まいにち - みる会図書館


検索対象: ツバメ日和
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1. ツバメ日和

ゅめきち たとして、夢吉、お礼もろてどうするねン」 まいにちた うみしろうま 「きまってるがナ。海の白馬のケーキ ! ゃ。毎日食べつづけるデ。マンゴープリンにプ おも ル 1 べリ 1 ムース、マスカットのババロア、かア。ああ、思うだけでよだれがでるワ」 こうくち ゅめきち そういって、夢吉は手の甲でロもとをぬぐった。 ゅめきち 「夢吉はほんま、ケーキに目がないなア」 こんじよう ぜん 「そうときまったら、善は急げ、や。根性いれてミ 1 ちゃんさがすデ」 おも ゅめきち そうときめたのは夢吉だけで、ばくはやれやれと思ったけれど、ともかくミ 1 ちゃんさ がしをはじめることになった。 さいしょ ちゅういふか 主意深く、あちらこちらを見 なんのあてがあるわけでもなかったから、最初はただたた、冫 とく ある ながら歩くことにした。セスナ機がいっていたミーちゃんの特ちょうを、ふたりでくりか ちゃくろみけ ひだりめ えしいいながらさかした。白とうす茶と黒の三毛ネコで左目が見えないのだから、すぐに ゅめきち おも でもさがしだせる、夢吉はそう思っていたようだ。 ミーちゃんは見つからなかった。 ゅめきち 「なア、夢吉。ミーちゃん、いてえへんナ」 あか 「そら、そゃ。ネコはおきモンとちがう。じっとしててくれるンやったら、赤ンばでもじ れい しろ

2. ツバメ日和

ちじようにじっ 地の木という木が地上二十センチくらいのところですつばりと伐られてしまっていた。 「うつ、うそやろ。それはないデ」 くち おも というのが、ばくの口から思わす飛びだしたことばだった。 ちか どうちょっこう どう おもてぐち ばくは地下にあるつるかめ堂へ直行した。センター表ロではないほう、つるかめ堂は ぐち ちか ゅめきちあ おも うら口からか近い。だから夢吉は空き地のことに気づいていないんだと思う。 「おっちゃん、こんにちは」 店でもちを丸めるおっちゃんにあいさっし、おくへはいった。おくが住居部分になっ ゅめきち 夢吉。えらいこっちやデ」 と呼びかけた。すると、 あきら 「ん ? なんや、明か。なに、えらいこっちゃねン」 ゅめきちくび 夢吉が首だけのぞかせた。 「あっ、空き地がぐちゃぐちやや」 「そら、えらいこっちゃ」 ゅめきち へや いうなり夢吉は、だだっと部屋からでてきた。そして、 みせ まる じゅうきよぶぶん

3. ツバメ日和

じかん おと しず やがてそれはえつくえつくというカのない音にかわり、ばくらのまわりには静かな時間 なが だけが流れていた。 てゆめきち ばくは曲げた手で夢吉のかたをだきつづけた。どうやってなぐさめればいいのかわから た ふゅはと ないまま、冬の波止に立ちつくしていた。 ゅめきち じかん どれくらいの時間そうやっていただろう。夢吉はほくのうでから手をはなすと、ようや かおあ く顔を上げた。 あきら ながおみ 「夜でほんまよかったワ。なんば明でも、泣き顔見られるンはテレくさいモンやデ」 「ああ」 かえ ばん 「夜逃げの晩にかせひいたらどもならんよって、帰るワ」 「ああ」 こくどう しんごう ぎよこうなかある ばくらは波止をおり、水銀灯がついた漁港の中を歩き、国道にでた。ここの信号はとに き しんごうま ゅめきち あかなが かく赤が長い。信号待ちをしているあいだ、みように気はずかしくて、ばくは夢吉のほう を見ることができなかった。 ま ゅめきちそと みせかえ 店に帰ると、おかあちゃんが店内のかたつけをしているところだった。夢吉を外で待た せておく。 よる み ま すいぎんとう てんない ちから て 8

4. ツバメ日和

ゅめきちなら ばくはこしをあげ、夢吉に並んだ。 かぬし 「ミ 1 ちゃんいうのはナ、きっと、飼い主がごっつう大事にしてるネコなんやデ。イヌや おも ゆくえふめい ネコが行方不明になったら、ふつう、どうすると思う ? 」 「う、まあ、さがすナ」 「ど一つやって」 でんちゅう だいじ 「大事にしてるイヌやネコやったら、写真の一枚や二枚は撮ってるナ。そいつを電柱に はってまわる」 しやしんや 「そのとおり。ポスタ 1 作って呼びかけるンや。写真の焼きましなんて、そう金のかかる モンやない」 み かぞく 「セキセイインコやフェレットのポスター、見たことあるワ。家族の一員としてかわいが っていたピーコちゃんがいなくなりました、とかなんとか書いてあったナ」 「そこやねン」 ゅめきち 夢吉は「そこ」のこに力をこめていった。 かぬし たかがイヌやネコ、ピ 1 コちゃん、やねン。イヌやネコ、ピーコちゃんやけど、飼い主 あきら きっこ かぞくどうぜん にしてみたら、家族同然。セスナ機使てでもさがしたい。で、や、明。セスナ機借りるの 、ちから つく よ しやしん いちまい にま たい いちいん かね 8 2

5. ツバメ日和

第五章・夜逃げ 「レンタイホショウニンフ れんたいほしようにん がっきゅうじけん わる 「ああ。連帯保証人いうのはナ、ほら、学級で事件があったとき、なんにも悪いことし せきにん てへんのにまわりのモンも責任とらされるやろ」 み ちゅうい わる 「そうそう。見てるだけでなんの注意もせんかったモンも悪い いうてナ」 しやっきん せきにん 「おとうちゃんが借金したわけでもないのに、カラオケスナックの責任とらされるンや。 ほしようにん みせ のこった店どうし、そうやって保証人になりおうとった。で、夜逃げ、や」 「夜逃げ ? 」 びやくまんえん 「カラオケスナックは、てってとすがたをくらました。なん百万円もの借金、だれがは どう じゅうえんにじゅうえんあきな ひょうばん らえるかいナ。つるかめ堂のまんじゅうが評判ゃいうても、十円二十円の商いや」 しんけん 「しもたなア。もっと真剣にミーちゃんのことさがして、お礼の百万円もろといたらよ かったワ」 ま ゅめきち 「ちょ、ちょっと待ちイな。夢吉もその、夜逃げ、するのンか」 どう 「子どもひとり、つるかめ堂にのこってどないする」 しゅうぎようしき 「そんな、もうじき終業式やデ」 れいひやくまんえん しやっきん

6. ツバメ日和

「もう、やめた」 おおがねも 「やめた ? ひとりぐらしで大金持ちのおばあさんから、お礼もらうンとちがうかったン 「ばくらがこれだけさがしても見つからへんかったンやデ。で、考えた。ミ 1 ちゃんいう ンは、ほんまはネコやない」 「ネコやない ? 「スパイや」 「スツ、スパイ ? 」 あんごう あかくび 「そや、スパイなんや。左目のつぶれた三毛ネコ、赤い首わ。どれもこれも、きっと暗号 なんや。しろうとはあぶないことに足つつこんだら、えらい目にあう」 ゅめきち ひょ、つじよ、フ 夢吉は意外とさつばりした表情でいった。そしてうれしそうにわらいながらつけ加えた。 「ばくはやつばり、ミーちゃんさかしするよりも、ケーキ食べてるほうがしあわせやいう はな ミーちゃんよりケーキ」 ことに気イついたンや。花よりだんご、 ゅめきち まいにち なお というわけで、はしかが治ったみたいに、夢吉とばくはまたもとの毎日にもどることに よっこ。 ひだりめ あし かんが

7. ツバメ日和

らんぼうもの おも がっこう くて、そいつらに飛びかかっていったが、 ばくだけが乱暴者のように思われるので、学校 ヤ」と ではひと言も口をきかなくなっていった。 ゅめきち しみず 夢吉はちがった。ばくのことを「ションべンたれ」とはけっしていわず、「清水くん」 よ あきら わたらい ゅめきち と - 呼び、仲よくなると「明」といっこ。ばくも「渡来くん」から「益歹士ロ」とい一つよ一つに よっこ。 くみ ゅめきちなか 組がえがあってべつべつの組になっても、ばくと夢吉の仲はかわらなかった。 き ゅめきち はなし だいいちゃまの あ ち た 夢吉から聞いた話によると、第一山野センターのそばの空き地にマンションが建つこと あ ち ようちえん けんせつはんたい しよめい になったそうだ。空き地のうらに幼稚園があり、早くも幼稚園では建設反対のための署名 うんどう た 運動がはじまったという。マンションが建っと、陽あたりが悪くなるというのが、なんで り・ゅ , っ も反対の理由らしい もんだい ち き あ おも 陽あたりの問題なんかじゃないのにな、とばくは思う。空き地が消えてなくなることこ いちばんもんだい そが一番の問題しゃないか あ ちきようしつよっ いっ ひろ 空き地は教室四つか五つぶんくらいの広さで、たくさんの木がうわっていた。イチジ き まいとし じつぼんいじよう クにビワ、カキやキリの木なんかもあった。なかでもウメの木は十本以上もあり、毎年、 ふゅ はなさ ゅめきち 冬のおわりになるとみごとな花を咲かせた。夢吉のおじいさんが子どもだったころから、 はんたい ひ なか くち AJ き ようちえん はや ひ わ き

8. ツバメ日和

第三章・くき煮作り しごと ばやみずあら みず 早く水洗いし、水けをよくきる。これはおかあちゃんの仕事。 り . よ、つ ゅめきち ばくと夢吉はしようゆとさとうの量をはかる。それぞれの家によって、それぞれの作り つくかた 方がある。おかあちゃんの作り方は、イカナゴ一キロに対して、ざらめさとうとしようゆ みず が二百五十グラムすっ、針しようがが五十グラム。水あめやみりんをいれるところもある けれど、おかあちゃんはおとうちゃんが教えてくれた作り方をかんこにまもっている。 「なア、おかあちゃん。さとう、いれすぎゃないか」 どう 「ほんまやデ、おばちゃん。五百グラムもや。つるかめ堂のまんじゅうでも、こないには っこ おも 使てへん思うワ」 おも 「そう思うやろ ? おばちゃんかてはしめてイカナゴたいたときは、一キロに五十グラム つか しか使わへんかった。そしたら、できあがりは見るもむざん、くぎ煮やのうて、そばろに なってしもた。いろいろためしてみたけど、おとうちゃんの作り方が一番や」 とお おかあちゃんは遠くを見る目になって、ふふ、と小さくわらった。 じよ , っと、つ 「それにナ、ええさとうとしようゆ使たら、とびきり上等のくぎ煮ができるし、冷ぞう いちねん こで一年もっ」 まいにちまいにち 「ばく、毎日毎日、一年中食べてもあきへんもンなア」 かた にひやくごじゅう いちねんじゅうた ごひやく 。こじゅう おし いち ちい つく たい かた つく かたいちばん いち ′」じゅう

9. ツバメ日和

ま 「じいっとねえ。で、なに待ってるのン」 しやしん しやしん 「しやっ、写真。ただの写真や」 しやしん 「ほう。ただの写真で、そないそわそわするか。ははん、酒屋のむすめでも撮ったナ」 ぎんこう しやしんだい 「ち、ちがうワイ。ちょっ、ちょっと銀行へ行ってくるわ。写真代」 しまだ ほんま、おかあちゃんはえらいことをいう。なんで島田の写真なんか撮る。 ぎんこう こづか した そのあと、なるべくそわそわしないようにして、銀行で小遣いをひきだし、部屋と階下 いちおうふく しやしんかんむ を一往復してから写真館へ向かった。 しやしんかん いちまいと 写真館のおじさんが「これやね」とふくろから一枚取りだして見せたけれど、ばくはち み いえかえ み へや ゃんとは見すに「まゝ 。し」といって家へ帰った。見るのはじぶんの部屋で、おちついてから こうぶっさきた ゅめきち にしたかった。好物を先に食べるのが夢吉で、ばくはいつもあとにとっておいた。 A 」 「そわそわするほど、なに撮ったンかいナ」 と、おかあちゃんにいわれて、 ばくはできるだけそっけなくこたえた。 「ンバメフ・」 さかや しやしん み AJ と

10. ツバメ日和

あたまおも なお ばんやりした頭で思いながら、毛布とふとんを首までかぶり直した。そして、おかあちゃ あんしん んのことばととんとんに安心して、すぐにねいってしまった。 はなし それからあとのことはおかあちゃんに聞いた話。 した ちゅうでんとう ものさんらん みせ 階下へおりていってかい中電灯でてらすと、店のあらゆる物が散乱していた。そうざ しゅうのうだい れい ぜんぶわ いケ 1 スのガラスは全部割れ、なべ、かまは収納台から飛びだしていた。冷ぞうこは作 ぎようだい 業台にたおれかかっていた。 ごえ その冷ぞうこのすきまから、おとうちゃんのうめき声がもれ聞こえていたという。おし ごえ つぶしたような、しばりだすようなおとうちゃんの泣き声。 ひっしおも おかあちゃんはおとうちゃんにかけより、すきまからおとうちゃんを必死の思いでひっ かお ばりだした。おとうちゃんはひざに顔をうすめて泣きじゃくった。おかあちゃんはどうす ることもできず、うしろからじっとおとうちゃんをだきかかえていた : あさ みせさんらん やがて朝になり、店の散乱した物をかたづけようとして、おとうちゃんがいなくなって しることに気づいた。 さぎようだい 作業台に走り書きがのこされていた。 とお 〈ごめん。遠くへ行きます〉 もうふ もの