172 とお 砂ばくの中へいけばよかろう。しかし、けっして、あまり遠くへいってはならぬそ。よくいっておくそ。さあ、 かみ力い ぐすぐすするな。このエジプト王のために、おまえたちの神に害をなさぬよううったえてくれよ。」 モーセはいっこ。 「おことばは、わかりました。それではわたしは、神がエジプトの王と人民とにあたえられたわざわいを、と なさけ わか りやめにされるように、神にお願いすることにします。しかし、神がお情をかけてくださったときに、王は、そ れをじぶんのてがらにして、いばったりしないでいただきたいのです。そして、またこんども、意地わるくわた みんぞく かみ しをだましたり、わたしの民族が、神にいけにえをささけにいくのをじゃましないといわれました約東を、やぶ ったりしないでいただきたいのです。」 神はモーセの願いをききいれて、ブョはニジプトから消えていった。けれど、またこんどもエジプト王はじぶ んの約東をすててしまって、むごたらしい心になって、もとのがんこさにもどった。 えきびよう ばっ すると、たちまち罰がくだってきた。エジプトの国じゅうに、おそろしい疫病がひろがって、それが牛や馬や かす たいしよう ヒッジだけでなく、そのころきていた隊商のラクダまでもおそって、もがき苦しんで死んでいく数は、かそえら 力し れぬほど多かった。けれど、ゴセンのイスラエル人の家畜に害はおよばなかったから、ひとつも死ななかった。 かんと ~ 、 そのうわさはエジプト王の耳にもはいったので、王はじぶんで出かけていって監督たちをしらべた。かれらは、 ほうこ / 、 えきびよう 疫病はエジプトじゅうをおそっているといっても、ヘブライ人の家畜はせんぶぶしであります、と報告した。そ れでもなお、王は考えなおそうとしなかった。 おうぎゅう えきびようあ それで、モーセとアロンは、まだ疫病が荒れているときに、出かけていって、ちょうど王宮へもどった王に面 かみ やくそく ねが かみ かみ かちく かみ かちく じんみん くる やくそく めん
きようだい エジプトにきた兄弟 ョセフの十人の兄たちが、ロバをつれて、仲間に入れてもらった大きな隊商は、まい日まい日、いろいろなこ なかま じんしゅ どうぶつ とばを話すいろいろな人種と、かれらがつれている動物たちを、仲間にくわえて、大きな一団になって、ごった みやこ がえしながら、やがてエジプトの都についた。 そうりだいじん そこではヨセフが、総理大臣であって、エジプト王につぐ権力と位をもっていたのであった。 やくにん こくもっかんり そうこ こくもっか きようだい 兄弟たちが、金をもって穀物を買いに倉庫へいったとき、そこの穀物を管理していた役人たちは、ひと目見て、ヨ かれらをうたがった。というのは、第一に、かれらはヘブライ人だった。第二に、問いただしてみても、エジプ 立ちあがって、金をもって、ロ・ハにくらをおいて、すぐさま出発するんだ。いきも、かえりも、カ、つま、 そぐんだ。わたしたちは、死なないで、生きなければならぬ。」 むすこたちは、ひとこともいわないで、ヤコプのところからはなれて旅の支度をはじめた。あくる朝には、十 きようだい たいしよう 人の兄弟はヘブロンを出て、隊商のとおる大きな道を、ギレアデからエジ。フトへとすすんだ。それは、二十二年 ぎんか まえに、イシマエルの商人たちがすすんだ道だった。あのとき、ヨセフの兄たちは、銀貨二十まいで、ヨセフを どれいに売った。そしてョセフは、夜になると、つれていかれて、二度ともどってはこなかった。 ところで、ヤコプは、べニヤミンだけは、兄たちといっしょにエジプトへいかせなかった。もしかして、べニ ヤミンが、わざわいにあうのを、おそれたからだった。 あに しようにん よる なかま けんりよくくらい しゆっぱっ たびしたく たいしよう にち いちだん にち
プは、いちばん下のべニヤミンを見て、心をなぐさめるのだった。 ヤコプがべニヤミンを愛してたいせつにしたのは、ただそのべニヤミンのことを思うからだけでなかった。ョ セフがいなくなったいまでは、べニヤミンが、その母ラケルがのこしたただひとりの子で、そのラケルは、べニ ヤミンを生むとき死んだのだった。 牢獄で 何日も何日も、焼けつくような昼間も、身がこおるような星空の夜も、イシマエル人の隊商たちは、旅をつづ やくみ しようひんはこ け、ラクダをつれ薬味や香料そのほかの商品を運びながら、エジ。フトへやってきた。 みやこ そこでヨセフが見たものは、何もかも、めずらしくかわっていた。隊商はエジプトの都にはいっていって、人 びとでさわがしい、こみあったせまい道をとおって、市場についた。そこでラクダの荷をおろした。あくる日に は、ヨセフを、どれい市場へ引っぱっていった。そこではエジ。フトのまわりの国々からとらえてきたものたちを、 売ったり買ったりしていた。そしてョセフは、ポテパルというエジプト人に売られた。かれは金持ちで、エジプ やくにん ト王につかえる高い役人でもあった。 ふみん ポテパルは、ヨセフが苦しみと不眠でやせおとろえてはいるが、かしこそうであかるい顔をしていることがひ と目でわかったから、これはすぐれた若ものだと思った。それでヨセフは、ほかの多くのどれいのように、親方 えん に引かれて畑や・フドウ園におくられないで、家におかれて、ポテパルのそばにつかえることになった。 ろうごく はたけ いちば くる こうりよう ひるま わか いちば はしぞら たいしよう たいしよう かお かねも たび おやかた
126 てつくったに、父イサクとならべて、おさめた。これは、そのイサクの父のア・フラ ( ムが土地を買って、じぶ 、つしょにカナンへきた人たちとともどもに、エジプ んの墓として用意したものであった。それからョセフは、し へかえっていった。 そうしきせいだい ところで、ヨセフの兄弟たちは、エジプト人たちのカでとりおこなった葬式の盛大さやおごそかさ、そしてカ ぎようれつ ナンまできた大きな行列を見ると、いまさらエジプトでヨセフがもっている権力の大きさをはっきりと知った。 それにくらべて、じぶんたちは、ただのヒッジ飼い、牛の世話がかりでしかなかった。じぶんたちだけになった ふあん とき、顔を見あわせながら、不安な心もちをはなしあうのだった。 あくじ じぶんたちが、ヨセフにたいしてひどい悪事をはたらいたのに、それにしかえしもしなかったのは、父が生き ていたからえんりよしていたのでないか。そう思うと、たちまち恐れにとりつかれた。この何年も何年も、ヨセ きかい フは、いい機会を待ちながら、じぶんたちへの憎しみを、かくしていたのではないか。そしていよいよ、根こそ ふくしゅう ぎにするようなすごい復讐が、おそいかかってくる時はきたのだ。 きようだい 兄弟たちは、ヨセフに会うのはこわかったので、使いのものをおくって、こういわせた。 びようき 「父上の病気がおもくなって、たすからぬと見えてきたとき、わたしたちは父上にむかって、あんたをイシマ ほうこく エル人に売ったあとで、うその報告をしたということを、白状したのです。 そうすると父上は、死なれるまえに、わたしたちに、命令されたのです。それは、あんたにこういうふうにつ たえよ、ということでした。 つみ 『わたしの愛するむすこョセフよ。どうそおねがいだ。おまえの兄たちがおまえにおかした罪をゆるし、また わす そのあとでの苦しみのこともすべて忘れてほしいのだ。』 はか かお くる きようだい は第、じよう めいれい あに けんりよく
328 早口にしゃべる声を聞いたとかいううわさが、ひそびそったえられた。 そうだん りようしゅ しんかん 領主たちは、神官やうらない師をよんで、相談した。 「あの『イスラエルの神の箱』からまぬかれるためには、どうすればよいか、おしえてもらいたい。人民は、 きようふ あのことを考えるだけでも、恐怖にとりつかれてしまうのだ。この問題を考えめぐらして、もし『箱』をイスラ うほう はんだん エル人にかえすのがいいと判断するなら、それをどのような方法でかえせばよいか、どんな物をそえればよいか をつげてほしい。」 もんだい しんかん 神官やうらない師たちは、その問題をはなしあってから、ペリシテの領主たちのところへもどっていった。 くる 「何百年もむかし、わたしたちの敵イスラエル人がエジプト人のどれいとなって苦しんでいたころのことを思 いだしてください。エジプトの王は、イスラエル人から、じぶんたちの神をおがんでいけにえをささげるために、 ろうどう 二、三日労働を休ませてほしいとうったえられたのをこばみましたが、そのとき、さまざまのわざわいがふりか かったのです。 、まもおこっているのでありましよう。イスラエルの神工ホ・ハは、エジプ そのときおこったとおなじことが、し ペリシテにもわざわいをくだしたのです。そこで、わたしたちとしては、あ ト王にわざわいをくだしたように、 の『箱』を、イスラルの神へのつぐないのおくりものといっしょに、イスラエル人にかえすことをおすすめい まんぞく たします。もしあなたたちがイスラエル人に勝ったことだけで満足しておられたなら、イスラエルの神はそのこ とを気にかけす、心をしすめていたかもしれません。けれど、あなたたちは、イスラエルの神のカのしるしであ る『箱』をうばって、その神のもの、いや、神そのものをけがされました。その神とはエホパで、敵にたいして、 はかり知れぬ力をふるうのです。」 かみはこ かみ かみ てき かみ もんだい りようしゅ かみ かみ かみ かみ もの てき かみ じんみん
152 っ それから、かれらにこう告けよ。 くる しゅじん かな 『イスラエルの主人である神は、あなたがたの悲しみを知り、苦しみを見て、その手をもって、あなたがたを みちびいてつれ出して、エジプトでのとらわれの身から自由にされるであろう。しまいに、ア・フラハム、イサク、 ちちみつなが とち ヤコプに約東された土地、ほかならぬカナンの地、乳と蜜が流れる、みのりゆたかな土地へと、みちびかれるで あろう。』 イスラエルの人びとは、そのおまえのことばに耳をかたむけ、それにしたがうことであろう。そののち、おま えとイスラエル人の長老たちは、ともどもにエジプト王のまえに出て、おまえは王につけなければならぬ。 っ めいれい 『ヘブライの主人である神は、われわれのまえにすがたをあらわされ、その命令をなしとげよと告けられたの あれの であります。なにとそ、三日の道のりほどさきの、エジプトの外のしずかな荒野へいくことをゆるしていただき まっ たいのです。そこでわれわれは、われわれの神にいけにえをそなえて、おごそかな祭りをおこないたいのです。』 しかし、エジプトの王は、聞きいれぬであろう。かれは、おごりたかぶり、かたくなな心をもっておるから、 どのようにねがっても、かれをうごかし、心をかえさせることはできぬであろう。 そのときわたしは、この手をさしのばして、さまざまのふしぎな力をもって、エジプトをこらしめるであろう。 エジプトは苦しみにおちこみ、すべての人びとは、恐れにうたれるであろう。 たみじゅう その日がきたならば、あのエジプト王は、わたしの民を自由にするばかりでなく、民たちはそれそれむすこや ぎん とみ むすめをつれ、エジプトの銀のかざり、金のかざり、うつくしい布などの富をもって、よろこびいさんで出るで たび あろう。エジプトの、おごりたかぶっていたものたちも、おくり物を山ほどささけて、早く旅に出ていくように とねがうことであろう。」 やくそく くる しゅじん とち ちょうろう みつか かみ かみ かみ み じゅう もの ぬの たみ
立エデンの園 にんげん 人間をつくりだす・ : 神の怒り : ・ こう 2 大洪水 大洪水・ : 3 ョセフ たい ゅめ : ・ ろうどく 牢獄で : エジプト王のゆめを解く・ : きようだい エジプトにきた兄弟 : ョセフが名のる : エジプトにきたヤコブ : かみ だい ふね アシの船 ほのお かがやく炎 エジプト王への願し ころ・十・し その ねが 156
167 しんび エジプト人たちは、胸がむかついてくるのだった。どうしてエジプトの神々は、じぶんたちにこういうわざわ いをくだしたのか。もし、魔法は、こういう いやなものを生みだす力をもっているなら、どうして追いはらうま しんかん じないを知っていないのか。エジプト人たちはそう思ったが、神官たちも魔法使いたちも、どうする力もなかっ おも た。とうとうエジプト王はヘ・フライ人の主だったものをよびだし、「モーセがヘブライの神にうったえるように」 めいれい と命令した。王はいった。 まほうつか 「わたしの魔術使いたちが、カエルを生みだす力もわざも、もたぬなどと思ってはならぬそ。しかし、いま国 じゅっ じゅうを苦しめているわざわいを、何かの術をもって、すぐさま追いはらってしまうことができるなら、それは 神秘の力というものだろう。 それだから、国からこの害をとりのそくように、おまえの神にたのめ。これは、人民の苦しみのたねになって かみ いるだけでなく、このエジプト王に無礼をはたらいておるのだ。とりのそけたなら、たしかにカづよい神だとい うことになる。そして、おまえたちへブライ人が、その神をたたえるために、しばらく労働を休むというのも、 むりではないことになる。」 モーセは、しばらく考えてからようやく王にこたえた。 めいれい 「わたしは、万人をおさめられるエジプト王の、小さなしもべであります。なにとそわたしに命令されまして、 ねが いつごろ、わたしが王のためにヘブライの神にお願いいたせばよろしいか、おしめしください。」 王はモーセを、つめたい目つきで見つめた。だが、怒りはかくして、こたえた。 「それならば、あす、日がしずむまえの時ときめる。」 王は、モーセをためしてみるために、そういっただけだった。というのは、心の中では、このわざわいは、神 くる ばんにん むね まほう ぶれい かみ かみ かみ かみがみ まにうつか じんみんくる ろうどう かみ しん 4
144 きずぐち って、地面にたおれていた男をだきおこし、傷口からこ。ほれる血をとめてやった。そして打った男をせめた。 わる 「どうしてこの人をうちたおしたのですか。どんな悪いことをしたのですか。この人は、あんたやわたしと血 なかま のつながる仲間ではないのですか。ほんとうに、われわれはひとつにならなければならないのです。これいじよ みんぞく うイスラエル民族をみじめなことにしてはなりません。」 あいて 相手は、モ 1 セのほうをふりむいて、さけびののしった。 「よけいなところへ首をつつこんで、おせつかいするおまえま、 をいったい何ものか。だれがおまえを、おれた さいばんかん しんかん ちをさばく神官だか裁判官だかにしたというのか。おまえは、きのうエジプト人をやったみたいに、 このおれを 殺す気か。気をつけたほうがいいそ。」 その男の声は、あかるい空気の中で、大きくはっきりひびきわたった。モーセは、いそいでせなかをむけて、 くら かん ひみつ にけだした。心はいたみにしびれて、まっ暗なやみにつつまれたような感じだった。じぶんでは秘密にしておい したい すな たと思ったことが、ばれてしまっていたのだ。エジプト人の死体をおおっていた砂はうっすりとしていて、人に ふくしゅうおそ 見られてしまったのだ。エジプト王の復讐が恐ろしかった。ただひとつの望みは、時がおくれぬうちに、この国 からにげだすということだった。 もちろん、エジプト王は、このことを知ったとき、怒りにもえた。王は、エジプト人でなくへ・フライ人である せんじゅっつか モーセが、たとえ戦争でたくみな戦術を使ったとはいっても、愛してなどはいなかった。だいぶまえから、これ きけんじんぶつ は危険な人物だと考え、むほんをおこすかも知れぬと、うたがいをいだいていたのだった。 、力い これがいい機会だから、なんとかして殺したいと、王は思った。けれど、もうおそかった。モーセは、そのと ミデャン きには、エジプトの国境のとりでのむこうのほうまでにけていっていた。そして、すこしも休まずに、 ころ じめん せんそう こっきよう くび ころ のぞ
188 過ぎ越しの祝い モーセはゴセンへかえった。エジプト王とのあいだの、知恵と意志の戦いは、もうおわったのだと、つくづく どうどうたいこう きぞく ・こ、じん かん 感じた。しぶんは、貴族や大臣たちのまえで、王とにらみあって、堂々と対抗しただけでなく、いままでエジプ ばっ トにくだってきた罰などとはくらべものにならぬほど大きいわざわいがこれからきて、王の心をこなごなにうち けいこく くだいてしまうのだと警告したのだった。 こうしよう もうこれ以上、王と交渉するなどということは考えられない。顔をあわすことは、これからもう一度あるだけ そうだんやく だ。王の相談役の大臣たちのうちの、いちばんがんこでらんばうなものでも、ひとまえで大っぴらにモーセを罪 におとしたり殺したりする勇気はないだろう。しかし、エジ。フトから敵をとりのそくという目的のためには、ほ きけん しゆだん かにもいろいろの手段を考えるだろう。モーセには、きようからのちは、じぶんの生命はたえす危険にさらされ ているのだということがわかっていた。けれどかれは、それを気にしたりはしなかった。 せいかっ ミデャンの司 = テロのところでヒッジを飼う安らかでしずかな生活から別れてからは、苦労 すっとまえに、 じしん もんだい がたえることはなかったのだ。くる日ごとに、むつかしい問題がのしかかってきた。けれどモーセは、自信をな くしてまよったりすることは、けっしてなかった。いつも心もからだもっかれるのだったが、元気がくじけるこ みんぞく とはなかった。ミデャンからじぶんの民族のところへかえってきたのは、長い年月がたってからのことで、じぶ んをおばえてくれているものは、ほんのかそえるほどだった。それから王との長いあらそいがつづいたとき、イ こ ころ だいじん ゅうき かお てぎ たたか おお もくてき わか くろう