は、ここでは急に決められないので、今度の学級会で話をするというこ とにしたら、どうですか」 すずはら 鈴原さんにそう言われると、それしかないような気になる。みんなが、 こくんと、つなずいた。 鈴原さんもうなずく。 ふたかわ 「それと、双川さんのことですが、双川さんのやっていることは、別に 悪いことではないので、強制的にやめさせることは、できないと思いま す。でも、石倉くんの言うように、他人から見て、変に見えることもあ じしゆく るので、中庭でねころがるのは、できれば自粛してください。どうです か、双川さん ? 」 えりなには、ジシュクという意味がよくわからなかった。でも、中庭 でねころぶには暑い季節になっていた。だから、 「はい。中庭にねころぶのは、やめます」 新聞紙のおしゃべり
「いま、かんけいないだろう。そんなこと」 まど 「だって、この前、三年生の教室の窓にボ 1 ルがあたったじゃない。割 れてたらたいへんでしよ」 すもと 洲本くんが手をあげる。 「だいたい、中庭でボール禁止が変だと思います。運動場は六年生がっ かってるし、おれたち、遊ぶとこないです。中庭のボ 1 ル遊びを許可し てほしいです そうだ、そうだと男子の声か重なる。拍手までおこった。 すすはら みんなが口々にいろんなことを言い出した。鈴原さんは、「静かに」 と言わないで、みんなのようすをじっと見ていた。 たんにん チャイムがなる。鈴原さんは、大きく息をはきだし、担任の平井先生 にむかって、まとめても良いですかと聞いた。先生がうなずく。 「それでは、時間がきたのでまとめます。中庭でのポール遊びについて は′、しゅ
「えりな、また新聞紙をもっていくの ? 」 「うん、すごく良いお天気だもの」 「えりな」 「、つん ? 」 「あのね、もうそういうの、やめたら」 ママは、ちょっとこまったなという顔で笑った。 「やめるって、なにを ? 」 「あのね、だから、晴れるたびに、新聞紙をしいて、学校の中庭にねこ ろがるのやめなさい。えりなは、もう五年生なんだし、女の子なんだか ら : ねっ 「うん、も、つやめる」 「あら、そうなの。よかった。えりなもちゃんとわかってたのね」 「中庭は、もう暑いの。だからね、うら庭の木の下にする」
は、小さな声で答えた。 「はい ほんとうです」 「休み時間に、中庭でねころんでいるのですね」 。でも、あの、雨の日はしないけど : 「はい・ あの」 すすはら しせん 鈴原さんは、えりなから石倉くんに視線をうっした。 「石倉くんは、なぜ、双川さんが、ねころがるのをやめた方が良いと思 、つのですか」 「はあ ? 」 「中庭でねころがるのをやめた方が良いと思う理由を言ってください」 石倉くんは立ち上がり、くちびるをつきだした。 「だって、そんなの変じゃん」 「変なだけでは、理由になりません。もっとちゃんとした理由を言って ください。言葉づかいも、も、つ少しちゃんとしてください」
ふたかわ 「石倉くんの言、つことはおかしいと思います。えりちゃん : 、双川さ んは、別に何も悪いことをしているわけじゃないし、だれにもめいわく とか、かけているわけじゃありません。石倉くんは、おせつかいだと思 います」 しきおいよく立 今度は、女子たちがくすくすと笑った。石倉くんは、、 ち上がり、 「おせつかいじゃねえよ。ば 1 か」 と、真帆ちゃんにむけて舌を出した。真帆ちゃんもば ーかと一一一口った。 あさみ 麻美ちゃんが手をあげて意見を言、つ。 「えっと、双川さんのことを一言うなら、石倉くんたちも反省した方が良 いと思います。禁止されてるのに、ときどき中庭でサッカーとかしてま 「うるせえ」
カサコソ〉 空を見上げて、新聞紙のおしゃべりを聞いているのも、楽しかった。 そんなことを一週間ほど続けていたら、学級会で石倉くんに、 ふたかわ 「双川えりなさんは、休み時間に中庭にねころがっています。そういう ことは、やめた方か良いと思いますー おどろ と、言われてしまった。驚いて息をのみこんだ。 すすはらちか 司会をしていた、学級委員の鈴原千夏さんが、えりなの方に目をむけ 「双川さん、いま、石倉くんの言ったことはほんとうですか ? 」 と、たずねた。 えりなは、だまって、つなずいた 「双川さん、ちゃんと答えてください」 せすじ 鈴原さんは、背筋をのばして、まっすぐにえりなを見ている。えりな て、
あとかき みなさん、こんにちは。 わたしは、子どものときから、ねころがるのが大好きでした。草の上にど ーんと両手両足を広げてねころぶと、すごく気持ちがよいのです。どこまでも どこまでも空が広がっていて、風が体の上をすっと通りすぎていきました。 いつもの見なれた空とは、まったくちがったものに思え、別の世界に来たよ うな気がしました。顔も体もせんぶ、空にむけることって、別世界をのぞくこ とになるのかもしれません。小さなわたしは、そのことをちゃんと知っていて、 わくわくしながら草の上にねころんでいました。 大人になって、そんなこととっくに忘れていたころ、電話がありました。 娘の同級生の親御さんからでした。そのとき、中学一年だった娘が、学校の 中庭に新聞紙をしいてねころんでいたのを見たという電話でした。 110
と、答えた。そのとき、校舎のうらの大きな木の下にねころんでみよ 、つと田 5 った。 「それでは、中庭のボ 1 ル遊びについては、次の学級会で話し合います。 みんな、自分の意見や考えをまとめておいてください。今日の学級会は、 これで終わります」 すずはら は′、しゅ 鈴原さんが礼をする。拍手がおこった。先生も拍手をしている 鈴原さんは、ほんとうに司会がじようずだ。みんなの意見をちゃんと 聞いて、じようずにまとめる。すごいなあとえりなは感、いする。 えカ 鈴原さんは、司会だけじゃなくて、絵を描くのも、リコ 1 ダ 1 をふく のも、習字もじようずだ。泳ぐのはふつうだけれど、走るのもとび箱も てつばうもじようずだ。勉強もよくできる。なんでもできて、なんでも じよ、つすだ。ほんと、つにすごい えりなは、あまりじよ、つすにやれることかない歌を歌、つことと作文
ガ 1 かいつばいはえててね、おばあちゃんがねころん 「原つばにクロ 1 でごらんて言ったから、上むいてね、ねころんだの。そしたら、空がば あって広がって、気持ち良かったよ。えりちゃん、空とか見るの好きだ もんね。やってみたら ? 」 真帆ちゃんの話を聞いて、えりなはちょっとうらやましくなった。家 のまわりが、全部田んばと原つばの家もうらやましいし、クロ 1 上にねころがることを教えてくれるおばあちゃんもうらやましい。きっ やさ と、池内さんみたいに優しい人なんだろう。 真帆ちゃんの話を聞いたときも、わくっとした。だから、その日の給 食のあと、休み時間に中庭のしばふにねころがってみた。 すごく気持ち良かった。びつくりするぐらいだ。目の前は、青い空だ けだ。太陽の光が降りてくるのが見えて、自分の体をつつむのがわかる。 手と足をぐ 1 んとのばす。どこまでもぐんぐんのびる気がした。空の色