の商習慣でずいぶんと異なる。次ページの中小企 業の平均値を見てみよう。建設業など法人相手の掛け取引をする業 界と、飲食・宿泊業など個人相手の現金取引が主の業界では大きく 違う。製造業では債権回収まで約 2 か月 ( 67 日 ) かかっている。 企業間取引では自社の都合だけではなかなか回収を短縮できな い。顧客との力関係が大きく左右する。競争力のある商品を扱った り、販売に特徴がないと、不利な条件で取引するほかない。そうな ると資金繰りも苦しくなる。 ■売上の増加以上に売上債権が増えているときは要注意 あくまでも自社の過去との時系列的な分析が大切だ。売上が増え ると売上債権も増えるのは当たり前である。しかし、売上の増加以 上に売掛債権が増えているときは要注意だ。無理な拡販をしたとき や不況期は、回収期間が長くなりがちである。回転期間が長期化す ると資金繰りもきつくなり、キャッシュフロー計算書のなかでも売 上債権の増加が資金を減らす要因として目立つようになる。
企業の特徴が出る指標 ・販促・人数・人件費・ R&D ・売場面積などに業種特性が出る 販売員数、広告宣伝費、販売促進費、販売手数料などは、業界に よっては売上と強い関係がある。だから、それらの売上高比率は重 要な経営指標になる。 商業なら従業員一人当たり売上高や利益は代表的な指標だ。人数 は期首 ( 前期末 ) と期末の従業員数の平均値を使うほうがよい。省 力化を進めると向上するために、一般に装置産業のほうが労働集約 産業よりも大きい。同業他社と比べて経営効率の良否を見るのに適 する。 人件費比率も合理化の程度やライバルとの比較に使われる。人件 費は固定費として利益を圧迫するからリストラの対象になりやすい。 多店舗展開をする業種や狭い売場で高額な商品 ( 時計、カメラ、 宝石 ) などを量販する業種では、売場面積当たりの売上高は重要な 管理指標になる。昔は坪当たり売上高であったが、今開示されるの は市当りである。 なお、一人当り売上高分析や 1 ⅲ当りの売上高分析から異常値を 見つける方法は税務調査でも使われる。 ■ハイテク業界では R & D 比率が重要だ 研究開発のことを R&D (Reserch & Development) という。ハ イテク業界や医薬品業界では、研究開発費比率は長期的な成長性を 占なう指標として注目される。医薬品メーカーは異様なほど高いが、 一般の製造業では 10 % を超える例は少ない。それでも「 R & D 比率 〇 % 」を経営戦略の指標にする企業もある。たとえば、村田製作所 は連結売上高の 7 ~ 8 % を目安に研究開発に継続的に投資している。 180 ・
成長性を見る指標 重視 : 当期の経常利益ー前期の経常利益 前期の経常利益 ( ※ ) 当期売上高一前期売上局 前期売上局 増収率 総資本増加率 ( ※ ) 経常利益を使った例。 業績変化の 4 つの局面 成長期や景気拡大期に見られる。増益率が高いほど 好まれる。 無理な拡販、非効率な売上増加、過大投資や景気の ピーク時に見られる。 リストラによる体質改善、縮小均衡による業績の回復 時に見られる。 悪い状態。 3 年以上も続くようだと構造的な問題を抱 えている。 増収増益・ / 益ゝ / ゝ ) 』一経営分析で経営指標に強くなる 先行指標に着目しよう 製造業→設備投資、研究開発費 商業→店舗数や床面積、加盟店数、販売員数 建設業・工作機械メーカー→受注高 デベロッパー ( 開発業者 ) →用地取得や ハイテク業界→新製品の売上構成比の推移 ・ 205
転がり具合で効率性を見る ( 回転率 ) 回転率は下がるが、成熟期の経営では資産の圧縮が優先される。 を維持しながら資産の圧縮をする。成長期では積極投資をするから 回転率を上げるには、資産の伸び以上に売上を伸ばしたり、売上 ( ニ律背反 ) の関係にあるという。つまり両立しにくいのだ。 求すると回転率が低下する。これを収益性と回転率はトレードオフ まり総資産回転率を高めようとすると収益性が低下し、収益性を追 逆に、利幅が厚い商品を扱うと利益が厚くても売上が伸びない。っ 安売りをすると、利益は薄いが売上は増えるから回転率は高まる。 ■収益性と回転率はトレードオフの関係にある る。 で同じ収益性なら回転率の高い企業のほうがすぐれているといえ 産 ) で多くの売上を得るほど効率がよい。したがって、業界のなか 繰り返すような商業系の企業は回転率が高くなる。少ない資本 ( 資 前である。一方、賃貸主体で固定資産が軽く、「仕入れて売る」を 装置産業のように総資産が大きな企業は、回転率 1 以下が当たり 円から得られる売上は 1 万円ということになる。 効率性を見る指標になる。全産業平均はおよそ 1 であり、資産 1 万 分母に総資産の値を使うと総資産回転率と呼び、経営の総合的な る。たとえば、総資本 1 億円の会社が年商 3 億円なら 3 回転したと と呼び、投入した資本をどれだけ効率的に使って売上を得たかを見 り返しているわけだ。そこで、売上高を投入量で割った値を回転率 まり、資本を投入して売上というアウトブットを得るサイクルを繰 商売のサイクルは「資本の投入→仕入→販売→回収」である。っ ・資産と売上との対比が回転率
- 商売の鉄則・・・在庫スクナク ・在庫は少ないほうがよい。しかし、機会損失は困る 棚卸資産の効率性を見るのが在庫回転率である。棚卸回転率とも 呼ぶ。在庫の削減を目指すときによく使われる指標だ。この値が大 きいと、少ない在庫で多くの売上を得るから販売効率がよい。回転 率の逆数である在庫回転期間は何日分の在庫を持っているかを示し ている。売上債権回転期間と同じく、月数や日数でみる。 分子を売上高にする例が多いが、売上原価にすると値は原価べー スになるから、仕入との比較がしやすくなる。たとえば、在庫管理 の現場では「売上の 10 日分の在庫を持つ」よりも「仕入の 13 日分の 在庫を持つ」と言うほうがなじみやすい。棚卸資産は期末の値を使 うが、期首と期末の平均値を使うとより正確になる。 ディスカウントストアでは商品別に回転率を把握している。そし て「 10 回転以上の商品は売れ筋として定番化する」というような目 的に使う。もちろん、在庫が少なすぎると欠品になり販売チャンス を逃す ( 機会損失 ) 。したがって、仕入れのさじ加減も商売人の腕 の見せどころなのだ。 逆に、資金的な余裕があれば、品揃え策として在庫を豊富に持っ 方法もある。集客効果を高めて、売上アップをねらうわけだ。 ■高く売るより早く売れ 商売に『高く売るより早く売れ』という格言がある。 1 か月に 1 個の商品を売るよりも、値段を下げて 1 週間に 1 個売るほうがよい という考えだ。つまり、高い利幅を付けるよりも、回転率を高めて 早く売ることで利益の総額を増やすほうが賢いやり方だという意味 である。
5 1 成長性の分析 ( 好まれるのは増収増益 ) ・現在よりも将来を占うのが成長性の分析 収益性や安全性の高さだけでは、企業は評価されない。とりわけ 日本の株式市場では、成長性の高さが重要な評価尺度である。一般 に成長性としては、売上の伸び率 ( 増収率 ) と経常利益の伸び率 ( 増益率 ) がよく使われる。 対前年比「 2 ケタ」の伸び率が好まれるが、資本と売上・利益と の間にバランスが必要になる。たとえば、設備投資をしても稼動が 悪くて売上が伸びない、そして利益も出ないというのでは困る。 つまり、総資本 ( 総資産 ) の増加以上に売上を増やさないと、資 産回転率 ( = 効率 ) が低下する。さらに、売上の伸び以上に利益を 伸ばさないと、収益率が低下する。だから、増収率よりも増益率が 優先される。まとめると、増益率 > 増収率 > 総資本増加率となるの が望ましいのである。 0 業績変化のバターンは 4 つある 業績が変化する局面では、増収増益から減収減益まで 4 つのパタ ゆくえ ーンがあり、経営の行方を占うときに参考になる。産業が成熟した り、企業規模が大きくなると成長性は低くなるので、数値の高低だ けでは評価できない。また、業界全体やライバルの伸び率にも注意 する必要がある。たとえば、業界が 10 % 伸びているのに自社が 7 % なら、業界の拡大に追いついていないことになる。相対的にマイナ ス成長である。 0 原因となる先行指標にも気をつけてみよう さらに、結果としての売上や利益の成長性よりも、先行指標に着 目してみよう。業種によりいろいろな指標がある ( 次ページの図表 参照 ) 。業績の先読みに役立つはすだ。
2 ー 増・減益が気になる 経常利益 ・ファナックは高収益企業の代表 0 経常利益とは毎年繰り返す事業活動の結果である 売上高から営業利益までを本業の区分としたので、そこから下は 非本業の部というわけだ。営業利益 + 営業外収益ー営業外費用を経 常利益と呼ぶ。新聞紙上で増益・減益と言われるときは、経常利益 を指していると思ってよい。ケイツネと省略しても通じるほど有名 であり、企業の評価では別格の扱いをされる利益である。 そもそも「経常」とは何だろうか。辞書では「一定して変動のな いこと。反対は臨時」などとある。つまり、売上から経常利益まで のプロセスは、毎年繰り返す活動である。本業はもちろんのこと、 非本業の金融取引も、企業であれば毎年、必す発生するのである。 ■経常利益の源は何か 「経常利益主義」というくらい日本企業はやたらと経常利益を気 にする。これが企業の実力を示すと見る傾向もある。しかし、数値 の大きさのみを見てはいけない。その源となっているのが営業利益 ぎんみ なのか、金融収支なのか吟味しよう。 もし金融収支に依存したものなら、元手の金融資産は過去からの よろく 蓄積なのだから、先輩たちからの余録で食べているようなものであ る。本業の停滞を意味するとも考えられる。 経常利益を重視するのも結構だが、その源は営業利益であること が望ましい。 また、収益性の代表的指標である経常利益率もチェックしよう。 業種にもよるが 5 % 以上はほしい。 10 % 以上、つまり 2 桁なら高収 益企業の仲間入りだ。 よもと
2 緲 ー売掛金や受取手形を 売上債権と呼ぶ ・掛けのビジネスは売上を大きくする 個人の買い物は現金払いが多いが、企業間の取引では現金はあま り使わない。現金を扱うのは手間がかかり、管理上の危険もある。 初めての取引は現金でも、やがて相互の信用で後払いという方法が とられる。つまり、「掛け ( ッケ ) 」のビジネスである。 その結果が、売掛金や受取手形という売上債権である。売上が発 生すると同額の現金が増えるのは現金販売でのことで、商店など一 般の小売業で見られる。企業と企業のビジネスは一般に掛売りだか ら、売上 100 万円といっても、その時点では現金は 1 円も入らない。 ・売上が増えても売上債権のたまりすき、は危険 売掛金とは、まだもらっていない売上代金のことである。相手に おカネを請求できる権利だから債権という。先方の支払日がくると 現金で回収したり、受取手形で回収する。 受取手形は、相手が「〇月〇日」に代金を払うことを約東して振 り出す有価証券の一種だ。約東を破ると信用を失い、取引を停止さ れるおそれもあるため、振り出した相手は必死に支払おうとする 会計上は、手形をもらうと受取手形という資産になり、自分が手 を振り出すと支払手形という負債になる。 売上債権を受け入れるということは、相手に信用を与えているこ とになる。ただし、野放図にならないように、取引先別に限度額を 設けて管理する。 現金回収されると債権は消減し、同額の現金という資産が増える。 ところが、回収が長引き入金が遅れると資金繰りに問題が出る。 般に、売上が増えているときは売上債権も増えるものだが、売上の 伸び以上に債権が増えているときは気をつけよう。 0 / / ノ
安全性の視点 0 支払い能力 0 調達と運用のバランス 0 自己資本の充実度 手元流動性比率の例 ( 現預金十短期有価証券 ) の期首期末平均 月商 ( 年商 + 12 ) ( 2006 年度 ) 日本一の金持ち企業トヨタ自動 14.2 ( か月 ) ファナック 車の 1998 年 3 月期の手元流動 任天堂 性は 1 兆 3 , 000 億円であり、 10 年 13.4 後の 2007 年 3 月期は 2 兆 3 , 000 トヨタ自動車 1 .2 億円だ。売上高が 24 兆円だから、 手元流動性比率は 1 .2 か月と中 小企業並みである。 高収益だが規模拡大を目指さな いような企業では、異様な値にな る。ファナックや任天堂の値は 12 か月を超え、売上の 1 年分以上の カネを持っていることになる。 1 年くらい休業しても給料は払える わけだからすごい。 手元流動性比率 = ニ = 経営分析で経営指標に強くなる ・ 195
売上高って何ですか ・商売 ( 取弓 l) の大きさを示すから企業の序列になりやすい 損益計算書 (P/L) は売上高から始まる。売上高ではなくより広 い意味をもつ営業収益と表現する企業もある。なお、建設業では完 成工事高となる。ところ変われば呼び方も違うということだ。もち ろん会話のなかでは「売上高」と言わずに、単に「ウリアゲ」でも かまわない。さて、それでは売上高とは何を意味するのだろうか。 単純にいうと、売上は大きいほうがよい。売上は商売の大きさや 事業の規模を表すから、シェアとともに業界内の序列になりやすい。 経済成長の伸びが高い時代は、とにかく売上アップが一番の目標 だった。利益は後からついてくる。かってダイエーの中内社長は 『売上はすべてを癒やす』と言った。売上が増えれば社内の諸問題 も癒えるという名言だ。売上第一主義との見方もあるが、会社の業 績を示す数字として売上高が省略されることなどありえない。 0 増収、減収に 売上高が前年より増えることを増収、減ることを減収という。無 理な拡販で水増しするのは困るけれど、経営者は増収を好むものだ。 また、企業業績の報告でも、減収はビックニュースになる。 1 年間の売上を年商、 1 か月の売上を月商と呼ぶ。取引先を知る ときには、まずこの数字をおさえたい。経営基盤の弱い中小企業ほ ど売上の増減で利益が大きくプレるからだ。もちろん自社の年商、 月商くらいは知っておきたい。 なお、 1 日当たりの売上高を気にするのがコンビニエンスストア だ。日販と呼び、 50 万円が目安となる。セプン一イレプンの加盟店 平均は日販 639 千円 ( 2005 年 2 月期 ) で、業界でもダントッ一位で ある。