草とり - みる会図書館


検索対象: カブトエビの寒い夏
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1. カブトエビの寒い夏

父さんかい、つと、 「あそこです」 かずひこ それまでだまって話を聞いていた和彦が、カプトエビのいる田んばをさっと指さした。 えつ、とすかさず父さんが声をあげる 「家のすぐそばじゃないかうかつだったなあ。あそこには土を入れたことがないので、 完全に見のがしていた」 こ、つへい し気分だった。おとなでも見つけられないものを子どもの自分が 耕平はすこしだけ、い、 見つけたのだ。 だけどなぜ、父さんが土を入れていない田んばなのに、カプトエビがいたのだろう こ、つへい 耕平は大野さんにたずねた。 ほんとうのことは、まだわかっ 「それを聞かれると、なんて答えればいいのかなあ・ : たまごじようたい ていないんだよ。でもね、卵の状態で鳥のあしについて運ばれたとか、耕うん機やトラク たまご ・ : たぶん、そんなところだと ターのタイヤについた土にぐうぜん卵が産んであったとか : 田ハ、つよ」 。うん、十分に考えられることですなあ」 「そうかあ : なっとく 大野さんの推理に、父さんはひとりで納得していた すいり 3 草とり虫 9 3

2. カブトエビの寒い夏

父さんは何もいわずに、じっと耳をかたむけている それに気がついたのか、大野さんは、 「あっ、お父さん、そうでしたよねー とあいづちを求めた。 父さんはにこっとして、大きくうなずいた。家では何もいわないけれど、父さんもカプ トエビの勉強をしていたのだ。 「いやあ、やりましたね。このままふえれば、草とりがずいぶん楽になる。それまではわ れわれに草とりのお手伝いをさせてください」 「ええ、ぜひ」 なかま 「夏になったら、大勢でおしかけます。カプトエビのことは、東京に帰ってから仲間に知 らせます」 父さんと大野さんはカプトエビが確認できたことを、心からよろこんだ。今年はともか じよそうざい 全部の田んばにいついてくれれば、カプトエビがいる間は除草剤を使わずにすむ。そ れだけ安心して、お米が食べられるということだ。 よ 1 し、ばくもカプトエビをふやす研究をするぞ 耕平はそう心に決めた。 こ、つへい 0 ことし 3 草とり虫 5

3. カブトエビの寒い夏

やってくれれば、その分だけ農薬を使わずにすむ。このごろは一回だけまけばずっと効き じよそうざい めのある除草剤ができたが、それにしたって使う量は減らしたい。量や回数が減れば作業 も楽だ。そのうえ安全な米がとれる」 ざっそう 父さんはいつだったか、米づくりは雑草とのたたかいの連続だ、ともいっていた。とく さか 2 リい・」〕 - ′ル に暑い盛りの草とりは、経験した者でないとわからないつらさだという。だからといって いね 草とりをやめるわナこよ、、 し。 ( し力ない。草ばうばうになると風通しが悪くなり、稲が病気にか かりやすくなる そんな話を聞くと、父さんがカプトエビにこだわる理由がばんやりとわかったような気 かした。 「だがな、父さんはいまのところ、農薬をゼロにしようというつもりはない」 「えっ : 「そりゃあ、農薬をまったく使わない米づくりかできれば、それにこしたことはないさ だがな、それは自然の力にまかせつきりにするのとはちがう。科学の力もうまく使うのが 現代の農業だ」 このあとで父さんは、念をおすようにいった。 へ へ

4. カブトエビの寒い夏

ぶくして、根をしつかり張らせる。そのための工夫が、中干しというものだっちゃ」 しつもん ビールかおいしいからなのか、意外にもやさしく教えてくれた。ほっとして次の質問を する ことし 「そうかあ。それで、今年の中干しはいつごろになるの」 げじゅん 「ま、六月下旬にはやらんとなあ」 父さんはこともなくいった。 1 リップ畑の写真のカレンダーを見た。 オにカかるチュ あと一週間もない。 とくべっ せつかく見つけたカプトエビだ。父さんも、できればあの田んばだけでも特別にもう少 し時間をとってやりたいというか、そんなことをしていると稲の育ちが悪くなってしまう 父さんはビ 1 ルびんを持ち上げ、びんの底に少しだけ残ったあわをしばるようにして、 コップに入れた。それから耕平の目を見た。 「耕平よ。父さんがカプトエビに目をつけたのはな、大野さんもいっていたように、田んノ ばの草とりをしてもらいたいからなんだ」 「だから、『田んばの草とり虫』というんでしよ」 じよそうざい 「そうだ。うちではふつう、年に二回は除草剤をまく。その一回分の仕事をカプトエビが こ、つへい こ、つへい

5. カブトエビの寒い夏

目次 2 学校給食 ューフォー 2 田んばの 草とり虫 4 一週間だけのアクアリウム 観察ノ 1 ト 太陽が消えた なかま 7 仲間 8 草刈り機 9 米み、、つレ」、つ剏 メッセージ 亠の A 」が ~ さ 月 4 161 147

6. カブトエビの寒い夏

「これが、あれか : : : 」 「そう。あれ。草とり虫のあかちゃんだっちゃ」 「しかしこれなら、むかしは田んばにたんとおったぞ」 今度はみんながえっとおどろく番だった。 「ほんとに ? 」 「まちがえるわけねえっちゃ。こんなミジンコはいつばいおってな、あみですくって金魚 のえさにしたのをおばえとる」 「いやだなあ、じいちゃん。これはただのミジンコじゃないんだ。まあ、同じプランクト ンだから、似てはいるけどさあ」 こ、つへい 耕平かあきれたようにいった。 1 し . り・よ、つ なかま 資料にも、おおざっぱにいえばミジンコの仲間だとあった。ついでにいえば、そっくり さんのカプトガニの方はなんと、カニよりもクモの親せきに近い生き物だということだ。 けんびきようをのぞきながら、そんなことを二人に話すと、 「なになに、カプトガニがクモで、カプトエビかミジンコ : : : か外見だけで判断しては いかんなあ。ま、人間も同じだがな」 じいちゃんがしみじみといった。 はんだん 8 8

7. カブトエビの寒い夏

その晩。父さんとじいちゃんもかわるがわる水そうをのぞいた。 こ、つへい こ、つへい じいちゃんは耕平の思ったとおり、見つけられない。父さんも耕平にいわれてはじめて 気がっき、 「ひょっとして、このひょこひょこ動いているやっ ? 」 とたすねた。 「うん」 「なるほど、最初のうちはこんなにちつほけなんだ。これじゃあ、わからねえな。ひょっ としたら、去年までは見のがしていたかもしれんなあ」 ーレ . り・よ、つ 「だけど大野さんにもらった資料だと、じきに親と同じかっこうになるらしいよ」 これが田んばの草とりを助けてくれるんだ。なるほどなあ 「へえー しきりに感、いするところは拓也にそっくりだ。 たくや こ、つへい 父さんが見つけたところで、耕平はスポイトを使って一びきすいあげ、拓也がしたよう 0 にスライドグラスの上にのせた。けんびきようのピントを合わせて、じいちゃんに代わる 口をひんまげて、じいちゃんがのぞく。 「おーっ」 父さんよりもおおげさにおどろいて、 ばん 0 たくや 6 太陽が消えた 8

8. カブトエビの寒い夏

「そうだ、きみたちも実際に飼って試してみるといい」 大野さんがいうので、 「もう、水そ、つで飼ってます」 こ、つへい 耕平は元気よく答えた。 とはいうものの、何を食べるのかさえ知らなし 、。ほんとうは、つかまえただけといった 方が正しい 「へえ、さすがだねえ。それで、えさは何をやっているんだい ? 」 かずひこ 一」、つへい 耕平と和彦は顔を見合わせる 「よくわからないので、とりあえず田んばにあったウキクサを入れたんだ。 ざっそう 土と雑草もー かずひこ 和彦がい、つ ざっしよく 「それよ、 : ( ししカプトエビは雑食性だけど、ふだんは『草とり虫』の名前の通りちいさな ざっそう びせいぶつ 雑草をかじったり、土のなかの微生物を食べたりしているようだ。くわしいことはほら、 1 ) 、り・よ、つ さっきの資料にあるから、よく読むといしょ 生物研究所につとめているだけあって、大野さんは先生のようにすらすらと答えた。 0 0 : それから

9. カブトエビの寒い夏

こ、つへい 耕平はほおづえをついて、目の前の水そうをながめていた。 正体不明の生き物が全部で五ひき。ちいさな目玉を甲らの前の方にちょこんとのせて、 けんめい はら側のえらあしを懸命に動かしている。 タ焼けが、部屋の中をオレンジ色にそめた。水そうと耕平の顔がばっとかかやいた。 こ、つへい 耕平は、田植えのすんだばかりの風景が一年のうちで一番好きだ。でも、ひとにいった ことはない。そんな照れくさいこと、いえるわけがない。 水を張る 若々しい苗を整然とおく。 天からのさわやかな五月の風がそこへ舞いおりてきて、苗は風と遊ぶのだ。田んばの神 さまも田植えができたことをよろこんでいるにちがいない。 月の夜にはいくぶん青白い光が田んばにふりそそぎ、昼間とはちがった美しさをみせて わかわか 3 草とり虫 な、ん こ、つへい なえ

10. カブトエビの寒い夏

ガモをどれだけ田んばに入れるのか知らないか、田んばにそんなのかいてガアガアいった ら楽しいにちかいない 「それじゃあ、次はドジョウの話」 大野さんは、向かいかわにいた女の人に、「たのみますーといった。 やせて、度の強そうなメガネをかけている。ほんと、ドジョウみたいな人だ。 「そうねえ : : : あなたはドジョウが好き ? 」 いきなり聞かれてとまどった。ドジョウをとったり飼ったりするのは好きだけど、食べ こま しつもん るのはそれほどでもないからだ。どちらのことだろう。こういう質問が番困る 「そんなに好きでもないのかな」 返事をしかねている耕平を見て、その女の人は勝手にそういうと、 かんこく 「じつはドジョウもね、田んばではとても役に立つのよ。韓国では害虫たいじに使ってい るし、日本でも秋田県などで草とりをさせようと実験しているらしいわ。信州や山形では、 ドジョウと同じようにフナを放しているのよ」 と一気に話してくれた。 ゃながわ ドジョウが役立つのは柳川なべやかば焼きだけかと思っていたのに、意外にがんばる魚 のようだ。 こ、つへい 110