ハンニ - みる会図書館


検索対象: 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-
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1. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

182 「ジョバンニさん。あなたはわかっているのでしよう。」 いきお ジ 1 ハンニは勢いよく立ちあがりましたが、立ってみるともうはっきりとそれを答えることができないの でした。・ サネリが前の席からふりかえって、ジ 1 ハンニを見てくすっとわらいました。ジョパンニはもうど ぎまぎしてまっかになってしまいました。先生がまたいいました。 ぼうえんきようぎんが 「大きな望遠鏡で銀河をよっく調べると銀河はだいたい何でしよう。」 やつばり星だとジョバンニは思いましたが、こんどもすぐに答えることができませんでした。 先生はしばらくこまったようすでしたが、目をカムパネルラのほうへむけて、 「ではカムパネルラさん。」と名指しました。 するとあんなに元気に手をあけたカムパネルラが、やはりもじもじ立ちあがったままやはり答えができま せんでした。 し力し 先生は意外なようにしばらくじっとカムパネルラを見ていましたが、いそいで、 、よ : ら、じぶんで星図を指しました。 「では、よし。」といしオカ ぼうえんきよう ぎんが 「このばスやりと白い銀河を大きないい望遠鏡で見ますと、もうたくさんの小さな星に見えるのです。ジョ パンニさんそうでしよう。 っ ジ 1 ハンニはまっかになってうなずきました。けれどもいっかジ 1 ハンニの目のなかには、なみだがい ばいになりました。そうだ、・ほくは知っていたのだ、もちろんカム。 ( ネルラも知っている、それはいっかカ はかせ ム。 ( ネルラのおとうさんの博士のうちでカムパネルラといっしょに読んだ雑誌のなかにあったのだ。それど せき ぎんが こた ざっし こた こた

2. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

252 がくせい ジョバンニはみんなのいるそっちのほうへ行きました。そこに学生たちゃ町の人たちにかこまれて青じろ ふく とけい いとがったあごをしたカムパネルラのおとうさんが黒い服をきてまっすぐに立って左手に時計をもってしつ と見つめていたのです。 みんなもじっと川を見ていました。だれもひとことも物をいう人もありませんでした。ジ 1 ハンニはわく さかな わくわくわく足がふるえました。魚をとるときのアセチレンラムプがたくさんせわしく行ったりきたりして、 なが なみ し川の水はちらちら小さな波をたてて流れているのが見えるのでした。 かり・ゅ・う・ 下流のほうの川はばいつばい銀河が大きくうつって、まるで水のないそのままのそらのように見えました。 ジョ・ハンニは、そのカムパネルラはもうあの銀河のはずれにしかいないというような気がしてしかたなか ったのです。 けれどもみんなはまだ、どこかの波のあいだから、 およ 「・ほくずいぶん泳いだそ。」と いいながらカム。ハネルラが出てくるか、あるいはカムパネルラがどこかの人 の知らない洲にでもついて立っていて、だれかのくるのをまっているかというような気がしてしかたないら しいのでした。けれどもにわかにカムパネルラのおとうさんがきつばりいいました。 「もうだめです。落ちてから四十五分たちましたから。」 ジョ・ハンニは思わずかけよって博士の前に立って、・ほくはカムパネルラの行ったほうを知っています、・ほ くはカムパネルラといっしょに歩いていたのです、といおうとしましたが、もうのどがつまって何ともいえ ませんでした。すると博士はジョバンニがあいさつにきたとでも思ったものですか、しばらくしけしけジョ はかせ ぎんが はかせ なみ ぎんが もの

3. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

249 何ともいえずかなしいような新しいような気がするのでした。 ゅめ 琴の星がずうっと西のほうへうつってそしてまた夢のように足をのばしていました。 ジ 1 ハンニは目をひらきました。もとの丘の草の中につかれてねむっていたのでした。胸は何だかおかし くほてり、ほおにはつめたいなみだがながれていました。 ジ 1 ハンニはばねのようにはね起きました。町はすっかりさっきのとおりに、下でたくさんの灯をつづっ ねっ てはいましたが、その光はなんだかさっきよりは熱したというふうでした。 あま そしてたったいま夢で歩いた天の川も、やつばりさっきのとおりに白く・ほんやりかかり、まっ黒な南の地 平線の上ではことにけむったようになって、その右にはさそり座の赤い星がうつくしくきらめき、そらぜん たいの位置はそんなにかわってもいないようでした。 ジ 1 ハンニはいっさんに丘を走っておりました。まだタごはんをたべないでまっているおかあさんのこと むね まっ が胸いつばいに思いだされたのです。どんどん黒い松の林の中を通って、それからほの白い牧場のさくをま くらぎゅうしゃ わって、さっきの入口から暗い牛舎の前へまたきました。そこにはだれかがいま帰ったらしく、さっきなか った一つの車が何かのたるを二つのつけておいてありました。 「こんばんは。」ジョバンニはさけびました。 ふと 「はい。」白い太いず・ほんをはいた人がすぐ出てきて立ちました。 「何のご用ですか。」 へいせん ことほし おか あたら がわ おか とお かえ むね ぼくじよう あかり 銀河鉄道の夜

4. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

207 そしてふたりは、前のあの河原を通り、改札ロの電燈がだんだん大きくなって、まもなくふたりは、もと まど の車室の席にすわって、いま行ってきたほうを、窓から見ていました。 8 鳥を捕る人 「ここへかけてもようございますか。」 がさがさした、けれども親切そうな、おとなの声が、ふたりのうしろできこえました。 ちゃ それは、茶いろの少し・ほろぼろの外とうをきて、白いきれでつつんだ荷物を、二つにわけて肩にかけた赤 ひけのせなかのかがんだ人でした。 かた しいんです。」ジ 1 ハンニは、少し肩をすぼめてあいさっしました。その人は、ひけの中でかすか にわらいながら荷物をゆっくり網だなにのせました。ジ 1 ハンニは、なにかたいへんさびしいようなかなし しようめんとけい いような気がして、だまって正面の時計を見ていましたら、ずうっと前のほうで、ガラスの笛のようなもの しやしってんじよう が鳴りました。汽車はもう、しずかにうごいていたのです。カム。 ( ネルラは、車室の天井を、あちこち見て てんじよう かげ いました。その一つのあかりに黒いかぶと虫がとまって、その影が大きく天井にうつっていたのです。赤ひ げの人は、なにかなっかしそうにわらいながら、ジ 1 ハンニやカム。 ( ネルラのようすを見ていました。汽車 はもうだんだん早くなって、すすきと川と、かわるがわる窓の外から光りました。 赤ひけの人が、少しおずおずしながら、ふたりにききました。 「あなたがたは、どちらへいらっしやるんですか。」 しやしっせき 「ええ、 きしゃ にっ しんせつ かわらとお あみ かいさつぐちでんとう まどそと にもっ ふえ かた きしゃ 銀河鉄道の夜

5. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

195 あせ れのさけび声もかすかにきこえてくるのでした。風が遠くで鳴り、丘の草もしずかにそよぎ、ジ 1 ハンニの 汗でぬれたシャツもつめたくひやされました。 れっしやまど 野原から汽車の音がきこえてきました。その小さな列車の窓は一列小さく赤く見え、その中にはたくさん たびびと の旅人が、りんごをむいたり、わらったり、いろいろなふうにしていると考えますと、ジ 1 ハンニは、もう 何ともいえすかなしくなって、また目を空にあけました。 カらんとしたつめたいとこだとは思わ ところがいくら見ていても、その空は、ひる先生のいったような、 : ・ほ ~ 、じよう れませんでした。それどころでなく、見れば見るほど、そこは小さな林や牧場やらある野原のように考えら ことほし れてしかたなかったのです。そしてジ 1 ハンニは青い琴の星が、三つにも四つにもなって、ちらちらまたた き、足が何べんも出たり引っこんだりして、とうとうきのこのように長くのびるのを見ました。またすぐ目 ほしあっ の下のまちまでが、やつばり・ほんやりしたたくさんの星の集まりか一つの大きなけむりかのように見えるよ うに思いました。 6 銀河ステーション てんきりんはしら さんかくひょうかたち そしてジョバンニはすぐうしろの天気輪の柱がいっか・ほんやりした三角標の形になって、しばらくほたる のよ、つに、 ペ力。へカきえたりともったりしているのを見ました。それはだんだんはっきりして、とうとう、 のはら あたら はがね りんとうごかないようになり、こい鋼青の空の野原にたちました。いま新しくやいたばかりの青い鋼の板の のはら ぎしゃ ぎんが とお れつ おか のはら 銀河鉄道の夜

6. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

228 ( カムパネルラ、ぼくもう行っちまうそ。ぼくなんかくじらだって見たことないや。 ) まどそと ジ 1 ハンニはまるでたまらないほどいらいらしながら、それでもかたくくちびるをかんでこらえて窓の外 まどそと を見ていました。その窓の外にはいるかのかたちももう見えなくなって川は二つにわかれました。そのまっ ふく くらな島のまんなかに高い高いやぐらが一つ組まれて、その上にひとりのゆるい服を着て赤い・ほうしをかぶ しん・こう った男が立っていました。そして両手に赤と青の旗をもって空を見あけて信号しているのでした。 あかはた ジ 1 ハンニが見ているあいだ、その人はしきりに赤い旗をふっていましたが、にわかに赤旗をおろしてう はた しろにかくすようにし、青い旗を高く高くあげてまるでオーケストラの指揮者のようにはけしくふりました。 てっぽうだま くうちゅう すると空中にざあっと雨のような音がして、何かまっくらなものが、いくかたまりもいくかたまりも鉄砲丸 のように川のむこうのほうへ飛んで行くのでした。ジョパンニは思わず窓からからだを半分出して、そっち まん を見あげました。美しい美しいききよういろのがらんとした空の下を、じつに何万という小さな鳥どもが とお 幾組も幾組もめいめいせわしくせわしく鳴いて通って行くのでした。 まどそと 「鳥が飛んで行くな。」ジ 1 ハンニが窓の外でいいました。 「どら。」カムパネルラも空を見ました。 なししていました。 「くじらなら大きいわねえ。」 「くしら大きいです。子どもだって、いるかぐらいあります。」 ゅびわ 「そうよ、あたしアラビアンナイトで見たわ。」姉はほそい銀いろの指輪をいじりながらおもしろそうには しま うつく うつく りようて あわ ぎん まど しきしゃ

7. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

239 くちふえ 草花のにおいのようなもの、ロ笛や人々のざわざわいう声やらをききました。それはもうじき近くに町か何 まつり かがあって、そこにお祭でもあるというような気がするのでした。 「ケンタウルっゅをふらせ。」いきなりいままでねむっていたジ 1 ハンニのとなりの男の子がむこうの窓を 見ながらさけんでいました。 とうひ ああ、そこにはクリスマストリイのようにまっさおな唐檜かもみの木がたって、その中にはたくさんのた まめでんと ) くさんの豆電燈がまるで千のほたるでも集まったようについていました。 「ああ、そうだ、こんやケンタウル祭だねえ。」 「ああ、ここはケンタウルの村だよ。」カムパネルラがすぐいいました。 「ポールなげなら・ほくけっしてはずさない。」 男の子が大いばりでいいました。 「もうじきサウザンクロスです。おりるしたくをしてください。」青年がみんなにいいました。 きしゃの 、ました。 「ぼく、もすこし汽車へ乗ってるんだよ。」男の子がいし カムパネルラのとなりの女の子はそわそわ立ってしたくをはじめましたけれども、やつばりジ 1 ハンニた 夜 の ちとわかれたくないようなようすでした。 道 せいねん 「ここでおりなきゃいけないのです。」青年はきちっと口をむすんで男の子を見おろしながらいいました。河 「いやだい。ばくもうすこし汽車へ乗ってから行くんだい。」 きしゃの あっ せいねん ちか まち まど

8. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

237 ぎし 川のむこう岸がにわかに赤くなりました。 ゃなぎの木や何かもまっ黒にすかしだされ、見えない天の川の波も、ときどきちらちら針のように赤くを ぎしのはら りました。まったくむこう岸の野原に大きなまっかな火がもやされ、その黒いけむりは高くききよういろの つめたそうな天をもこがしそうでした。ルビーよりも赤くすきとおり、リチウムよりもうつくしく酔ったよ うになって、その火はもえているのでした。 「あれは何の火だろう。あんな赤く光る火は何をもやせばできるんだろう。」ジ 1 ハンニがいいました。 こた 「さそりの火だな。」カムパネルラがまた地図と首っぴきして答えました。 「あら、さそりの火のことならあたし知ってるわ。」 「さそりの火って何だい。」ジョ。ハンニがききました。 「さそりがやけて死んだのよ。その火がいまでももえてるって、あたし何べんもおとうさんからきいたわ。」 「さそりって、虫だろう。」 「ええ、さそりは虫よ。だけどいい虫だわ。」 はくぶつかん 「さそり、 しい虫じゃないよ。ばく博物館でアルコールにつけてあるのを見た。尾にこんなかぎがあってそ れでさされると死ぬって先生がいったよ。」 「そうそう。・ほく知ってらあ、ばくおはなししよう」 のはら 「そうよ。たけどいい虫だわ、おとうさんこういったのよ。むかしのバルドラの野原に一びきのさそりが くび あま がわなみ 銀河鉄道の夜

9. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

223 くしくいろどられた大きなりんごを落さないように両手でひざの上にかかえていました。 せいねん 「おや、どっからきたのですか。りつばですねえ。ここらではこんなりんごができるのですか。」青年はほ くび ひと とうだいかんしゆらようて んとうにびつくりしたらしく、燈台看守の両手にかかえられた一もりのりんごを、目を細くしたり首をまけ たりしながら、われをわすれてながめていました。 「いや、まあおとりください。どうか、まあおとりください。」 せいねん 青年は一つとってジ 1 ハンニたちのほうをちょっと見ました。 「さあ、むこうの・ほっちゃんがた。いかがですか。おとりください。」 ジョ・ハンニはぼっちゃんといわれたので、すこししやくにさわってだまっていましたが、カム。 ( ネルラは、 、ました 「ありがとう。」といし おく すると青年はじぶんでとって一つずつふたりに送ってよこしましたので、ジョパンニも立って、ありがと うといいました。 とうだいかんしゅ 燈台看守はやっと両うでがあいたので、こんどはじぶんで一つずつ、ねむっているきようだいのひざにそ っとおきました。 「どうもありがとう。どこでできるのですか。こんなりつばなりんごは。」 夜 せいねん の 青年はつくづく見ながらいいました。 のうぎよう 、ものがでぎるような約東に河 「このへんではもちろん農業はいたしますけれども、たいていひとりでにいし のぞ 銀 のうぎよう ほねお なっております。農業だってそんなに骨は折れはしません。たいていじぶんの望むたねさえまけばひとりで せいねん りよう りようて ほそ やくそく

10. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

210 がいったいこ、 ) 」でさぎなんそたべるだろうとジョバンニは思いながらききました。 「さぎはおいしいんですか。」 ちゅうもん 「ええ、まいにち注文があります。しかし、がんのほうが、もっと売れます。がんのほうがずっとがらがい たいいちてすう いし、第一手数がありませんからな。そら。」鳥捕りは、またべつのほうのつつみをときました。すると黄と 青じろとまだらになって、なにかのあかりのようにひかるがんが、ちょうどさっきのさぎのように、くちば しをそろえて、少しひらべったくなって、ならんでいました。 けれども、 ( なんだ、やつばりこいつはおかしだ。チョコレートよりも、もっとおいしいけれども、こんながんが飛ん でいるもんか。この男は、どこかそこらの野原の菓子屋だ。けれどもぼくは、このひとをばかにしながら、 この人のおかしをたべているのは、たいへん気のどくだ。 ) と思いながら、やつばりにくぼくそれをたべてい ました。 「も少しおあがりなさい。」鳥捕りがまたつつみを出しました。ジ 1 ハンニは、もっとたべたかったのです 「ええ、ありがとう。」といってえんりよしましたら、鳥捕りは、こんどはむこうの席の、かぎをもった人 「こっちはすぐたべられます。どうです、少しおあがりなさい。」鳥捕りは、黄いろながんの足を、かるく ひつばりました。するとそれは、チョコレートででもできているように、すっときれいにはなれました。 「どうです。すこしたべてごらんなさい。」鳥捕りは、それを二つにちぎってわたしました。ジ 1 ハンニは、 ちょっとたべてみて、 とりと のはらかしゃ と - りと とりと とりと とり・と せき