おもっ - みる会図書館


検索対象: 龍の子太郎
77件見つかりました。

1. 龍の子太郎

あつめたい。そして、みんなが、はらいつばいくえるくらしをつくりたい。せば、もうお かあさんのようにかなしいおもいをする人はいなくなるんだ。 な、おかあさん、わかってくろ。」 おかあさんのりゅうは、じっとそのことばをきいていました。このひろびろとしたみず うみは、おかあさんのりゅうが生きていくうえに、なくてはならないみずうみでした。も といたぬまがせまくなってから、ここにすみつくまで、おかあさんのりゅうは、どれほど くるしい旅をつづけたことでしよう。ここをはなれて、わたしは生きていけるだろうか、 おかあさんのりゅうはそうおもいました。 しかし、たとえわたしはそのためにどうなっても : おかあさんのりゅうは、じっとかんがえつづけました。 ちから わたしはそれでいい、この子のねがいに力をかしてやろう。じぶんのことしかかんがえ ることができなくてりゅうとなったわたしの、それは、たった一つのつぐないなのだ : ・ ここまでかんがえたとき、おかあさんのりゅうは、いきいきとしたかおをあげました。 たび 174

2. 龍の子太郎

「だれだ、だれだ。そこへたっちゃいけないよっ、どひょうがこわれるよっ。」 たっ こたろう 龍の子太郎がおどろいて足もとを見ると、なるほど足もとに小さなどひょうがあって、 ねずみが二ひき、キーキーいっているのでした。 「しらなかったんだ、かんにんしてくろ。」 たっ こたろう 龍の子太郎は、いのししのせなかからすべりおりると、そっとどひょうをなおしてやり ました。気がついてみれば、むこうのぶなのかげでは、くまがすもうをとっていますし、 こっちの岩かげではいのししが、ころりころりと、だきあってはころげているのでした。 ごえ ところが、それがどうも、かけ声だけはいさましいのですが、かたちもなにもあったも のではなく、うさぎは耳をひつばりつこしているし、しかはつのでおしあいしているし、 おせじにもすもうとはいえたものでありません。 たっ こたろう 龍の子太郎はおもわず、おなかをかかえてわらいだしてしまいました。 「おまえたち、なんだってそんなにいっしようけんめい、すもうをとっているんだね。」 すると、くまがいいました。

3. 龍の子太郎

たのだよ。 気がついたとき、おかあさんのすがたはおそろしいりゅうにかわり、いつのまにできた か、それもしらない、ふかいぬまの中にいた 。そのとき、おかあさんはおもいだした のだ。三びきのいわなをひとりでたべたものはりゅうになる、といういいったえを でも、もうおそかった。 にんげん じぶんのことしか、かんがえることができなかったおかあさんは、もう、人間ではいら 168

4. 龍の子太郎

すキ甌 . くろ 黒おにだ。もう、おらたちがたいじしたんだよ。そうだ、、 4 おと じいさま、さっきものすごい音をきかなかったか くろ ね。そのときだ、黒おにが岩になったのは。」 そうか、わしらはま 「え、あのときが : た、この世のおわりかとおもってのい。ほ くろ んなら、黒おにがたいじされたのは、ほ んとうのこったな。あああ。」 こえ じいさまは声をあげてなきだしま しらき した。そして、ふるえる手で白木の こしのふたをあけました。そこに は、まっ白なきものをきたうつく しいむすめが、ぐったりと気をう しなって、ねかされていたのです。 88

5. 龍の子太郎

て一日じゅうあるいていけば、しぜんにいきっ こ晉くよ。まあそれにしても、一つしかないいのち だで、りゅうにくわれんように、気をつけんさ いよ。」 こたろう たっ 龍の子太郎はおれいをいってあるきだしまし た。だいじゃなんていっていたが、きっとりゆ 一つにちがいない、とおもうと、もうあるくのももどかしく、いそぎにいそいでいくかいく たいよう と、やがて、太陽は、まっかにやけてしずみはじめました。 ちょうじゃいえみ 「さあて、もうにわとり長者の家が見つかりそうなもんだが : たっ こたろう あたりを見まわした龍の子太郎は、あれ、と目をまるくしました。 くさ いったい、これはどうしたというのでしよう。りつばな田んぼだというのに、草がぼう ぼうとはえ、田うえどころか、田おこしもろくにしてありません。 「やあはい、やあはい、もったいないこった。こんな草だらけの田んぼを見れば、おら、 にち くさ こ 111

6. 龍の子太郎

しい、おかあさんは べんでいれば、 とうとう、いわなを口へいれた。そのうま はらわたへしみとおるとは、あ いこと : のようなことをいうのだろうか。生まれてから、 ほんとうにはじめてといっていいそのうまさ、見るま に一びき、きれいにたべてしまった。ところが、こうして一びきた べると、もう、どうにもがまんができない。二ひきたべ、三びきたべ、気がついた ときには、いわなは一びきものこっていなかった : : : 。するとどうだろう。のどのおくで 火がもえているように、ロの中がかっかっとほてって、のどがかわいてきた。おかあさん は手おけの水をゴクゴクのんだ。のんでものんでも、のどはやけつくようにかわいてく たにがわ る。おかあさんはたまらなくなって、谷川へかけおりると、水に口をつけ、ゴクゴクゴク ち ゴク、のみにのみつづけた。すると、きゅうにからだじゅうの血が、どっとぎやくになが れたかとおもうと、くらくらとして : : : おかあさんは、それつきり気をうしなってしまっ み 3. 167

7. 龍の子太郎

くろ うには、この水がなによりのたからじゃ。このぬまを黒おににおさ えられていたために、いままで、どれほどひやくしようがくるしめ こたろう たっ 、ほんとうに龍の子太郎さん、あやさん、おれいを られてきたか いいますぞや。」 じいさまはこういって、なおもしみじみと、水のおもてを見つめていましたが、ふと、 こしをかがめると、岩のあいだから、一まいのかがみをひろいあげました。 「小さいがよいかがみじゃ。あやさん、もっていなされ。」 あやはうれしそうにかがみをだき、そでで水けをふきとりました。 「うれしい。こんないいかがみ、これがあればもう、なにもいらない。」 たっ こたろう その声をとおいところでききながら、龍の子太郎は、なみだがでてきそうになるのを、 こたろう たっ じっとこらえました。ぬまは、たまらなく龍の子太郎に、おかあさんのことをおもわせた のでした。 「おかあさん、いまどこにすんでるんだ。おら、おかあさんをさがしに、たびにでたんだ こえ

8. 龍の子太郎

ただに。」 ばあさまはあおむけにねたまま、すすだらけのやねうらをじっと見つめ、こころぼそい ことをいいだしたのです。 「おら、おまえに、いついおう、いついおうとおもっていたが、おまえがあんまりいつに なっても子どもなんでなあ、ついつい、のばしていただに。だが、おら、もう年だで、い っぽつくりしんじまうかもわからね、そのまえにおら、おまえにいっとくことがある。」 「なんだや、ばあさま、いっておくことって。」 こたろう たっ 「それはなあ、おまえのおとうとおかあのことだ。龍の子太郎という名のいわれだ。」 「だって、おとうとおかあは、おらがあかんぼうのときしんでしまったって、ばあさまは いつもいってるじゃないか、おらが、たつの子たつの子、まものの子、なんてからかわれ にんげん ると、あんなの苦にするな、おとうもおかあもちゃんと人間だって、いってたでねか。」 「んだ、そのとおりだ。おまえのおとうはきこりでな、おまえが生まれないさきに、山で しんでしまった。だが、おかあはなあ : : : 。」 み な とし 3 2

9. 龍の子太郎

の。どうしておかあさんをさがしにいかないのだろうとおもった。でも、あそこにもぬま があって、りゅうがすんでいるとおもっていたのね。 それからも、わたしは見ていたの。いねのたばをしよって山へはいっていったのも : そして、いよいよ山のばあさまにあえた , と 山の人たちにいねをわけてあげたのも : こ・つ、つ たっ き、わたしはうれしかった。さあ、いよいよこれで、龍の子太郎はおかあさんにあえるん だとおもって たっ こたろうゆぎ そうしたら、龍の子太郎は雪の中にたおれてしまったのだもの。わたしはむちゅうに なって、うまやにとんでいったの。そして、白いうまのくびにだきついていったの。一日 に百里 ( 四百キロ ) 走ってくれた小うまよ、おまえは大きくなったけれど、千里 ( 四千キ こ・つ ) ) たっ そら ロ ) は走れないの ? いいえ、空はとべないの ? はやくいかないと、龍の子太郎がしん でしまうのよ、って。 そうしたらいきなり、白いうまは、わたしをのせて、空へかけあがったじゃないの。そ うして、とんで、とんで、ここへきたのよ。」 こ そら 152

10. 龍の子太郎

山、山ばかり。みんな、たっているのがやっとのとこ はたけ ろに畑をつくマて生きている。おら、むかしはそれが にんげん 人間のくらしだとおもっていた。 にんげん でも、いまはちがう、そればかりが人間のくらしじゃ とち こめ ない。土地さえあればうまい米もっくれるし、もっと もっと、たのしいくらしもできるんだってことが おら、たびをしているうちにわかってきた。 おら、おもった。おら、いままで、くっちゃね、くっ ちゃねするばかりだったども、やっといま、じぶんが なんのために生きているのかわかった、ってな。 おかあさん、おねがいだ。このみずうみをおらにく ろ。おら、山をきりひらいて水をながし、ここに、見 わたすかぎりの田んぼをつくって、山の人たちをよび こ 173