葉っぱが落ちたら、空がもっと見えるよね。 すすはら 急に、鈴原さんの言ったことを思い出した。地下から、ばわんとひび いてくるような声も思い出した。すうすうと体のすぐ横で聞こえていた 息の音を思い出した。そしたら、会いたくなった。どうしてか、わから 、に一打ってみよ、つ ないけど、鈴原さんに会いたい会し 0 ほんとうのこと
鈴原さんのさようなら むね すずはら 鈴原さんは、指を胸の上で組んで、ねむっていた。 すうすうと息の音をさせて、ねむっていた。おでこに、葉っぱの先か らしずくが落ちたけれど、目を開けなかった。 す、つすうす、つ。すうす、つす、つ。 ねいき 鈴原さんの寝息は、きそくただしくて聞いているうちに、えりなまで ねむくなる 葉っぱの間から白い雲が見えた。まるいふわふわした雲だ。ハヤンの ことを思い出した。ハヤンの赤ちゃんのことも思い出した。ひとりでに、
「部屋で何をしてるのかなあ」 あさみ 麻美ちゃんが、さっきと同じことをつぶやいた。 ねているんじゃないかな すずはら ねがお えりなはそう思った。木の下の鈴原さんの寝顔を思い出したのだ。 「鈴原さんがいないと、わたしこまるよ。学級委員の代わりなんてやり たくない」 真帆ちゃんが、ため息をついた。真帆ちゃんは、今日、鈴原さんの代 わりに女子の学級委員をするように言われたのだ。 「司会とか、マジいやだし、こまったよ」 真帆ちゃんは、ほんとうにいやそうで、こまっているようだった。 「鈴原さんて、何でもできたもんね。比べられるといやだなあ」 真帆ちゃんの口から、もう一度、ため息がもれた。 「そんなことないよ。真帆ちゃん、司会じようずだったよ。鈴原さんい
「いま、かんけいないだろう。そんなこと」 まど 「だって、この前、三年生の教室の窓にボ 1 ルがあたったじゃない。割 れてたらたいへんでしよ」 すもと 洲本くんが手をあげる。 「だいたい、中庭でボール禁止が変だと思います。運動場は六年生がっ かってるし、おれたち、遊ぶとこないです。中庭のボ 1 ル遊びを許可し てほしいです そうだ、そうだと男子の声か重なる。拍手までおこった。 すすはら みんなが口々にいろんなことを言い出した。鈴原さんは、「静かに」 と言わないで、みんなのようすをじっと見ていた。 たんにん チャイムがなる。鈴原さんは、大きく息をはきだし、担任の平井先生 にむかって、まとめても良いですかと聞いた。先生がうなずく。 「それでは、時間がきたのでまとめます。中庭でのポール遊びについて は′、しゅ
「すごく気持ちよさそうだったけど」 電話の相手はくすくす笑いました。わたしは、すごく恥ずかしくて顔が赤 くなりました。でも同時に、幼いころ見上げた空の広さや色、風の音を思い出 したのです。 ずっとずっと忘れていたことでした。伝えたわけでもないのに、娘はあの空 のこと風のこと別世界のこと、知っていたのでしようか そう思ったとき、この物語がうまれました。みなさんが、えりなといっしょ にねころがってくれたら、空を広いと感じてくれたら、風の音を聞いてくれた らと願っています。 すてきな画をつけてくださったこみねゆらさんと、えりなの物語を支えてく ださった毎日新聞社図書編集部の福田正則さんに心から感謝しています。 二〇〇四年九月二十日 あさのあっこ