考え - みる会図書館


検索対象: 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-
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1. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

246 んに勉強しなきゃいけない。おまえは化学をならったろう、水は酸素と水素からできているということを知 っている。いまはだれだってそれをうたがやしない。実験してみるとほんとうにそうなんだから。けれども ぎろん すいぎん すいぎんしお むかしはそれを水銀と塩でできているといったり、水銀といおうでできているといったりいろいろ議論した のだ。みんながめいめいじぶんの神さまがほんとうの神さまたというだろう、けれどもおたがいほかの神さ しん まを信する人たちのしたことでもなみだがこ・ほれるだろう。それからぼくたちの心がいいとかわるいとか議 ろん しようふ 論するだろう。そして勝負がっかないだろう。けれども、もしおまえがほんとうに勉強して実験でちゃんと しんこう かかくおな じつけんほうにう ほんとうの考えと、うその考えとをわけてしまえば、その実験の方法さえきまれば、もう信仰も化学と同じ してん れきし これは地理と歴史の辞典だよ。この本の ようになる。けれども、ね、ちょっとこの本をごらん、 きけんぜん ちり れきし きげんせん このページはね、紀元前一一千二百年の地理と歴史が書いてある。よくごらん、紀元前二千二百年のことでな きげんぜん いよ、紀元前一一千二百年のころにみんなが考えていた地理と歴史というものが書いてある。 ちれき だからこの。ヘージ一つが一さつの地歴の本にあたるんだ。いいかい、そしてこの中に書いてあることは紀 しようこ げんん 元前二千二百年ころにはたいていほんとうだ。さがすと証拠もそくそく出ている。けれどもそれが少しどう かなとこう考えだしてごらん、そら、それはつぎのページだよ。 きげんん ちり れきし 紀元前一千年。だいぶ、地理も歴史もかわってるだろう。このときにはこうなのだ。へんな顔はしてはい かん れきし きしゃ がわ けない。ぼくたちはぼくたちのからだだって考えだって、天の川だって汽車だって歴史だって、たそそう感 しし力」 じているのなんだから、そらごらん、ぼくといっしょにすこしこころもちをしずかにしてごらん ゅび そのひとは指を一本あけてしずかにそれをおろしました。するといきなりジョバンニはじぶんというもの んきよう かみ じつけん かみ ちり あま れきし さんそ すいを ちり へんきよう じつけん かお 0 、、、 0 かみ

2. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

117 もあのきつねのことを思い出したら、まるでからだがやけるくらいつらかったのです。 っちがみ 土神はいろいろ深く考えこみながらだんだんかばの木の近くにまいりました。そのうちとうとうはっきり じぶんがかばの木のとこへ行こうとしているのだということに気がっきました。するとにわかに心もちがお どるようになりました。ずいぶんしばらく行かなかったのだから、ことによったらかばの木はじぶんをまっ ているのかもしれない、・ とうもそうらしい、そうだとすればたいへんに気のどくだというような考えがつよ く土神に起こってきました。土神は草をどしどしふみ胸をおどらせながら大またにあるいて行きました。と あたま っちがみ ころがそのつよい足なみもいっかよろよろしてしまい土神はまるで頭から青いいろのかなしみをあびてつつ 立たなければなりませんでした。それはきつねがきていたのです。もうすっかり夜でしたが、・ほんやり月の きり あかりによどんだ霧のむこうからきつねの声がきこえてくるのでした。 きかいてきシインメトリー ほうそく 「ええ、もちろんそうなんです。器械的に対称の法則にばかりかなっているからって、それで美しいとい うわけこよ、 冫をしかないんです。それは死んだ美です。」 「まったくそうですわ。」しずかなかばの木の声がしました。 シインメトリー ほうそく かせき 「ほんとうの美はそんな固定した化石した模型のようなもんじゃないんです。対称の法則にかなうって シインメトリー のそ せいしん いったって、じつは対称の精神をもっているというぐらいのことが望ましいのです。 「ほんとうにそうだと思いますわ。」かばの木のやさしい声がまたしました。土神はこんどはまるでべらべ らしたももいろの火でからだじゅうもやされているように思いました。息がせかせかしてほんとうにたまら神 なくなりました。なにがそんなにおまえをせつなくするのか、たかがかばの木ときつねとの野原の中でのみ っちがみお ふか っちがみ むね ちか っちがみ のはら うつく

3. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

247 がくしゃあま が、じぶんの考えというものが、汽車やその学者や天の川や、みんないっしょにぼかっと光って、しいんと なくなって、。ほかっとともってまたなくなって、そしてその一つがはかっとともると、あらゆるひろい世界 れきし ががらんとひらけ、あらゆる歴史がそなわり、すっときえると、もうがらんとした、ただもうそれつきりに なってしまうのを見ました。だんだんそれが早くなって、まもなくすっかりもとのとおりになりました。 じつけん 「さあいいか。だからおまえの実験は、このきれぎれの考えのはじめからおわりすべてにわたるようでな ければいけない。それがむずかしいことなのだ。けれども、もちろんそのときだけのでもいいのだ。ああご らん、あすこに。フレシオスが見える。おまえはあのプレシオスのくさりをとかなければならない。」 そのときまっくらな地平線のむこうから青じろいのろしが、まるでひるまのようにうちあけられ、汽車の 中はすっかりあかるくなりました。そしてのろしは高くそらにかかって光りつづけました。 せいうん 「ああマジェランの星雲だ。さあもうきっとぼくはぼくのために : ほくのおかあさんのために、カムパネル こう・ふく ラのために、みんなのために、ほんとうのほんとうの幸福をさがすそ。」 ジ 1 ハンニはくちびるをかんで、そのマジェランの星雲をのそんで立ちました。そのいちばん幸福なその ひとのためにー きつぶ ゅめてつどう 「さあ、切符をしつかりもっておいで。おまえはもう夢の鉄道でなしにほんとうの世界の火やはげしい波 の中を大またにまっすぐに歩いて行かなければいけない。天の川のなかでたった一つの、ほんとうのその切 符をけっしておまえはなくしてはいけない。」 とおとお あのセロのような声がしたと思うとジョパンニは、あの天の川がもうまるで遠く遠くなって風がふき、し ちへいせん きしゃ がわ あま あま がわ がわ せかい こ。 ) ふく きしゃ せかい なみ きっ 銀河鉄道の夜

4. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

248 博士は小さくおった緑いろの紙をジョバンニのポケットに入れました。そしてもうそのかたちは天気輪の はしらのむこうに見えなくなっていました。 ジョバンニはまっすぐに走って丘をおりました。 そしてポケットがたいへんおもくカチカチ鳴るのに気がっきました。林の中でとまってそれをしらべてみ ましたら、あの緑いろのさっき夢の中で見たあやしい天の切符の中に大きな二枚の金貨がつつんでありまし ぶんはまっすぐに草の丘に立っているのを見、また遠くからあの・フルカニロ博士の足おとのしずかに近づい てくるのをききました。 ばしよとお 「ありがとう。わたしはたいへんいい実験をした。わたしはこんなしずかな場所で遠くからわたしの考え を人にったえる実験をしたいとさっき考えていた。おまえのいったことばはみんなわたしの手帳にとってあ ゅめ かえ る。さあ帰っておやすみ。おまえは夢の中でけっしんしたとおりまっすぐに進んで行くがいい そしてこれ そうだん から何でもいつでもわたしのとこへ相談においでなさい。」 ころ・ふく すす 「ばくきっとまっすぐに進みます。きっとほんとうの幸福をもとめます。」ジョパンニはカづよくいいまし こ 0 「ああ、ではさよなら。これはさっきの切符です。」 はかせ みどり こ 0 「博士ありがとう。おっかさん、すぐ乳をもって行きますよ。」 ジョ・ハンニはさけんでまた走りはじめました。何かいろいろのものが一ペんにジョバンニの胸に集まって はかせ みどり じつけん おか ゅめ おか じつけん ちち きっふ きつぶ はかせ すす きんか てちょう むねあっ てんきりん

5. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

207 そしてふたりは、前のあの河原を通り、改札ロの電燈がだんだん大きくなって、まもなくふたりは、もと まど の車室の席にすわって、いま行ってきたほうを、窓から見ていました。 8 鳥を捕る人 「ここへかけてもようございますか。」 がさがさした、けれども親切そうな、おとなの声が、ふたりのうしろできこえました。 ちゃ それは、茶いろの少し・ほろぼろの外とうをきて、白いきれでつつんだ荷物を、二つにわけて肩にかけた赤 ひけのせなかのかがんだ人でした。 かた しいんです。」ジ 1 ハンニは、少し肩をすぼめてあいさっしました。その人は、ひけの中でかすか にわらいながら荷物をゆっくり網だなにのせました。ジ 1 ハンニは、なにかたいへんさびしいようなかなし しようめんとけい いような気がして、だまって正面の時計を見ていましたら、ずうっと前のほうで、ガラスの笛のようなもの しやしってんじよう が鳴りました。汽車はもう、しずかにうごいていたのです。カム。 ( ネルラは、車室の天井を、あちこち見て てんじよう かげ いました。その一つのあかりに黒いかぶと虫がとまって、その影が大きく天井にうつっていたのです。赤ひ げの人は、なにかなっかしそうにわらいながら、ジ 1 ハンニやカム。 ( ネルラのようすを見ていました。汽車 はもうだんだん早くなって、すすきと川と、かわるがわる窓の外から光りました。 赤ひけの人が、少しおずおずしながら、ふたりにききました。 「あなたがたは、どちらへいらっしやるんですか。」 しやしっせき 「ええ、 きしゃ にっ しんせつ かわらとお あみ かいさつぐちでんとう まどそと にもっ ふえ かた きしゃ 銀河鉄道の夜

6. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

169 りつばな国にのばって行かれた。さあおいで。 ) とちゅうのはら すりや 須利耶さまはごじぶんのうちへもどられました。途中の野原は青い石でしんとして、子どもは泣きながら ついてまいりました。 すりや 須利耶さまはおくさまとご相談で、何と名まえをつけようか、三、四日お考えでございましたが、そのうち、 かりどうじ しかた すりや 話はもう沙車全体にひろがり、みんなは子どもを雁の童子と呼びましたので、須利耶さまも仕方なくそう呼子 んでおいででございました。」 ろうじん 老人はちょっと息をきりました。わたしは足もとの小さなこけを見ながら、この怪しい空から落ちて赤い こうでございます。 すりや 須利耶さまが申されました。 じめんあたまた かげ すると老人は手を擦って地面に頭を垂れたと思うと、もう燃えっきて、影もかたちもございませんでした。 すりや てつぼう 須利耶さまも、 いとこさまも鉄砲をもったままぼんやりと立っていられましたそうで、いったいふたりい てつにう っしょに夢をみたのかとも思われましたそうですが、あとでいとこさまの申されますには、その鉄砲はまだ あったま 熱く弾丸は減っており、そのみんなのひざまずいたところの草はたしかに倒れておったそうでございます。 どうじ そしてもちろんそこにはその童子が立っていられましたのです。 どうじ すりや 須利耶さまはわれにかえって童子にむかっていわれました。 ( おまえはきようからおれの子どもだ。もう泣かないで ( いいとも。すっかりわかった。引きうけた。安心してくれ。 ) さしゃゼんたい ゅめ ろうじん そうだん あんしん いい。おまえの前のおかあさんやにいさんたちは、 、もう たお あや

7. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

314 さくひん どうわ すいこうちゅう みやざわけんじ 〔改版にあたって〕宮沢賢治の童話のなかには、推敲中のままで残された作品があります。「銀河鉄道の げんこう てんきりんはしら げんこう みていこう 夜」もこのような未定稿です。この原稿を見ると「 5 天気輪の柱」の途中で、それまでつづいてきた原稿 ばんごう まいぶんか の番号が五枚分欠けています。一九五ページ五行目の「 : : : また目を空にあげました」のつぎから、六行目 ようし ひっせぎちがげんこう あいだぶぶん の「ところがいくら見ていても、その空は : : : 」の間の部分です。ところが、用紙も筆蹟も違う原稿ですが、 とお ぶぶん ちょうど五枚分が別にあって、これを欠けている部分にあてはめてみると、だいたい話のすじが通るので、 はん まいふん いままでこのようにして読まれてきました。この五枚分とは、この本のもとの版の一九五ページ一二行目 やく の「ジョ・ハンニは目をひらきました」から、約五ページ分で、ジョバンニがカムパネルラの死を知るところ てんきりんはしら さくしやしてい です。しかし、この五枚分を「天気輪の柱」に入れるように作者が指定しているわけではなく、よく読んで みやざわせいろく んご てん けんじ げんこうほかん みると前後のつづきに少し無理な点もあります。兄、賢治の原稿を保管しておられる宮沢清六さんも、この まいぶん ぶぶんさくひんさい・こ てんきりんはしら けん のぞ 五枚分は「天気輪の柱」から除いたほうがよいという意見です。この本でも、この部分を作品の最後に移し べっ て、別あっかいにしました。それは二四九ページ三行目の「ジ 1 ハンニは目をひらきました」から、二五三 むね : もういちもくさんに河原をま 。ヘージ一〇行目の「ジョバンニはもういろいろなことで胸がいつばいで、 さくしゃ かしょ ぶぶんさくひんお ちのほうへ走りました」までの箇所です。この部分を作品の終わりのほうに置くことが作者の考えであると つうどく てんきりんはしら 仮定して通読してみると、「天気輪の柱ーに入れるよりも味わいの深い構成になると思われます。この五枚 ふん あんじ カナ ゅめ かれし 分でカムパネルラの死が語られることが、さきに夢のなかで彼の死が暗示されていることの解答になってい まいぶんげんこう ・ : 」以下は、五枚分の原稿とはま るからです。なお、二五三。ヘージ一三行目の「けれどもまたそのうちに : けず ( 一九六七年七月 ) た別の原稿なのですが、削らないでもとのままにしておきました。 かてい べっげんこう かいはん まいぶんべっ まいぶん むり ふか のこ こうせし とちゅう 力いとう ぎんがてつどう かわら

8. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

きし どうじ ( 天の川の西の岸に小さな小さな二つの青い星がみえます。あれはチュンセ童子とボウセ童子としうふた すいしよう みや - 」す ごのお星さまで、めいめい水晶でできた小さなお宮に住んでいます。 みやかえ 二つのお宮はまっすぐにむかい合っています。夜はふたりともきっとお宮に帰って、きちんとすわってそ らの星めぐりの歌に合わせてひとばん銀笛を吹くのです。それがこのふたごのお星さまたちの役目でした。 ) ある晩、空の下の方が黒い雲でいつばいに埋まり雲の下では雨がザアッザアッと降っておりました。それ みや でもふたりはいつものように、めいめいのお宮にきちんとすわって、むかいあって笛を吹いていますと、と みや っぜん大きならをほうもののすい星がやってきて、ふたりのお宮にフッフッと青白い光の霧をふきかけてい いました。 あおぼし なんせん 「おい、ふたごの青星。すこし旅に出てみないか。今夜なんかそんなにしなくてもいいんだ。いくら難船の ふな ほしほうがくさだ てんもんだい ほしかか 船のりが星で方角を定めようたって雲でみえはしない。天文台の星の係りも、きようは休みであくびをして る。いつも星をみているあのなまいきな小学生も雨ですっかりへこたれて、うちの中で絵なんか書いてるん だ。おまえたちが笛なんか火かなくたって星はみんなくるくるまわるさ。どうだ。ちょっと旅へ出よう。あ ばんがた したの晩方までにはここにつれてきてやるぜ。」 どうじ チュンセ童子がちょっと笛をやめていいました。 「それは曇った日は笛をやめてもいいと王さまからお許しはあるとも。わたしらはただ面白くて火いてい あま ばん ほし わ みや ふえ ふえ ふえ たび ぎんてきふ ほし こんや ゆる ふえふ きり おもしろ どう ) し たび やくめ ふたごの星

9. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

210 がいったいこ、 ) 」でさぎなんそたべるだろうとジョバンニは思いながらききました。 「さぎはおいしいんですか。」 ちゅうもん 「ええ、まいにち注文があります。しかし、がんのほうが、もっと売れます。がんのほうがずっとがらがい たいいちてすう いし、第一手数がありませんからな。そら。」鳥捕りは、またべつのほうのつつみをときました。すると黄と 青じろとまだらになって、なにかのあかりのようにひかるがんが、ちょうどさっきのさぎのように、くちば しをそろえて、少しひらべったくなって、ならんでいました。 けれども、 ( なんだ、やつばりこいつはおかしだ。チョコレートよりも、もっとおいしいけれども、こんながんが飛ん でいるもんか。この男は、どこかそこらの野原の菓子屋だ。けれどもぼくは、このひとをばかにしながら、 この人のおかしをたべているのは、たいへん気のどくだ。 ) と思いながら、やつばりにくぼくそれをたべてい ました。 「も少しおあがりなさい。」鳥捕りがまたつつみを出しました。ジ 1 ハンニは、もっとたべたかったのです 「ええ、ありがとう。」といってえんりよしましたら、鳥捕りは、こんどはむこうの席の、かぎをもった人 「こっちはすぐたべられます。どうです、少しおあがりなさい。」鳥捕りは、黄いろながんの足を、かるく ひつばりました。するとそれは、チョコレートででもできているように、すっときれいにはなれました。 「どうです。すこしたべてごらんなさい。」鳥捕りは、それを二つにちぎってわたしました。ジ 1 ハンニは、 ちょっとたべてみて、 とりと のはらかしゃ と - りと とりと とりと とり・と せき

10. 銀河鉄道の夜 -宮沢賢治童話集Ⅱ-

232 こうげん そうそう、ここはコロラドの高原じゃなかったろうか。ジョパンニは思わずそう思いました。 あねおとうと あの姉は弟をじぶんの胸によりかからせてねむらせながら、黒いひとみをうっとりと遠くへなけて何を見 るでもなしに考えこんでいるのでしたし、カム。ハネルラもまださびしそうにひとり口笛を吹き、男の子はま るで絹でつつんだりんごのような顔いろをしてねむっておりました。 とっぜん、とうもろこしがなくなっておおきな黒い野原がいつばいにひらけました。 のはら 新世界交響楽はいよいよはっきり地平線のはてからわき、そのまっ黒な野原のなかをひとりのイノデアン ゆみや むね あたま が白い鳥のはねを頭につけ、たくさんの石をうでと胸にかざり、小さな弓に矢をつがえていちもくさんに汽 しやお 車を追ってくるのでした。 「あら、インデアンですよ。インデアンですよ。ごらんなさい。」 くろふくせいねん 黒服の青年も目をさましました。 ジョ、、ハンニもカム。ハネルラも立ちあがりました。 した。 しんせかいこうきようがく 「とうもろこしだって棒で二尺もあなをあけておいてそこへまかないと生えないんです。」 「そうですか。川まではよほどありましようかね。」 一よラこ、 「ええ、ええ、河までは二千尺から六千尺あります。もうまるでひどい峡谷になっているんです。」 「走ってくるわ、あら、走ってくるわ。追いかけているんでしよう。」 しいえ、汽車を追ってるんじゃないんですよ。猟をするかおどるかしてるんですよ。」 きしやお かわ むね しやく かお ちへいせん りよう のはら くちふえふ とお