飼っ - みる会図書館


検索対象: カブトエビの寒い夏
136件見つかりました。

1. カブトエビの寒い夏

こ、つへい 耕平はカバンをおいて、輪の中に入った。いつも食べている母さんのおにぎりなのに、 知らない人たちと食べているせいか、ちがう味がした。 「カプトエビはその後どう ? 」 「うまくふ化して、も、つ一人前です。大野さんにもらった : いえ、いただいた資料を参 考にして飼っています。おもしろいです」 「そうかい。気になってはいたんだけど、なかなか来られなくてね。そうだ。いい機会だ なかま から、、っちの仲間からいろいろ、生き物の話を聞くといいよ こ、つへい 可を、だれにど、つ聞け・ば 耕平は、大野さんのいっていることがよくのみこめなかった。和 いいのだろう。もたもたしていると、 「そうだねえ。じゃあ、山田さん、アイガモの話なんてどうですか」 大野さんが、となりであぐらをかいている、あごひげの男の人にいった。 ずぬま 「カモですかばく、伊豆沼へ見に行ったことがあります」 すぬまみやぎ 伊豆沼は宮城県にある、全国に知られた「白鳥のみずうみ」だ。 「ほう、そうかいあそこには何万羽も集まるらしいね。でも、ばくが話そうとしている アイガモは、人間がつくりだしたカモなんだよ」 「人間がつくったカモ、ですか ? 」 ー ) . り・よ、つ 108

2. カブトエビの寒い夏

リウムってことにしましよ、つか」 とうぞ」 「アクアリウムってなんですか」 「あ、ごめんなさいアクアリウムというのはね、わかりやすくいえば水族館のことよ 教室で一週間だけ飼って、あとは元にもどすってことなんだけど、どう ? なにか、意見 あるかしら」 「さんせ 1 「おもしろそうじゃん」 なんだかよくわからないうちに、先生のプランがすんなり通った。 かすひこぬま 和彦は沼に生えている水草を何株か拾い集め、用意してきたビニ 1 ルのふくろに水とい こ、つへい っしょに入れた。耕平はあみで、ミジンコをすくった。 じゅんび 準備ができた。 先生は帽子のつばを両手でにぎって、きゅっと深くかぶり直し、 「五年二組、学校に向かって、しゆっぱーっー 元気に号令をかけた。 しつもん かぶ 4 一週間だけのアクアリウム 5

3. カブトエビの寒い夏

幼生の成長は思ったよりも早く、ふ化して三日目にはしつほがのびてきて、いくらかカ プトエビらしい形になった。 さらに三日もするともう親と同じようにみたいな甲らがはっきりしてきて、一人 前に泳ぐよ、つになった。 毎日けんびきようをのぞいていると、ふしぎなことに気がついた。何もいなかったはず の水そうに、何種類ものプランクトンが泳いでいる。つかまえてきたわけでもないのに、 ど、つしてあらわれたのだろ、つ こ、つへい 、、けんびきようでのそいた。 感心しながら、耕平は水そうの水をスポイトですくし いるいる。丸いかたちのボルポックス、お月さまみたいなミカヅキモ、魚を飼っている とよく目につくアオミドロ、ケンミジンコやオカメミジンコなんてのもいて、ちょっとし たにぎわいだ。 てき ほんの一滴の水のなかに、こんなにもたくさんの生き物がすんでいる 田んばでもこうやって、いろんな生き物がくらしているんだ。田んばってすごいん だなあ こ、つへい 耕平はとっぜんすがたを見せた新しい「いのち」に、はくしゅを送りたくなった。 こうした目にみえないほど小さな生き物を食べて、カプトエビは、日一日と大きくなっ よ、っせい ューフォー 6 太陽が消えた 9 8

4. カブトエビの寒い夏

こ、つへい 耕平は、農家でもない先生がそんなことをいうのか意外だった。そのくせ、なんだか自 分の味方のようにも思えて、うれしかった。 先生の言葉に、その場の女の子たちはしーんとなった。下をむいて、弁当と話をしてい るよ、つにみえた。 食事のあと、しばらくは採集の続きをした。 そろそろ一時。学校にもどる時間だ。 、集まって」 ・ぬま 荷物をまとめ、沼の木かげに集合した。先生は一、二、 ますよ」といった。 かすひこ そのとき、和彦が立ったまま手をあげた。 「とった生き物はどうするんですか全部は世話できないと思います」 「そ、つねえ : : : 」 さいしゅうひん 先生はうでを組んで、みんなの採集品に目をやった。 「 : : : 一種類につき二、三びきずつにしたらどうですか」 かすひこていあん 答えが出るより先に和彦が提案する 「そうねえ。持って帰って、少しだけ観察することにして : : : そう、一週間だけのアクア に、もっ さいしゅ、つ 0 三 : : : と人数をかぞえ、「もどり べんとう

5. カブトエビの寒い夏

「そうだ、きみたちも実際に飼って試してみるといい」 大野さんがいうので、 「もう、水そ、つで飼ってます」 こ、つへい 耕平は元気よく答えた。 とはいうものの、何を食べるのかさえ知らなし 、。ほんとうは、つかまえただけといった 方が正しい 「へえ、さすがだねえ。それで、えさは何をやっているんだい ? 」 かずひこ 一」、つへい 耕平と和彦は顔を見合わせる 「よくわからないので、とりあえず田んばにあったウキクサを入れたんだ。 ざっそう 土と雑草もー かずひこ 和彦がい、つ ざっしよく 「それよ、 : ( ししカプトエビは雑食性だけど、ふだんは『草とり虫』の名前の通りちいさな ざっそう びせいぶつ 雑草をかじったり、土のなかの微生物を食べたりしているようだ。くわしいことはほら、 1 ) 、り・よ、つ さっきの資料にあるから、よく読むといしょ 生物研究所につとめているだけあって、大野さんは先生のようにすらすらと答えた。 0 0 : それから

6. カブトエビの寒い夏

の気がしれない。農協に行けば、もっと効きめがありそうな肥料がたくさんある。そんな しよくぎよ、つ たくや 時だけは拓也と同じように、農業なんて、たいへんなだけでつまらない職業だと思うのだ った。 ぎじゅっ 父さんは家で、めったに農業の話をしない。そのくせ人一倍研究熱心で、新しい技術を 学ぶために農業試験場をひんばんにたすねているとじいちゃんに聞いた。 そんな父さんが、めすらしくみんなの前で仕事の話をした。おとといの晩ごはんの時だ った。 テ 1 プルには、母さんかうでによりをかけてつくった料理がのっていた。コシアプラの わかば 若葉やタラの芽、フキノトウのてんぶら。もいだばかりのトマト。イワナの塩やきその ほかにもマグロのさしみと煮ものが見えた。 「わあ、ゴーカ。どうしたの」 用意ができたというので二階の自分の部屋から下りていくと、耕平の大好物がそろって いた。ということは父さんの好物でもある。どういうわけか二人は、食べ物の好みがびつ たり合う 「どうしたのはないべ。春は山菜の季節さあ」 母さんかさらり・とい、つ 0 0 こうぶつ へや ハし . り・よ、つ こ、つへい ばん こうぶつ この 0 3

7. カブトエビの寒い夏

かずひこ 耕平は、和彦の返事をうながした。 ひょ、つじよ、つかずひこ ちょっとこまったような表情で和彦が答える 「うーん、やつばりカプトガニじゃないと思うな。ほら、しつばの形だって、ちかうだろ」 「えつ。どこどこ」 こ、つへい 耕平はも、つ一度じっくりと見た。 かすひこ けん 和彦のいうとおりだ。カプトガニのしつほは剣のようにするどくとかっているはずなの に、そいつには、ふたまたになったやわらかそうなものかついているだけだった。 「ほんとだ。 : でもさあ、ものすごく似てない ? てつきりカプトガニのあかちゃんだ と思ったよ」 「ほんと、よく似てるね」 そう話すあいだも二人は、そのへんてこな生き物から目をはなさない。 腰をふるようにして、ずいぶん活発に泳いでいる。時どき、ひっくり返ってはおなかを 見せた。なんだかわからないか、あしのような、えらみたいなものがいつばいある。それ らを休みなく動かして水を切り、その勢いで泳ぎ回っていた。 「コーチン、こいつを飼ってみないか」 「おれも、そう思っていたところだ。ひょっとしたら、新種かもしれないっちゃ」 こ、つへい

8. カブトエビの寒い夏

「ところでさ」 こ、つへい 耕平か思い出したようにいった。 「こいつ、何を食べるんだろうなあ」 かすひこ 和彦もちょうど、そのことを考えていた。田んばにいるのをじっと見ていたが、何を食 べているのかまでは、わからなかった。 、つーん、と、つなってから、 ざっそう 「ここらのウキクサとか雑草も少し入れておこうよ。肉食か草食か知らないけど、飼って いる、っちにわかるさ」 かずひこ ざっそう 和彦は、田んばの水の中に生えている雑草を二、三本ひっこぬいた。ウキクサもいくっ こ、つへい か手ですくって水そうに入れた。この時は、耕平にことわらなかった。 「ばく、おじさんに聞いてみるよ。名前だとか、えさについて。おじさんならきっとわか ると思うんだ」 かずひこ 水そうにふたをしてから、和彦はいった。 こ、つへい かすひこ 耕平は、和彦のいうおじさんに、一度だけ会ったことがある。東京のなんとかいう生物 ちょ、つさ 研究所につとめている人で、調査で虫をとりに行くのに連れていってもらったからだ。そ こ、つへい の時には、耕平たちが手にした虫の名前をたずねると、たちどころに答えてくれた。

9. カブトエビの寒い夏

「じゃあ、こんなのはどうだい」 わか この中では一番若く見える男の人が声をあげた。ミミズの話だった。 「ミミ、スというのは、あまり人に好かれない生き物だ。だけどね、ミミズかいてくれるお かげで、どれだけ土に元気がでるのか考えたことがあるかい」 ミミズか好きかと聞かれるよりはましだけど、どうやって土を元気づけているのかなん て、ふつうは考えない。 こ、つへ え、と答えた。 耕平はばそっと、 「そうだろうね。でも、ちょっとだけ考えてごらん。ミミズは何を食べるのか」 意外にしつこい人た 「かれ葉、ですよね。ばくは落ち葉を入れてミミズを飼ったことがあります。魚つりのえ さにしよ、つと田 5 って : 「そうかいでね、くさった葉っぱなんかをえさにしたミミズがふんをすると、それかと ハ ) , り・よ、つ てもいい月になるんだ。ミミズのふんはずっと前にすごいフームになったことがあって ハし。り・よ、つ ね、ミミズ印の肥料が売られたりしたんだよ。いまでも栄養のある土にはミミズがたくさ んすんでいるはずだ」 そこまで聞けば、思いあたることはある。たしかにミミズのいる土はほんわかしていて、 7 仲間 111

10. カブトエビの寒い夏

「これは農家のしわざだな」 とつぶやいた。 「なんでだ ? 」 と母さんが聞く。 すいり お茶をごくりと飲み、父さんはこう推理した。 「考えてもみろ、まだ名前もついてないような米を、いったいどんなふうにして売るんだ。 ーーー売れねえべー いね 試験場の稲には研究のための番号しかついていない。だから同じように米をつくって生 活している農家の人か見れば、すぐにばれるというのだ。 「んだな」 「おれの思うに、このどろばうは来年の種もみに使おうとして、発作的にとっちまったに いね いね ちげえねえ。自分の田んばには青っちろい稲しかないのに、試験場の稲は丸々と太ってい ひやくしよ、つ たんだろうよ。悪いことだけんど、同じ百姓としてわからんでもないな。その人もいまご ろはきっと反省しているさ」 み・よ、つ 父さんは犯人がだれかも知らないのにそのどろばうを弁護し、そのあとで妙にしんみり とした。 はんにん べんご 9 米そうどう 139