月夜のけだもの - みる会図書館


検索対象: 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-
209件見つかりました。

1. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

いつのまにか獅子が、りつばな黒いフロックコートをきて肩をはって立って、「もうよかろうな。」といい ました。 するとおくさんの獅子がふとい金頭のステッキをうやうやしく渡しました。獅子はだまってうけとってわ しし かながしら 月夜のけだもの 十日の月が西のれんがぺいにかくれるまで、もう一 時間しかありませんでした。 その青じろい月の明りをあびて、獅子はおりのなか ほかのけだものど をのそのそあるいておりましたが、 もは、頭をまけて前あしにのせたり、横にごろっとねころんだり、しずか にねむっていました。夜中までおりの中をうろうろうろうろしていたきっ かお ねさえ、おかしな顔をしてねむっているようでした。 わたくしは獅子のおりのところにもどってきて、前のべンチにこしかけ ました。するとそこらがぼうっとけむりのようになって、わたくしも、そ のけむりだか月のあかりだかがわからなくなってしまいました。 あた かた わた しし 月夜のけだもの

2. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

158 かえ ししたかったのでしよう。ほんとうにさよならさよなら。わたくしもうちへ帰ってから、た かえ よ ; ら、いちもくさんに帰って行きました。 くさん泣いてあけますから。」といいオカ そうそう、このときはちょうど秋にまいたそばの花が、いちめん白くさきだしたときで、あの目のあおい 「かえるさん。こんどはきっとわたしなんかまけますね。あなたは強いんだもの。ハ、 / ノ」かえるはひどくなけつけられました。 ) て、り 0 、ツ、、 0 はら そして手足をひろけて青じろい腹を空にむけて死んだようになってしまいました。銀いろのなめくじは、 すす すぐべロリとやろうと、そっちへ進みましたがどうしたのか足がうごきません。見るともう足が半分とけて います。 「あ、やられた。塩だ。ちくしよう。」と、なめくじがいいました。 かえるはそれをきくと、むつくり起きあがってあぐらをかいて、かばんのような口をいつばいにあけてわ らいました。そしてなめくじにおじぎをしていいました。 なめくじが泣きそうになって、 ・」といったときもう舌がとけました。 「かえるさん。さよ : 雨がえるはひどくわらいながら、 「いや、さよなら。なめくじさん。とんだことになりましたね。」 しお 塩が白くそこらへちらばりました。 なめくじがいいました。 「さよならと、 しお した つよ ぎん よっしよ。

3. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

「そうですか。いや。しようちいたしました。」 、よういくりよう 「いま毛をみんなむしろうと思ったのだがあんまりかわいそうでな。教育料はわしから出そう。一カ月八 百円にまけてくれ。今月分だけはやっておこう。獅子はチョッキのかくしから大きながまぐちを出してせ ぎんか んべいくらいある金貨を八つとり出して象にわたしました。象は鼻でうけとって耳の中にしまいました。 ぞう 「さあ行け、きつね。よくいうことをきくんだそ。それから、象。きつねはおれからあすかったんだから鼻 をむやみにひつばらないでくれ。よし。さあみんな行け。」 白くまも象もきつねもみんな立ちあがりました。 きつねは首をたれてそれでもきよろきよろあちこちをぬすみ見ながら象について行き、白くまは鼻をおさ 「とまれ、象。とまれ。白くまはここにいる。おまえはだれをさがしているんだ。」 しいます。」 「白くまです。わたしの弟子になろうと、 「うん。そうか。しかし白くまはごくおとなしいからおまえの弟子にならなくてもよかろう。白くまはし . き - よう・い ~ 、 くんし つにむしやきな君子だ。それよりこのきつねを少し教育してやってもらいたいな。せめてうそをつかないく らいまでな。」 「そうか。あんなに鼻がのびるには天才でなくてはだめだ。ひつばるくらいでできるもんじゃない。」 まったくでございます。あ、追いかけてまいりました。どうかよろしくおねがいいたします。」 白くまは獅子のかけにかくれました。 象が地面をみしみしいわせて走ってきましたので獅子がまたステッキをつぎ出してさけびました。 じめん くび そう はな てんさい そう でし はな はな 月夜のけだもの

4. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

やまなし ふたごの星 : ・ の火 : ・ ツェねすみ : 月夜のけだもの : かざんだん 気のいい火山弾 : 土神ときつね : だんちょう カイロ団長 か っちがみ し 17 43 73 83 95

5. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

わる 「きさまはまだ悪いことをやめないな。この前百すじの毛をみんなぬかれたのをもうわすれたのか。」 しようじき 「だ、大王さま。わ、わたくしは、い、今はもう正直でございます。ー歯がカチカチいうたびに青い火花は そこらへちらばりました。 「火花を出すな、銅くさくていかん。こら。うそをつくなよ 「マラソンの練習でございます。」 ところが獅子は白くまのあとをじっと見送ってつふやきました。 てまたのそのそと歩き出しました。 月の青いけむりのなかに樹のかけが、たくさん棒のよう二なって落ちました。 そのまっくろな林のなかからきつねが赤じまの運動スホンをはいて飛び出してきて、いきなり獅子の前を かけぬけようとしました。獅子はさけびました。 じゅう 「待て。」きつねは電気をかけられたようにブルルッとふるえて、からだ中から赤や青の花火をそこら中へ はちばちちらしてはけしく五、六ペんまわってとまりました。なせか口が横のほうにひきつっていていじ悪 そうにみえます。 獅子が落ちついてうでぐみをしていいました。 きつねがガタガタふるえながらいいました。 「白くまめ、象の弟子になろうというんだな。頭の上のにうがひらたくていい弟子になるたろうよ。」そし きつねは少しおちつきました。 れんしゅう どう でんき みおく あたま うんどう 。いまどこへ行くつもりだったのだ。」 じゅろ 月夜のけだもの

6. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

198 「銀河ステーションで、もらったんだ。きみもらわなかったの。」 ぎんが 「ああ、ぼく銀河ステーションを通ったろうか。いまぼくたちのいるとこ、 ていしやば ジョパンニは、白鳥と書いてある停車場のしるしの、すぐ北を指しました。 かわら きし 「そうだ。おや、あの河原は月夜だろうか。」そっちを見ますと、青白く光る銀河の岸に、銀いろの空のす すきが、もうまるでいちめん、風にさらさらさらさら、ゆられてうごいて、波を立てているのでした。 「月夜でないよ。銀河だから光るんだよ。」ジョパンニよ、 。しいながら、まるではねあがりたいくらいゆかい かお になって、足をこっこっ鳴らし、窓から顔を出して、高く高く星めぐりのロ笛を吹きながら一生けんめいの びあがって、その天の川の水を、見きわめようとしましたが、はじめはどうしてもそれが、はっきりしませ んでした。けれどもだんだん気をつけて見ると、そのきれいな水は、ガラスよりも水素よりもすきとおって、 なみ ときどき目のかけんか、ちらちら、むらさきいろのこまかな波をたてたり、にじのようにぎらっと光ったり そして、カム。ハネルラは、まるい板のようになった地図を、しきりにぐるぐるまわして見ていました。ま じようてつどうせんろ ったく、その中に、白くあらわされた天の川の左の岸にそって一条の鉄道線路が、南へ南へとたどって行く さんかくひょうせんすい のでした。そしてその地図のりつばなことは、夜のようにまっ黒な盤の上に、一々の停車場や三角標、泉水 や森が、青やだいだいやみどりや、うつくしい光でちりばめられてありました。ジョバンニは、なんだかそ の地図をどこかで見たようにおもいました。 「この地図はどこで買ったの、黒曜石でできてるねえ。」 ・ノョくノニカしし ぎんが あま ぎんが 、ました。 がわ こくようせぎ まど とお いた あま がわ ばん くちぶえふ なみ ここだろう。」 ぎんが すいそ ていしやば ぎん

7. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

「またはいらない。ねずみももう知ってるんだな。ねずみの学校で教えるんだな。しかしまあもう一日だ あたら けかけてみよう。」といいながら新しい餌ととりかえるのでした。 今夜も、ねすみとりは、さけびました。 「おいでおいで。今夜のはやわらかなはんべんだよ。えさだけあげるよ。だいじようぶさ。早くおいで。」 そろそろにけて行ってしまいます。 げなん そして朝になると、顔のまっかな下男がきてみて、 こうこ・、 がんらい にんげん におはらいものという札をつけた絵にまでして、広告されるのですし、そうでなくても、元来、人間は、こ ゅうたい の針金のねずみとりを、一ペんも優待したことはありませんでした。ええ、それはもうたしかにありません とも。それに、さもさわるのさえきたないようにみんなから思われています。それですから、じつは、ねず どうじよう にんげん みとりは、人間よりは、ねずみのほうに、よけい同情があるのです。けれども、たいていのねずみは、なか なかこわがって、そばへやってまいりません。ねすみとりは、毎日、やさしい声で、 「ねすちゃん。おいで。今夜のごちそうはあじのおつむだよ。おまえさんのたべるあいだ、わたしはしつか あんしん りおさえておいてあけるから。ね、安心しておいで。入口を。ハタンとしめるような、そんなことをするもん にんげん かね。わたしも人間にはもうこりこりしてるんだから。おいでよ。そら。」 なんてねずみをよびかけますが、ねずみはみんな、 「へん、うまくいってらあ。」とか、 へい。よくわかりましてございます。いずれ、おやじゃ、せがれとも、相談の上で。」とかいって こんや はりがね こんや かお ふだ こんや えさ まいにち そうだん

8. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

246 んに勉強しなきゃいけない。おまえは化学をならったろう、水は酸素と水素からできているということを知 っている。いまはだれだってそれをうたがやしない。実験してみるとほんとうにそうなんだから。けれども ぎろん すいぎん すいぎんしお むかしはそれを水銀と塩でできているといったり、水銀といおうでできているといったりいろいろ議論した のだ。みんながめいめいじぶんの神さまがほんとうの神さまたというだろう、けれどもおたがいほかの神さ しん まを信する人たちのしたことでもなみだがこ・ほれるだろう。それからぼくたちの心がいいとかわるいとか議 ろん しようふ 論するだろう。そして勝負がっかないだろう。けれども、もしおまえがほんとうに勉強して実験でちゃんと しんこう かかくおな じつけんほうにう ほんとうの考えと、うその考えとをわけてしまえば、その実験の方法さえきまれば、もう信仰も化学と同じ してん れきし これは地理と歴史の辞典だよ。この本の ようになる。けれども、ね、ちょっとこの本をごらん、 きけんぜん ちり れきし きげんせん このページはね、紀元前一一千二百年の地理と歴史が書いてある。よくごらん、紀元前二千二百年のことでな きげんぜん いよ、紀元前一一千二百年のころにみんなが考えていた地理と歴史というものが書いてある。 ちれき だからこの。ヘージ一つが一さつの地歴の本にあたるんだ。いいかい、そしてこの中に書いてあることは紀 しようこ げんん 元前二千二百年ころにはたいていほんとうだ。さがすと証拠もそくそく出ている。けれどもそれが少しどう かなとこう考えだしてごらん、そら、それはつぎのページだよ。 きげんん ちり れきし 紀元前一千年。だいぶ、地理も歴史もかわってるだろう。このときにはこうなのだ。へんな顔はしてはい かん れきし きしゃ がわ けない。ぼくたちはぼくたちのからだだって考えだって、天の川だって汽車だって歴史だって、たそそう感 しし力」 じているのなんだから、そらごらん、ぼくといっしょにすこしこころもちをしずかにしてごらん ゅび そのひとは指を一本あけてしずかにそれをおろしました。するといきなりジョバンニはじぶんというもの んきよう かみ じつけん かみ ちり あま れきし さんそ すいを ちり へんきよう じつけん かお 0 、、、 0 かみ

9. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

かいしん 「これで改心しなければ、このつぎは一ペんにひきさいてしまうそ。ガアツ。」獅子は大きく口を開いて一 つどなりました。 きつねはすっかりきもがつぶれてしまって、ただあきれたように獅子ののどの鈴のももいろに光るのを見 ています。 そのとき、林のヘりのやぶがカサカサいいました。獅子がむっと口をとじてまたいいました。 そこで獅子はおこってしまいました。 たぬきはやはり目をこすりながら、 「そうかな。」といっています。きつねはきよろきよろその顔をぬすみ見ました。獅子も少しあきれていし 「そうかなたって。ずるめ、きさまはいつでもそうだ。はりつけにするそ。はりつけにしてしまうそ。」 「そうかな。」 しし ゃぶの中はしんとしてしまいました。 獅子はしばらく鼻をひくひくさせてまたいいました。 たぬきがやぶからこそこそはい出してだまって獅子の前に立ちました。 「だれだ。そこにいるのは。ここへ出てこい。」 「たぬき、たぬき。こら。かくれてもだめだそ。出ろ。いんけんなやつだ」 「こらたぬき。おまえは立ちぎきをしていたな。」 たぬきは目をこすって答えました。 はな こた かお すす ひら 月夜のけだもの

10. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

157 「なめくじさん。こんにちは。少し水をのませませんか。」といいました。 あま も第ノ なめくじはこの雨がえるもペロリとやりたかったので、思いきっていい声で申しました。 「かえるさん。これはいらっしゃい。 水なんかいくらでもあけますよ。ちかごろはひでりですけれども きようだい なあにいわばあなたとわたしは兄弟。ハッ、、。 / / 」そして水がめのところへつれて行きました。 かえるはどくどくどくどく水をのんでから、とぼけたような顔をして、しばらくなめくじを見てからいい ました。 なめくじはうまいと、よろこびました。じぶんがいおうと思っていたのをかえるのほうがいったのです。 人 こんな弱ったやつならば五へんなけつければたいていペロリとやれる 「とりましよう。よっしよ。そら。、ツ、、。 し ノノ」かえるはひどくなけつけられました。 業 / / よっしよ。そら。、ツ、、。 「もう一ペんやりましよう。、ツ、、。 かえるはまたなげつけられました。卒 するとかえるはたいへんあわてて、ふところから塩のふくろを出していいました。 洞 「土俵へ塩をまかなくちゃだめだ。そら。シュウ。」 なか そのうちにくもが腐敗してとけて雨に流れてしまいましたので、なめくじも少しせいせいしながら、だれ か阜ーくくると、 と思ってせつかくまっていました。 あま するとある日、雨がえるがやってまいりました。 そして、 「なめくじさん。ひとっすもうをとりましようか。」 どひょうしお よわ しお カお